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第6話 胎動

ドクン……………ドクン…… ドクン……………ドクン…… ドクン……………ドクン ドクン……… と言う音の後に……下腹に激痛が走った 授業中、康太は下腹を押さえ……脂汗を滴し苦しみ出した 机に蹲り……呻いていた 「康太!大丈夫かよ!」 一生が、慌てるのを康太が押し止めた 「騒ぐな一生! 慎一、オレを空き部屋に連れていけ…授業の邪魔になる…」 慎一は康太を丁重に抱き上げると、空き部屋まで早足で歩いた 一生が走って、空き部屋のドアを開けに行く 聡一郎は、慌てて、康太の後を追った 慌ただしく慎一に抱えられ連れて行かれる康太の姿を榊原は、目にした 榊原は、思わず教室を飛び出していた 走って空き教室に行くと、慎一が榊原に康太を渡した 康太は榊原に 「母ちゃんに電話を入れてくれ……出たら変わる……」と頼み腹を抱えた ドクン……ドクン……ドクン…… 感覚が狭まって来る…… 「ぅ……痛てぇ…」 激痛に……堪えて……脂汗を流していた 「康太、義母さんです。」 玲香が出ると榊原は、康太に変わった 「母ちゃん!京香が、産気付いた! 行ってくれ!継ぎの真贋が産まれる……」 「早くはないか?」 「継ぎの真贋がオレと同調してる! 出て来るから、京香の所へ行ってくれ!」 「解った!今すぐ京香の所へ行こうぞ。」 玲香は慌てて電話を切った 「伊織、じぃちゃんの所に電話してくれ…」 康太が、榊原に電話を返すと、榊原は源右衛門の所へ電話を入れた ドクン…ドクン…ドクン…ドクン… 榊原は、源右衛門が電話を出ると康太に変わった 「じぃちゃん…継ぎが産まれる。 玲香と共に見届けてくれ! オレは行けねぇ。 産まれる前にオレが行くと死ぬ! だから、頼む!」 産まれる前に真贋に逢えば……弱い真贋は、命を落とす事もあると言う…… だから、産まれる前には……逢うことは許されていなかった 「あぁ。お前の分もキッチリ見届けて参る。」 と言い源右衛門は電話を切った 電話を榊原に渡すと、康太は腹を抱えて、呻いた 榊原は、康太を抱き締め…腰を撫でた 何か……出産する妻を撫でている気分になった…… 「はぁ……ぅ……」 康太の声が響く 仰け反る康太は……美しかった 激痛は二時間を越した…… かなりの難産だったみたいで……康太は弥勒を呼んだ 「弥勒!……導いてくれ!オレの子を!」 康太は叫んだ! すると『承知した!お前の所まで、導いてやろう!』と声が聞こえた 榊原は、康太の脂汗を拭い……腰を撫でて、背中を撫でた ついでにお腹も撫でて……何か康太が出産する気分。 ドク…ドク…ドクドクドクドクドク……… オギャァー 嬰児の声が響き渡った…… 『お前の所まで導いた…早く黄泉の眼を継ぎに入れろ!』 康太は長い息を着いた 「弥勒ありがとう。」 『…総ては…お前の為に…』 康太は立ち上がると、左手を開いた その手には……小さな水晶玉の様な物が握られていた 「さてと、行かねぇとな。」 康太はその水晶玉をハンカチに包んだ 「伊織、お前は授業に戻れ! オレは京香の所へ行かねばならねぇ。」 「一緒に行きます。」 「伊織…」 「僕はパパになるんです。 我が子を見に行くのは当たり前です。 さぁ行きますよ。」 有無を言わせず、康太を促す 「一生達も行きますよ!」 