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オレは煙草を灰皿に揉み消すと、ベッドの上に起き上がった。 三、四年なんてなんでもないって顔で言ってやりゃ、大丈夫だよな。 めんどくさくごねやがったら一発怒鳴ってやりゃいいし。よし、それでいくか。 航はコートを脱いでオレの目の前に座り込むと、手に持っていたビニール袋を掲げた。 「奏ちゃんの好きなみかんだよ」 そう言って満面の笑みで袋からみかんを一つ取り出すと、オレに向かって差し出した。 「………」 オレは航のその笑顔を見ていたらなぜか急に胸の奥が痛くなった。 なんだ? この痛みは? 息をするのも苦しい。 「……くそっ」 オレはむしゃくしゃして、みかんを持ったままの航の手首を掴むと、腕の中に強引に引き込んだ。 「わっ、奏ちゃん、どうしたの? もしかしてみかん、嫌いになった……?」 オレの胸元から恐る恐る声を上げる航を思いっきり抱き締める。 「奏ちゃん……?」 「黙ってろ」 オレは一言言い捨てると、航の匂いを胸一杯に吸い込んだ。 何やってんだ、オレ。 そう思いながらも腕の中の航を離せない。 言うんだ、航に。何を? この気持ちを? いや。 オレはこの胸の奥の疼きを言葉にするのが怖かった。 言えねぇだろ。 オレにはあの女の血が流れてる。オレの言葉には何の意味もねぇんだ。 「奏ちゃん、そろそろ苦し……」 「オレ、師匠んとこに修行に出るから」 やっと出たオレの言葉はそっけなく航の頭上を滑った。 「え?」 「三、四年」 「………」 腕の中の航は押し黙ったまま身動ぎ一つしない。 オレ、一体どうしちまったんだ? しかもオレの予想じゃここで航は大騒ぎするはずなのに。 「おい、航……?」

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