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第26話 繋がる想い 重なる‥‥想い

翌日、瑛太から会社に寄りなさい…と、メールが来た 康太は榊原に「今日、学校が終わったら、伊織の車で会社まで乗せてって欲しいけど良いか?」と頼んだ 「良いですよ 僕は同席しない方が良いですか?」 「一緒に……聞いて欲しい…」 「なら、同席しますね」 康太は頷いた 授業が終わると、学校の側のコインパーキングに向かった 料金を払い、飛鳥井建設へ向かう 会社の地下駐車場に車を停めると、最上階へ行くエレベーターに乗った そして、副社長室のドアをノックすると 瑛太が迎え入れてくれた 康太がソファーに座ると、瑛太は報告書を康太に渡した 康太はそれに目を通した そして……諦めた様に……目を閉じた 榊原は、報告書に目を通し 「この方は…何方なんですか?」と尋ねた 『久宝 絵理に関する報告書 現在年齢…21歳 去年…事故で…逝去』 「この人は…和希と和馬の母親だ。」 報告書には、写真も貼ってあった かなりの美人だった 「康太は……どうするつもりだったの?」 「独身だったら…逢わせて…慎一の看病を頼もうと想っていた…。」 「………若すぎるのに……」 榊原は、言葉を無くした 瑛太は…「どの道…和希と和馬は、この世で慎一以外は…肉親がいませんか…。」 と、悲しげに呟いた 康太は溜め息を着くと… 「瑛兄ありがと」と、言い立ち上がった 「慎一の状況は、どうなんですか?」 「ICUは出たけどな…… 精神的なショックは中々…直ぐとは治られねぇよ。 だから、支えが欲しかったんだけどな…」 「………心は…難しいですからね…」 「和希と和馬を連れて行こうにも…… あの顔じゃ…見せれねぇし…。」 「………見せたくは…ないですね。」 瑛太は…康太の想いを…汲み取り…言葉にする 「帰るかんな。ならな、瑛兄。」 康太は片手を上げて…副社長室を出ていった 飛鳥井建設の地下駐車場に向かうと…康太は足を止めた そして、空を仰ぎ…瞳を閉じた… 「伊織…トナミ海運へ行ってくれねぇか?」 「良いですよ。乗って下さい。」 榊原が言うと康太は助手席に乗り込んだ 「何か有りましたか?」 榊原が運転しながら…康太へ訪ねる 「産まれたよ…一生の子が…。」 「まだ……1月ですよ?」 「歪みを直さなかったからな…仕方ねぇ。」 「………歪みじゃないです!運命です!」 康太は榊原のそう言う所が…愛して止まなかった トナミ海運の駐車場に車を停めると、康太は榊原と共に会社の中へ入っていった そして榊原は、受付嬢に「戸浪海里さんは、おみえでしょうか?」と尋ねた 受付嬢は「暫くお待ち下さい。」と頭を下げると、社長室へ内線を入れた 「飛鳥井康太様がおみえですが…」と言うと 戸浪は「お通しして!」と、受付嬢に申し渡した 「どうぞ。社長がお待ちしております。」 と、言われ康太は榊原と共に、歩き出した 社長室へ行くエレベーターに乗ると、社員は康太に頭を下げた 社長室のある階に止まると、康太はエレベーターを降りた そして社長室をノックすると、戸浪海里がドアを開けてくれた 「おみえになると思っていました。」 「初産にしては、早くないか?」 康太が問うと、戸浪は…押し黙った 「亜沙美は…ドジなんですよ…。 踏み台から落ちて…破水してしまったんです それで、緊急オペで先程…産まれました。」 「………それは、ちょっと違う 亜沙美さんは、出産と共に…子供を手離すから…準備していたんだ 子供に渡す…ロムを作ったり…靴下を編んだり… 母親として出来るだけの事はしてやっていた。 