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第17話 待ち続け

康太が黄泉を渡って………3日 榊原は、康太に語りかけ……キスをしてから起きるのが日課になっていた そして、掃除の鬼と化して………家中、ワックスをかけ、家中磨きまくっていた 玄関なんて塵1つなく、光輝いていた 康太は黄泉の国から帰ったら、一番に教えると約束してくれた………だから榊原は自分に出来る事をやる事にした 飛鳥井建設にも出向いた。 康太にスーツを着せ、ソファーに眠らせた その間に、各部署一斉に掃除をさせた 監視に回り、手を抜いた部署は榊原の嫌みの応酬に合う 手加減と言う言葉を知らぬ鬼は……… 「ほほう。これが君達の掃除ですか! あの世に行きたいですか? 掃除したいですか?決めなさい!」 と迫られ…… 「掃除がしたいです。」 ………と、言わされた 「なら、次に僕が見に来る時までに綺麗になさい ペナルティとして、一人千円ずつ徴収して僕に持ってきなさい!」 榊原は一歩も引かぬ形相で……各部署に睨みを効かせた 飛鳥井瑛太を若くさせ………鬼にした、榊原伊織。 現在の役職名は、副社長補佐。 近いうちには副社長になる人間だった。 そんな人間に逆らえず筈もなく……全員…… 掃除に励んだ ペナルティーのお金を持って、康太の部屋のドアを栗田が叩くと、力哉がドアを開けた 栗田が部屋の中を見渡すと………康太はソファーの上で眠っていた 「康太?眠っているんですか?」 思わず栗田は問い掛けた 椅子に腰掛け仕事をしていた榊原が振り返り 「康太は黄泉に行っているので、体の中に魂は有りません 何時戻って来ても解るように、連れて来てるんですよ。」 榊原はそう言い……康太の横に行き頬を撫でた 「もう、3日になります。」 栗田はギョッとした もう3日も………眠っているのか……と。 「仕事納めですからね ペナルティーのお金で仕出しの弁当を頼んであります。 足りない分は、飛鳥井康太のポケットマネーで出してあげます。 3日前に彼は僕に財布を渡しましたからね 持ちなれない財布を渡したんですから、使えと言う事でしょう。」 榊原は笑った 栗田は「康太は……飛鳥井の為に?」と聞くと 「康太は飛鳥井の為にしか動きませんよ! 下手したら黄泉から戻れなくなる危険をおかして……行くのは総て飛鳥井の為!家の為! 康太が逝く時は僕も逝きます ですから、最期の仕事納めになっても悔いは残らない位に、会社を綺麗にするつもりです」 榊原の想いだった その時……ドアがノックされ、力哉が開けに行くと京香だった 京香は康太のソファーの前に膝を着くと、康太の顔を見詰め……祈っていた 美しい女性が栗田の前で………一心不乱に祈っていた 榊原が「京香、スカートが汚れます…」と京香を立ち上がらせ様としたが、京香は首をふった 「私は康太が目を醒ますまで祈る…… 愛する康太が………目を醒ます様に祈る 愛してる康太……お願いだ目を醒ましてくれ……」 栗田はギョッとした 飛鳥井京香……副社長婦人が、目の前で康太を愛していると………言い泣いたからだ… 「京香、仕事の邪魔です!戻りなさい!」 瑛太と酷似した顔が京香に言う 京香は恨みがましい瞳で榊原を見て……部屋を出て行った 榊原は、その姿を見て溜め息を着いた 「愛するのは康太一人………困った人達だ」 力哉が「仕方ないですよ……あの夫婦は康太命ですから。」と榊原を慰めた 栗田は「話が見えん。」とブチブチボヤき……榊原に頭を下げ、出て行った 12月29日、この日は飛鳥井建設も仕事納めだった 朝から榊原の総指揮で、大掃除を行った 大掃除の場所に、社長室や副社長室も範囲に入っていて、朝から社長や副社長が……… 副社長補佐に怒られていた あまりの手際の悪さに副社長室に清隆を押し遣り、榊原自ら掃除をした そして、次は副社長室……瑛太は…… 康太の兄だけあって……雑い男だった 榊原の目が吊り上がると……瑛太は清隆と玲香の部屋に逃げた 玲香の広報室も掃除の真っ只中で、追い出され、二人は康太の部屋に向かった 榊原は、社長室も副社長室もピカピカに磨きあげ、康太の部屋に戻ると、二人にペナルティーとしてお金を要求した 「幾らでも良いですよ。早く出しなさい!」 と、言い、清隆と瑛太からお金を踏んだくり、力哉に渡した そして康太の分厚い財布も力哉に渡した 瑛太はその財布に見覚えがあった なんたって瑛太が康太の為に買った品物だったから…… 榊原は、瑛太の視線に気付き笑った 「3日前、僕に財布を預けて、義兄さんの所へ行ったんですよ。 使って良いと言ったんで全部使ってやります 眠っている康太が悪いんですからね。 