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「奏ちゃんが……、奏ちゃんが、師匠さんとこでやった仕事が、認められたんだね」
航はじっくりと考えを巡らした様子でそう呟くと、腕の中からオレの顔を見上げて微笑んだ。
「やっぱすげーな、オレの奏ちゃんは!」
航のその笑顔を見ていると、しだいにオレの胸の痛みは治まってきた。
「誰がおめーの、だよ!」
オレは弾かれたように我に返ると、航の頭を小突いた。
「へへへ」
航は頭を擦りながら照れたように、また笑った。
なんだったんだ、さっきのオレ。
それに、今日の航はやけに聞き分けがいいな……。
「みかん、食っていいか?」
そう言って、やっと腕の中から航を解放する。
「うん! オレが剥いてやる!」
航は元気に返事をすると、丁寧にみかんの皮を剥き始めた。
だけど、剥いてもらったみかんを夢中で食ってる最中、航が少しだけ哀しそうに俯いたことに、オレは全く気付いていなかった。
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