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第11話 果て①

隼人は……最近、飛鳥井の家へは戻って来なかった 康太が朝食を、食べていると……康太の瞳に…… 泣きじゃくる隼人が飛び込んで来た…… 『こーた こーた   逢いたい…こーた 側にいて…… オレ様を抱き締めて‥‥こーた 』 隼人は……泣いて康太を呼んでいた 隼人は自分で自分を抱き締めて……床に蹲った 震える体を抱き締めてやりたかった…… 『でも……逢えない……逢ったら……  康太の側から………離れたくなくなる……』 隼人は……涙を溢して……泣いた 康太は……隼人!泣くな隼人!と、心で叫んだ じっと一点を見詰めて…………康太は…微動だにしなかった そして……みるみるうちに………涙が溢れて……流れた 京香は立ち上がり康太に近付こうとして…… 一生と慎一に阻まれた 「康太に寄るな!」一生が康太の壁になる 目の前で、京香を阻むのは、京香の前で優しい顔した一生ではなかった 「康太に触れるのは伴侶のみ。寄るな!」 慎一も言い放った 穏やかで静かな……慎一ではなく、双児の番犬がそこに在った。 京香は、椅子に座り……祈るように両手を握った 康太は果てを見て………涙を流していた 「弥勒……これが現実なら……惨すぎる…」 康太は呟き……涙した 『避けられはせぬ定め……俺でも変えられはせんのだ……許せ……康太…』 弥勒の声が……静まり返ったキッチンに響き渡った 榊原は、康太を優しく抱き締めた 康太は爪が食い込む程………拳を握り締め……震えていた 「………何につけても! 少しだけ早いじゃないか! 何故!何故なんだ! 翔も早まっていた!どうしてだ!」 康太は叫んだ。 泣きながら……弥勒に総ての感情をぶつけた 『康太……俺は神じゃねぇ…… それは解らねぇ……康太……すまぬ。』 康太は……瞳を閉じた 「……八つ当たりを許すな……弥勒……」 『お前が苦しいのなら……俺に八つ当たりしろ…… それでお前が……収めてくれるなら……聞いてやる 俺に出来る事ならしてやる………だから康太……泣くな……』 弥勒の愛だった… 命をかけて………叶えてやれる事なら……してやるのに…… 「弥勒……オレは……どうしたら良い?」 『行け……康太……。  俺が導く。行ってやれ。』 「今日が命日になってもか?」 『行かねばお前は後悔して……自分を責める…』 「ならば、オレは行く……例え……今日が命日になろうともな……」 『そうしたら、俺も共に逝く ……だから、逝け‥‥』 康太は立ち上がった 立ち上がると……玲香と清隆に……深々と頭を下げた 「先立つ親不孝を許してくれ……オレはアイツの親だ…… アイツが命を落とす時……オレは共に逝く…」 康太が立ち上がると、榊原も聡一郎も立ち上がった 康太は、家族に頭を下げて、背中を向けた 康太の後ろに……命を共にした伴侶と友が……連なる 彼等は……命を……共にしていた 榊原は……飛鳥井の家族に……頭を下げた 康太と榊原が出て行くと、一生と聡一郎、慎一が家族に頭を下げて……出て行った その背中は……決意を秘めて…… 悲しいくらいに……潔かった 玲香は……そんな息子を見送る事しか出来なかった…… 瑛太も……清隆も………そして源右衛門も……。 悠太は泣いていた。 愛する聡一郎を送り出さねばならぬ辛さに……泣いた 京香は……康太を追おうとして、瑛太に阻止された 「康太を止めるのは許さない! 例え康太が生きて帰らぬとも……止めるのは許さない! 康太が逝ったら私も逝く! 康太のいないこの世に………私は興味もない……。」 瑛太の瞳は……覚悟を決めていた 「何故……行かせる……?」 「動き出した康太は止まらない。 それが定め。 お前も……飛鳥井に生きるなら……康太を止めるな! 死にに行くと解っていても……だ。 家族は……そのたびに覚悟を決める。 それが康太の……生きる道だ……」 瑛太は……愛する弟を想っていた 死ぬと解っていても……見送らねばならぬのか…… なんと辛い………現実……? 京香は涙していた 瑛太は立ち上がると……仕事に出掛けた 康太の守り抜いた飛鳥井を守る為に…… 玲香も清隆も……出社して行った 京香は……中々立ち上がる事は出来なかった 康太は榊原の車に乗ると……居場所を告げた 「鎌倉に向けて走ってくれ……神野に一度連れられたレストランの近くだ。」 