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「だってよ、気になるじゃん。あの奏一が、だぜ?」 「どの奏一だよ、ったく。あ、すんません! ビールおかわり」 大声で店員に注文を済ませ、呆れた視線を吉田に戻す。 「だってさ、その男、大学生だったろ? 隣の市内にある、すんげー賢いとこ?」 「ああ」 「おまえってマジで? 本気? どう考えても、オレらとは住む世界が違うんじゃね?」 「うっせー、ボケ」 そんなこと、オレが一番わかってる。 でも航は中学もろくに通ってないオレを見下すようなところは微塵もない。 「いやー、人ってわかんねーなー。ってか、おまえ、ちゃんとそのこと言ってんのかよ?」 「そのことってなんだよ?」 「だから、おまえみたいな人間が三年も浮気せずにその男一筋だってこと」 「はあ? なんでわざわざそんなこと言わなきゃなんねーんだよ」 オレは吉田から目を逸らして煙草を咥えると、ライターで火を点ける。 「やっぱ、おまえってそうだよなあ。それがおまえの愛情表現かもしれねーけど、言わなきゃ相手には伝わんねーぜ? こんだけ長く付き合ってるオレでも、おまえの考えてることよくわかんねーのによ。よく不安にならずにおまえと付き合えてるよな、その男」 「不安?」 吉田の言葉に、煙草を口から外し顔を上げた。 「そーだよ。おまえって絶対甘い言葉とか吐かなそうだし。連絡マメじゃねーし。見た目浮気してそうだし」 「だから、浮気はしてねーって!」 「ああ、それはオレも今初めて知ったよ。だからさ、おまえもその男も、よっぽどお互いのこと……っ、うわあ! なんだよっ、あれ!?」 「なんだ?」 突然叫んだ吉田の視線をオレも急いで目で追う。 「!」 そこには、窓の外からこっそりとこちらを覗いている男の顔の上半分があった。 「わ、航っ!? てめぇ、何してんだっ!」 オレはすぐさま立ち上がって窓に近づき、スパンっとそれを開く。 「あ、わ、そ、奏ちゃん! み、見つかっちまった……!」 慌てて逃げ出そうとする首根っこを掴み、引っ張り戻す。 「おまえ、何、こそこそ見てんだよっ!」 「だ、だって、奏ちゃんが男の人とふたりっきりで……」 泣き出しそうな顔でオレと吉田を交互に見やる航に深い溜息を吐いた。 「ただ飲んでただけだろうがよ……」 「だって……」 「だってじゃねぇ!!」 怒鳴りつけたオレを、航は半べそをかいた顔で見上げる。 「おまえの男って、可愛くて頭もいいのに、なんか残念な奴な……」 吉田がビール片手に、憐れんだ眼差しでこちらを見ていた。

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