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第22話 忠誠①
新学期が始まり、何時もと変わらぬ慌ただしい、朝の風景がそこに在った
榊原は掃除と洗濯に勤しみ…変わらない一日の始まりだった
康太は…触られたくないのか…まだ京香を避け…朝も早くに食べ…玲香に小言を言われていた
「何故避けてるのだ…
京香がそのうち倒れてしまうぞ。」
「オレの妻じゃねぇ!瑛兄がフォローすれば良い!」
「アレを連れて来たのはお主であろう!」
「それでもだ!今のオレは触られたくねぇんだ!
頼む…オレに触らないように言ってくれ…。
永遠にじゃねぇ。今は触るな!と……。」
「解った。言っておこう。
お主が動くのを邪魔するモノは排除せねばならぬのが、飛鳥井の定め。
京香には我の変わりにならねばなぬと言い聞かせておく。」
「悪い……母ちゃん。
気力が萎えると…集中力に欠ける…。
見なきゃ行けねぇモノを見逃したら……
一瞬の判断が…命取りになる…。」
「解っておる。」
康太はキッチンを出た行った
すると、京香がキッチンに入って来た
「おはようございますお義母様。」
京香が頭を下げる
玲香は京香に少し話をしょうぞ…と、応接間に連れて行き、宥める様に話をした
決して康太の歩を止めるな!と言い聞かせた
康太の歩を止めれば、瑛太がお前を切らねばならぬ…それはさせないでやってくれ……と。
康太の背負う荷物を…飛鳥井の人間は手分けして持つ
康太の荷物になる事だけは許さない!と玲香は言い切った
「それは康太の伴侶伊織とて同じだ。
康太を繋ぎ…自分だけのモノにすれば…排除せねばならぬのが、飛鳥井の定め
伊織はそれを解ってて…飛鳥井の為に生きておる…。違えるな京香!解ったな。」
玲香の言葉に…京香は、涙して頷いた
辛くても…真壁の家での日々よりましだった
康太のくれた日々を……京香は守ると決めたのに……
「お義母様…申し訳ありませんでした。」
と、京香は頭を下げた
準備をすると、力哉の車で学校まで送ってもらう
康太は車に乗り込み、慎一を待った
慎一は車の前まで来ると
「忘れ物した
俺は後から行くから、先に行っててくれ
新学期から遅刻出来ないからな
一生頼む‥‥」
と言うと慎一は家の中へ入って行った
一生は「慎一が忘れ物?珍しいじゃん!」と言い笑っていた
康太は走り出した車の窓を見詰め…微動だにしなかった
そして深くその瞳を閉じた
学校に行くと、康太は榊原と別れC組に入って行った
榊原は、その姿を見送り、A組に入って行くと!!!!
観月が榊原を待ちわびていた
「伊織、久し振り!同じクラスだね」
榊原の腕を取ろうとする、腕を振り払った
「触るな!馴れ馴れしく声もかけるな!」
榊原は言い放った
兵藤がクラスに入って来て、その光景を目にすると揶揄した
「浮気か伊織?
ならば、アレは俺が貰うぞ。」
兵藤が笑いながら席に着く
すると、榊原は
「冗談でしょ?浮気なんて僕はしてません」と憤慨した
観月はそれでも榊原に近寄ろうとすると、登校して来た清家に
「邪魔だ!
我の席の前に立つなら命を懸けろ!」
と怒鳴られ、一番前の席へと行った
「なんだ?あれは?
