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三日くらい

 俺は涙と鼻水の垂れている顔で彼を見た。萼は困ったように笑って首をかしげる。 「大好きです……」  もうどこにもいかないで。  彼が破顔して俺をきつく抱きしめる。 「……またヤりたくなっちゃうよ」 「いいよ、どうぞ」 「体もたないでしょう」 「もたなくてもどうぞ」 「どうぞじゃないよ、あーちゃんご飯食べてないでしょ」  熱を帯びた体を引き剥がされて視診するような瞳で顔を覗き込まれる。 「ほっぺに傷ついてるし、額が赤いんだけど」  頬を撫でられた。昨日一昨日でほっぺを何回か痛めつけられたからな。愛のあるやつとないやつ。確かに言われてみると痛い。もう傷はかさぶたになっているからそのうち治るだろう。 「いつから食べてない……?」  俺はぼーっと考える。 「三日くらい」 「なぜ生きている?」  そんな真顔で言わないでほしい。 「発情期になると生理的欲求が全部エロいことに変換されるから腹が減らない」 「……なんとなく分かるような分からないような」  彼は目を泳がせながら照れ臭そうに笑った。  そういえばなんだかすごくお腹が減った。 「サンドイッチが食べたいな……」  ポツリと呟いた言葉を萼は得意げに拾う。 「そういうと思って買ってきました!」  紙袋の中にはサンドイッチがぎっしり詰まっている。手を伸ばしたらその手を掴まれた。 「でもあーちゃんは消化の良いものにしよう」  お腹がびっくりするからね、と彼は言う。 「昨日までで2回くらい腹になにか注ぎ込まれてるので大丈夫だと思う」 「……ばか」  その照れ顔、初めてみる表情だ。俺は思いがけずポカンとしてしまう。  なんかいいな、って思ったら、上着のポケットのスマートフォンに着信が入って震えている。二人で顔を見合わせてスマートフォンを取り出したら、凱虎からだった。  俺だけ通話もなんかアレだな、と思ってスピーカーにした。  はい、と着信を受けたら、凱虎が挨拶も無しに言った。 『卯姫子がアケミのBARにやってきて、お前のギターを差し押さえてるんだけど。』。  

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