空き部屋を出て校舎の外へ出る 榊原は、移動する途中でハイヤーを2台予約を入れた 校門を出るとハイヤーが停まっており 康太と榊原がハイヤーに乗り込むと 一生と聡一郎と慎一はもう一台に乗り込んだ 榊原は、京香のいる病院の場所を告げると、ハイヤーは走り出した 一生達もハイヤーに乗り込むと、康太から聞いてた居場所を告げた 病院に着くと、面会の許可を貰い 面会バッチを、着け京香の所へと急いだ 病室のドアを開けると、生まれたての赤ちゃんを胸に抱く京香がいた 「京香、ご苦労だったな。」 「康太…」 京香は、康太へ赤ん坊を差し出した 康太は赤ん坊を受け取ると、榊原に渡した そしてハンカチで包んだ小さい水晶玉を口に含むと、赤ん坊の口を押し開き口移しで………飲ませた 赤ん坊は………詰まらせる事なく、それを溜飲した 源右衛門は、その様子を見て「黄泉の眼か?」と尋ねた 「そう。この子が継ぎの真贋である以上避けては通れねぇかんな……」 康太は榊原の手から赤ん坊を受け取ると、頬にキスをした 「弥勒に産道から導かれて出て来た、オレの子だ。」 康太は赤ん坊を、抱き締め、そう言った 「京香、この病院には何時までいる?」 「1週間は、此処にいて、後は康太が決めろ。」 康太は赤ん坊を榊原に渡して、京香に近付き抱き締めた 「オレが認知する。東青に頼んである。」 「異存はない。お前の子供だ。」 「瑛太に逢いたいか?」 「……康太…。」 「逢わせてやろうか?」 「………まだ良い。」 「子供は母乳が必要な期間はお前が育てろ」 「康太…」 「瑛太と子供で住むか?」 「康太……苦しまなくて良い! 私は康太の決めた事に従う。 だから、お前は悩まなくて良い……。 お前を苦しめる為に……子を産んだ訳ではない……」 「………京香……」 康太は泣いていた 自分が現れる時、母子の別れの時が来るから…… 「苦しい時を……支えてくれた……お前に辛い想いをさせたくはなかった……」 「私は康太の側で瑛太といられるだけで、幸せだ。 私の幸せの場所は昔も今も、お前のいる場所だ。 そこへ帰れるだけで、私は……幸せだから……悩むでない。」 「お前を誰よりも幸せにしてやりたかった……そう誓ったのにな……」 「幸せだから……。約束は守られてる。」 「京香…」 京香は康太を守るように抱き締めた この先……命を懸けて、康太を守って行く 京香の決意だった 「真壁の家は地獄だった…… 毎夜父の差し向けた男に玩具にされた。 それを守ってくれたのは康太、お前だ! 我ら3姉妹の伴侶を見付けてきて結婚させてくれた 父に何も言わせず引き離してくれたのは、お前だろ? お前がいなければ……私達はかなり前に死んでいた。 私はずっと康太の側に、瑛太といられる幸せをくれたのは、康太だ。 あの地獄の日々を断ち切ったのは康太、お前だ。 お前の為なら私は命に変えても良い これからは、お前の為に瑛太と生きる。」 「バカだな京香は……。本当にバカだ……」 京香は康太を優しく撫でた まるで母の様に……聖母の様に… 榊原は、手の中の赤ん坊を見詰めた 真っ赤なお猿さんの様な頬にキスをした 一生や聡一郎、慎一も、榊原の、手の中を覗き込んだ 「ちぃせぇな。紅葉よりちぃせぇ手だ。」 一生は、赤ん坊の手に、そっと触れた 榊原は、慎一に赤ん坊を渡すと、慣れた手つきで赤ん坊に触った 懐かしそうに嬰児に触る姿は父親らしかった 慎一は榊原に子供を返すと、榊原は、一生に赤ん坊を持たせた 「壊しちまいそうで……怖いな…」 一生は、愛しき温もりを一頻り味わうと、聡一郎に渡した 聡一郎も、恐る恐る赤ん坊を抱いた そして榊原に返した 榊原は、腕の中の赤ん坊の頬にキスをした 康太は、京香から離れると、京香を見詰め 「京香、子供を連れて退院しろ オレは退院の日迎えに来る その足で飛鳥井に帰るぞ。 お前は誰よりも飛鳥井の女だ あの家がお前の帰る家だ 1ヶ月、二階の客間で過ごせ。 