身の程を知らぬ輩は!」
と、清家が怒鳴ると、兵藤が
「伊織の遥か昔の男
学園に戻ったから昔の男を我が物にしょうと企む浅はかな馬鹿。」
とまで言い捨てた
清家は「ふん。浅はかな。
捨てておけ。この学園には、伊織に捨てられ泣いた奴が腐る程おるわ!」と言い放った
榊原は……そんな腐る程手は着けてませんって………と、心の中で呟いた
観月は………憎しみの焔を燃やしていた
逆恨みなのは解っていた
だが…恋も出来ない男が………
幸せそうに歩いていたら…仕返し位してやりたかった
C組のクラスでは一生達が慎一を待っていた
携帯電話に何度電話しても出なくて…
そのうち『この電話は現在使われておりません…』となった
この時……初めて………慎一が消えたのだと…解った。
一生は何も言わなかった…
聡一郎も黙っていた
隼人は……目を瞑り堪えていた
康太は……果てを…悲しい瞳で見ていた
3日経っても…慎一は帰って来なかった
この日康太は、11時前にA組に行き、兵藤の机の前に立った
「どうしたよ?康太?」
兵藤が優しい顔で問い掛ける
「話がある…良いか?」
康太が言うと兵藤は立ち上がった
それを見ていた観月が大きな声で嫌味を言った
「何時からC組の奴が平気でこのクラスに来る様になったんだよ?
バカはC組に帰れよ!」
と言うと、兵藤は康太を背中に隠した
「飛鳥井康太を侮辱すると言う事は、兵藤貴史を侮辱するに値する!
売られた喧嘩なら買ってやるぞ!
出て来い!」
兵藤は毅然と言い放った
すると、観月は…顔を背けた
「貴史、そんなん相手にしてる、暇はねぇんだよ!」
康太が言うと、兵藤は康太と共に出て行った
康太は榊原を一度も見る事なく、教室を出て行った
康太は空き部屋でなく食堂に兵藤を呼んだ
「悪いな貴史、オレは校内から消える。
誰もオレには着いて来させたくはねぇんだ
利用させてもらった…悪かったな
詫びに定食を食ってから戻れ
アイツ等には、行き先は聞かなかったと、答えといてくれ。」
「番犬の片割れの所へ行くか?」
兵藤が康太に問うと………康太は驚いた顔をして兵藤を見た
「お前は自分に仕えた奴を…必ず…戻す。
番犬の片割れは、お前を主と定めて仕えていた
違うか?
番犬が片割れをなくして淋しそうだと…校内の噂だ。」
「オレは、アイツを探しに行く。
だけどアイツのいる場所は……治外法権だ。
連れては行けぬ…オレは外にいる奴と行く」
康太はそう言うと立ち上がり…
食堂を出て行った
兵藤は、康太を見送るために外に出た
康太は迷う事なく、厳ついバイクの横に行くと、そのバイクの後ろに乗った
サングラスをしたバイクに跨がる男は…
関東を統一した…伝説の暴走族…に酷似していた
榊原と一生達が、食堂に康太を追って来る頃には…康太はバイクに乗って去っていった後だった
榊原は兵藤の側に行くと
「康太と一緒ではなかったのですか?」と尋ねた
兵藤は不敵に笑うと
「オレはダシに使われただけだ。
アイツは行き先も告げねぇで、出て行った
お前等が来て尋ねられたら、校内にはいねぇとだけ伝えとけって、言って何処かへ消えちまった」と言われた通りに伝えた
榊原は、康太へ想いを馳せる…
一生は「そろそろ動くとは思ってたが…何で行き先も告げずに行くんだよ!」と、怒っていた
兵藤は一生を殴った
「康太はお前達を守りたかった!
治外法権の場所に…お前等を連れて行けねぇって言ってた!
解ってやれ!アイツは不器用なんだよ!」
一生は兵藤に掴みかかった
「そんなん!俺等は知ってる!
誰よりもアイツの側にいたのは俺等だ!」
兵藤に掴みかかり………そして泣いた
兵藤は一生を抱き締め…
「耐えろ!一生!
耐えてやれ…康太の想いだ………解ってやれ…」
と、呟いた
一生は兵藤の胸を借り…泣いた
「貴史……」
「何だ?」
「少し胸を貸せ…」
「仕方ねぇな。
貸してやるから何時か返せ…」
「お前が選挙に出たら返してやる…」
緑川一生は、飛鳥井康太の策士だった
「そりゃぁ、心強いな。」
兵藤はそう言うと…一生を抱き締めてやった
康太は九頭竜遼一のバイクの後ろに跨がっていた
「悪いな遼一、再びお前を使って……」
「俺で役に立てるなら、俺は出る!
