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第12話 果て②

康太は隼人を抱き締めた 「お前は悩まなくて良い 一緒にいたいなら、側にいて守ってやれ オレの側にいたいならいれば良い オレは命にかけてもお前等二人を守ってやる……」 菜々子は、そんな二人を見ていた 身体は小さいが……誰より母親な彼を見ていた 隼人が全面的に頼り甘え……絶対の存在としている人…… 隼人は……菜々子が妊娠して直ぐに…… 心臓に欠陥が見付かって……子供を諦めなきゃいけないと言われて…… 諦めようと……言ってくれた だけど、諦めたくないと言うと……安定するまで入院する事になった 隼人はそんな彼女の側にいた……側にいてくれた でも……何かを無くして苦しんでいるのが……解って…… 見ているこっちが……辛かった 耐えて………耐えて………自分を掻き抱き…… 泣く姿を……何度も見てきた 隼人は………彼の手を求めていたのだと……知った 母親だと言う……少年の手を……… 康太に抱かれた隼人は……ホッとした顔をしていた 飛鳥井康太は………誰よりも一条隼人の母だった 暫くして榊原が病室に現れ、康太に近寄り囁いた 「義母さんは、この病院の場所を知っていて来てくださいます 後、義兄さんも……ついでに、義父さんも……。」 「瑛兄?何故?」 「三人で……康太の安否を心配してたそうですよ。」 「来るのか?三人で?」 「仕方ないでしょ? あの三人を止めれる力はないですよ?僕には……」 康太は榊原に手を伸ばすと、榊原は康太を抱き上げた 「この病室で……あの二人に抱き締められて、揉みくちゃにされるのは…勘弁だかんな」 「仕方ないでしょ? 君は愛されてるんだから……」 「……オレを抱き締めた後は……お前だぞ伊織……順番だろ?最近?」 康太に言われ……榊原は、嫌な顔をした 「そう言えば……ワンセットの様な気がします。」 二人は押し黙った………そして、見詰めあった 「下の駐車場で待ちますか?」 「それしかねぇかんな。」 康太は榊原の腕から、降りた 康太は隼人の側に行き、少し出ると言った 隼人は……捨てられた子犬の様な瞳で康太を見た 「直ぐに来る この病室で……熱烈歓迎な抱擁は避けたいかんな 迎えに行ってくる 直ぐに帰るから安心しろ 一生も聡一郎も、慎一だって来てくれてるんだぞ ありがとう。と、お前は言ってないのに気付いてるか? 後、お前の父も来てるのに、母にばかり甘えると、伊織が焼きもち妬くだろ?」 康太が言うと隼人は 「伊織…悪かったのだ…」と謝った 榊原は隼人を抱き寄せ 「気にしなくて良いですよ 何時の世も母の愛には勝てませんからね。 父親は悲しいです。」と嘆いたフリをした 榊原は隼人の頬を手を当てると 「母が来て父もいる 仲間も来ている だから、もう、何も心配しなくてもいいんですよ。」と慰めた そして康太を抱き寄せると 「行きますか?」と、声をかけた 康太は一生や聡一郎、慎一に向き直り 「隼人を少しだけ頼む オレは母ちゃん達を迎えに行くかんな。」と告げた 一生は、「任せとけ!お前の宝だ、守ってやんよ。」と頼もしい言葉をくれた 康太と榊原は、病室の外に出た 外に出ると……康太は 「出産に耐えれるか……解らねぇな…」と呟いた 榊原は「えっ!!」と、驚愕の瞳で康太を見た 康太は後は何も言わなかった 駐車場に出ると康太は人気のない場所へと行った 「弥勒……あれ程とはオレは思わなかった…」 『妊娠が体に負担になっている…… 医者には何度も中絶を勧められて…… それでも産むと言い張って聞かない…… 堪えれるから解らぬが…… 琴音の生命力は半端ない この世に出る定め 何としてでも出る気でいるだろ?』 