その後、瑛太と正式に夫婦になれ。 そして子を作れ お前の子を作れ 瑛太に良く似た、瑛太の分身を作れ 今度の子作りは…オレが口を挟む お前をこの世の誰よりも幸せにしてやる だから、オレの側にいろ オレの側で瑛太と暮らせ 瑛太を愛せ。オレよりも愛せ。」と告げた 京香は嬉しそうに微笑み 「それは無理だ……この世で一番愛しているのは……昔も今も、お前だけだ。 お前ほど愛せる人間なんてこの世に存在などせぬ……。 でも、それに劣らぬ程、瑛太を愛す。 そして、お前の言う通りに、子を生む 飛鳥井の為に生きるのではなく。 飛鳥井康太の為に、私は生きて行く。」 決意を康太に告げた 康太は榊原から、子供を受け取った 「お前の行く末が……辛くない様に…… オレは……お前の進む道の礎になってやろう………。 飛翔の『 翔 』の字を取って『かける』それがお前の名前だ。飛鳥井翔。 京香、解ったな。」 康太は『 翔 』を京香に渡した 「かける……翔か…良い名前だ。」 「そう。乱世を翔る天馬なり…… この子の行く末は乱世なり。 天を翔て地を翔て、この子は行かねばならぬ……だから、翔だ。」 「総てはお前の想いのままに。 それが私の望みでもある。」 京香は、子供を玲香の手に抱かせた 康太の前に、子供を抱かせる気はなかった 玲香もそれを解っていたから、何も言わなかった 玲香は嬰児を抱き「翔か…良い名だ。」と、孫を手にした 孫を手にすると……今は亡き琴音を思い出す 玲香は、涙を流しながら、赤ん坊を抱き締めた 「我もお前の行く末が辛くない様に…、この身を捨てて助けようぞ 琴音の分も愛そうぞ。」 玲香は源右衛門に赤ん坊を渡した 「康太の育てる子が……明日の飛鳥井を作り直す……。 お前の為なら、この老体を擲って守ってやろう。」 源右衛門は、嬰児を抱き締め……泣いた 平穏の世を生きるのならば……良いのだが… この子の行く末も険しい蕀の道だ 康太は子供を返してもらい、微笑んだ 「飛鳥井京香。今週末迎えに来る。」 京香に赤ん坊を返し、康太は京香の唇に口吻けた。 「またな。京香。」 「あぁ。康太。また来てくれな。」 康太は片手を上げ……京香に背を向け、病室を後にした 康太は病室を出ると、榊原や一生達に 「オレは瑛兄に逢いに行く 伊織、一生達と先に飛鳥井へ帰ってくれ」 と告げた 榊原は、康太の心情を推し量り 「解りました 僕達は此処でタクシーで帰ります 康太は気を付けて瑛太さんに逢いに行って下さいね。」 康太は皆に背を向けると……振り返らずに歩き出した 病院のタクシー乗り場から、停まってるタクシーに乗ると、飛鳥井建設まで……と、告げた 榊原達は、康太の乗った後に、タクシーに乗って、飛鳥井の家へ帰って行った 飛鳥井建設の前でタクシーを降りると 康太は受付嬢に手をあげ、最上階へ行くエレベーターに乗った 最上階でエレベーターを降りると、副社長室のドアをノックした ドアを開けると、ドアの前に康太が立っていて驚いた 「康太……?どうしたんですか?」 瑛太が聞くと、康太は瑛太に手を伸ばした 瑛太は康太を抱き上げ 「どうしたんですか?」と、尋ねた 「オレと来て欲しい…… 今すぐ…オレと来て。」 瑛太は甘える康太を抱き締め 「良いですよ。 君の望む所へ連れて行ってあげます。」 瑛太は康太の唇に軽くキスした 「上着を着るまで待ってなさい。」 康太をソファーに下ろし、背広の上着を着て、鍵と財布を胸ポケットに仕舞った 準備が出来たら、康太を抱き上げた 「さぁ、行きますよ。」 