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第4話 後始末

榊原のアウディに全員で乗り込んだ 桜林学園の来賓用の駐車場に車を停めると、全員車から降りた 康太は、執行部室に向かって歩き出した 執行部室のドアをノックすると、中から理事長の神楽四季がドアを開けてくれた 「早いですね。さぁ中へ」 部屋に招き入れられ、康太は兵藤の横の席に座った 神楽の指が……康太の唇の端の傷をなぞる 「四季、痛てぇよ。」 「こんな傷を作って……」 「四季…早く始めろ。」 康太が言うと、神楽は康太から離れて、佐野に呼びなさい!と告げた 暫くすると、佐野春彦に連れられて、石田達を始めとする、現執行部の役員が5人連れられて入ってきた その後に5人の保護者と弁護士が同席した 親達は言い掛かりを着けているのだと、正当化し、逆に学園を訴える気で弁護士を連れてやって来ていた 佐野は5人の親の前に証拠を提示した 横領の記録、深夜証拠隠滅に訪れた写真 豪遊に出かける写真…… と、まぁ、緻密に策略を練られ総てが証拠となり残ってしまっていた 言い逃れ出来ない証拠を提示され…親達は黙った 5人の保護者側に同席した弁護士は、康太の姿を見ると、深々と頭を下げた 「康太様、お久し振りです。 お元気でしたか?」 飛鳥井康太の顧問弁護士 天宮東青だった 康太はニカッと嗤って 「東青、久しいな 真壁に一緒に行った時以来だな。」と、挨拶をした 天宮は、康太がこの席に同席していると言うと事は…… 勝ち目がないと言う事だと察知した 「康太様、貴方のその唇の傷…… 彼が蹴り上げた時に出来た傷なんですか?」 「……資料に書いてある。 オレが自ら作成した資料だ。」 康太がそう言うと、天宮は、資料に目を通した 天宮は、5人の保護者に頭を下げた 「大変申し訳御座いませんが、私は弁護を降りさせて戴きます 飛鳥井の真贋を敵に回して勝算は有りません! 多分、他の弁護士も引き受けては、下さいませんよ。 飛鳥井の真贋を敵に回してまでする仕事ではないですからね。 和解してくれと言うのでしたら、そちらの方で動きますが…… そうでないのでしたら、顧問弁護士は降ります。」 と、天宮ははっきりと宣言した 保護者は青褪めた…… 証拠があり言い逃れ出来ないのに……… この上……弁護士に逃げられたら………想像するだけで怖い 保護者は、弁護士に総て任せるから……訴訟じゃない方に……御願いした 保護者側の全面敗訴的な感じで終わらざるを得なかった 理事長の神楽は 「200万円のお金の返済を求めて、こちら側が提訴しても構わないのですが、どうしますか? 支払うのは当たり前! 全校生徒のお金ですからね! それを前執行部部長が横領したかの様に見せ掛けて使い込んだ! 最低最悪の所業、許しはしません! 無論退学です。 この学園に残す気は有りません!」 と、怒りは収まらずに捲し立てた 5人の両親は……天宮に、訴訟は困る…… 絶対に和解で話を持っていって下さい!と必死で頼んだ 訴訟になれば世間体が…… 天宮は「彼方の方が飛鳥井家の真贋、飛鳥井康太様です。 彼を蹴り飛ばしたのは……許せませんね 彼は軽んじられて良い存在ではない。 飛鳥井家から傷害罪で訴えられたって…文句は言えませんよ! 飛鳥井建設を敵に回しても怖くはないだろうけど、飛鳥井家の真贋は別! 彼を大切に思う人間は財界政界に数多い」 と辛辣な言葉を向けた 父兄は……青褪めた…… 今巷を騒がしてる飛鳥井の真贋 その彼が目の前にいたから…… 父兄は皆………康太の瞳は見ることすら…出来なかった 「東青、この家族の懐は、この景気の悪さでかなり厳しい…… 学園の損害賠償を5人で割るしか、取れそうもねぇ。 飛鳥井の真贋を傷付けた罪は……最低でも2憶…3億は取りてぇが……この父兄では無理そうだ。 しかも、損害賠償を簡単に支払う気はないみたいだしな…」 康太がつまらなさそうに言うと、天宮は 「そうですか。 