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第15話 黄泉へ①

「伊織、戻って来たら、一番にお前に教えるから。待っててくれな。」 榊原は嬉しそうな顔をした 飛鳥井家へ行くと、駐車場には一生と聡一郎と慎一が待っていた 彼等を乗せてファミレスへ行き少し遅めの昼食を取った 康太は隣に座る一生の背中に体重をかけ凭れた 「一生、オレは今夜、黄泉へ渡る これ以上の横槍を阻止する為だ オレが戻らなくても……お前等は後を追うな」 一生がなっ!! と文句を言おうとして振り向こうとするのを、康太は阻止して話をした 「オレの後を追うのは許さない もしオレが死んだとしたら……遺書に描いておいた お前と慎一は夢を叶えろ そして、オレが死んだら、お前の子供を育てろ。解ったな。」 一生は………俯いて…………涙を流した 「ひでぇな康太………てめぇは、俺の魂の片割れをもぎ取って行き、それでも生きろと言うのかよ!」 「あぁ。それでも、お前は生きろ。」 康太は一生にそう言い、聡一郎と慎一を見た 「聡一郎、お前もだ オレの後を追うのは許さない 悠太を支えて生きて行け。」 「嫌だ!君がいない世界で僕は…生きたくない…… なら、何故父から僕を解放したのですか……あの時………息の根を止めてた方が………楽です。」 「生きろ……聡一郎。」 聡一郎は………何も言えずに泣いた 康太は慎一の頬に手を当てた 「翔を頼むな………慎一。」 「嫌だ!俺を拾ったのなら最後まで面倒見ろよ!」 珍しく慎一が駄々っ子みたいに……文句を言った 「慎一……お前は本当に良く尽くしてくれた オレを主と決めて、お前はオレの為に生きてくれた。 お前の主はな、例え死にに行く道しかなくとも………その道を行く。 逃げ道は用意しねぇ それが飛鳥井康太だ 覚悟を決めてくれ。」 「ならば!主の後くらい追わせろ!」 「和希と和馬はどうする? お前は人の親ではないのか? オレの後を追えば……あの子は、親を永久になくす。オレにそんな罪を作らせないでくれ。」 慎一は静かに涙を流した 「お前は………酷い奴だ……。 俺にくれた幸せは……総てお前が与えてくれたものなのに………。」 「オレは飛鳥井の家の為にしか生きる術を知らねぇ それがオレの定め オレに魂を連ねるのは許さねぇ お前等は生きるが定め。」 康太が言うと……一生が 「伊織はどうするんだよ!」と問い質した 「オレが伊織を離す筈がねぇだろ! あの世のお供は榊原伊織、唯一人。」 一生は「それは許せねぇよ康太……。 我ら四悪童は命を共にする筈じゃなかったのかよ! 共に出来ねぇと言うのなら! 帰って来いよ!必ず!絶対に!帰って来い!」と康太に訴えた 聡一郎も「そうです。僕等は共に在る筈。 違えてはいけませんよ!康太 それが出来ないと言うのなら、生きて僕達の元へ帰って来い!絶対に!約束しろ!」と強く迫った 康太は、皆の顔を見てニカッと笑った 「帰るよ!でもな、保証は出来ねぇと言うだけだ 約束して帰らねば恨むだろ? だから、最初から約束はしねぇ! 後も追うなと言うだけだ 誰も死にに行きたくて行く奴はいねぇだろ?」 そんな事………皆解っている 康太が家族を仲間を……そして伴侶と伴侶の家族を愛して止まない事なんて…… 解ってる! 死にたくないのは……康太だと言う事も…… そしてそれでも見送らねばならぬ……… 榊原の気持ちも……… 「オレは、これから瑛兄に挨拶をしてくる 一足早く帰る 伊織、これで支払いを頼む。」 康太は財布から1万円抜き取ると、榊原に好きに使え、と財布を渡した ウェイターにタクシーを呼ぶように頼むと、康太はジュースを飲み干した タクシーの運転手が 「タクシーをお呼びのお客さま。」 と声をかけると、康太は立ち上がり、歩き出した ファミレスの外に出るとタクシーに乗り込んだ 榊原はその姿を………見送っていた 康太はタクシーに乗ると「飛鳥井建設まで。」