瑛太と共に地下駐車場へと向かう そして、瑛太は、自分のベンツの助手席に乗せると助手席のドアを閉めた 康太は助手席に座ると、スマホを取り出すと、行き先をナビに送った 「ナビ通りに連れて行ってくれ。」 瑛太は康太の言う通り、ナビの案内するままに車を走らせた そして京香の入院している病院に着くと、前もって面会予約を入れておいた面会バッチをポケットから取り出し、瑛太の胸ポケットに着けた 瑛太は何も言わなかった 康太は京香の病室の前に行くと、ドアをノックした そして、ドアを開け、病室に顔を覗かせた 「お前に、逢わせてやる。」 康太はそう言い、瑛太の腕を引っ張り、病室の中へ入っていった 瑛太の瞳が……驚愕で開く 京香の瞳も……驚愕で開いていた 康太は瑛太を京香の側まで連れて行くと、二人を抱き締めた 京香は、康太の名を呼んだ 「康太!お前の果てが歪むのではないのか?」 「心配するな京香……お前にやる。 お前のモノにしろ。」 「康太……」 京香は、康太の想いが痛くて……胸が痛かった 「瑛兄、お前の嫁だ。 そして、“今は”お前の子供だ。 お前等は家族だ。 だが、京香が退院すると、オレはお前等を引き裂く。 今後は一切親子は名乗らせぬ。 それが、継ぎの真贋の為だ。 だから、オレは1ヶ月位は……目を瞑ってやる。 親子水入らずで暮らしても良い……今だけ……親子でいろ…」 瑛太も……康太の想いが痛かった 瑛太は康太を抱き締めた 「お前のいぬ場所で暮らせなどしない…。 そんな事は望んではいない…… 私も京香も、お前の側にいたいのだ! お前を愛し続けて……行きたいのだ 親子と名乗れなくても愛する事は出来る お前と伊織が育てる子を、お前ごと愛するから……お前の側にいさせてくれ 」 「瑛兄……」 京香も……康太を抱き締めた 「私も瑛太と同じ……康太の側にいたい それが、願いだ。」 「ならば……今だけでも……  親子で過ごせ……。頼むから……」 康太は贖罪の想いで……この時間を作った 精一杯の想いで……京香に……瑛太に…… 詫びを入れる せめて……一時でも、親子と名乗らせてやりたかった…… 瑛太は、赤ん坊を、その腕に抱いた 子供のネームに『 翔 』と名前が入れてあった 「しょう?」瑛太は問い掛けた 「かける、だ。」康太は教えた 「かける……か。翔、良い名だ。」 瑛太は愛しそうに赤ん坊に頬を寄せた そして、康太の腕に赤ん坊を抱かせ、瑛太は康太ごと抱き締めた 「私が愛するのは何時もお前が優先で…… お前以外……愛せはしない。 お前が側にいて笑ってくれているなら…… 私はそれで良い。 お前がこの世に生きていてくれるなら…… それで十分だ 愛してる康太……私の愛は……総てお前の為にある……」 京香も立ち上がり……康太を抱き締める瑛太ごと抱き締めた 「愛してる康太……だから苦しまなくて良いと言ったではないか…」 康太は……涙が流れ……目を瞑った 京香の優しい腕が康太を撫でる 瑛太の力強い腕が康太を抱き締めた この二人は……何時も……こうして、康太を愛してくれた 京香は小学校の頃から、父親の連れてくる接待相手に……抱かれ……無理矢理女にされた 真壁の家は娘を餌に繁栄を築き、力を伸ばしていた 3姉妹が……商品だった 真壁の美しい子供を抱きたい、商談相手は絶えず……その苦行は……高校を卒業するまで続いた だから、真壁の3姉妹は……セックスに執着はなく……身体と……心は別………として生きてしまった 真壁の3姉妹は、祖父、源右衛門の修行で傷付いた康太を姉の様に、母の様に、愛して癒してくれた 夜になれば……人形になる 人間として生きている唯一の存在が、康太だった 康太は……悪夢の日々を断ち切ってくれた そして……人間として生きていく日々を与えてくれた 京香は瑛太に恋をしていた 康太を心底愛する瑛太を……京香は愛した 唯1つの誤算は……源右衛門の反対を押し切ってした、結婚だった まだ早かった……時は来ていなかった…… それでも康太は……二人が幸せになるなら… 泣いて……泣いて……諦めた そして、康太は伴侶を得た 榊原伊織と言う人生の伴侶を…… それでも……康太にとって、飛鳥井瑛太と真壁京香は、大切な人だった 「瑛兄……京香を愛せ……」 瑛太は……康太の頬にキスして 「あぁ。