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第12話
「母さん」
重たい体を起こして部屋を出てリビングへ向かった。そろそろ兄のあいくんが帰ってくる頃。俺の状態をみたらあいくんは…そうなる前に止めなきゃ…
「あさ。起きて平気?」
「あいくんは?」
「…静くんとこ…」
もう…遅かった…静が…やばい…
「…とめなきゃ…静が大変なことになっちゃう」
兄である愛偉兎はとても熱い男だ。曲がったことは大嫌い。ということはおそらく…
「ちょっと…行ってくる」
重たい体を引き摺るように玄関へ向かうとあいくんがちょうど帰ってきたところ
あいくんの拳には血が滲んでた
「あいくん!」
静…大丈夫なのだろうか…
「あさ。もう起きて平気か?」
家族や愛するものにはとことん優しい人。けど一度キレると定くんじゃないと止められない
「…静音…昔からお前のこと好きだったんだよ」
「え?」
突然告げられた言葉に驚く
「…静音が隣に女つれてたらお前が焦って告白してくれるんじゃないかって…だから毎回違う女つれてたんだ」
「…でも…おれ…今静のことは大切な幼馴染みでしかないよ」
「だから焦ってお前を…自分本意な行為だったのに自分が傷付いたような顔してて腹がたって…殴ってきた」
「あいくん…」
「お前がそういうの嫌いなの知ってるけど…我慢ならなかった…ごめん…お前の大切な人なのに…」
「定くんが静の側にいてくれてる?」
「ん」
「…そっか。じゃあきっと大丈夫だよ。」
「本当に…ごめん…」
「あのさ…あいくん」
「ん?」
「龍くん知ってる?」
「龍吾?知ってるよ。そうか…龍が助けてくれたんだもんな」
「龍くんと…一度ゆっくり話してみたい」
「連絡してみるな」
そう。俺の前世の名前を呼んでくれた気がするのは龍くん。
夢だったかもしれないけど…そして…佐藤さんとは…前世で俺を人として扱ってくれた人の名だ。
佐藤さんは幼い頃実の親にしつけと称して顔に酷いやけどを追わされて顔の色が半分違うし、体がとても大きかったのでフランケンシュタインだとからかわれていたこともあるそうだ
俺が風俗店に売られたとき琉輝さんの指示で俺を教育した人。
琉輝さんに言われた通りの抱き方はそれはそれは酷かった。今日の静なんて可愛いものだ…
でも…佐藤さんは教育中とても苦しそうに俺を見つめてくれてた…琉輝さんに聞こえない小さな声で名前を呼んでくれて俺に謝ってくれてた…
「貴方でよかった…もっとあなたを感じたい…」
そんなことを囁いた気がする。流石に一字一句間違わずになんて覚えてないけどただ教育とは関係なく彼を求めたことは覚えてる。
結局…俺は彼の本当の名前呼んであげられなかったな…それから暫くして教えてくれたのにな…
俺のことは最後まで名前で呼んでくれたのにな…
彼は…俺が息絶える直前抱き締めてくれて涙を流してくれた人だった…
もし…龍くんが佐藤さんなら…聞きたいことが沢山あるんだ
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