だけど、酷い貧血で…目眩に襲われ…踏み台から落ちた… そして…破水したが…子供だけは助けるつもりで必死だった 彼女は誰よりも……母親だった。」 戸浪は……康太に言われて…涙した そして、自分を律して康太に問い掛けた 「どうされますか? 連れて行きますか?」 その瞳は…妹を思いやりつつも…覚悟を決めていた 「赤ん坊は最低でも1週間は、授乳は必要だ 来週……オレは弁護士を連れ、認知してから飛鳥井に連れ帰る。」 「君の想いのままに……。」 戸浪は深々と頭を下げた 「若旦那『 流生 《りゅうせい》と言う名にする 何時か流れに任せて一生に還る……そんな意味を持たせる名にする。」 「流生…良い名ですね…。では、来週。」 「その時は飛鳥井の弁護士も連れて行く。 飛鳥井康太の実子として…迎えさせて戴きます。」 康太は戸浪に深々と頭を下げた 戸浪は、瞳を閉じ、耐えていた 「それじゃぁ、来週の月曜日は、会社に来れば良いのか?」 「はい。午前中に会社に来て下さい。 お願い致します。」 康太は戸浪から約束をすると、社長室を後にした 康太は………車に乗ると…スマホを取り出した 「あっ、聡一郎か、これから飛鳥井の家に行く…… 一生を、駐車場に待たせといてくれねぇか?」 と康太は聡一郎に電話をした 聡一郎は『解りました』と了承してくれた 「聡一郎…」 『はい。』 「一生の子が…産まれた それを話す お前は…堪えてくれ。」 康太に言われて、聡一郎は、また辛い役目を康太は買ってしまうのか……と、胸を痛めた 『解ってますよ 一生には何も告げず、待たせときます 康太の口から聞きたいでしょうからね。』 と言い聡一郎は電話を切った 康太は榊原に「出来たら…お前にくれてやる…って言いたい…」と溢した 「でも戸浪海里は、一生なら寄越さなかったでしょうね 飛鳥井康太の実子として入るから…意味があって…… 緑川一生では……意味を成さない… それが現実なんでしょうね…。」 「でも……若旦那は…今なら、人の心は解る一生に亜沙美が継ぐ筈だったダイヤの指輪をピアスにして…一生に渡してくれた。 あれは若旦那の…誠意だ。」 康太が言うと……榊原も、一生の左耳に光るピアスを思い浮かべた… 時価総額…何百万円ものダイヤをピアスに変えさせた それは戸浪の想いだった… 飛鳥井の家の駐車場の前に一生は、立っていた 榊原は、車を停めた 康太は車を降りると……後部座席に乗り込み…一生を待った 一生は、運転席側の後部座席のドアを開けると車に乗り込んだ 榊原は、車を出した 「一生、お前に話が2つある 聞いてくれねぇか 1つはお前の事だ もう1つは慎一の事だ どっちから、聞きたい?」 康太は一生に選択させようと思った 一生は「なら、俺の事から聞きてぇ。」と、答えた 「戸浪亜沙美が男の子を産んだ 1月15日、午前11時51分に、緊急オペで、出産した 彼女は…渡さねばならぬ、子供の為に……日々、準備をして、想い出を作り、一生に託す想いを込めていた そして、踏み台から落ちて…破水して…帝王切開で、出産した 来週の月曜に…オレの子供に認知してから飛鳥井の家に来る 名前を流生…流れる…生きる…と書く 何時か…時の流れに乗って…一生、お前の元に還る…そんな意味を込めて着けた だが実際は…この子は飛鳥井の一部として組み込まれている。変わりはいない 例え名乗りを上げても…親子にはなれねぇが! 何時か…話せる日が来る時があると、オレは信じてる お前の耳のピアスを渡してやれる日が来る時を…オレは願ってる…」 康太は…一生に話すと…目を閉じた 一生に死刑宣告をした、あの日から… 康太は…この日の来るのを…怯えていた… 兄…瑛太と同じ道を…歩ませる…罪深い…刹那を一生に背負わせる… 一生は、康太を抱いて忘れた日から……… 生涯…子供は1人と……心に決めた 例え…名乗れなくても…康太の子供を全員……愛してやる! 