お前の次に、愛している これからも……そんな私ごと京香は、愛してくれる……。 京香も、一番愛しているのはお前だ。 私は、そんな京香ごと愛していこう……約束する。」 「オレは愛さなくて良い。」 「それは無理だ。 私はお前の側で、お前を愛さずには生きられない。 お前のいぬ世界には生きる気がない。」 康太は瑛太を見上げた 「もう泣くな…。 私は幸せだと言わなかったか?」 瑛太が康太の涙を拭った 「オレは帰る。 瑛兄は……京香と面会時間が終わるまでいろ」 康太は瑛太と京香の腕から抜けた 瑛太は「送っていく。」と、告げたが、康太は首をふった 「話をしろ そして我が子を腕に抱け。 翔が父親に抱かれずに……オレが盗る… そんな事をさせないでくれ…… 瑛兄の腕で抱いてくれ 父親として……翔を抱き締めてやってくれ…」 康太はそう言うと、二人に背を向けた 病室を振り切る想いで出た…… 許して………瑛兄………京香…… 康太は俯き歩き出した…… その時……腕を掴まれ……振り向くと 榊原伊織がいた 愛する男が………康太の目の前にいた 「伊織…」 涙で歪む視界の向こうに……榊原が立っていた 榊原は、康太を胸に抱くと、早足で駐車場へと向かった そして、榊原の車の助手席に座らせると、運転席に榊原は乗り込んだ 「康太……」 榊原は、瑛太を、京香に逢わせ、我が子に逢わせる気だと気付いていた そして……病室から出たら……泣くのだと… だから、榊原は、康太が出てくるのを待った 榊原は優しく康太を抱き締め……泣き止むのを待った 「康太は……泣くでしょ……。 総てを終えたら……君は泣くでしょ… そんな君を一人で帰せない!」 康太は愛する榊原の胸に顔を埋め…泣いた そして……榊原に真壁3姉妹の話をした 出会った時…三人は人形だった……男のセックスの相手をする……人形だった……と。 3姉妹は、康太といる時だけ……人間として生きられた そして、父親から救ってくれた康太を…… 命を懸けて愛する……その心の闇を聞いた 「オレは3姉妹を愛してる……。 でも…オレは3姉妹の望む愛は応えられない オレは所有権を決めた人間しか、そう言う対象として、体が反応しない……からだ。」 榊原は、3姉妹が康太に何故、あれ程執着するのか理解出来なかった 命を……救ったのだ康太は…… 闇から救い上げ……人間として再生してくれた人間を絶対に思うのは当たり前かも知れない 自分の命なんて捨ててしまえる位に…… 康太を愛して優先するのは当たり前なのかも知れない 榊原は、康太にキスをした 「愛してます康太……愛してる‥‥。」 「伊織…何故オレを許す? オレは……罪深い……」 「誰よりも傷付く君だから……愛さずにはいられないんですよ。」 「伊織……ありがとう……いてくれて……ありがとう……」 「妻を心配しない夫はいませんよ?」 「優しい亭主でオレは幸せな者だ。」 榊原は優しく康太を抱くと、そのままエンジンをかけ、走り出した 榊原は、飛鳥井の家へ帰る前に、ファミレスに寄った 榊原は、店内へ康太を連れて入って行く 8人掛けのテーブルに……一生がいた、聡一郎がいて、隼人がいて、慎一がいて、力哉がいた 「遅せぇよ康太。