「琴音は……産まれる定め…… だけど……死人から出たら……オレは斬るしかねぇ!」 『康太……今から言うな! 諦めたら終わりだと……子供のお前に俺が教えなかったか? 諦めたら、その手から希望が零れて落ちてくと……教えたのは俺だろ? 俺が何としてでも……この命と引き換えにしてでも……お前に与えてやるから……苦しむな……』 「弥勒……それはダメだ お前の犠牲の上に成り立って良い筈がねぇ そしたら、オレは自分を殺したくなる……」 『康太……ならば祈る……龍騎と祈り続ける……』 「あぁ……祈ってくれ……オレも祈る……」 康太はそう言い……瞳を閉じた 暫く駐車場で待っていると、もの凄いスピードで暴走してくる黒塗りのベンツが、康太の横でピタッと停まった 車から降りると………瑛太は康太を抱き締めた 「生きていて……良かった……」 瑛太が安堵すると……康太は…… 「まだ気が抜けねぇ…」と堅い表情で話をした 父、清隆も康太を胸に抱き締める 母、玲香も……康太を抱き締めた… その後……一頻り……榊原も抱き締められた 「母ちゃん…京香の入院してた病院に頼んでくれねぇかな? 生まれつき心臓に先天性の疾患を持つ妊婦だ……出産は命と引き換えだ だが産ませねば………琴音の魂が……消える オレは二度……琴音を救う事が出来なかった事となる……。」 康太の言葉に……玲香も清隆も瑛太も…言葉を失った 「隼人が……彼女を失って……耐えれるか…… 解らねぇ……下手したら……アイツは死ぬ……」 玲香は震える手で携帯を掴むと……我が弟に ……涙を堪えて……頼み込んだ 弟は…気丈な姉の震える声など聞いた事はなかった…… 『姉さん、病状を知る為に、そちらの病院に行きます その病院には知人も数多くいます 話が出来ると想うのでこれから行きます』 玲香は弟に…すまないな……と、頼んだ 瑛太は康太に「晟雅は知ってるのか?」と、聞いた 康太は首をふった 瑛太は携帯を取ると、神野に電話を入れた 神野も……直ぐに行くと告げた 清隆は、康太を抱き上げると 榊原に「持って行って良いか?」聞いた 榊原は、笑って……それを許した 「康太の……子供の頃は……触る事も…話す事も出来なかったからな…… 側にいると、抱上げてやりたくなるんです」 榊原は、その言葉を聞いて、ギョッとした 子供の康太に瑛太しか居なかったと言うのか? ……親でさえ触れも 話せもしなかったのか……。 康太の孤独が……嫌と言う程伝わってきた 「父ちゃん、会社は良いのかよ? 社長も副社長も、来ちまって……」 「秘書が…居るからね 少し位……ね。 お前程……大切な事はないからな。」 康太は清隆に擦り寄った 最上階の病室まで行くと、康太は清隆の腕から降りた ドアをノックすると、慎一がドアを開け、皆を迎え入れてくれた 玲香や清隆、瑛太は病室に入って直ぐに……… 憔悴しきった隼人の姿を目にして胸を痛めた 玲香が隼人を抱き締めた 「こんなに苦しんで……この子は……」 清隆も……隼人を抱き締めた 「こんなに疲れた顔をして……バカな子だ……」 瑛太は隼人の頬に触れた 「お前は……康太のいない世界では生きられないのに……」 「瑛太……」 隼人は……瑛太の胸に飛び込み……泣いた 「晟雅を呼んだ。良いね?」 隼人は、うんうん……と頷いた 玲香が菜々子の前に行き、深々と頭を下げた 「我は飛鳥井玲香。康太の母になります 貴方を、我の弟の病院に移すつもりです 飛鳥井の家からも近い 隼人も淋しくはないだろうし……何かあれば力になれる筈、宜しいですか?」 玲香が問うと、菜々子は 「上総…菜々子と申します 総ては……お任せ致します」 と頭を下げた 隼人は康太の横に行き……離れたくないのか ……抱き着いていた 玲香は隼人の頭を撫で 「何も心配するでないぞ。」 