でも学園にお返しするのは筋でからね。 耳を揃えて返さないと、訴訟でしょうね。」 と、康太に答えた 「賠償金額を決めると揉めるぞ。 主犯格は石田琉生だかんな。 主犯格が6割り払え……だの、等分なんておかしい!の……東青は苦労するぞ。」 康太が言うと……雨宮は嫌な顔をした 「弁護料は……払って貰えますかね……」 天宮は……康太の意図に乗って、呟いた 「弁護料をかぁ~ 誰が支払うかで揉めるな…」 「そうですか。 この場に貴方の姿を見付けて、全面敗訴をその瞬間に感じました。 貴方が在席する話し合いの場所で、貴方を敵に回して勝てる気は0……。仕方ありません。」 と天宮は溢した 恩ある方からの頼みで引き受けたが…… 桜林と、聞いた時点で康太を思い出しておけば良かったと……後悔した 忘れがちだが、彼はまだ、高校生なんだと、今更ながらに天宮は痛感した 「何たって…子供に金だけ与えて、不倫や浮気しまくってる親ばかりだかんな… 子供を育てちゃいねぇんだよ。」 康太が言うと……驚愕の瞳で親達は康太を見た 図星を刺されて親は逆上した 「真贋だか何だか知りませんけど、その様なデタラメ止めて下さらない?」 一人が言うと、そうだ!何も解らないのに、逆に訴えるぞ!と食って掛かって来た 「嘘だと、言われるの解ってったから、事前に資料を作っといた。 ほれ。東青、一人一人に見せて行け。 コッソリだぞ。それで黙らせられる。」 と、康太は天宮に資料を渡した 資料の背表紙には、一人一人名前が書いてあった 天宮は一人一人を呼んで、コッソリとその資料を見せた すると……父兄は文句のいえないあからさまな現実を見せ付けられ……黙った 探偵にしても………此処まで見てきた様な写真も資料も作ればしない…… 雨宮は今が勝機と立ち上がった 「それでは、私も暇では御座いません。 話し合いに入らせて戴きます。 お一人様40万ずつで200万円也。 弁護費用と多少の詫び代を入れて一人50万円で、話をしたいのですが…。 本来、飛鳥井家の真贋を傷付けたならば、私は2億は踏んだくりますが、無理なようなので、これを飲みなさい。」 天宮が言うと……やはり、支払うのは少しでも少な目が良いのか……… 主犯格の石田と他が同じなのはおかしい!と文句を付けられた。 そして、弁護士を無視して口喧嘩に発展して行った 石田ら5人は醜い親の争いを見て……顔を背けた 「我が子の罪は、親は命を賭して、償わなければならぬ。 それが出来ぬなら親を名乗るな! 子供はお前達の見栄や体裁の為にいる訳ではないぞ! お前達が醜い争いをしていること事態が……子供を追い詰めていると、何故気付かない? 憐れよの…子供は置き去りで話を進められ…怒られもしねぇんだからな! なぁ石田!目を背けず見ろよ! お前の親だろ!」 康太が言うと石田が 「お前に僕の何が解る! お前みたいな化け物がししゃり出て来んな!」と怒鳴った 石田が言うと榊原が静かに怒った 「じゃあ君は、康太の何が解るんですか? 康太の背負う荷物は君なんかの非じゃない! 君に康太の事を言う資格なんかない! 康太は化け物なんかじゃありません! 名誉毀損で訴えますよ! 僕の妻に謝りなさい!」 榊原が言うと天宮も 「今のは名誉毀損ですね。 訴えるなら、私が矢面に立ってやります」 と、全面対決の姿勢に出たら、石田は青褪めるしかなかった 天宮は「飛鳥井家の真贋は神事には皇居に出向き運気を呼び込む。 その名は朝廷の世から続く家柄。 真贋に見て欲しくば、何年も待たねばならぬ程。 そんな彼を化け物呼ばわりされては、顧問弁護士の名が廃れます!」 と言い切った ………………………皆、押し黙った そんな中、康太は大爆笑した 「親と名乗れぬ愚か者が、能書きを垂れる! さてと、オレの名誉毀損うんぬんは、今は良い。 それよりも横領をカタつけろ! 学園への返済は当たり前! 況してや自分達の犯罪を人の所為に細工をするなんて、最低の人間のやる事だ。 キッチリ200万円を返せ!」 