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残された俺と汀子は保護され施設へ連れていかれた。 その後引き取られては捨てられた…その繰り返しだった。別々にという話もあったが俺たちは離れることが怖くて一緒でないと嫌だとそこだけは頑なだったため二人一緒でも良いという寛大な人ばかりが引き取ってくれていたのだが… 引き取られて暫くは良いけれど数日もすれば施設に返された。捨てられる理由はいつも同じだ…自分には育てられない…それが理由 引き取り手は多くいたが俺たちは言葉をほとんど発せなくなってたのも理由の1つだろう。 汀子はいつも微笑んでるだけだし逆に俺は無表情のままで…だから努力してコミュニケーションとってくれようとするけれどそんな状態なのでなかなかうまくいかないのだ。だから育てることに不安を感じるのだ。それを何度も繰り返した末山善寺の主人に引き取られた。 彼は俺たちに根気よく接してくれた。 ほとんど家に帰れない人だったけど帰ってきたらとても大切にしてくれてた。汀子を学校へも行かせてくれた。俺は字すらまともに書けなかったのでずっと家にいて家庭教師をつけてもらった。元々頭の出来がよかったのか家庭教師をつけてもらって一年ほどでその年齢までの学習を終え、更にその先まで進んでいた。その後汀子は深い傷は癒えないものの普通にコミュニケーションを取れるまで回復し人間らしい生活に戻ることができた。それと同時期俺は一人海外へ行き、大学を飛び級で卒業して戻ってきた その後の俺はこれまでのことがあったから自分で汀子を守れる力をつけたい…そう相談したら主人がトレーニングルームを作ってくれた。 時間が許す限りトレーニングをした。お陰で山善寺家に来た当初よりずっとずっと逞しくなった。その後さまざまな格闘技などを学び汀子を守れる力を身につけた そんなある日、主人が長期で家を空けることが決まった。主人は俺たちを残し家を出るのを大変心配していたが仕事なのだからどうしようもない。泣く泣く出掛けていった。 それからすぐのことだった。新しい使用人がやって来たのは。そいつはその道ではとても優秀だと知られている人物だった。特に子育てに関しては群を抜いていたそうだ。俺たちの世話をさせるため主人が評判の良いそいつを雇ったのだ そいつを迎えた当初はそいつにより記憶を操作されるなんて思ってもいなかった。 きっとそいつの評判が良かった理由は俺たちにしたように多くの人に暗示をかけ記憶操作したからだったのだろう。そいつが来てから屋敷では特別な香がいつも焚かれていて俺たちの思考は鈍っていき…自由を奪われていったようだ …何かがおかしい…そう思うのだけれどそれが何なのか俺たちにはわからなかった。汀子は学校にいくことは制限されず俺はその汀子の護衛として汀子の送り迎えをすることとなりそしていつしか俺と汀子は兄妹だという記憶がなくなっていった。 毎日、香を焚き、暗示をかけ…そいつ好みの多くの男たちを拐い、調教した… そんな日々が続いていくといつしか俺たちはまたも自分の意思で言葉を発せなくなっていて… 誰かに喋らされている…そうなった後のあの屋敷での記憶はほとんどない。汀子もそうだ。 でも…愛桜海さんのことは…覚えてる。 最後に連れてきた人だからなのかもしれないし洗脳が解け始めていたからかもしれない 苦しそうに俺の頬に触れてきた時も…愛しい人の名前を呟いて涙した表情も…妖艶に俺の下で啼いていたことも…迎えに来てくれた友人に帰りたいと懇願した声も… そして…俺の中でまた別の違う人の声が聞こえていたのも…俺を殺させてごめん…っていう自分が発した言葉のことも… あれがなんだったのか…最近夢に見る散々な内容は人とは思えないほど非道な仕打ちを施す人間の夢…俺達の記憶だけじゃないその別の記憶も入ってて… 「お兄様。大丈夫ですか?顔色がすぐれないようですが…」 「あぁ…ごめん…何かまだ記憶が混濁してて…また昨夜変な夢を見たんだ」 「そうでしたの…」 「お前は大丈夫?」 「えぇ…私は…お兄様よりも傷は浅いのです…お兄様が守ってくださったから…」 「可愛い妹だ…傷ついて欲しくないし…出来ることをしたかった…結局守ってやれなかったけどな…。ごめんな」 「いいえ。お兄様はずっと側にいてくださった…それが私の救いでした」 「汀子…」 「はい」 「本当の家族に早く戻れるといいね。両親と…」 「えぇ。」 「こんにちは。汀子さん。暉さん」 広い庭で二人で話していたら上品な紳士がやって来た 「初めまして。神楽坂 天青です」

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