と告げた 飛鳥井建設に行くと受付嬢に挨拶をして最上階へ行くエレベーターに乗った 副社長室のドアをノックすると、瑛太の声が「どうぞ。」と聞こえた 康太はドアを開け、部屋の中へ入っていった 瑛太は………康太の姿に驚いていた 「瑛兄、弟が逢いに来たのに無視かよ。」 と、康太がボヤくと瑛太は我に返った 「康太……どうした?何か有ったのか?」 瑛太の腕が康太に触れようとした時……康太は避けた 「瑛兄、オレは今夜……黄泉に行く 帰って来られるか解らねぇからな、挨拶に来た。 オレは遺書を書いた オレが死んでも後を追うな……と、な オレが黄泉から、戻らぬとしても、瑛兄は後を追うな オレはそんな事は望んじゃいねぇ。」 瑛太は康太の腕を掴んで………引き寄せた 「お前を亡くして……生きろと言うのか?」 「そうだ。決して追うのは許さない!」 瑛太は康太を抱き寄せた 「それは ………嫌だ! お前のいない世界に……生きるのは地獄だ!」 「瑛兄……」 「お前と共に……逝かせてくれ……頼むから……」 康太は……首をふった 「何故!私はお前と共に在りたい! 何故それさえ奪う?何故!」 「瑛兄……オレの為なんかに死ぬな……」 「お前のいない世界では生きられない…… 私は……狂って……自分を殺す……それでも?」 「瑛兄……翔を頼む…」 「嫌だ!」 康太は瑛太を掻き抱いた 「瑛兄は……何時もオレの為だけに生きてる……自分の為に生きても良いのに……」 「それは無理だ……お前と逝かせてくれ。」 「瑛兄……バカだな……」 「それが無理なら…… 生きて帰って来なさい! それしか許さない!兄を苛めて……」 瑛太は泣いていた…… 「最近の……康太は意地悪だ………。 兄は要らないと言うのか? 伴侶を得たら兄など要らないと言うのか?」 「違う……瑛兄……。 オレは母ちゃんや父ちゃんから息子を二人も亡くさせたくなかっただけだ………。 オレの後を追うのを許したら……一体……幾つの葬儀をしなきゃなんねぇんだ? オレは………伊織も……連れて行きたくはねぇんだよ! 誰もオレの為に………死んで欲しくなんかねぇんだ!」 「康太……それは……無理だ…… お前を亡くして生きる日々は……魂を半分削ぎ落とすより辛い…… 生きている日々すら辛い……何を生きる糧に生きて行けば良いんだ? …………私は……耐えられない……このビルから飛び降りてお前の所へ行く。」 「瑛兄……殴りてぇ程の頑固だな……」 「お前の兄だからな。諦めなさい。 それさえ許さぬと言うのなら……お前の息の根を止める……。 それとも……最期にお前を抱いて地獄に堕ちようか?」 「好きにしろよ。 オレは抵抗はしねぇから…」 「康太……兄は……お前をなくしたくない」 康太は瑛太の後ろに流した髪に指を入れた 「瑛兄は、最近甘えん坊だな。 京香に甘やかされて……甘えん坊になったか?」 康太が言うと……瑛太は嫌な顔をした 「京香が甘やかせてくれる筈などないでしょ?鬼ですよ彼女は。」 「オレ等より新婚だろ?」 「新婚………なんですか? でも甘い生活なんてないですね……。」 「…………何でそうなる?」 「私が康太を愛しすぎてるので……疎かにしてしまうから…… 嫌、京香も康太命ですからね…… 君しか愛せない人間だから……です ……君の次…にしか愛せません……だからでしょ?」 「なら瑛兄は……オレに甘えてるのかよ?」 「駄目ですか? 入院してる時に康太に甘やかされてから癖になりました。」 「瑛兄……」 「私の所へ帰ってらっしゃい 伊織を哀しませないで……伊織を愛してるなら……帰ってらっしゃい。」 「………保証はしねぇけどな。」 「保証しなさい……」 瑛太は康太に接吻した 「瑛兄は、新婚なんだからベタベタしろよ!」 「無理ですよ……」 瑛太は康太の口腔に舌を挿し込み……貪った 「瑛兄っ…!」 「意地悪を言うから……キスしたくなるでしょ……」 「どんな理屈だよ!」 康太は笑った 「オレとキスするより京香としろよ。」 「昔も…今も……京香はキスなんてしてくれる筈なんかないですよ。 