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「横断歩道どこだよ!?」
眉を顰めながら通りを睨みつけたとき、オレの目の前に極彩色のライトを瞬かせた大型トレーラーが滑り込んできた。
風圧で撒き上がる埃に腕で顔を覆う。
「おう、奏一! こんなとこで何してんだ? ぷっ、なんだその赤い腹巻?」
ボディ部分には荘厳な佇まいの観音様のペイントが施してあるそのトレーラーの窓を開け、陽気な顔を出したのは吉田だった。
「ああ、ちょっと急いでんだよ!」
でかいトレーラーが邪魔で横断歩道を探せず、オレは苛立たしげに答える。
「あ、もしかして航っちの見送りか?」
「は? 見送り?」
慌てて吉田の顔に視線を戻した。
「あ? 今日だろ? 航っちが出発すんの?」
「は? なんだ? 出発って、あいつどっか行くのか?」
キツネにつままれたような顔で口を開けたまま、トレーラーの助手席を見上げた。
「はあ? おまえ聞いてねぇの? 航っち、東京の会社に就職決まったって」
「東京!?」
「んで、研修始まる前に早めに引っ越すから、今日の最終便でこっち発つって言ってたぞ?」
「はああああああ?」
オレは盛大に呆れた声を出す。
「オレんとこには昨日挨拶に来たぞ? くれぐれも奏一のことを頼むって」
「……あんの、アホっ!!」
『ドガッ』
カッと頭に血が上り、反射的にトレーラーのでかいタイヤを思いっきり蹴っていた。
「あっ、奏一てめぇ、オレの愛車に何しやがる!!」
吉田が焦って助手席のドアを開け、タイヤを見下ろす。
どこへでも行けっつったけど、なんで黙って行こうとするんだ?
あいつ、オレとはもう会わねぇつもりなのか!?
だから、さよならなのか……?
「……っ!」
オレは助手席のドアへとよじ登ると、吉田を車中へ押し戻し、中へと滑り込む。
「ちょ、おまえ何乗ってんだよ!」
「いいから出せ!」
「はあ?」
オレは助手席にどっかりと座り込んだ。
「いいから空港までオレを乗せてけっ!」
「馬鹿野郎、何言ってんだ! 空港ってこれからオレが向かう仕事先と正反対じゃねぇか! 」
吉田は怒りながらも降りる気配のないオレの様子を見て、諦めた表情で運転席に座り直した。
「畜生! おまえのためじゃねーぞ! 航っちのためだかんな!!」
吉田が渋々ギアを入れる。するとトレーラーが派手なエンジン音を上げて動き始めた。
そんな吉田をオレは横目で睨みつけた。
「それよりてめぇ、人の男を『航っち』なんて気安く呼ぶなっ!」
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