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奏一の伴走
駅からオレの安アパートまでの道のりを、東京からやってきた航と並んで歩いている。二月も終わりに近づき、前回航と会った年末年始に比べれば寒さはだいぶ和らいでいた。しかし、路地を通り抜ける風はまだまだ冷たく、オレはグレーのニット帽を目深に被り直した。
深緑色のコートをしっかりと着込み、チェック柄の青いマフラーに顔を埋(うず)めている航は、今にもスキップでも始めそうなくらいに機嫌よく、オレの隣で鼻歌なんか歌っている。
だが……。
オレは航の横顔を訝しげに盗み見た。
……今日の航はおかしい。
何がおかしいって、空港で再会してからも、電車の中でも、今この人気のない路地を歩いていても、オレに抱き着いてこようとしないからだ。手さえ繋ごうとしない。
以前は人のごった返す空港で飛びついてこようとしていた航が……、一体どうしたってんだ? これが大人になったっていうことなのか? やっと航にも社会人としての自覚が芽生えたのか? それならそれでよしとするが……、なんだか、物足りねぇな……。
オレは首を傾げながら航のボストンバッグを抱え直すと、辿りついたアパートの外階段を先に上っていった。
オレの部屋は入ってすぐに狭い台所があり、そのまま仕切る扉もなく、六畳の居間に繋がっている。居間と言ってもベッドと向かいにテレビ、その間に小さなテーブルを置いているくらいで他には何もない。
「久々の奏ちゃんの部屋だ!」
航は奥の窓辺に駆け寄り、嬉々とした声を上げた。
「航……?」
部屋に入っても航がくっついてこないなんて、初めてだった。やっぱり、今日の航はおかしすぎる。オレはニット帽を脱ぎ、バッグを畳に下ろすと、航の腕を掴んだ。すると航はすぐにオレの手からすり抜け、また窓辺にしがみつく。
「ほ、ほら、奏ちゃん、梅の花が見えるよ?」
そして窓から見える隣の敷地を指差し、オレの顔を見ようともしない。
なんなんだ、こいつ……。
「おい、航、なんかあったの、か……?」
腕を伸ばして無理やり手を掴む。
「……っ!」
そこから伝わってくるのは、高い体温。航はビクリと体を揺らすと、オレの手を振り払って、すぐにまた窓に顔を向ける。
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