だがな……今回の場所は………あまりにも危ねぇ…兄貴に頼んだ方が良くないか?」
「海斗が出れば……
アイツは出したくもねぇ手を出さねぇといけなくなる
オレの用で、アイツは出したくねぇ。」
「康太…」
康太の行く場所は…中国系マフィアが占拠する場所だった
康太は慎一に想いを馳せた
慎一…戻って来い………
お前の還れる場所は…この世でオレの所しかない筈だ…
慎一は…殴られ…蹴られして……拷問を受け…
覚悟を決めていた
バイトの帰りに、悪時代の仲間に出逢った…
中国系マフィアだと言う、王 春燕《ワン チュンヤン》が残酷な顔に微笑みを浮かべ…慎一に纏わり着いた
春燕は……すっかり様変わりした慎一に興味を抱き…尾行した
触れば切れるナイフの様な男が…忠犬に成り下がった様は…愉快に映った
しかも慎一は、今一番消したい、飛鳥井に住んでいた
春燕は幸運が舞い込んで来たのかと喜んだ
慎一に、飛鳥井に住んでるなら、家の鍵を渡せ…家の間取りを教えろ…と、言って来た
外に出ると…慎一の視界に…春燕は入り…精神的に追い詰めて行った
追い詰められた慎一は身辺整理をしていた
何時…拉致られても言いようにバイトも辞めた
そして…忘れ物をして家に戻った日…携帯も解約した
春燕は、天蚕糸ね引いて慎一を追い詰めて行った。
そして…時は熟し…慎一は拉致られた
強引に車に乗せられ…何処か解らない場所に連れて来られた
慎一は…ボロ雑巾の様にボロボロで殴られた顔が腫れて…痣になっていた
拷問を受けて…体を切りつけられ…爪は剥がされ…痛みで…狂い出さないのが不思議だった
「お前の利用価値はなくなった…
飛鳥井の家の鍵を使って押し込めば…良いんだもんな。
家族全員殺して行けば、飛鳥井康太はその中にいる筈だ…家の間取りなんてもう良いさ」
王 春燕は、飛鳥井の電子キーを持って、笑っていた
「慎一、素直に言えばサンドバッグにされずにすんだのにな……」
「飛鳥井に…何をする気だ!」
「飛鳥井康太を殺す…!
目の上のタンコブだからな。」
「康太が何をやったんだ!」
「何もやってねぇよ
真贋と言う存在が邪魔なんだよ!
うちの仕事は、悉く…アイツに取られた
物見は…王一族の得意分野なのに……飛鳥井康太に流れて行く…
蘭玲の仕事を奪う奴は…この世から消す!
それだけだ!」
それだけで………
慎一は深く目を閉じた
慎一の学費を払っているのは康太だった
それを後から知った慎一は…康太に迷惑はかけられないと、土日は飛鳥井でバイトしていた
大工の仕事をしていただけあって、即戦力になると、遼一は慎一を使っていた
仕事して稼いだ金を総て康太に渡した
康太は笑ってそれを、受け取らなかった
「お前が稼いだ金なら、お前が使え。」
と言い、慎一の好きにさせてくれていた
慎一は、その金を半分使って半分は貯金していた
二人の子供の為に、貯めていた
食費は、飛鳥井が見てくれたから、慎一は本当に…皆で行くファミレスの食費とか…にしかお金は必要ではなかった
朝は、早くから新聞配達をして、体を作り
いざと言う時に、主を守れるように…と、心に誓った
飛鳥井の家を出る時、バイトは総て止めて来た
迷惑になるから…
飛鳥井康太………
貴方を主に仕えてから、俺は貴方に沢山のモノを貰った
貴方の為に……生きたかった
和希…和馬…
ごめん…
お前を…親のない子にしてしまう
康太…貴方を守って死ねるなら本望だが…
貴方を苦しめたまま死ぬのは…
本望ではない…
康太は、治外法権の街にズカズカと入り込むと…歩を止める事なく歩き出した
表の街並みは…観光地で平和だが
一歩裏に足を踏み込めば……
中国系マフィアが暗躍する……日本の法律なんて通用しない街となる
その街に…余所者が入れば消される可能性もある
