50 / 65

不可抗力です

 四畳半の生活感の無い部屋にちょっと後ろめたさはあったけど、まあいいやって彼を家に連れて行った。彼は別にどうでもいいみたいだった。というかまるで眼中にない。  部屋に入った瞬間後ろから抱きすくめられて布団の上に絡み合うように倒れ込んだ。べつにびっくりしなかった。布団は引きっぱなしだったけどだいぶ前から使ってなかったから良かったなってふかふかの感触を感じて思う。 「今俺以外のこと考えなかった?」  考えました。 「なんで考えちゃうの……?」  不可抗力です。 「だとしてもこの期に及んで俺以外のことを考えるのは嫌」 「なんで俺の考えてることが分かるんだよ」  服を脱がせられながら言ったら、上着を脱いだ彼が首を少しだけ傾げて笑った。 「だって俺たち半分繋がってるでしょ、生まれた時から」  おんなじ血が流れてるんだよ、って萼は耳元で囁いた。  不思議な心地のするおまじないのような言葉を吐き捨てた彼は、その唇を俺の胸元に落とす。  そこは口にキスしろよ。  萼はくす、と笑って俺の唇に唇を重ねた。  彼の首に腕を回して自分から舌を絡める。俺がリードしていたはずなのに、いつの間にか萼に口内をぐちゃぐちゃに荒らされている。 「んっ、んう、っ……!」  体から力が抜けて腕がずりずりと布団に落ちていくのに彼は全く容赦が無い。  息が出来なくて死ぬと思った寸前で、彼の舌が出ていった。俺の舌と違いすぎる。口の中を荒らされているのに、下腹部にじんじんと快楽が響いて張り詰めていった。苦しいことすら快楽に変換されていく。  必死で息をしていたら、垂れた唾液を舐めながら彼が言う。 「ちゃんと息しないと……」 「うる、さい」  萼はにこ、と笑って俺にまたキスをした。  触れた肌から、うっすらと繋がって一つになっていくみたいだった。まるでそれが当然であったようなほどに馴染んでいく。温かさすら自分のものなのか彼のものなのか分からない。  だけど体は少しと言わずだいぶ緊張していた。  この前みたいにたかが外れてしまうのではないかと思ったらなおさら力の抜けた体に焦りを感じる。少し怖いと思うのは、この前の時には感じられない感覚だった。  

ともだちにシェアしよう!