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二人の奔走
ベルトコンベアに乗ってやってきたトランクを、オレは焦った手つきで掴み上げた。そして高鳴る鼓動とともにゲートを潜る。
オレの目は、たくさんの人が行き交う空港の到着ロビーでもすぐさま奏ちゃんの姿を見つけ出した。
東京に発ってから初めての帰省。
「奏ちゃん、ただいまっ!」
オレは愛しい奏ちゃんの元へと走り寄る。トランクを床にほっぽり出して、その胸に飛び込む!
『ガッ』
しかしその試みは奏ちゃんの手のひらによって阻まれた。頭を掴み、思いっきり腕を伸ばされると、オレのリーチじゃ奏ちゃんの体までは届かない。
「なんだよー、奏ちゃん! 二ヵ月半ぶりなのにぃ!」
オレは半べそをかきながらジタバタと腕を振り回す。
「はあ……、おまえ、相変わらずだな」
奏ちゃんは眉根を寄せて深い溜息を吐くと、ポイっとオレの頭を投げ出し、床に転げたトランクを拾い上げた。そしてくるりと背を向け、さっさと歩き始める。
「えっ、ちょっ、待って!」
オレは奏ちゃんの背中を慌てて追いかけた。
もしかしてこの日を指折り心待ちにしてたのは……、こんなに会いたい気持ちでいっぱいいっぱいだったのは……、オレ、だけ……? 奏ちゃんはやっぱり、オレのこと……。
胸の奥がギュッと詰まる感覚がした。そこから苦い感情が全身に広がっていく。
奏ちゃんを追いかけていた足は次第に止まり、背中を見ていた視線は床へと落ちていった。奏ちゃんはそんなオレには気づかず、人の多いロビーを歩き続けている。雑踏の中にひとり置いていかれたオレは急激に孤独を感じた。
「奏ちゃん、待っ……」
力ない声で奏ちゃんを呼び止めようとしたとき、ふと視線を感じて顔を上げた。そこには黒いキャリーバッグを掴んだまま驚いた表情でこちらを見つめている、スーツ姿の男がいた。
「っ!」
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