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第20話 歪みの果て

朝少し遅めの8時頃、康太と榊原は起きて下へ降りて行った 一生達は康太が起きて来るのを待っていた 一生が嬉しそうに康太に抱き着いた 聡一郎も康太に抱き着いた 慎一は、康太に「何か食べる?」と聞いた 「朝食ったら、初詣に行くかんな」 康太が言うと、慎一は康太の前に榊原の手作りの御節を並べた 「伊織の手作りです。」 と言い、小皿を康太の前に置いて、ジュースを少し離して置いた 康太の皿に、御節を小分けして入れてやる 康太は慎一の顔を見ていた じっと……懐かしむ様に慎一を見ていた 慎一は、康太の視線に気付き 「何?何か着いてますか?俺の顔に?」 康太は「嫌…」と笑って何も言わなかった あっという間に御節を食い尽くし、立ち上がると、初詣に行くことにした 家の近所の神社は初詣に出向くと…結構人がいた 参拝の列に並ぶと、後ろから榊原は 「伊織!」と呼ばれた 誰?と榊原は振り向くと………! そこには昔…付き合っていた男、観月義彦が、榊原を見ていた 高校に入った年に…アメリカへ親と共に渡った 観月は馴れ馴れしく榊原に話し掛けていた まるで所有権を主張するかのように… 「伊織…寮出たんだ? 学園に戻ったから逢いに行ったら、寮から出て行ったって言われた。」 榊原は、険しい顔をして昔付き合っていた男を見ていた 「伊織、行くぞ。」 一生が榊原の腕を掴み言うと、榊原はその男に背を向け、歩き出した 「伊織の今の男は、そいつか? 可哀想だね…直ぐに捨てられるのに……。 僕を抱いた様に、そいつも抱いてるの? 趣味が変わったんだね。 まぁ良い。学校が始まったら、逢えるしね」 その観月は微笑んで…榊原から、離れて行った 榊原は、昔付き合っていた男が…初詣の日に現れなくても…… 少しパニクっていた そして……康太を伺い見た 康太は平気そうな顔をしていた 康太は何も言わず、参拝の順番が来て、パンパンと柏手を打って、一礼して参拝をした その後、御神籤を引き、中吉で喜んだ 初詣が終わると、康太は家に帰ると言い出し、皆、帰ることにした 飛鳥井の家に帰ると、瑛太が出迎えてくれた 康太は瑛太に腕を離した伸ばした すると瑛太は康太を抱き上げた 「どうした?康太?」 「還って直ぐは眠くてな、ただいま。言ってねぇかんな。瑛兄ただいま。」 「康太、お帰り。」 瑛太は本当に嬉しそうに康太に頬を擦り寄せた 「瑛兄、明日は菩提寺まで年頭の挨拶に行かねばな。」 「そうですね。明日行きましょうか?」 「なら、母ちゃんや父ちゃんに言わねぇとな。」 「昼時にでも言いますか?」 「そうだな。」 康太は瑛太の腕から降りると、応接間に入って行った 何時もの席に座ると、一生が康太の横に座った 康太は何か思案したかの様に瞳を閉じていた 榊原は、康太の隣に座ると…康太を引き寄せた 「伊織…少し待て…」 康太が瞳を開き…果てを見る… その視線は………遥か彼方を透すかの様に……果てを見ていた そして、康太は立ち上がると「弥勒の所へ行く。」と告げた 榊原が「乗せて行きます。」と言うのを首をふった 「康太…怒ってるの?」 榊原が問う 康太は首をふった 「伊織はモテたからな、あんなん心配もしてねぇよ。」 康太は笑った 「なら、家の事?」 「オレは家の為…仲間の為…家族の為…伊織の為にしか動かない それ以外にオレは動く気もねぇかんな。」 そこまで言われると……榊原は引くしかなかった 「気を付けてね。君は…雑いから…」 康太は榊原に笑った 康太は一生の背中に……こなきじじぃの様に縋り着くと 「なら、一生乗せてけ オレのminiで弥勒んちまで行け!」 指名され、一生は立ち上がった 「旦那…心配すんな 俺が送り迎えやるから。」 榊原は、黙ったまま…応接間を出て行った 康太のminiに乗り込むと一生は、どうしたよ?と、康太に聞いた 「妬きもちか? 妬かんでも旦那はお前しか愛せんて。」 「違う。そんなんじゃねぇ でもなあの男は伊織に着き纏うぞ 飛鳥井の家にも何度も来る さっきの顔、見たろ? 伊織に対して所有権を主張してたろ?」 「してたな…うぜぇ奴。」 「まぁ…それは良い…。」 「じゃぁ、何が不安なんだ?」 一生に問われても、康太は何も言わず…前を見続けた 一生が弥勒の家に着くと、弥勒は康太の覇道を察知して、家の外に出ていた 康太が車を下りると、弥勒は道場の方へ康太を招いた 「弥勒…狂った果ては修正されねぇのか?」 「直ってねぇのか?」 康太は頷いた 「現世の修正はされねぇのか? こんなん初めてだからな、俺には解らねぇな。親父の所へ行くか?」 「厳正か…聞いてみるか? 狭いが我慢しろよ!」 「あの……チョロキューみたいな車に乗れと?お前は言うのか?」 「仕方ねぇやん、あの車はオレのだかんな。」 「仕方ねぇ…乗ってやる 場所は解るか?」 「知ってるが面倒だ お前が道案内しろ!」 