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「就職活動?」
「うん! オレも来年四年でしょ? 準備とか色々あるんだ!」
「へー」
ラブホのベッドの上で興奮気味に話す航を尻目に、オレは視線をテレビに向けたまま、寝そべって煙草を吸い続けていた。
「でね、オレ絶対この県内で就職したいんだ!」
「はあ、そう。なんで」
一応訊いてやる。
「だって、奏ちゃんとすぐ会える距離に居たいし。そして早く一人暮らししたい」
そう言ってなぜか頬を赤らめた航の顔に、オレは煙草の煙を思いっきし吹きかけた。
「っ、ごほ、ごほっ! 何すんだよ、奏ちゃん!」
「おまえなんかどこへでも行きやがれ」
「ええっ、なんでだよ!? オレが遠くに行っても奏ちゃんは寂しくないのかよ?」
煙のせいで涙の滲んだ目尻を指先で拭いながら、航が困惑した声を上げる。
「はあ? うぜっ」
オレは乱暴な手つきで煙草を灰皿に揉み消すと、勢いよくベッドから起き上がった。
「な、どうして? オレと離れたいの?」
「だから、おまえのその思考がうぜぇんだよ」
言いながらジーンズのポケットから財布を取り出し、金をベッドに投げ置くと、そのまま部屋の扉へ向かって歩いた。
「ちょ、待ってよ! 奏ちゃん!」
追い縋るようにくっついてきた航の腕を、オレは無理やり引き剥がす。
「やだ! 奏ちゃん、帰らないで! 今日は泊まれるって言ってたじゃないか! もう就活の話はしないから! だから帰らないでっ!」
叫ぶように言って、涙の溜まった揺れる瞳でオレを見上げてくる航に、吉田の言葉を思い出した。
『よく不安にならずに付き合えてるよな』
こいつの顔、不安だらけじゃねぇか。
だが、就職先なんて人生の節目を、どうしてオレのために変えようとする?
こいつにはオレと違ってどんな未来だってある。
どんな選択肢だってたくさんあるんだ。
それをオレのために狭めてどうする……。
「いいか、オレはおまえと離れることなんかクソとも思ってねーからな。そのことよーくわかっとけよ?」
「うん……、わかったよ」
しょんぼりと頷く航の手を取り、オレはベッドに戻った。
「あーあ、おまえのせいで辛気臭くなっちまった。仕切り直しだ」
「あっ、奏ちゃんっ」
オレは航をベッドに押し倒すと、その首筋にガブリと噛みついた。
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