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闇に浮かぶ明るい空港は、今にも飛び立ちそうな宇宙船のように見えた。
国内線ターミナル前に横付けたトレーラーの助手席から、オレは勢いよく飛び下りる。
「ありがとな、吉田。仕事気ぃつけて行けよ!」
「航くんによろしくなっ!」
手を振る吉田に右手を上げてすぐに走り出す。
『やっぱりよぉ、おまえの気持ち、伝わってねーんじゃねぇの?』
走りながら、オレは車中で言われた吉田の言葉を思い出していた。
「くそっ!!」
吐き捨てるように自分自身に悪態を吐く。
ヤってる最中に名前呼んだだけで、あれだけ悦んでたんだぞ?
あいつにとって言葉にすることがどれだけ重要か、オレはわかってたはずだ。
それなのにオレは今まで何してたんだ?
あの女の血が流れてるから?
師匠んとこで修行したら?
何ビビってんだ、オレ?
自分のことばっか考えて、あいつにここまでさせて、やっと決心がついたオレは最高にカッコ悪りぃ……!
『好きだ……奏ちゃん、好きだ』
前にオレが寝ちまったと思った航が、耳元で切なげに囁いた声が蘇る。
あの時、航は泣いていた。
それなのにオレはあいつに何も言ってやれなかった。
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