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「お、やっぱ腹が減ってたんだな」
奏ちゃんは満足そうに煙を吐くと、煙草を片手にまたオレの首根っこを掴んで鼻先にぶら下げる。
「……っ!」
間近で見る奏ちゃんの綺麗な顔にオレはドキマギしてしまう。
奏ちゃん、犬の目から見てもかっこいい……。
「……おまえ、くせぇな」
けれど奏ちゃんはいきなり顔を顰めて腕を思いっきり伸ばすと、オレの身体を遠ざけた。
「キャ、キャンキャン! キャンキャン!」
そ、そんなー!! オレ、臭くないはずだよ! だって昨日もちゃんと風呂入ったし!
オレは両手をぶんぶんと振り回しながら、精一杯抗議する。
「よし、じゃ、今から風呂入っか」
奏ちゃんは煙草を灰皿に押し潰すと、オレをぶら下げたまま立ち上がった。
「キャン……キューン!?」
え、風呂? 奏ちゃんと!?
奏ちゃんはオレの戸惑いなんか気にも留めず、そのまま歩き出すと、またぺいっとオレを風呂場の床に放り出した。
「キュ、キューン!?」
え、こんな明るいのに、奏ちゃんと一緒にお風呂!?
オレは恥ずかしさに両手のひらで目元を隠す。
肉球が当たって気持ちいい……。って、ちがーう!!
奏ちゃんが服を脱ぐ音が隣から聞こえてくる。
い、今、パンツ脱いでる……。犬の耳ってすごい、よく聴こえる……!
目元を隠していながらも、オレの耳はしっかりと奏ちゃんの動きを捉えていた。
「おめぇ、何怯えてんだ? ああ、風呂嫌いなのか?」
奏ちゃんが風呂場に入ってきた。
わわわ、どうしよう!?
オレは目を瞑って耳をペタリと垂れると、尻尾をくるりと脚の間に挟んで、なるべく奏ちゃんの裸を見ないよう後ろを向く。
「ほら、こっち来いよ」
コックを捻る音がして、シャワーから水が出始めた。
「部屋ん中に居るんだったら、洗っとかねぇとくせぇだろ?」
「キャンキャン!」
は、恥ずかしいよぉ!
「何抵抗してんだよ、ほら、」
「キャンっ」
背中にお湯が当たる感覚がして飛び跳ねる。
「さっさと洗っちまうぞ」
そう言いながら、奏ちゃんは大きな手のひらでオレの身体を弄った。ボディーソープを馴染ませていたのか、あっという間にオレの身体は泡だらけになる。
「ほら、尻尾もな」
「キュイーン……!」
あ、そこ、ダメぇ……。
「お、随分大人しくなったな。気持ちいいのか?」
わしゃわしゃと腹や首筋も洗われながら、柔らかくなった声が降ってくると、オレは思わず目蓋を開けた。
「キューン……」
奏ちゃん……。
しかしそこでオレの目に飛び込んできたのは、奏ちゃんの……!
「キャンっ!!」
オレは真っ赤になってまた目元を覆う。
や、やっぱ、奏ちゃんの、大きい……っ!!
「お、おい、何してんだよ、洗えねーだろうがっ」
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