天宮は両親に 「主犯格も、何も横領したお金で豪遊したのだから共犯でしょう? 返済するのは当たり前。 お一人様50万円をお支払い下さい。 それで和解をいたします。」 と有無もなく申し立てた 「退学なら払わなくて良いのかしら?」 相当、払いたくないのか……そんな事を言う父兄も出てきた 「退学になっても横領は避けられません。 未成年ですので、父兄の方が支払うのは当たり前。 では、物別れで宜しいですか? 物別れの場合、裁判になります。 裁判は負けた方が裁判費用を払わねばならないので、敗けが解っていて請け負ってくれる弁護士は少ないですよ。」 天宮が言うと 「払うわよ!払えば良いんでしょ!」と興奮して言い放つた 天宮は、その場で秘書に示談書を作成して持って来いと使令を出した 親達は、50万支払う誓約書を書かされた 支払った時点で、示談書は成立すると言われ、慌ててお金を用立てに行く父兄ばかりだった 面倒な事は、早く終わりたいと言う事だった 暫くして天宮東青の秘書が示談書を持って執行部室にやって来た 父兄も50万を用立てて、やって来て、示談は成立した。 示談が成立すると、神楽四季は5人の父兄に退学通告を渡した 父兄はそれを怒って奪い取ると、子供を置き去りにして、帰って行った 天宮も、康太に深々と頭を下げて帰って行った 康太はそれを見届けてから、動けずにいる5人に声をかけた。 「お前達は親の見栄と虚栄心を満たす為だけにいるんだな? どの親も子供を軌道修正をしねぇんだな? ならば……コイツらは堕ちるしかねぇかんな。」 康太が言うと、5人の内の一人、中島遥斗が 「親なんて、そんなもんだろ?」と、言った 「それが親か……憐れだな 親とは子供の為になら命だって懸けられる!」 喜多島愛翔が「それは……夢物語かテレビドラマの世界だ!」と吐き捨てた 「お前等の足りないモノは感情だな? 人としての感情も想いもない、唯のブリキのオモチャだ…さてと、帰るとするか?」 康太は立ち上がった すると……兵藤に椅子へと戻された 兵藤は「お前等は、もう学園の生徒じゃねぇ!帰れ!」と、告げた 5人は席を立つと、執行部室から出て行った 兵藤は、それを見送ってから 康太と榊原、一生、聡一郎、慎一の前に書類を渡した 「あんだよ?これは?」 康太が文句を言う 「次の役員を決めねぇと、回らねぇだろ? さっさと、人選しろ!5人上げろ!」 兵藤は、サクサク仕切って、康太達を働かせた 一時間位で人選を済ませ 翌日、榊原が責任を持って、引き継ぎをやると、言う事になり、帰宅する事になった 皆で榊原の車に乗り込み、飛鳥井の家へ帰って来た 康太は家に帰ると、応接間へ行き、犬のコオと遊んでいた 一頻り遊んで、自室に着替えに向かった 3階の自室に行き、寝室に入り、着替えをする 脱いだ制服を榊原がハンガーにかけて行く 軽めの服を康太に着せると、榊原も制服を脱ぎ、私服に着替えた そして一階に行き、キッチンに顔を出すと、皆が夕飯を食べていた 自分の席に座ると…源右衛門、清隆、玲香、瑛太、悠太が一斉に康太の顔を見た 「なっ!……何なんだよ!」 康太の声がひっくり返る 榊原が、せっせと康太の前に食事を置くと 康太は「いただきます。」と手を合わせ、食べ始めた 榊原が、康太の横に座ると、康太はガツガツ、ポリポリ、食事を始めた 家族はここ最近、康太は淋しそうで、榊原と共に食事する事もなくなり、心配していた ガツガツ食べる康太の横で榊原は静かに食事をする 食事が終わると、慎一が康太の前に玉露を入れた そして、他にはそれなりの茶葉でお茶を入れて渡した 慎一の主はあくまで飛鳥井康太だった…… 康太の頬のご飯粒を榊原は、ペロッと舐めて食べた …………相変わらずの新婚ぶりに、家族は胸を撫で下ろした 瑛太が「片付いたの?」と康太に聞くと、康太は「おう!」と答え笑っていた 久し振りの……笑顔だった 瑛太は頷き、康太を見守っていた

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