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「そ、奏……ちゃん……?」
ぎこちなく首を傾げ、隣を見上げると、これ以上ないほど真摯な眼差しをした奏ちゃんの横顔が、そこにあった。
「オレが航を幸せにすっから、あんたは手を引いてくれ」
奏ちゃんはもう一度深く頭を下げる。
「そ、奏ちゃん……っ!」
オレの胸の中で何かが弾けた。腰を折った奏ちゃんの姿が一気にぼやける。
そのとき、搭乗案内のアナウンスが辺りに響き渡った。佐伯さんはその案内に耳を澄ませるように少し顔を上げたあと、大きな息を吐き、オレの手首からそっと手を離した。
「よかったな」
そして険しかった目元を緩めて、そう囁いてくれた。
「……佐伯さんっ、ご、ごめんなさい! ありがとう、ございます……っ」
オレも腰を折って深々と頭を下げる。すると佐伯さんはオレの頭を一撫でし、キャリーバッグを掴むと、搭乗口へと歩き去った。
「う、ぐしっ、うう……っ、」
オレは腕で目元をごしごしと拭って泣き止もうと必死に頑張る。けれど涙はポロポロポロポロ、体中の水分が抜け落ちていくかのように、両目からとめどなく溢れ続けた。
奏ちゃんの言葉が胸に染み渡って、あったかくて、幸せで、もう一生涙は止まらないんじゃないかと思った。
「泣くな、ばーか」
奏ちゃんは顔を背けて悪態を吐くと、トランクを持ち直す。そしてまたオレを置いて歩き出した。
「ま、待って……っ」
「ほら」
前を見たままの奏ちゃんがオレに向かって、片手を差し出す。
「奏ぢゃん……う、ひくっ」
嗚咽を上げながら駆け寄り、硬くてごつごつとした大きな手のひらを掴んだ。
「そ、奏ちゃん、ひくっ、オレ、あぅ、そ、奏ちゃんが、うぇっ、大好きだ……っ」
繋いだ手がギュッと握り返された。
「ふっ、そんくらいわかってっからよ」
小さく肩を揺らして笑った奏ちゃんの耳が紅く染まっているのが、涙で滲んだ世界の向こうに、見えたんだ。
***「二人の奔走」終わり
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