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ぶつぶつ言いながらスプーンでリンゴを掬い、渋々口元へと運んだ。すると航の唇が嬉しそうにそれをパクリと咥え込む。 「ん……、甘くておいしい!」 航は目尻を下げ、今にも蕩けてしまいそうな笑みを浮かべた。 ああ……。斜めに貼られた冷却シートも、くしゃりと寝ぐせがついた黒い髪も、火照った頬も、上がった息も全部が……。 くそっ、可愛いな。熱なんかなかったら、すぐさま押し倒しちまうのに。 「よし、あとは自分で食え。そして薬飲んでもう一回寝ろ」 これ以上間近に見ていたら理性に歯止めがきかなくなりそうになり、オレは器とスプーンを航に押しつけた。 「はあい」 いかにも残念そうな返事をし、自分でリンゴを食べ始めた航をオレは横目で睨みつける。 「今度から、体きついときは、ぜってぇ来んじゃねぇぞ」 そう忠告すると、航はハッとした表情になり器から顔を上げた。 「奏ちゃん、ご、ごめん、迷惑、かけて……」 「いいか、絶対来んなよ。調子悪ぃときはオレがおまえんとこまで行くからよ」 「えっ! 奏……んんっ!」 航の顎先を掴み上げ、何か言いたげなその唇を自分の唇で塞いだ。いつもより熱の籠もった柔らかな感触とリンゴの甘さが伝わってくる。 「……これで、すぐに治るんだろ?」 そっと唇を離し、驚きで見開かれた瞳を覗き込んだ。 「う、うん……っ! オレ、もう元気になった!」 満面の笑みを咲かせて大きく頷くと、航は器を持ったままの腕でオレの首筋に抱き着いてくる。 「おいっ、こら、リンゴがこぼれんだろっ」 「奏ちゃん、……ありがと」 耳元で囁かれたその声は、少し震えていた。 「……泣くやつがあるか」 呆れた声で言いながら、いつもより体温の高い体をギュッと抱き締め返す。 「ふっ、バカ航」 オレは航が泣き止むまで、その愛しい背中を撫で続けた。 ***「奏一の伴走」終わり

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