闇から闇に葬られ…死体すら見付からない…
一般の人間は…寄り付かない……
そんな、街に康太は平然と入って行った
手には妖刀マサムネが握られていた
紅蓮の焔を巻き上げ…康太は歩を止めない
「オレの歩を止めるなら命を懸けろ!」
康太は叫び…前へと進んで行く
その様は…破壊神の如く…凄まじく…
近寄りがたかった
常識の通用しない世界では……
強硬に押し入り……通るしか道はない
下手に入れば消されるのなら……
消される前に………
消して行けば良いのだ……
康太は…覚悟を決めていた
覚悟を決めて…………
この身が滅びようとも……止まる気はなかった
康太を止めようと近づく人間を薙ぎ倒し…
焼き尽くし……康太は…進む
そんな人間…………は、いなかったから
パニックになり、騒然となり
その騒ぎは…
闇社会を統治する李暁慶《リー・シャオチン》が、騒ぎを聞き付け…飛び出す程に…。
暁慶は、康太の姿を見て驚いていた
紅蓮の焔を撒き散らし……立つ姿は…
総てを焼き尽くそうとする破壊神の如く…
恐怖を抱かせた
暁慶は、康太の前に行くと…膝を折って、頭を下げた
「私はこの世界を司る者 李 暁慶
貴方は何故に、この世界に足を踏み入れられる!
これ以上の無礼を振る舞うならば、此方も、それなりの対応に出るしかありません!」
康太は目の前の男に、ふん…と鼻を鳴らし
「オレの名は、飛鳥井康太!
オレは仕えてくれる男を探しに来た!
無礼はどちらだ!
オレに仕える男を拉致して此処へ連れ込んだのは!そちらだろ!」
暁慶は、押し黙った
飛鳥井康太…
闇の世界でも…彼は名が知れていた
妖刀マサムネを握り締め…紅蓮の焔を撒き散らし…人間離れした姿に……
どれだけの力を秘めてるか…恐怖を抱く
「飛鳥井康太!此の街に居ると、確証が有るのか?
違えたら、お前の命を取ると言っても!
その歩を止めぬか?」
康太は暁慶にニャッと嗤った
「オレが違えれば、此の命くれてやろう!
たが、此の街に居ればどうするよ?
お前の命を差し出すか?
オレは動く以上は命を懸ける!
さぁどうする!答えられよ暁慶!」
暁慶は、康太に道を開けた
「そこまで言うなら…此処に居るのだろ?
私も命を懸ければ、自殺も同然…。
ならば、私の命は貴方が握ってなさい!
命を懸けねば闇の規律は守られない!
私も共に行き、確かめます。
その前に、一発殴らせなさい!
この様な乱入は、街の統制を乱します!」
康太は、暁慶にホレと頬を差し出した
暁慶は、思いっきり康太を殴った!
康太の体が壁へと叩き付けられる前に!
遼一が康太を抱き止めた
康太の唇から血が流れると、暁慶はその血をペロッと舐めた
「少し強く殴り過ぎました…」
「構わねぇよ!遼一!行くぞ!」
康太は妖刀のパレスを縮めるとズボンの中に差し込んだ
康太の体から…紅蓮の焔が…上がり…
暁慶は……目を離せなかった
魂の底から…湧き出る焔の美しさに目を惹かれる
闇にも届く…紅蓮の焔に焼き尽くされるのら…
本望かも……
この穢れた…血の一滴までも…
焼き尽くせ…
その紅蓮の焔で………
康太は慎一の覇道を詠み…その覇道を手繰り寄せ歩く
康太は、春燕のいるビルの前に立ち止まると…
絶対にビルの関係者しか解らぬ入り口に足を踏み込んだ
地下へ降りて行くと…扉を蹴破り…奥へと突き進む
まるで……居場所が解るかの様に……その足取りに躊躇はない
康太は突き当たりの扉を蹴破ると…部屋の中へ入って行った
部屋の中の人間が康太に襲い掛かった
殴りかかる人間を薙ぎ倒し…蹴倒し…康太は慎一を助けに行く足を止めない
康太の頭を目掛け…ビール瓶が投げ付けられ
…頭を切り………その顔を血に染めると康太は嗤った
魂まで凍り付かせる…その瞳の残忍さに…
堪らず!