この各部署のペナルティーで、慰労の意味を籠めて仕出し弁当を配ります 今年最後のお疲様ですからね きっと康太も望んでいます 元々康太は現金はポケットの中に入れてるのに、わざわざ財布を持って来て、好きに使えと僕に渡したのですから、文句は言いません」 眠っている間に………お金を全部使われてしまうとは……… 瑛太は榊原に財布を渡した 「私のも全部使って良いです。」 瑛太が言うと清隆も榊原に財布を渡した 「なら私のも。使って構いません。」 と、言われ…榊原は、困って 「そんなには要りません。」と断った 「さてと、残るは義母さんの所だけですね 綺麗にしてるんでしょうね? 力哉、義母さんの所のペナルティーを貰ったら、社内放送をかけなさい。 各部署の責任者、数名ずつ取りに行かせなさい。」 榊原は、慌ただしく部屋を出て行った 瑛太は「伊織は誰よりも飛鳥井の役員室が似合う男ですね こうして伊織の行く場所には、康太を連れて歩いている… こんなに愛されて……康太は幸せだ。」と呟いた 身綺麗にスーツを着せられて眠っている康太は、今にも目を醒ましそうだった 清隆も「飛鳥井の社員の為に、前から段取りしてあったのでしょうね……。 掃除の後は、仕出し弁当が配られて、今年最後の慰労を受ける。 伊織は……康太の持てる総てを愛してくれるのですね。」と、榊原に感謝していた 清隆は………瑛太に、玲香の部屋を見に行きましょうか?と誘った 恐る恐る玲香の部屋を覗くと……鬼がいた 書類を抱えさせられた玲香がいた 榊原は、せっせと掃除に勤しみ、机を拭いた 「義母さん、置いて良いですよ?」 玲香はすまなさそうな顔をして、机に書類を置くと、財布からお金を取り出した 「ペナルティーだろ? 京香が部署の全員取られた…と泣きついて来た。」 榊原は、力哉にペナルティーのお金を渡した 「さてと、義兄さんのソファーにはネズミがいますから、義父さんの部屋で弁当を食べますか?」 と、榊原は社長室で食べる事を決めると、康太を連れに行き、康太を抱き上げた そして社長室のドアを開けてもらい、康太をソファーに座らせた 何処へ行くのも、榊原は康太と一緒だった 目を醒ました時に………直ぐに康太を腕に抱き愛してる…と言いたいから…… 榊原は康太をソファーに座らせると、 「力哉、全館放送しなさい。 佐伯、地下駐車場に状況を見に行きなさい。」 的確に指示を飛ばす 榊原は、康太の手を取り温もりを確かめると、その唇を接吻をした 「義父さん、義母さん、義兄さん これから来る弁当は我が父清四郎が何時も頼んでいる仕出し弁当で、味が凄く良いんですよ。 無理言って飛鳥井建設の全員分の弁当の注文をさせて戴きました。」 榊原は立ち上がると、全館放送がかかるのを待って地下へと降りて行った 榊原がいなくなると、玲香は康太をまじまじ見て溜め息をついた 「康太は……また目醒めぬか……我は…伊織が可哀想でならぬ」 瑛太は「しかし……母さん、誰よりも飛鳥井に相応しいのは伊織ですね。 社員に絶対の信頼を受けている。 厳しいだけじゃないからでしょうね。」と呟いた 清隆も「誰よりも……辛いでしょうに… 飛鳥井の家の掃除を総て済ませて、会社を磨き、新年に向かう伊織の気持ちが………私は痛い。」と瞳を瞑った 玲香は「伊織は……飛鳥井には欠かせない。 社員はもう、瑛太と伊織の違いを受け止めている。」と会社を誰よりも見ている玲香は言った 会社の人間総てに、飛鳥井家 真贋 飛鳥井康太を、知らしめたのと同時に、榊原伊織も会社に知らしめた 康太は玲香に『伊織は頭に立つ天武の才がある。 幾ら厳しくとも伊織には着いて行くぞ。 着いて行くに値すると人間だからな 』と言った事がある まさしく……伊織の手腕に文句を唱える社員はいなかった 瑛太と清隆は立ち上がり 「伊織を見て来ます。」と言い部屋を出ていった 地下に降りて行くと、榊原に労いの言葉かけてもらい嬉しそうに頭を下げる社員がいた 清隆が「伊織。」と声をかけると榊原が 「義父さん。」と振り返った トラックが停まっていた その前で、部署の人数分、弁当を受け渡されていた 1つの部署から3、4人、繰り出していた 2人が弁当を持ち、お茶を2人で手分けして持って行く 榊原は社員に気さくに声をかけ、その姿からは、大掃除の時に、手を抜くんじゃありません!と怒った鬼ではなかった 毅然とした態度で、労いの言葉をかける姿は、誰よりも経営者らしかった 社員全員の分を配りおわると、榊原は一生達の分の弁当を自分の車の後部座席に入れた それから榊原は瑛太と清隆にお茶を持たせ、力哉と自分で弁当を持って、最上階へ行くエレベーターに乗った 社長室に行くと、力哉が弁当を配った 清隆、玲香、瑛太、榊原、力哉、そして康太の前に弁当を置いた 榊原は、優しい瞳で康太を見て 「一番食いしん坊なのに……」 と呟き、弁当を開いた 榊原が父親の知り合いの仕出し弁当は、料亭で出される懐石ばりの内容で……1つ幾らなの?