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「さ、佐伯さん……!」  突然の申し出にオレはビクリと肩を震わせ、戸惑いの声を上げる。だけど、佐伯さんの言うことはもっともかも知れないと思った。佐伯さんから見ても、奏ちゃんのオレに対する態度には愛情があるようにはとても思えないのだろう。 でも、……それでも、いいんだ。 諭すような眼差しでオレを見下ろしている佐伯さんに、決意を込めて顔を上げた。 ……奏ちゃんがどう思っていようと。それでもオレは、オレはそれでも、奏ちゃんのことが…、どうしても……。 泣きたいような感情が胸の奥から迫り、喉に熱い塊が込み上げてくる。 「佐伯さん、オレ……」 「おい」 言いかけたオレの言葉を掠れた低い声が遮った。 「っ」 隣にいる奏ちゃんの全身から、殺気が立ち上っていた。オレたちの周りの空気がより一層張り詰める。 ど、どうしよう! 奏ちゃんを怒らせてる! 背中に嫌な汗が流れるのを感じた。奏ちゃんはオレが佐伯さんに連れ去られようが何とも思わないだろうけど、売られたケンカは必ず買う人間だ。 奏ちゃんも佐伯さんもお互い一歩も引かない気迫で相手を睨みつけていた。見つめ合ったふたりの顔をオレはただオロオロと交互に見やることしかできない。 「おい、あんた」 奏ちゃんが一歩踏み出した。 「そ、奏ちゃん……やめ……っ!」 オレは焦って上ずった声を上げる。 だけど次の瞬間、奏ちゃんは腰を九十度に折って、佐伯さんに向かって頭を下げた。 「……あんたには、迷惑かけた」 小声でそう言ったあと、顔を上げ、まっすぐに佐伯さんの瞳を見据える。 「あんたからどう見えるかは知らねぇが、オレはこいつのことが死ぬほど好きだから。ぜってぇ、手放す気なんかねぇから」 「……っ!」 オレは目を見開き、息を詰めて固まった。

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