優しく甘やかした 隼人を取り巻く、優しい世界が、そこに在った 瑛太は……康太と隼人を抱き締めた 暫くすると……神野と小鳥遊が……やって来た 隼人は行方不明だった 仕事は……キャンセルをせざるを得なかった 隼人の変わりにローランドを出して…… 売れたのだけが救いだった 神野と小鳥遊は康太が何も言わない以上は口を挟む気はなかった 『もうじき隼人は失踪する 愛する女性が出来たからな……。 でもな、彼女は……出産を終えると……命を落とす…… その後の隼人の悲しみは……想像を絶する……だから、お前達が隼人を支えてやってくれ……』 と、この近くのレストランに連れてきた時に、外に出た時に康太は、神野だけに教えてくれた だから騒がず………隼人を待っていた 飛鳥井の家族が来て、一時間程待った頃に ドアがノックされた 榊原がドアを開けに行くと、京香が入院していた 病院の院長…… 玲香の弟が、菜々子の担当医と共にやって来た 村瀬は、玲香の前に行くと頭を下げた 「姉さん、担当医と話しました 私の所で見れなくもないので転院させます 姉さんの頼みです 私は何としてでも聞いてあげます。」 「秀明……無理ばかり言って……すまぬ…」 「唯、医療チームを作るので高額な治療費はかかります。宜しいですか?」 玲香は康太を見た 払ってやるのは容易い……だが……それをしては隼人の立場がなくなる。 康太は 神野に向き直った 「治療費は、神野、どうすんだ? 飛鳥井では払わねぇぞ 隼人に仕事させて払わせろ!」 飛鳥井が治療費を見るのは筋違いだと……康太が言った 「隼人、お前は一番やっちゃぁダメな、ドタキャンをしてしまった 飛鳥井ならオレは解雇する 他に示しが着かねぇからな! でも仕事をさせてもらえるなら仕事しろ! お前にはそれしか残ってぇ 仕事して彼女に充分な治療をさせろ 良いな!」 康太が言うと、隼人は頷いた 「取り敢えず、神野、持って来たか?」 康太が聞くと、神野は胸ポケットから札束を取り出した 「此処に一千万ある 小百合が隼人に仕送りし続けた金だ オレが神野に預けておいた。 この金で、菜々子を転院させて、後は、隼人!お前が仕事して払って行け!解ったな?」 康太は村瀬の前に一千万円の札束の入った封筒を渡した 村瀬は苦笑した 「治療費は……治療してから戴きます。」 「なら、請求は、神野、名刺を渡せ。 その名刺の人間に請求しろ。」 村瀬は康太に 「解りました。保険は彼女の保険になりますか?」と問い質した 「内縁だからな。 保険証は別だな。」 「解りました。 では、転院の手続きを致します。 救急車を持って参りました。 ですので、このまま転院の検査を経て、向こうの病院に転送いたします。 付き添いの方々は、向かうの病院へ入らしてください。」 村瀬はそう言い、飛鳥井の家族に一礼して病室を出て行った 康太は神野!と名前を呼んだ 神野が康太に近付くと、康太と神野は外に出て話をしに行った 戻って来ると、康太は玲香や清隆、瑛太に深々と頭を下げた 「本当に、ありがとうございました。」と。 飛鳥井家の真贋としてでなく…… 飛鳥井康太として……康太は頭を下げた 瑛太は何も言わず……康太を抱き締めた 玲香も清隆も………康太を抱き締め…… 会社へと帰って行った 康太は転院の手続きをされて、菜々子が運び出されると……隼人に背を向けた 「神野、隼人を連れて病院へ行け。 オレは……これ以上玲香を苦しめたくない。 だから、あの病院に行く事はない…」 康太の………母に対しての愛だった 飛鳥井清隆を一筋に愛し……総てを棄てた 飛鳥井玲香への愛だった 総て棄てた家族に……京香の事と言い 菜々子の事と言い、頼むのは心苦しかった筈 子を想えば……玲香は、その頭を下げた そして今度も……。 