暁慶は飛び出した
「此の方に手を出すな!!
手を出せば、滅ばされる!」
その言葉で…襲い掛かろうとした人間は動きを止めた
康太は部屋の奥でボロ雑巾の様な慎一を見付けると歩み寄った
「オレに仕えし人間だ!返してもらう!
遼一、飛鳥井の家の鍵も返して貰え!」
康太に言われ遼一は、春燕に捻り寄ると、その鳩尾に拳を入れた
そして、蹴り上げ手を踏みつけた
その手から飛鳥井の家の鍵を取り上げると、その体を思い切り蹴り上げた
暁慶は、康太の前に立つと、自分のネクタイを外し康太の切れた頭にネクタイを巻き、手当てした
「この男の処分は…私の方で致します!
飛鳥井康太、君の名前は…忘れません!
そして、この詫びは、何時か、君が私の手を欲する時に返させて戴きます。」
康太は子供の様な顔して笑った
暁慶は、目を見張った…
その顔は…子供の様に幼く…純粋だったから…
「オレの方が無礼を働いた
お前の守る街に土足で入った…許せ
何時の日かお前は、オレの手が、必要になる。その時に返してやる。」
と、言い、康太は名刺を暁慶に渡した
「貴方を…抱き締めて…構いませんか?」
暁慶は……言うと、康太は…
「構わねぇけど、服が汚れんぜ!」
暁慶は、構わず…康太を抱き締めた
そして、離すと…深々と頭を下げた
「貴方は不思議な方だ。
何時の日か…またお逢い出来る日に…」
康太は…頷いた
そして、意識を慎一の方へと切り替えた
康太は…慎一を抱き締めた
慎一は驚いた顔をして康太を見ていた
まさか……彼が来てくれるなんて…
「迷子の番犬を探しに来た
帰るぞ慎一。
オレの所へ還れ。」
慎一は何度も頷き涙した
暁慶は、慎一を抱き上げ
「病院までまでお送り致しょうか?」
と康太に申し出た
「嫌、良い。こんな騒動の後に、お前がいなかったら、不審に思われる。
慎一を遼一に渡してくれ。」
「ならば、貴方が、この街から、無事に出られます様に、配下の者を着けます。」
「悪かったな暁慶。
また何時の日か、逢おうぞ。」
暁慶は、康太を見送った
彼な様な人間に仕えるならば、本望だろう…と思った
自分の為に……助けに来てくれる人間がいようとは……
暁慶は、深く目を閉じた
暁慶の配下の者に街の出口まで送り届けられると、ざわついた街並みが戻って来た
暁慶の配下の者は康太達をちゃんと街の出口まで送ると帰って逝った
治外法権から外に出れば、追っ手さえ手が出せはしない
康太は繁華街の外に出ると、人気のない場所に身を隠した
そして、スマホを取り出すと、時間を見た
時計は午後4時少し先を指していたいた
康太は瑛太に電話を入れた
「瑛兄……来てくれねぇか?」
単刀直入 切り出したのに瑛太は
『康太?どうしたんですか?』と弟の心配をした
「慎一が…ボロボロなんだが…
病院に連れてくと…警察が来る様な怪我だ。」
康太は瑛太に頼んだ
瑛太は…康太の緊急の助けを求める声に応えた
『直ぐに行きます!
居場所を私のナビに送りなさい。』
「助かる…ありがと…瑛兄」
康太は……そう言うと電柱に凭れかかった
遼一は、康太と慎一を隠すように立っていた
遼一の顔を見れば…康太達など見ずに早足で逃げて行った
瑛太は直ぐに地下駐車場に走って行き、車を走らせた
物凄いスピードで走って逝く
ナビ通りに走り目的地に到着すると、車を停めた
瑛太が車を停めると……遼一が瑛太に「此処です!」と、居場所を告げた
瑛太が近付くと全身赤黒く変色し顔の形が変わった慎一と頭から血を流した康太がいた
瑛太は…康太を抱き締めた
「瑛兄…スーツが汚れる…」
康太が言うのも気に止めず…瑛太は…康太を抱き締めた
そして一頻り抱き締めると慎一を後部座席に寝かせ…康太を助手席に座らせた
そして遼一に礼を言い、瑛太は車を走らせた
「康太…君はまた無茶をして……」
「仕方がねぇんだよ瑛兄!
