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第21話 傀儡

1月3日、飛鳥井の家は朝から慌ただしかった 飛鳥井の菩提寺まで年頭の挨拶に出掛けるからだ。 一生や聡一郎、慎一も力哉も支度をした 年頭の祈願を受けたら、牧場に顔を出す予定だから… 康太と飛鳥井の家族は、真矢の所へ行く手筈になっていた この日の康太はスーツだった 白いスーツに身を包んでいた 榊原は、紺のスーツに身を包み… 榊原のアウディで行く事となっていた 父と母と京香は、瑛太の車で、一生達は力哉の車で 源右衛門は翔の子守りで留守番で 悠太は、WAKITAの所での宿題に四苦八苦して留守番となった 康太は車に乗るなり、榊原に凭れて眠っていた 黄泉から還って…毎夜…榊原に求められ… 脚を開いた結果……体に負担なり… 怠くて…気を抜けば…眠りそうだった 「康太…大丈夫ですか?」 「ん…怠い…。体の力が抜けきってる…」 「抜けませんでしたからね…」 「寝かせてくれねぇかんな。」 「久々の暴走です。」 「伊織は何時も暴走してんじゃん 」 「そう言う事言いますか?」 榊原は信号待ちになると、康太に接吻した 深い接吻をかわす二人を…信号待ちの車が目撃し…… 後ろを走っていた瑛太の車も……見せ付けられていた 京香は顔を背け… 瑛太は苦笑して、玲香は「仲の良いことだ。」と微笑んだ 清隆は…幸せそうな康太を見ていたかった 菩提寺に着く頃…康太は眠っていた 榊原は駐車場に車を停めると、車から降りた そして助手席側のドアを開けた 「康太…起きて。康太。」 体を揺すると、康太は目を醒ました 「寝てた?」 「そりゃあぐっすりと寝てましたよ 」 康太は榊原に腕を伸ばし抱き着くと、榊原は車から下ろした ロックをして、康太を立たせると、瑛太の車が駐車場へ入って来た そして力哉の車も…。 康太は瑛太が来るのを待って、菩提寺まで行く 伸びる京香の腕を…するっとかわし 康太は榊原と共に、菩提寺の中まで入って行く 菩提寺に足を踏み入れると紫雲龍騎を筆頭に、住職、僧侶が康太に頭を下げた 住職が一歩前に出て挨拶をする 「飛鳥井家総代、並びに真贋、久遠の伴侶殿、飛鳥井家のご家族の方々 明けましておめでとう御座います。 年頭のご挨拶に変えさせて頂き、祈祷を致します故、奥へ進まれよ 」 奥へ進む家族の群れから、康太の側に住職は寄り…康太を呼び止めた 康太を連れ、本殿の奥へ行くと、住職は深々と頭を下げた 「黄泉へ渡られ魔界へ向かわれたとか。 無事帰還され本当に僧侶一同胸を撫で下ろしております。閻魔殿に逢われたとか。」 「龍騎と一緒だから聞いたろ?その辺は?」 「お聞きしました。貴方が…だと言う事も…」 「そんなカビの生えた話は良い 用が有ったから呼んだんだろ?」 住職は康太の前で土下座した 「琴音様の入られし観音像が盗まれていました。」 「だろうな…。魂の転生が早過ぎる。 転生の義を唱える儀式の後にはなくなっている。報告も遅すぎる! 住職、お前は引退しろ! 出来ぬのならオレが討つしかなかろうて。 御厨の血を引く者よ。」 住職は、顔色を変えた… 「破滅の序章は…紡ぐ人間があってこそ… より強靭な力に繋がる…お前が紡いでいたんだろ?」 「総て解っておいででしたか…。何時から?」 「初めて逢った時から…」 住職は驚愕した 「貴方様にお会いしたのは小学生になる前…その時から?」 「そうだ。お前が動かぬのなら黙っているつもりだった。 だが…オレの果てを狂わした…。 オレが討つ前に消えろ!」 住職は康太に頭を深々と下げた 「御厨の覇道がこの世から跡形もなく消えました。貴方が討たれたのですね?」 「そうだ。」 「貴方は、知らないでしょうね… 滅びの一族に…産まれし子供の苦悩を……。」 「お前は知らねぇだろうな! 神と崇めたてられたのに人に堕ちたオレの苦悩なんて…!」 愛する男と一緒でなかったら…… 堕とされる前に……焼き払っていた 総て『 無 』にして…焼き討ちにしていた 住職は押し黙った 「そうでしたね…貴方は…。」 その時、慎一が康太を呼びに来た 「康太、皆が心配して待ってる。」 