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厚手の紺色のダッフルコートを着込み、ミトン型の手袋までしているが、冷たい風に晒されたせいか頬は紅く染まり、目は潤んでいる。
くそっ、このまま押し倒してぇ……。
オレはそんな想いを押し隠しながら口を開く。
「こんなとこまでどうした?」
航が事務所の前までやって来るのは、電信柱の陰からオレを覗いていたとき以来だ。
航は息を切らせて、小さく肩を上下させている。
そしてもじもじと俯きながら「あの……あのね、これ」と、何やらピンクのリボンが掛かった包み紙をリュックから取り出した。
「なんだ、これ?」
オレが怪訝そうに見やると、航は途端に慌てた様子になって、それをオレの手に押しつけた。
「そ、奏ちゃんにプレゼントだよ。師匠さんとこで使って?」
早口で言って、オレの顔をじっと見上げてくるその黒い瞳には、いつもの明るさがなく、微かに憂いさえ帯びているようで、オレは少し戸惑う。
「え? あ、ああ。ありがとな」
まだ出発するまで半月以上あるぞ?
不審に思いながらも包みを受け取る。
「どうすんだ? オレ、仕事終わったけど、これからホテル行くか?」
「えっ」
航が突然驚いた顔になった。
「は? そのつもりで来たんじゃねぇのか?」
「あ、いや、今日は用事があるから! も、帰るね」
航は焦った口調で言うと、にっこり笑ってオレの顔をもう一度見上げた。
その瞳は快活な、いつもの航のものだった。
なんだ、さっきのはオレの見間違いか……?
「お、おう?」
オレが返事をすると、航は踵を返し、手を振りながらパタパタと走って帰って行った。
オレは航に渡された包みを持ったままその後ろ姿を見送る。
なんなんだ? いつもはイヤってくらい一緒に居たがるのに……。
「はああ」
わけがわからず溜息を吐いて、オレは事務所二階の自分の部屋へと上がっていった。
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