慎一は何も悪い事なんてしてねぇのに飛鳥井に住んでるのを見られて拉致られた!
飛鳥井の鍵が欲しかったのと、飛鳥井康太の命が欲しかった輩から付け狙われていた
慎一は、サンドバッグにされてもオレの事や飛鳥井の家族を守った!慎一は被害者だ!」
「康太……慎一は飛鳥井を…康太を守りたかったんですね…命に変えても…」
瑛太は…慎一の康太に仕える忠誠心を…常に見てきた
康太には玉露で家族には、それなりのお茶を入れ続ける男は…康太の為だけに生きている…と言っても過言ではなかった
瑛太は飛鳥井の主治医の所へ、康太と慎一を連れて行った
飛鳥井義恭は康太の顔を見ると、嫌な顔をした
「今日は弥勒つきじゃねぇだろうな!」
義恭に言われ、康太は
「いねぇよ。ヤキモキしてるだろうけどな!」と、笑った
義恭は慎一の様子を見て顔色を変えた
「拷問にあったのか!彼は!!」
慎一の爪は剥がされ…背中には……
刃物で切られた傷と、鉄の棒か何かを押し宛られた様な跡があった
瑛太は驚愕の瞳で…慎一を見た
そこまでして………慎一は守ったのだ!康太を!
医者は直ぐに慎一の処置に辺り、オペに入った
康太の頭は、他の医者が手当てをする事になった
頭からガラス片を取り除き、消毒をし、縫った
そして、頭に包帯を巻き付け、処置は終わった
瑛太は康太を抱き締めた
血で染まった…桜林の制服が痛々しかった
「伊織には言って来たの?」
「オレの行った所は治外法権の場所。
そんな所へ伊織や仲間を連れては行けねぇ…内緒だ。オレは学校から内緒で消えた。」
瑛太は…康太…と抱き締めた
瑛太のスーツにも…康太の血が染みていた
「瑛兄…オレを抱き締めるから…スーツが血に染まっちまった…」
「スーツよりお前が大切だ!
お前が生きていてくれて良かった…。」
康太は瑛太の胸に顔を埋めた
「瑛兄…ごめん。仕事中なのに…」
「仕事なんて…お前より大切なモノなんて何もない!気にしなくて良い。」
「瑛兄…」
康太と瑛太は…慎一の手術中の扉を見て祈り続けた
慎一の手術は…4時間を越えた
午後5時前には病院に連れて来て緊急オペに入って4時間
時間はとうに午後9時を回っていた
9時を過ぎた頃…手術室から慎一は出て来た
だがICUに入る為、この日は面会もダメだと言われ…
瑛太と共に…康太は飛鳥井の家へと帰って行った
飛鳥井の家に帰ったのは…夜10時をとうに回っていた
飛鳥井の家へ帰って来た………康太と瑛太は…血だらけだった
玲香は「康太の血か?」と瑛太に聞いた程だった
榊原は、康太の姿に…唖然となった…
学校を昼前に消えて…何があったと言うのか…
榊原の腕が康太を抱き締めようとすると…康太はスルッと体を避けた
「かあちゃん、飯食わせてくれ…昼から何も食ってねぇもんよー。」
と言うと康太はキッチンへ入って行った
榊原が康太の後を追う
一生も、聡一郎も…康太の後を追った
康太は何も言わずにガツガツ、夕飯を食べた
瑛太も、血糊の着いた背広のままで夕食を食べていた
榊原は、康太に「何が有ったの?」と尋ねた
康太は食事を終えると、悠太が玉露を康太の前に置いた
瑛太がポケットから、薬を出すと、榊原に渡した
榊原は薬を受け取ると、康太に薬を飲ませようとした
康太は…無言で手を差し出すと…その手に錠剤を乗せた
瑛太は…食事を終えると、康太を抱き締め、部屋へ帰って行った
康太は薬を飲むと、何も言わずに部屋へと帰って行った
榊原が康太を追う
一生も聡一郎も、悠太に片付けを頼んで…康太を追った
榊原と一生、聡一郎が、3階の康太の部屋を開けると、康太は制服をゴミ箱に捨てていた
「康太…何が有ったのか、話して…」
榊原が言うと康太は榊原を睨んだ
「疲れたんだ、寝させろ!」
「康太!」
「オレに構うな!」
康太は言い捨てた
「何もかもお前に話さなきゃいけねぇ訳じゃねぇだろ!