と、聞きたくなる程だった 玲香が「美味しい!」と言うと 榊原は「でしょ?康太のお気に入りなんですよ。」と答えた 清隆も「本当に美味しい 社員も喜んでいます。 伊織、本当にありがとう。 飛鳥井でこの様な行事はなかった…… 社員も喜んでいます。本当にありがとう。」と礼を言った 瑛太は「来年からは会社にいらっしゃい。 父さんは会長になり、私は社長になります そしたら伊織は副社長になれば良い。 副社長室の壁を取っ払い、康太の部屋と繋げれば良いです。 伊織は社員の信頼もある。 文句なしです。」と榊原の手腕を評価していた 榊原は何も言わなかった 康太が目醒めなかったら………共に逝くつもりだから…… 何も言えなかった 先の話は総て…………康太と共に……… 榊原は食事を済ませると、康太を持ち上げ膝の上に乗せ、頬を撫でていた 玲香は堪えきれず……榊原から顔を背けた 見ていたら………辛くて堪らないから…… 榊原は「飛鳥井の菩提寺の書庫に書物が有ったんですよ。 書物が僕を呼ぶから見たら、魂を結び付ける方法が有りました。 僕は…康太の魂に自分の魂を結びつけました 未来永劫……僕は…康太の伴侶になります。」と家族に言った 瑛太も堪えきれず……背を向け天を仰いだ 総代になって菩提寺に訪れた時、住職は榊原の事を『久遠の伴侶 』と言っていた そう言う意味があったのかと……瑛太は目を閉じた 食事を終えると、社長室のドアがノックされ、清隆自らドアを開けると、そこには各部署の責任者が立っていた 清隆が部屋の中へ彼らを招き入れると、榊原は康太をソファーに座らせた 社員は榊原に「ありがとうございました」と頭を下げた 「女性社員はヘルシーで美味しくて喜んでました 男性社員もあまりの美味しさに舌鼓を打っていました。 本当に美味しい弁当をありがとうございました。」 と、各部署の代表が頭を下げた 榊原は優しく微笑み 「怒った後はご褒美でしょ? 仕事納めで綺麗に会社を磨き、新年は気分も一新で仕事が出来るでしょ? 会社が綺麗だと他の会社から来た人にも、社員の教育の徹底をアピール出来ます。 また会社に出勤して来た時に、綺麗だと健やかに1日が始められますからね。 年末位は、やらさせて貰いました。」 と各部署の代表に想いを語った 各部署の代表は榊原の腕時計に目を遣った 清隆と瑛太の腕に光る伴侶の腕時計をしていたから。 社長室には親子………と言っても疑いの余地のない酷似した人間が3人いた そして……ソファーには飛鳥井家 真贋……飛鳥井康太が眠っていた 栗田が言うには飛鳥井の為に黄泉へ向かい闘っていると言っていた 各部署の代表の一人が 「1日でも早く帰還される事を社員一同、心より願っております。」と言い榊原に頭を下げた 榊原は…………優しい瞳で康太を見詰め… 言葉を述べてくれた人達に「ありがとう。」と礼を述べた 眠りに着いている飛鳥井康太は………子供の様な顔をして目を閉じていた…… その姿を榊原は刹那くなる様な瞳で見詰め…守っていた そして榊原は、しゃんと背筋を正すと、各部署の代表者に、深々と頭を下げた 「良いお年を。 僕は飛鳥井の繁栄を信じて疑いません。 来年は更なる繁栄を社員一丸となり築きて行きましょう。」 と、声をかけた 各部署の代表者は、榊原に深々と頭を下げて……部屋を出て行った 仕事を終えて榊原は康太を抱き上げ、帰って行った 飛鳥井の家へ着くと、一生達がコオと遊んで榊原を待っていた 一生は榊原の側へ寄って来ると、康太を受け取った 榊原は、後部座席に置いておいた、一生達の分の弁当を取って、慎一にそれを渡した 「一生、全員の部屋の掃除はちゃんと終わってますか?」 「あぁ。手分けして掃除した。 お前がチェックするからな……朝からワックスかけまくったぜ。」 「なら良いです。 弁当を持って来ましたから、食べると良いです。 僕は会社で食べて来ました。 康太の分は冷蔵庫に入れておいて下さい。目が醒めたらお腹を空かせますから。 お願いします。 じゃ着替えて来ます。」 榊原はそう言うと車をロックし康太を一生からもらい受け、飛鳥井の家へ入っていった 自室に向かい、寝室の鍵を開け、康太をベッドに寝かせた 榊原は康太のスーツを脱がせ、全裸にすると、掛け布団をかけた そして自分の着替えをして、康太の横に寝そべった 榊原の指が康太を撫でる そして………何も言ってくれない唇に接吻した 「康太……愛してます……」 榊原は康太を抱き締め………待っていた…… 康太……… 僕の康太……… 早く目を醒まして……… 伊織 って呼んで…… 愛してるって言って……… 康太……

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