康太が行けば………飛鳥井の名前が出る もう玲香を苦しめたくはなかった 神野は………康太の気持ちが痛い程解っていた 「後は、俺達が全部やる 本当に有り難う御座いました。」 神野は深々と……康太に頭を下げた 康太は……榊原と共に……病室を出た その後に……一生、聡一郎、慎一が続いて……病室を出た 隼人が……「こーた!」と泣いて康太のその背に飛び付いて来た 康太は振り向くと隼人を優しく抱き締めた 「永久の別れじゃねぇだろ? 彼女を転院させれば、一生や聡一郎や慎一は……お見舞いに行ってくれる お前は一人じゃねぇだろ?」 「康太は? オレ様に逢いには、来てくれぬのか?」 「オレは行けねぇ 母ちゃんの立場があるかんな オレがこまめに行けば……肩身も狭くなろう。」 「康太…」 「でも飛鳥井の家から近くだ 淋しくなったら帰って来い 解ったな?隼人? お前は夫になるんだろ? ならば仕事して彼女の治療費を払って、忙しくなるぞ。 一千万なんて、個室に入れて治療したら、直ぐに尽きる。 お前は彼女の為に……仕事をしねぇとな。」 「康太、オレ様は頑張る……」 「良い子だ。頑張って……彼女を支えろ。」 康太に優しく言い絆され隼人は、神野と行く支度を始めた 「神野…頼むな。」 康太が言うと……神野は「任せておいて下さい。」と康太に深々と頭を下げた 康太は、病室から……出て行った もう隼人を振り返る事なく……康太は歩いた 病院の外に出ると………息を吐き出した 榊原が康太の体を優しく抱き締め…背中を撫でた 榊原は、車のロックを外すと助手席のドアを開け康太を乗せた 後部座席に一生、聡一郎、慎一が乗り込み、榊原は運転席に乗り込んだ 車が走り出すと……康太は果てを見ていた 「一生……琴音は定着するのが早過ぎた…… 転生するのが……早過ぎた…… 隼人が遊びで……寝た時に……魂に惹かれ根付いてしまった……」 「康太……」 「下手したら出産まで……持たねぇ……。 持っても……出産と同時に命を落とす…… 苦労して……苦しんで守った………子供の顔さえ見れずに………彼女は……逝く……」 一生も聡一郎も慎一も………言葉を無くした 康太から前に聞いてはいたが………… 現実を目の当たりにすると………言葉が出て来なかった それでも………康太の為に……… 言葉を紡ぐ 明日を信じたいから………… 言葉を探した……… 一生が天を仰ぎ…… 「おめぇは神じゃねぇ。 運命は変わる。 俺は0.01%でも望みを捨てちゃぁいねぇ。 諦めんな康太!」 震える声で……康太を怒った 聡一郎も……目頭を押さえ 「母は強いんですよ!康太 決して母は諦めたりしない 我が子すら見ずに死ねる筈などないでしょ?……」 と康太を励ました 慎一は静かに……泣いていた 「康太……このまま隼人が彼女を亡くしたら……隼人の幸せが少なすぎるでしょ? 傀儡だった隼人の中身は空だった…… 幸せより悲しみや哀しみ……憎しみ……怨み……ばかりだったのに…… 人並みの幸せすらくれなかったら………… 俺は…………神を殴りに行ってやる!」 誰よりも不幸だった……慎一の心は叫んでいた 榊原は康太を抱き寄せた 「弥勒が、言ってたでしょ? 君が諦めたらダメだって……」 「伊織……そうだな……。」 康太はその瞳を閉じた…… 隼人………オレがいて 伊織がいる。 聡一郎もいて一生もいる 慎一も力哉も……お前を心配してる 負けるな…… 挫けるな……… 隼人……

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