康太が慎一に手を伸ばすと、慎一は康太の側に来て、康太を抱き上げた 住職は……驚愕の瞳で………見た 「住職…お前は引退しろ 城之内に気取らせず、引き際は綺麗に消えろ お前の功績を考慮して、後に城之内を据えてやる 息子を愛すなら…お前は引け オレに斬らせるな……。」 住職は…………康太にひれ伏し… 「御意。息子をお願い致します。」 「厳正の所へ行け そして余生はそこで過ごされよ。」 「貴方は…本当に自分へ還されるのが御得意ですね。 ……永らくのお別れになります。」 住職は…康太に背を向けると…去って行った 康太は慎一に抱っこされたまま、本殿に入って行った 本殿には住職が最期の仕事をしていた 滅びの家に産まれ…養子に出された 自分は罪深い……と仏門に入り修行した その努力を買われて婿養子に入った 飛鳥井家の菩提寺の住職に着いて… 色んな事を知り………滅びの序章が発動され…飛鳥井を狂わせるのを知った 阻止しようとした時期もある だが何時しか御厨の思念に囚われ…傀儡にされた それでも………人の親だった 子供を思う心は忘れてはいなかった 住職は悪夢から解き放たれ……現実を知った 慎一は康太を本殿まで連れて行き、榊原に渡した 「何か有りましたか?」 「帰還報告だ 後琴音の魂を入れた観音像が盗まれた…… 報告を聞いた。」 榊原は……えっ!と言う顔をして康太を見た 「そうでしたか…。」 榊原は、それっきり黙った 年頭の祈願を紫雲龍騎が行い…終わった 紫雲は終わると、康太に抱き着き…別れを惜しんだ 「康太、また逢いに来て下され 桃香も妊娠しました故、逢いに来てやってくだされ。」 「あぁ、またな。労ってやれ妻を。」 紫雲は深々と康太に頭を下げた 康太は榊原や瑛太達と、菩提寺を後にした 一生、聡一郎、慎一は力哉と共に牧場へ帰り 康太と飛鳥井の家族は、榊原の母、真矢の病院に見舞いに行った 病室には、清四郎も笙もいて、楽しい一時を過ごす事となった 優しい時間が………そこに流れていた 誰もが真矢を気遣い… 真矢は…優しい笑顔で… 息子の伊織と……康太を見詰めていた 飛鳥井の総代の所へ 菩提寺の住職が勇退すると言う一報が入ったのは、翌日の事だった 住職には息子がいた 後継者がいる場合は、後継者が継ぐ だが、今は修行中で、弥勒が育てていた 一人立ちさせるまでの間は、副住職が代理を務める事で、話は着いていた 康太はそれを瑛太から聞き、静かに頷いた そして、その日の晩、城之内が飛鳥井を尋ねて来た 一生は………最初誰だか解らなかった 聡一郎も………ロック歌手に似た奴に知り合いはいません。………と、榊原と同じ事を言っていた 康太は応接間に招かれた城之内を見て…… 総てを悟ったのだと…解った 「どうしたよ?城之内?」 康太が言うと一生と聡一郎が 「「えぇぇぇぇっ!!!」」と大声を上げた 康太は「二人きりにさせてくれ。」と、榊原と、一生、聡一郎、慎一には退席してもらった 「何が聞きてぇ?城之内?」 康太が問う 「親父は…飛鳥井を潰そうとしたのか?」 「何故…そう思う?」 「親父は…何時の頃か…変わった… 俺は親父を嫌って…不良になった… だがな!あんなんでも俺にとっては親だ! 調べた…そして…何とかしようと思った時期もあった… 親父が弥勒の所へ尋ねて来た… 憑き物が墜ちて…昔の親父になっていた お前が行った黄泉の果てで何かがあって… 親父は憑き物が墜ちて、住職の座を捨てた 俺は聞いておいてやる必要がある だから、聞きに来た…頼む…俺に教えてくれ!」 康太は静かに瞳を閉じた これも運命か…… 決して気取られてはいないのに…… 息子は…父親の異変に気付いていた 血が…そうさせるのか…… 康太は足を組むと、慎一にお茶を持って来てくれ…と電話で頼んだ 暫くすると…慎一が現れ、お茶と茶菓子を、康太と城之内の前に置いた そして、礼をすると、応接間から出て行った 康太は湯呑みに口を着けると…玉露の臭いがした 「城之内、長い話になる 一字一句聞き逃さず聞いておけ 解ったな。」 城之内は頷いた 「今から120年前に…飛鳥井と同じ黄泉の眼を持つ一族がいた。」 康太は御厨…一族の話から… その滅びの一族が最期に放った滅びの序章が…飛鳥井を狂わせた話もした 時を超え…御厨を昇華した……事も… そして………住職は……その滅びの一族の最期の生き残りで…名を捨て…修道に入り生きてきた 菩提寺の住職に着いて…御厨の滅びの序章を知り…止めようとした事も…そして何時しか傀儡になった事も… 総て……城之内に話した 城之内は康太に 「お前は転生前の記憶が有るのか?」