私も京香も……一番に愛してるのはお前だけだからな……。でも子供は作る…。 お前の次に……翔を愛します その次に京香を愛します」 「京香と仲良くしろよ……」 「してますよ 彼女とは親友みたいな関係で……年を重ねて行くんでしょうね……」 「枯れすぎてる……」 「たまには……ね 康太を思い浮かべ繋がりますよ?」 「瑛兄…」 「私はお前しか愛せない……昔も今もだ。 お前の兄でいたいのです お前の兄として生きていたい その為なら何でもする。 京香とエッチしろと言うなら頑張るし、お前が伊織と結婚式を挙げたいのなら 挙げさせてやる だから……兄を苦しめるな…康太」 「瑛兄……無茶苦茶……」 「それ位……君の為なら何でもすると言ってるんですよ…… だから帰って来て……ねっ? 兄はお前を待ち続けます。」 康太は笑って、瑛太から離れた 康太は瑛太に頭を下げた 「許してくれ瑛兄 オレはこんな生き方しか出来ねぇ。」 瑛太は弟に向き直り、それを受け止めた 「お前は信じる道を行けば良い。」 「またな瑛兄。」 瑛太は康太に深々と頭を下げた 「無事帰還される事だけをお祈りしております。」 それでも弟を送り出さねばならぬ…… 瑛太も飛鳥井の家の為にしか生きて行けない男だった 康太は、瑛太に背を向けると、片手を上げて…副社長室を出て行った 下に降りて行くエレベーターの一階を押すとエレベーターは下がって降りて行く 一階で降りると、受付嬢に挨拶して康太は会社の外に出た タクシーを拾おうと歩いているとクラクションが鳴らされた 振り向くと榊原が康太を待っていた 康太は榊原の車の方へと歩いて行き、助手席に乗った 「帰ったんじゃねぇのかよ?」 「帰れませんよ?」 「瑛兄が何かするんじゃねぇかって?」 「違います 瑛太さんは、兄でいたいと僕に言いましたよ もう心配してません。」 「なら、何故?」 「君を待つのに理由なんて要らないでしょ? 君は僕の妻なんですから……ね。 泣かれたでしょ……義兄さんに……。」 「泣かれて、殴りたい程………頑固だった。 瑛兄の腕が……震えてて……罪だなって思った……。 部屋を出る時なんて……深々と頭を下げられた……。 オレはあの人の弟でいたい。 あの人を………泣かせたくない……」 「康太……。 君はあの人の弟ですよ。 だから、誠意を尽くして送り出したんでしょ?」 「伊織……」 「何ですか?」 「オレは……死にたくなんかねぇ。」 「当たり前じゃないですか! 誰が好きで死にに行きますか!」 「お前が好きだ……ずっと好きだった…… 恋人同士になって……無くしたくねぇって願った……。 夢じゃねぇのかな………って信じられない位………オレは幸せだった 愛する人は、この世で一人、榊原伊織、お前だけだ。 今までも……今世も……来世も…愛するのはお前だけだ。」 「当たり前でしょ? こんなにも愛してるんですからね…… 未来永劫に決まってるでしょ!」 康太は笑った 「伊織、何処で習った? オレの魂に……お前の魂を結び付ける方法を………」 「菩提寺の書物庫にありました その本が呼びました……僕を………そして、教えてくれました。」 「…………ったく、お節介な……」 「康太?誰なんですか?」 「誰だと思う?」 「……懐かしかった想いは同調しました 君を愛しいと想う魂も同調しました それで引き寄せられ……見たのです あれは僕ですか?」 康太は何も言わず……榊原を見た 「君が逝く時は……僕も共に行きます 君が嫌がっても……僕は着いて行きます 離れないない様に魂を結びつけたので…黄泉を渡って下さいね。未来永劫君と永遠に…」 康太は瞳を閉じた やはり………殴りたい程の…… 伊織………お前は………昔も今も…… 変わらず………頑固者だ! 康太は決意を決め……呟いた 「弥勒……今夜行く…」 『承知した。龍騎も共に行く なら今夜な。』 弥勒の声は……消えた

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