何食うよ?」 一生が康太に声をかける 康太は榊原を見て……ポロッと一滴涙が溢れた 優しい男は……何処までも優しく……康太を泣かせた 慎一が康太の頭を子供でも慰めるみたいに撫でて、一生の隣のソファーに座らせる 「泣くとまた眠くなるでしょ? 泣かないの。」 慎一がお手拭きで、康太の顔を拭く 康太の隣に榊原を座らせ、慎一は注文表を榊原に渡した 一生は、康太を抱き締めた 「泣くな康太……泣くな…」 そんな光景を見て聡一郎は、拗ねた 「最近…康太を慰めるのは一生ばっかり! 僕の出番が中々ないじゃないですか!」 一生は、べーっと舌を出した 聡一郎は、ムカッと怒って一生の足を踏んだ 「ぃ……でぇ!くそ聡一郎、何すんだよ!」 喧嘩が始まりそうで、慎一は 「喧嘩するなら外に行け! 康太が食事出来ない!」と、止めた 榊原は、康太の分も注文して、デザートにプリンもつけた 康太の好きなハンバーグ定食が来て、康太は食べた プリンが来て……美味しそうに康太は食べた なのに……その瞳から………ポロッと零れる涙は止まらなかった 康太は時々…涙が止まらない…… 堪えて来た分……箍が外れると……止まらなかった 流れ続ける涙は……見ている者の胸を痛めた 「康太……」 榊原の指が康太の瞳を閉じさせる 康太は榊原に凭れ……眠りに着いた 榊原は、康太を膝に寝かせ 「寝てしまいました……。」 榊原が言うと一生が 「仕方ねぇよ。 康太は……瑛太さんの子供を取り上げる事に罪悪感を抱いていた…… 瑛太さんは……康太以外に大切なモノなんて何もない……。 この世で愛するのは康太だけ……恨んだりしないのに……康太はそれでも苦しむ…」 と、康太の想いを口にした 「康太の背負う罪ならば…僕は背負ってあげるのに……。」 榊原がごちると 一生も「俺等も、背負うのにな…」と、呟いた 聡一郎も「一人で背負い過ぎなんですよ康太は……」と、溜め息混じりに呟いた 隼人は「康太…」と、悲しむ姿に……胸が痛くて仕方がなかった 慎一は「康太だから背負う荷物なんでしょうね…我が主は…矢面に立って苦しみを背負う…」と嘆いた 榊原は、康太を抱き上げ…車に乗せた そして飛鳥井の家へ帰ると、3階の寝室に連れて行き、康太を寝かせた 榊原は、胸ポケットからスマホ取り出すと父、清四郎に電話を入れた 「父さん…康太の子供が産まれました。 飛鳥井 翔 2012年11月20日 2860グラム O型 今日…逢って来ました。 康太と言うより瑛太さんに似てました。 今週末…飛鳥井に帰って来ます。」 清四郎は「そうですか……産まれましたか。年末位と言ってたのに少し早いですね。 逢っても良くなったら教えて下さい。 私も愛します。お前と康太の子供を…。」 と清四郎は静かに応え……電話を切った 京香の子供を康太が認知する 名実共に、康太が親になる…… 一生の子供も…戸浪亜沙美の子供も…… 康太は認知して、実子として戸籍を入れる 飛鳥井康太の子供……。 康太は母になる…… だが……厳しい鬼になるのだろうな…… 隼人の矯正は半端なかった ならば、自分は優しい父になろう…… 榊原は、手にした小さな生き物の親になる自覚を持っていた 愛してやろう…… 康太が瑛太から愛された様に……愛してやろう 榊原は、康太を抱き締めた 「愛してます…康太。」 もう……君と…出会う前の自分には戻れません……。 榊原は康太を膝の上に乗せ……抱き締め…目を閉じた

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