康太は後部座席に乗り込むと、助手席には弥勒が乗り込んだ 弥勒が一生に道案内すると、一生はその通りに車を走らせた 山寺みたいな寂れた寺に弥勒は車を停めろと言うと、一生は車を停めた 康太は車を下りた そして、弥勒を引き連れ、寺の中へ入って行った 玄関には、破戒僧の様な格好をした老人が立っていた 「厳正、久し振りだな。」 康太が言うと厳正は康太に深々と頭を下げた 「果てが変わらぬと…来られたのですか?」 厳正は…康太が言う前に、切り出した 「お前なら解らぬか?」 「変わらぬのではない… 変えられないのでしょ?貴方は… どの命かを選別するのを、拒絶しておられたら……果てなど変わりますまい…」 「相変わらずキツいな!」 「貴方は……本当に……破壊神の様に荒いのに……菩薩の様に慈悲深い…。」 「破壊神の様に…は、一言多い。」 弥勒は厳正の言葉に、プッと笑った 「果ての歪みは直りました 貴方が修正しなければ、そのまま双児が産まれます。」 「厳正、修正しなければ…何時か歪むか?」 「その瞳には見えておいででしょう?」 「見えてても…人に聞きたい時もある。 オレは…人だからな…迷いも……間違いもある……。」 「貴方の想いのままに。」 「それで良いのか?」 「はい。貴方の想いのままに進まれよ。」 「お前に背中も押してもらったし、オレは進むとするか。」 厳正は…何も言わず頷いた 「弥勒、父の所に来て、オレと一緒に帰るなよ。男なら酒を酌み交わさねばな。」 康太は笑った そして片手を上げると、一生の待つ車へと向かった 康太は車に乗ると、一生は車を走らせた 康太は……車に乗ると…何かを思案していた 一生は、声も掛けれずに…飛鳥井の家へ帰っていった 駐車場に車を停めると、康太は車から降りた そして、何も言わず応接間へと向かい… サンルームの上に寝そべって…空を見ていた 覇道を辿り…果てを手繰り寄せる 康太は星を詠み……目を瞑った 榊原が応接間に来ると、康太はサンルームの床の上で寝そべっていた 「康太?何が有ったの? 怒ってるの?… 僕に話して…」 榊原が近寄ると、康太はその腕を伸ばし、榊原を求めた 榊原は康太を抱き上げると、ソファーに座り抱き締めた 「何も怒ってねぇよ。 伊織がモテたのは今に始まったことじゃねぇ…。」 「康太……寝てないとは言いません。」 「今はオレしか愛せないなら、オレは文句を言う気もねぇよ。 オレが頭を抱えてるのは、それじゃねぇ。」 榊原は………康太に隠し事をする気はないと…総てを話した 総て話して…榊原は更に強く康太を抱き締めた 「僕には康太しかいません。 康太……何悩んでるの? 康太…話せないなら…黙ってて…でも話せるなら…話して…。1人で悩まないで…。」 康太は榊原の胸に顔を埋めた 「伊織…果ての歪みが直れば…軌道修正されてるのかと……勝手に思ってたんだよ。 でも歪んだ世界は……オレが軌道修正しなければ…直らねぇみてぇだ。 オレは……果てと違うからと言って……… 双子を消すことは出来ねぇ…それはしたくなかった。 だから厳正の所まで行き…背中を押して貰ってきた。 双子は…お前の母の………事だから…お前の前ではしたくはなかった…許せ…」 榊原は、言葉がなかった… 「君の果てが狂っても…双子を産ませますか?君の…」 康太は榊原の言葉を遮った 「伊織!真矢さんの想いは総てお前の為だ オレがお前の子供を欲しがると想って…産んでくれる…宝だ! オレはその宝を、お前と育てる。」 康太の想いも…榊原の為にある 榊原を愛する為だけに……あった 榊原は康太の思いごと抱き締めた 「康太……」 康太の想いが痛いほど伝わって…榊原は康太を抱き締めずにはいられなかった 「伊織……オレは神じゃねぇからな…人の命をどうこうは……したくねぇんだよ 在るが儘を受け入れる……そうしてぇんだよ それは……オレの我が儘か?」 「違う!我が儘なんかじゃない! そもそも、君は僕に我が儘なんて言わないじゃないですか…。 君が言う我が儘は、何か食わせろ、ベッドに連れてけ、もっと奥まで掻き回して…突いて…位しかないじゃないですか…。」 康太は……伊織…と呟いた 「康太…母さんが双子を産むなら… 隼人の所も……変わりませんか?」 康太は…頷いた 「隼人の所は修正すれば……跡形もなくなくなる ……そもそもが……歪みの果てだったからな…琴音の魂は間違った場所に下ろされてしまったとは…思いたくねぇ…」 康太の想いだった… 幼くして逝った姪への…想いだった 「康太…在るが儘に…受け入れれば良いんですよ そしたら、この先は歪まない、確かな果てへと続く 君は想いのままに行けば良いんですよ。」 一番心強い男からの言葉だった 「伊織…側にいて…離れないで…」 ずっといますよ…と、囁き、榊原は康太の背中を撫でた 康太が落ち着くまで……その優しい手は、康太を撫でた 「明日は飛鳥井の菩提寺まで年頭の挨拶に行く その帰り、真矢さんに逢いに行こう 母ちゃんが心配してた 逢わせてやってくれ。」 「喜びますよ。父に言っておきます。」 「伊織…」 「何ですか?」 「………嫌…良い…」 「…康太…?」 康太は…瞳を閉じ…榊原の胸に顔を埋め……眠った 榊原は眠った康太をずっと抱き締めていた

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