と尋ねた 「転生前の記憶も、人として生きてきた記憶は総てある。」 城之内は「人として」? 「ならば、人でない時の記憶も有るのか?」 「ある。神と呼ばれし時の記憶も…… オレは果てしのない………時を生きている。」 神!!! 城之内は驚愕した 「まぁ、神と呼ばれても、オレは破壊神だがな 総て…焼き尽くすから人に堕とされし、記憶も有る。」 「お前は親父を討つのか?」 「城之内、住職は勇退したんじゃねぇのかよ? 今は厳正の所に行き、余生は厳正の所で送る。 そんな人間を討てば、オレは逆に厳正に斬り付けられる 厳正の刀は村雨だぜ! あんなんで斬られたらオレも死ぬって。 今は人間だからな 肋骨だって折る 銃弾に倒れて死にかかる…。 不死身ではねぇんだよ。」 康太は笑った そして、榊原に電話を入れると全員応接間に入って来た 康太は榊原の膝の上に乗って甘えていた 一生は「本当に城之内かよ?何処かのロック歌手かと思ったぜ…」と溢した 聡一郎は「髪を黒くしたんですね。 誰か解りませんでした。」とツンツンの髪を触っていた 康太は城之内にサングラスを取れ…と言った サングラスを取ると、康太は城之内に 「緑川慎一だ! オレを主と定め仕えてくれている 良く顔を覚えといてくれ…」 と言った 城之内は、慎一の顔を…まじっと見た 「宜しく、俺は城之内優だ」 城之内と慎一は握手した 「なら、俺は帰るわ ありがと…飛鳥井…。」 「弥勒に宜しくな。」 「帰って言わんでも聞いてるんじゃねぇか?」 「そう言うな。」 「解った。」 「一生、送ってやれ。」 康太が言うと一生は、立ち上がった 「じゃ、行くか城之内。」 一生は城之内と共に応接間を出て行った 一生が城之内を送りに出ると… 康太は榊原に縋り着いた 「伊織…疲れた…」 「寝ますか?」 「今、寝たら夜眠れんくなるもんよー」 「ならどうしたんですか?」 「甘えてるんだよ伊織」 「好きなだけ甘えなさい 君のですからね。」 康太が榊原に甘えていると、京香が現れた そっと康太に触ろうとする手を…康太は避けた 「オレに触るな京香!」 「何故!何故触ってはならぬ? お前の帰りを待っていた…なのに触ってはならぬのか?」 「オレは今、触られたくねぇんだ!」 康太が言い捨てると…京香は泣いた 「なら、何故…」 瑛太が応接間へ入ると… 京香は、泣いて、康太は榊原に縋り着いていた 「何が有りました?」 瑛太が問うと、榊原が、今の事を話した 「康太は能力を使いすぎると…触られたくないと言い張ります。」 康太は「オレは今、触られたくねぇんだ! 触られると気分が萎える…オレに触るな!」 と叫んだ そして榊原の上から降りると、慎一に腕を伸ばした 慎一は康太を抱き上げると京香から離れた 榊原は、その前に立った 京香は、泣きながら…応接間を出て行った 瑛太は「気にしなくて良いです。」と良い、康太の頭を撫でた 「瑛兄…京香を、見てきてくれ… オレは…当分…触られたくねぇ 力を使うのに…触られると気分が萎える… 勘弁してくれ…」 瑛太は「解ってますよ。」と言い応接間を出て行った 慎一は榊原に康太を渡した 榊原は、康太を3階の自室に連れて行った 寝室の鍵を開け、ベッドに康太を寝かせた 「オレは触られたくねぇ時があんだよ。 触れられた先から…気力が萎える…」 「僕は大丈夫?触ってても?」 「伊織や一生達は…大丈夫だが… 他の奴に触られたくねぇ時がある…」 榊原はベッドに凭れて、康太を抱き上げた 「疲れてるんですよ…眠ると良いです 君が帰ってから連夜で…愛し合ったから疲れもあるんでしょ?眠りなさい…」 榊原の指が康太を優しく甘やかす 康太は榊原の胸に擦り寄り…眼を閉じた 一生が城之内を送って帰って来ると、応接間には誰もいなかった 部屋に戻ろうとすると、慎一が廊下で待っていて…総てを話してくれた 一生は、慎一と3階に上がり、寝室のドアをノックした すると、中から「開いてますよ…」と言う榊原の声がした 康太は……ベッドに凭れた榊原の胸の中で寝ていた 「聞きましたか?」 榊原が一生に言うと、一生は「あぁ。」と答えた 「桜林祭の頃も康太は、触られたくないと 紫雲の手から逃げていました。 