榊原は、言われた通りに車を走らせた 康太は……星を詠み……隼人の覇道を追う 「弥勒……もう良い……捕まえた。」 『ならば……逝って来い……。 俺はお前の覇道が消えたら後を追う……』 弥勒も覚悟を決めていた 共に在る事だけを願っていた…… お前が………生きていてくれるなら…… 飛鳥井の家族と…… 弥勒と紫雲の……… 願いは同じだった 榊原は神野と来た事のあるレストラン近くまで来ていた 康太が更に坂に上るように指示をすると…… そこには……病院が聳え立っていた 康太は、病院の駐車場に車を停める様に頼んだ 榊原は、車を停めた だが…………康太は車を降りる気配はなかった 榊原が「康太……?」と呼ぶ 康太は……決意を堅め……車を降りた そして……まるで見えてるかのように……確実な足取りで進む…… 康太は最上階の………個室まで行くと…… 一番奥の部屋の前に止まった そしてノックすると…………… 憔悴しきった………… 隼人が……呆然として立っていた 康太は家出息子に優しく笑った 「何度も呼んだろ? こーた こーた って……オレを呼んだろ?」 隼人は……信じられない想いで………康太に触れた…… この病院にいるのは………神野だって知らないのだから…… 康太の温もりが………隼人に伝わる この温もりは……何時も暖かく隼人を守る温もりだった 何時だって隼人は……この母の温もりに救われた 隼人は康太に触れ…………その胸に縋り……泣いた 康太は隼人を病室に入れると、抱き締めてやった 康太の後から、榊原が入ってきて隼人を抱き締めた そして、一生、聡一郎、慎一が……隼人を抱き締めてやった 「家出息子を探しに来た……」 康太が言うと……隼人は、こーた……こーた……ごめん……と謝った 「側にいたかったのだ……康太に逢えば離れたくなくなる……… だから離れたのだ‥‥甘えていたら‥‥支えられないから離れたのだ なのにオレ様は……辛い時は康太の名前を呼んだ……矛盾してる…… オレ様はどうして良いか解らなかったのだ……」 康太は優しく隼人の頭を撫でた 「隼人……悩まなくて良い お前を抱き締めたら帰るから……悩まなくて良い……」 康太の優しい手が隼人の頬を撫でる こんな風に……甘やかされたら………ダメになる…… 康太に逢ってしまえば………もう……… 康太康太康太康太康太康太康太康太…………… 隼人の瞳からとめどとなく涙が溢れ流れた 何で!こんなに優しい! 捨ててくれて良いのに…………… 逢えば…………甘えてしまうのに……… 隼人は………康太の……服を握り締めていた 康太は隼人を苦しめたくなくて……帰る事にした 「隼人?……ならな、オレは帰るな。」 康太が言っても……隼人は……康太の服を離さなかった 康太に逢えば………離れたくはないのだ だから……逢わずに……堪えた でも……目の前に……現れたら……甘えてしまう…… 隼人は康太の服を離せなかった…… 康太は……隼人が落ち着くまで、そのままにさせていた 「隼人……お前……死ぬ気だろ? 彼女が……逝ったら……共に逝くつもりだろ? でもな隼人、お前は……方向音痴だからな……黄泉に行ったオレが共に逝ってやる。 伊織も一生も聡一郎も……共にだ。 オレ達は……そうして生きてきたんだろ?」 隼人は……堪えられなくなり……康太の胸を叩いた 「お前が……そんな風に優しいから……… オレ様は……逢わずにいたのに…… 何で……そんなに優しいのだ……そんなに優しくされたら………オレ様は………」 隼人は……叫んで……泣いた 康太は隼人を優しく見詰め… 「オレは……お前の母だからな……」 と、抱き締めた 隼人の嗚咽が……病室に響く…… 康太を……苦しめたくはないのだ…… だけど……康太と離れていた日々は…… 魂をもぎ取られた様に……… 辛く……苦しかった… 抱き締めてくれた腕を失うって…… こんなに寒くて……心細いとは……… 思わなかった…… 当たり前の様に………差し出された……その手の温もりを………恋しいと……泣いた 辛くて……………寒くて…………泣きたくて…… 康太の名を呼んだ 康太に助けを求めた…… 康太に逢わずにいたのは自分なのに……… 康太に助けを求めた…… 自分には康太しかいないのに……改めて気付かされた…… 泣けて泣けて泣けて泣けて…………泣いた でも……彼女に対して誠実でいたかった 愛していたのだ…… 初めて愛しいと思った人だった 彼女の側にいると誓った 誓ったから………康太から離れた ……………それしか彼女の側にはいられなかったから…… なのに……康太を捨てたのに…… 康太は優しく………隼人を抱き締めてくれた… 絶対の存在………絶対の人間……愛する…… 総て…… 康太、オレ様は……康太に逢うのを我慢してでも……彼女の側にいたかったのだ…… 「隼人、離せ。」 