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「えっ! 一ヶ月!?」
「ああ、社長の師匠がでっかい工事取ったとかでよ。オレたちも加勢に行くんだ」
オレと航は駄菓子屋の店先のベンチに座って、かき氷を食っていた。オレの子供の頃から営業しているこの駄菓子屋は、古くてでかい日本家屋の路面側を店にしていて、奥は経営するおばちゃん家族が住む自宅になっている。
七月に入り、太陽の陽射しは強く蝉の声も煩い。軒先に吊るされた『氷』と描かれた旗が、ぬるい風に舞っていた。
「……っ」
オレはメロン味の氷を口いっぱいに頬張ると、全身に滲んだ汗が一気に引いていくのを感じた。
「で、でも、休みはあるんだろ? 途中帰って来るんだろ?」
イチゴ味の氷をスプーンからぽたぽたと落としながら、航が不安げな表情でオレの顔を覗き込んだ。
「いや、オレ足ねーし、一ヶ月行ったまんま」
「ええええっ!」
航の大声にベンチの下にいた猫が驚いて逃げていく。
「で、でも電車とかあるじゃん」
「おめぇ、くどいぞ。現場がすげぇ辺鄙なとこにあんだよ。こっから特急で四時間、それから支線に乗り換えて一時間。そこから一日に二本しかないバスで二時間。これで休みのたびに帰って来いっていうのか」
「…………」
オレは自分のかき氷を食べ終えると、途方に暮れ、虚ろな目をした航の手元から赤い氷をスプーンで掬って口に運ぶ。
オレが奢るっつったら、練乳やらあずきやら盛大にのせやがって……。
「……メール、してもいい?」
航が何かを諦めたみたいに、かき氷の器をオレに寄越す。
「ああ」
オレはそれを受け取り、掻き込みながら答える。
「電話もしてもいい?」
「ああ」
航の分も食べ終えると、立ち上がって店の奥に向かって声を上げた。
「ごちそうさん! 金、置いとくから」
「はいよー」
奥の部屋からテレビの音とともにおばちゃんの返事が聞こえる。
「あちー」
駄菓子屋の軒先を出ると、すぐさま照りつけてくる太陽にオレは呻き声を上げた。航はまだ落ち込んだような、不貞腐れたような顔をしてオレのあとを着いて来ている。
「はあ、仕方ねぇなあ」
オレは溜息を吐いて振り返ると、航の顎を掴んだ。
そしてキョトンとしている顔に自分の顔を近づけ、思いっきり鼻先を齧ってやる。
「いったああああ! な、何すんだよ! 奏ちゃんっ!」
「ぶっ」
鼻を押さえて涙目でこちらを睨む航を見て、堪え切れずに噴き出した。
「おまえがいつまでもシケタ面してっからだよ」
オレは頭の後ろで腕を組むとまた前を歩き出す。
「オレからも電話すっからよ」
そして前を見たまま、そう付け加えた。
すると一瞬の間が空いたあと、背後から「う、うんっ!」と急に明るくなった航の返事が聞こえてきて、オレはまた噴き出した。
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