時々…康太は…触られたくないと…訴えます… 昔からですか?」 「昔からだな 力を使いきったり、何かを遣らなきゃ行けねぇ時に触られたくねぇと…… 逃げてる時がある 俺や聡一郎や隼人にはねぇんだがな… 他の奴の手を拒絶する まさか、京香の手から逃げてたとは…な。」 一生は、思案に耽り…言葉を濁した 「康太は…巨乳も嫌いなんだよ。 どう言う訳か…あいつの回りは巨乳が多い 巨乳に抱き付かれると…窒息するとボヤいてる オレを殺す気か…って言ってるからな… 康太を殺すなら武器は要らねぇ巨乳さえあれば…なんて揶揄されてる位…嫌いなんだよ」 一生は、今までの…事を思い出し…榊原に言った 榊原は何も言わず康太を撫でていた 「旦那……昔の男は………NGでっしゃろ。 だが…今回は予想が着かなかったからな…仕方がねぇか…」 「僕はすっかり忘れていました…。 はっきり言って、今更何故、声をかけるのか…理解に苦しみます……」 「お前の事を自分のモノみたいな顔してたからな…何もなきゃ……良いけどな…」 「一生…僕は康太しか要りません。」 「お前はそう思っていても…だ。 纏わり着かれたら…な。」 「そしたら、学校へは行きません。」 「家に来たら?」 「それは……勘弁願いたい…」 「俺等も力になるけど…康太は…何かする気だろ? こんなに触らせねぇのは…何かする時だ…。」 「ですね。何とは…言ってくれませんが…」 「先に言うと…果ては狂うからな 見えるモノの掟……だそうだ 果てを変えれば…今度は康太が討たれる側になる…。」 一生の言葉を…榊原は重く受け止めた 見えてる果ては変えられねぇ! 康太の口癖だったから… 御厨を討った…康太だから………果ての重さは誰よりもある……… 5日になると、隼人が帰って来た 彼女は…小鳥遊に見てもらい、隼人は康太に甘えに来ていた 康太は…3階の自室から出ようとはしなかった 3階の自室のリビングのソファーに座り、隼人を甘やかしていた 「康太、オレ様は頑張ってる…。 お前に顔向け出来ない自分にはなりたくないからな…。」 康太の指が…隼人の髪を撫でると、隼人は甘えて康太に擦り寄った 「隼人は…顔が変わったな 大人の男になりつつある。」 「オレ様は……守れる男になりたい。」 「そうか。でもたまには甘えてくれ。 でないと母は淋しい…。」 「康太がいないと…オレ様は頑張れないのだ 新学期が始まったら…家に戻る。 学校はちゃんと卒業するのだ 彼女は神野のビルの部屋に住まわせる そしてオレ様は大学に行き、子供に誇れる大人になるのだ。 翔の兄として…翔も愛したい…。 やらねばならない事が沢山あるのだ。」 「そうか…でも焦るな…。 焦ると転ぶと母は何時も言ってやるだろ?ゆっくり行け。解ったな隼人…」 「解ってるのだ…康太…」 隼人が来た晩は、3階にデリバリーを運び、過ごした 康太は…慎一の背中に…こなきじじぃの様に乗って…困らせた 一生が「慎一、俺は何時も康太に遣られてるんだぜ…。」と笑うと 慎一は笑っていた 聡一郎は、悠太と食い物の取り合いをしてた… 最期の一個のお寿司を懸けて、バトルが勃発していた 聡一郎の好物のマグロは悠太の好物でも有った 康太が、大人げない…と、横から食うと… 「吐き出せ!」と康太を揺さぶり…笑っていた 康太が榊原の所へ逃げると…榊原も揺さぶられた やはり康太は…慎一の背中に逃げた 「こなきじじぃが出来上がってんがな。」 一生がボヤくと、隼人も康太の上に乗った 何時もの光景だった 「助けて…潰れる…」 慎一が助けを求めると、聡一郎は隼人を持った 一生が康太を抱き上げ、慎一を救出した 聡一郎と隼人が一生の側に行く 久し振りの四悪童だった 聡一郎は一生を康太ごと抱き締めた 隼人もその上に抱き着いた 絆を確かめる様に………四人は重なり… 温もりを確かめ合った 辛い時も……… 苦しい時も……… 泣きたい時も……… 一緒に乗り越えた…… 我等は…四悪童……として生きて来た 意味嫌われる……人間だった… そのうち…誰にも親しまれる… 人間になった… 康太がいたから… 生きて来られた… その夜は…夜更けまで…笑い声が絶えなかった 慎一は、皆が部屋に戻る時、康太に深々と頭を下げ……帰って行った

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