康太が言うと……隼人は捨てられたのかと… 顔色をなくした 「隼人?彼女を紹介しろ ずっとオレを見ている……失礼だろ?」 隼人は納得して……康太から離れた 隼人は彼女の側に行くと、康太に紹介した 「康太、上総菜々子さんだ 菜々子、何時もオレ様が話してる母だ。」 康太は優しい笑顔で、菜々子に会釈した 菜々子は母と言っていたから…… 女性にしては雑いなと……思っていたら…… 隼人より小さな男の子で……少し驚いた だが……隼人を見るその瞳は……母の深い愛に満ちていた この人が……隼人の母なのだと……菜々子は感じて……深く頭を下げた 菜々子は、康太と一緒にいる……友人に会釈した 康太は……愛する隼人の総てを受け入れようとする彼女の深い愛を感じて……微笑んだ 「隼人、また来るな。」 康太が言うと……隼人は康太に抱き着いた 「隼人、病室に、そんな長居したら失礼だろ?」 「康太……」 隼人が康太に縋り……離さない 康太の瞳が果てを詠む……… 隼人の哀しみは…………これでは終わらない…… 康太は……彼女の果てを見ていた…… 一条隼人を愛して終える………短き半生を…… 隼人は……スキャンダル前に……彼女と……寝た 彼女は隼人を愛していた…… 愛していたから……束縛しなかった…… 優しく自分の胸に抱き……隼人を愛した 琴音の転生の儀式の後に………隼人は……彼女と寝た 琴音は……この優しい魂に……引き寄せられ ………根着いた…… 早すぎる定着…… 隼人は遊びだった…… 寝た後……気にも止めずに……遊びまくり……スキャンダルを起こした 康太を苦しめた現実に隼人は苦しんだ…… そんな傷付いた隼人の側に彼女は変わらず居て、愛した そんな彼女の気持ちに応え……隼人は彼女を愛するようになった そんな時………彼女は……隼人の前から姿を消した 妊娠が解ったから……… 一人で産んで……育てる気だった…… だけども……隼人は探した…… 探して……彼女の側にいる決意をした…… 隼人は彼女を精一杯の力で守ろうとした だから……康太から……離れた 来るべきではなかったのかも知れない…… 一分一秒が…… ……二人には絶対の時間だったから…… 「隼人……彼女を大切にしろ……」 彼女は………出産に耐えられない…… 下手したら…… 康太は天を仰いだ……… 神様…………何故………… 隼人から…………総てを奪う……… 隼人を………何故……… 地獄に突き落とす……… 何故! 何故なんですか! 母に愛されず育った………幼少期 大人に懐柔され狡さの中で育った少年期 康太と出逢って…………初めて隼人は人の温もりや優しさに触れた 欠落した隼人を軌道修正して……人間にしたのは 飛鳥井康太だった 隼人は……幸せになって良い筈! 何故!隼人の幸せを奪う? 神様……貴方が目の前にいたら …………………ぶっ飛ばしてやる! 「康太…離れたくはないのだ……」 康太の優しさに触れたら……一人で耐えて来た時間が……あっさり崩れる…… 「飛鳥井の家へ来るか?」 「康太……」 「まだ、入院が必要なら、京香の入院していた病院に移るか? 彼処なら飛鳥井からも近い……融通も聞いてくれる?」 「康太……オレ様は……」 「手続きをしてやろう。少し待て。」 康太はそう言うと、榊原に近付いた そして屈めと合図した 榊原が康太に耳を寄せると 「此処に飛鳥井玲香を呼んでくれ……」と、頼んだ 榊原は康太を抱き締めると 「解りました。義母さんを呼んできます。 電話してくるので待ってて下さい。」 と、言い病室を出ていった

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