お前は昔の男の処理でもしてろ!」
「康太!何故怪我をしたかと、聞いてるんです!」
「怪我の理由なんて聞いても傷は治らねぇよ!
オレに構うな!
あの男に纏わり着かれた手でオレを触るな!」
康太が言い捨てると…榊原は堪らずに…康太を殴った
康太の言葉が悲しくて……腹が立って…止まらなかった
一生と、聡一郎が榊原を止めた
「止めろ!伊織!
康太を殴るなら…俺がお前を殴る…!
康太に手を出すな!」
聡一郎が康太を抱き締め…守っていた
榊原は、部屋を出て…家を出て行った
一生は、康太に良いのかよ?と、聞いた
「良い。当分伊織は飛鳥井の家にいない方が良い
お前達も出ていけ!オレは疲れてんだよ」
康太が言うと一生が、何故!と康太に詰め寄った
「いちいちオレに問うな!」
一生と聡一郎は…康太の変貌に…戸惑い…怒りを覚えた
「今日の昼も勝手にいなくなるし!
何をやっても答えねぇ!
俺達は何の為にいると思ってんだよ!」
「いたくなきゃ!いなくて良い!」
康太は言い捨てた
「オレは疲れた!出て行け!」
康太は怒鳴ると、一生と聡一郎は怒って部屋を出て行った
そのまま怒って…家を出て行った
康太は息を吐き出した…
ソファーに座り…目を瞑った
これで良い…
康太は呪文を唱えると…その手に…蜘蛛の糸の様な糸を握り締めていた
一階に降りると瑛太と玲香、清隆、源右衛門の部屋には入れない様に……糸を張った
二階にも悠太の部屋がある
入れないように…糸を張り
康太は3階の自室に誘き出すように…糸を張った
ソファーに座り天を仰ぐと、弥勒の声が聞こえた
『良いのか?伴侶殿や仲間はお前の命なのではないのか?』
「命だからな!此処に居ると危ねぇ…。
あの爬虫類の様な男が…諦めるとは思えねぇ…。
弥勒に怒りの幻術をやってもらって良かった。
オレは、アイツ等を守れれば…それだけで良い…。ならな、弥勒。」
康太は弥勒へと繋ぐ覇道を断ち切った
慎一の敵を討ってやるつもりだった
康太は………容赦する気はなかった
すると…この場にいれば康太の力が暴走したら…
怪我するだけではすまなかった
だがら、弥勒の怒りの妖術を掛けさせ…
家から出る様に仕向けた
弥勒は青褪めた
康太の覇道を幾ら手繰り寄せても…
康太の気すら確認出来なかったから……
弥勒は城之内に頼んでバイクの後ろに乗せて貰った
飛鳥井の家へ走る途中で…弥勒は榊原の覇道を捕らえた
「優!停めてくれ!」
弥勒が頼むと…城之内は、バイクを停めた
弥勒は走ってファミレスの中へ走って行く
「伴侶殿!」
弥勒が呼ぶと、榊原は弥勒を見た
榊原の隣には、一生や聡一郎もいた
「弥勒?どうしたんですか?」
「康太は……死ぬ気だ……」
弥勒が言うと、榊原は弥勒を睨んだ
「知っている事を全て話なさい!
僕は何故あんなに康太に腹が立ったのか…解りませんでした。
一生と聡一郎もそうです!
今、その話をしていました!
あの怒りは操られていたのかも……と、思い始めた時でした!貴方の所為ですか!」
榊原は、怒りが収まらず…飛鳥井の家の外に出た!
ともだちにシェアしよう!