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オレたち、近藤塗装工業の面々が加勢先で滞在しているのは、ふるぼけた旅館だった。
広い畳敷きの一部屋にオレと社長、先輩の栗崎(くりさき)さんの三人で寝泊まりしている。
この現場に入って三週間ちょい。工事は順調に進み、オレたち加勢組は予定より数日早い明日、帰れることになった。
食堂で夕食を終えるとこの田舎では他にすることもなく、オレは一台の自動販売機と長椅子があるだけのロビーで煙草を吸っていた。
「ん?」
煙草を咥えたまま、震えた携帯電話の画面を見る。
そこには相変わらず航からのどうでもいい内容のメールが表示される。
オレはそれを無視して返信を打った。
『溜まってっから、おまえのエロい画像送れ』
「送信っと」
携帯電話を閉じ、再び煙草を燻らせる。しばらくしてまた携帯が震えたので、メール画面を確認した。
「なんだよ、これ! くくっ」
思わず煙草を口から外し、画面を見ながら笑い出す。
「航、あいつ……」
オレはまた返信を打つ。
『全っ然足りねぇ。もっとエロいやつ』
「送信っと」
今度は少し時間が経ってメールを受信した。すぐに画面を開く。
「ぶっ! アホだろ、あいつ!」
オレは腹を抱えてその場で笑い転げる。
「お、奏一、楽しそうだな」
そこに小銭入れを覗き込みながら近藤さんがやってきた。
オレは目尻の涙を拭って携帯電話を閉じ、近藤さんのために席を詰める。
近藤さんは自動販売機でビールを二本買うと、一本をオレに渡し、隣に腰かけた。
「あ、すんません、あざっす」
『プシュッ』っと音を立てて、オレと近藤さんがプルタブを起こす。
「奏一がそんな笑顔を見せるようになったとはな」
近藤さんはゴクゴクゴクと勢いよくビールを流し込んだあと、オレの顔を感慨深げに見やった。
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