52 / 54

2

「お、やっぱ腹が減ってたんだな」  奏ちゃんは満足そうに煙を吐くと、煙草を片手にまたオレの首根っこを掴んで鼻先にぶら下げる。 「……っ!」  間近で見る奏ちゃんの綺麗な顔にオレはドキマギしてしまう。  奏ちゃん、犬の目から見てもかっこいい……。 「……おまえ、くせぇな」  けれど奏ちゃんはいきなり顔を顰めて腕を思いっきり伸ばすと、オレの身体を遠ざけた。 「キャ、キャンキャン! キャンキャン!」  そ、そんなー!! オレ、臭くないはずだよ! だって昨日もちゃんと風呂入ったし!  オレは両手をぶんぶんと振り回しながら、精一杯抗議する。 「よし、じゃ、今から風呂入っか」  奏ちゃんは煙草を灰皿に押し潰すと、オレをぶら下げたまま立ち上がった。 「キャン……キューン!?」  え、風呂? 奏ちゃんと!?  奏ちゃんはオレの戸惑いなんか気にも留めず、そのまま歩き出すと、またぺいっとオレを風呂場の床に放り出した。 「キュ、キューン!?」  え、こんな明るいのに、奏ちゃんと一緒にお風呂!?  オレは恥ずかしさに両手のひらで目元を隠す。  肉球が当たって気持ちいい……。って、ちがーう!!  奏ちゃんが服を脱ぐ音が隣から聞こえてくる。  い、今、パンツ脱いでる……。犬の耳ってすごい、よく聴こえる……!  目元を隠していながらも、オレの耳はしっかりと奏ちゃんの動きを捉えていた。 「おめぇ、何怯えてんだ? ああ、風呂嫌いなのか?」  奏ちゃんが風呂場に入ってきた。  わわわ、どうしよう!? オレは目を瞑って耳をペタリと垂れると、尻尾をくるりと脚の間に挟んで、なるべく奏ちゃんの裸を見ないよう後ろを向く。 「ほら、こっち来いよ」  コックを捻る音がして、シャワーから水が出始めた。 「部屋ん中に居るんだったら、洗っとかねぇとくせぇだろ?」 「キャンキャン!」  は、恥ずかしいよぉ! 「何抵抗してんだよ、ほら、」 「キャンっ」  背中にお湯が当たる感覚がして飛び跳ねる。 「さっさと洗っちまうぞ」  そう言いながら、奏ちゃんは大きな手のひらでオレの身体を弄った。ボディーソープを馴染ませていたのか、あっという間にオレの身体は泡だらけになる。 「ほら、尻尾もな」 「キュイーン……!」  あ、そこ、ダメぇ……。 「お、随分大人しくなったな。気持ちいいのか?」  わしゃわしゃと腹や首筋も洗われながら、柔らかくなった声が降ってくると、オレは思わず目蓋を開けた。 「キューン……」  奏ちゃん……。  しかしそこでオレの目に飛び込んできたのは、奏ちゃんの……! 「キャンっ!!」  オレは真っ赤になってまた目元を覆う。    や、やっぱ、奏ちゃんの、大きい……っ!! 「お、おい、何してんだよ、洗えねーだろうがっ」

ともだちにシェアしよう!