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可愛いな
恥ずかしくてもじもじしていたら、萼の顔から血の気が引いて真っ青になった。がし、と指輪を持っていない手で肩を掴まれる。
「答えはイエスだよね? ノーなんてやだよ。俺、あーちゃんが他の誰かと結婚して子ども産むなんて絶対嫌! 死んでも嫌。そんなことになったら俺死ぬ、あーちゃんが俺以外の人と幸せになるなら俺死ぬから! 死んであーちゃんの幸せを祈るから! 俺死んじゃうぞ! いいの! 俺が死んでもいいの!?」
「いやノーって言ってないから……」
俺の返しが不服だったのか不安を煽ったのか彼は鬼気迫っていた表情のまま目をうるうるにさせた。目尻には涙が溜まって、少しも経たないうちに頬へ向かってぼろぼろ溢れていく。胸がきゅう、と締め付けられた。
泣かせちゃった。
泣くことないだろ、とかぶつくさいいながらも、俺は指で彼の涙を拭く。
ていうか俺、萼の泣き顔、初めて見たかもしれない。
彼は空いている片方の手で嗚咽をこぼそうとする口と鼻を必死で抑えて涙が通り過ぎるのを待っていた。すげえ不細工。苦笑している俺に向かって彼は言った。
「受け取ってくれないの……?」
……ああ、俺は。
最低だった。彼の本当の本当の本当の気持ちに軽い気持ちで答えるなんて。
彼は本気なんだ。萼なりの精一杯だったのに。
恥ずかしさに負けて上滑りの言葉を投げてしまった。
そっと萼を抱きしめて俺は額を合わせる。泣き目の彼に静かに言った。
「受け取ります。不束者ですが。よろしく」
雨みたいに彼の目から涙が溢れていく。
可愛いな。
よかったあ、と蚊の鳴くような声でいう彼が愛しい。萼のこんな姿を見ることができるのはきっと世界中で俺だけだ。それを思っただけで俺はすごく嬉しい。
しばらく俺の胸で泣いていた彼は、泣き止んだ後にティッシュで鼻水を勢いよくかんで、よし、と言った。なんのよしだよ、って突っ込もうとしたら、顎をくい、と持ち上げられてキスされた。面白くて笑ったら彼に文句を言われる。
だから俺からキスしてあげた。
彼が指輪をはめてくれる。左の薬指にはまったくじらの指輪の一つは、どういうわけかサイズがぴったりだった。左手はギターに随分鍛えられているから皮が厚い。違和感があるかなって思ったけど、不思議なくらい馴染んだ。
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