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沈黙

 メロディーが終わると空間に静寂が訪れる。  沈黙を破ったのは卯姫子だった。卯姫子は静かにステージの上から降りると、俺のほうに向かって美しいフォームで歩いてくる。 「あなた、霹靂って名前で、ネットに音楽を上げているの……?」  卯姫子の向こうで萼がクスクス笑ってる。面白いものを見ている時の目だ。 「今萼が弾いた曲って、あなたが作った曲……?」  俺は動揺しながら頷いた。この答えが正しいのかは分からなかったけど、事実だ。 「俺が作った曲だけど……」 「証拠は……?」  卯姫子の目が揺らいでいる。 「証拠……?」  俺はスマートフォンを取り出して、自分のマイページを彼女に見せた。霹靂、と言う適当な名前でアップロードされた曲の一覧を見せる。  彼女は気まずそうにため息をついて、なんとも言えない顔で俺を見た。すごく複雑な表情だった。いろんな色が混ざりすぎて黒になってしまった絵の具みたいに。 「卯姫子のID、なんていうんだっけ? 教えてあげなよ」  遠くで萼が問いかける。ちょっと笑ってるのはなんなの。  彼女は不服そうな表情で目を逸らしながら頬を少し赤らめた。綺麗にメイクされた額に汗が少し滲んでいる。  本当に小さな小さな声で聞こえてきた。 「……midnight_addiction」  俺は目を見開いた。  卯姫子が真夜中さん、だったんだ。世界狭すぎだろ。  なんだろう、めっちゃ気まずい……。  お互いたじたじになっていた。 「え、っと……その……いつも、コメント、とか……その……ありがとう、ございます……」  彼女はなにも言わないで真っ赤な顔をしている。俺は俺でどうしていいのか分からなかった。無言が気まずい。そこはかとなく気まずい。  でも同じくらい、真夜中さんにありがとうって気持ちがこみ上げる。俺は勇気を振り絞って彼女に言った。 「真夜中さんがいつもコメントくれるから、なんか頑張ろうって、ちょっと思ったりしました……辛かった時とかも、真夜中さんのコメント見て元気出たし……俺の曲拾って拡散してもらったから、たくさんの人に、聞いてもらえるようになりました。この前、メッセージで、激励してくれた時も……おかげで……今、ここにいる、っていうか……ごめんなさい、皮肉じゃないんだけど……本当にあの時、しんどかったから……大人げない返しにも、ちゃんと答えてくれて、嬉しかった……」  彼女は黙って俺の言葉を聞いていた。 「押し付けがましい、かもしれないけれど……これからも、応援してくださったら、嬉しいです……」  沈黙。もう俺に言えることはない。  

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