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天青side
たった数ヶ月前に別れたばかりだけど柄にもなく緊張してた。
先にご両親にご挨拶をして庭の方にいることを教えてもらいその場へ向かう。
バラが咲き誇る美しい庭の一角に小さな噴水とその側に真っ白なテーブルと椅子が置いてあってそこに腰掛けた暉さん。
あまりにも美しくて暫く見惚れてた。その側には汀子さんがいて二人で何か話しているようだ。
2人で並ぶ姿はどこか異世界から迷い混んできた妖精たちのように美しくて儚い…
本当に彼らを救う手伝いはできるのだろうか?…
ここで不安になっても仕方がない…俺が寄り添うことで少しでも楽になってくれればいい…
目を閉じ息を吐いて二人に歩み寄った
俺の存在に気付いた暉さんは不思議そうにこちらを見る。汀子さんは軽く会釈してた。恐らく暉さんは俺と会ったことは覚えていない。迎えにいったときも飛行機の中でもずっと虚ろだったから…
「初めまして。神楽坂 天青です」
寂しい気もしたけどここは初めましての方がいい気がしてそう挨拶した。
多分久しぶりとか言うと覚えてない自分にショックを受け俺に申し訳なくなって自分を攻めてしまいそうだったから
「神楽坂?…」
「あぁ…華陵院っていった方がわかるかな?あの時、勝手に過去を調べてごめんね?」
華陵院はわかるという顔をしてくれた…両親と連絡をとってくれたのは千景さんだったから。
「あのときは…ありがとうございました」
表情は変わらないが前より瞳に光が宿った気がした
「私の調べた内容は少し違ってましたけど…もっと酷いものでしたね…あなたたちが戻ってこられてよかったです。顔色が優れませんね。暉さん」
でもやっぱり顔色は優れない。
「…夢見が悪くて…」
もしかすると琉輝さんの記憶でも夢に見てるのだろうか。…琉輝さんのしてきたことは普通と違うから。今も精神的に安定しない暉さんにとっては辛いかもしれない…胸がぎゅっと痛くなって胸に手を当てる。
「暉さん。私と一緒にきませんか?」
俺が隣にいて支えてあげたい。そんな大それたことを言うような立場でもないし人間性もできてないかもしれない。けれど彼を隣に置いておきたい…手の届く場所に…
「え?」
そんな本音は言える訳もなく無難な言葉を選ぶ
「あなたはとても優秀だと聞いているんです。私と一緒に働いてくれませんか?」
「そんな…俺は…」
自分がいることで迷惑掛けるかもしれない…そう思って居るのかもしれない…彼を傷付けず一緒にいく方法を思案していると汀子さんが口を開いた
「お兄様…私といると苦しみから逃れられないのかもしれません…だから…私からもお願いしたのです。お兄様を救って欲しいと…連れ去って欲しいと…
もう…ご自分のために生きていいのですよ。私は大丈夫ですから。お父様もお母様もいらっしゃいます。友人もおります。ですから…私は大丈夫…お兄様…もう…私と言う呪縛から逃れてください。私たちは兄妹です。会おうと思えばいつでも会えます。今は離れなければならないときなのでしょう…お願いです…解放されてください」
それを聞くといつの間にかやって来たご両親が声をかけた
「暉…」
「お父様…お母様…」
「お前とまた離れるのはとても苦しい…だが…今のお前の姿は見ていられない…親なのに何もしてやれなくて…申し訳ない…」
「俺は…いらない?」
「いらないわけないだろ!!」
お父様は大きな声をあげる。自分達で何もできなかったことがもどかしくて…悔しくて…どうしようもなく情けなくて…愛してるから…だからこそ…
「お前たちは何者にも変えがたい存在なんだ!!幼いお前たちを守ってやれなくてすまなかった…見つけられなくてすまなかった…せっかく再会できたのにお前の笑顔がまだ見られない…何もできない…不甲斐ない…でも…華陵院さんなら…お前を…お前の笑顔を取り戻してくれると…そう信じてる…」
大粒の涙をこぼし唇を噛み締め心から叫んでる…
お母様も隣で静かに涙を流していた。
「…わかった…この人と…行く」
こんなにも愛している息子を俺に託してくれる…だったら俺は全力でサポートする…自分の気持ちには蓋をしてしっかりと支えられるビジネスパートナーに…友人になりご両親に返す…それが俺の使命…
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