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「オレ、○○になっちゃった!?」

 太陽が昇ってきたのか、目蓋に眩い光を感じてオレは目元を擦る。  ん……? なんだ、このフワフワ感……?    目元に当たる手の甲の感触に違和感を覚え、小首を傾げた。    それに、なんか腕が上げづらいな……。ん……? え、えええええっ!?  しょぼしょぼと目を瞬かせながらも、やっとハッキリとしてきた視界の中に現れたのは、なぜか、茶色い獣の足先だった。  なんだこれっ!?  オレは驚いてそれを退かそうと右手を差し出す。すると視界の中の肉球の付いた前足が前に出る。  え?  右手を上下に振ってみる。獣の足がブンブンと上下に揺れる。  ま……、まさか……。  オレは立ち上がり、恐る恐る、振り返った。  そこにはくるんと丸まった尻尾が見えた。  え、え、ええええええええええっ!!  両手で顔を触ってみる。  鼻は尖り、三角の耳が生えていた。  これって、これって……もしかして……!? 「なんだぁ、うるせぇなあ」  その時、頭上からイライラとした奏ちゃんの声が降ってきた。    あ、そうだった、今日は奏ちゃんが泊まりに来てるんだった! 「さっきからキャンキャンうるせぇと思ったら、なんでこんなとこにちっせぇ犬がいんだよっ」  奏ちゃんは怪訝にオレを見やりながら起き上がる。 「キャンキャン! キャンキャンっ!」  違うよ! 奏ちゃん、オレだよ、航だよ!! 「ちっ、うっせーなあ。ベッドん中まで連れてくるなんて、ぜってぇ航の仕業だな」 「キャンキャン、キャン!」  オレがいくら喋りかけても、奏ちゃんには犬の鳴き声にしか聞こえないみたいだ。奏ちゃんは盛大に眉間に皺を寄せると、オレの首根っこを掴む。オレはぶらんとぶら下げられてしまった。 「キャンキャン!」 「ああ、マジうぜぇ。オレに隠れて子犬なんか飼ってやがったのか? ってかあいつ、どこ行ったんだ?」 「キャンキャン! キャン、キューン! キャンキャン!」  ここだよ! オレだよ! 奏ちゃん、なんでかオレ、犬になっちゃったんだよぉ! どうしよう? オレ、どうしたらいいのかな!?  目の前に迫った奏ちゃんの顔に必死で訴え続けるけれど、やっぱり伝わらないらしい。奏ちゃんはうるさそうにもう片方の手を耳に当てる。 「それにしてもよく鳴くな……、腹でも減ってんのか……?」  奏ちゃんはぶつぶつ言いながら、俺をぺいっと床に放り出し、ベッドから出て行った。そして、戻ってきた時には手に皿を持っていた。 「ほら、これでも飲め」  そう言ってオレの前に置かれた皿にはミルクがたっぷりと注がれていた。 「キャンキャン!」  え、オレのために? 「ほら、鳴いてないで早く飲め」  奏ちゃんは素っ気なくそう言うと、自分も床に腰を下ろして胡坐をかき、煙草に火を点ける。 「キューン!!」  奏ちゃん、ありがとう!!  オレは感激して、ミルクを最後の一滴まで舐め尽した。

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