覚悟を決めた それが、緑川一生の生きる…希望になっていた そして……今日……その日が来たのだ… 我が子が………産まれた 愛した女性から… 我が子が…産まれた… なにの…………父親としては抱けぬ… 康太の子供を抱けても… 一生の我が子としては…抱けぬ… 「一生、月曜日に戸浪に行く お前も行け。 そして、亜沙美からお前の子供を受け取れ お前の子供として……その日は…お前が抱いて行け… そして、オレに返してくれたら、飛鳥井康太の子として見ろ 何時か還る…その日まで…お前は…父とは名乗らせない… 瑛兄と同じだ。」 一生は、翔を抱く瑛太を思い浮かべた 我が子を手にしても父とは抱けぬ… 飛鳥井瑛太を… 一生は、康太を抱き締め、その肩に顔を埋めた 一番、苦しんで、胸を痛めているのは… 康太なのだ! 康太の辛さに比べたら…… 「康太…俺の一番愛しているのは…飛鳥井康太…お前だ お前の為なら…俺は喜んで…この命を差し出してやる… だから、苦しむな!俺の子は、何処の誰かに貰われて…幸せかも解らねぇ訳じゃねぇ! お前に愛されれば…幸せだ!だから、良い! だから、俺は耐えれる…お前の側で…お前の子供を全部愛す 翔も、流生も…他の子も…俺は全員愛してやる…だから、お前は…苦しむな!」 「………かずき…」 「お前は…悩むな!俺は納得している 感謝している…それで良い…。」 康太と一生は………何も言わず…抱き合って泣いていた 榊原は、海の見える駐車場に車を停めると… そっと、外へと出た この二人の絆は…愛を越えて…強固だ 妬けたり、嫉妬のわかぬ位…強い絆で結ばれて…解り合える存在… だから、二人だけの時間と空間を作ってやりたかったのだ… 一頻り泣いて…顔を上げた一生は、何時もの穏やかな顔をしていた 「もう1つの慎一の話を聞かせろよ。」 一生が言うと、康太は…前の座席に置いた報告書を一生に見せた 一生は、書類に目を通し……… 「この女性は?誰なんだ?」と尋ねた 「慎一の駆け落ち相手…和希と和馬の母親だ…」 康太に言われ…書類を見ると…逝去…の文字が! 「慎一の看病を頼もうと想っていた… 独身で…恋人もいなかったら……慎一に逢わせて遣りたかった… 引き裂かれ…泣く泣く別れた二人だからな……。 ケジメも着けさせて遣りたかった… まさかな…早すぎる…」 「慎一には…まだ?」 「言えねぇよ! あんな怪我してる慎一に…言える筈なんかねぇ…」 「でも、聞きてぇと想うぞ アイツは…聞きてぇだろ?」 「…………オレはお前等を…誰よりも幸せにしてぇのにな… 現実は苦しめてばっかりだ…」 康太は…自嘲的に笑った… 「飛鳥井康太の側に居るのは…甘めぇ事じゃねぇからな……。 そんな甘いのは望んじゃいねぇよ 望んでたら、お前を主と定めやしねぇよ」 「オレは120年の時を越えて…御厨…を昇華した時に…主を持てとアイツに言った。 アイツは…なら貴方を主と定めて…還ります…と、言った 好きで主と定めた訳じゃねぇ…前世の…定めで…アイツの意思じゃねぇよ!」 一生は、康太の頬を叩いた! 「前世は知らねぇよ! でもな、見えねぇもんに惑わされたりなんかしねぇよ! 慎一は自分の意思でおめぇに仕えた! それは……墜ちるアイツに手を差し出したのが、おめぇだからだろうよ!! 解ってやれよ!」 「一生……」 「緑川慎一は…お前に助けられたから、側にいてぇ…と、俺に言った! 何時死んでも良いと想ってた… そんな時に人間らしく生きろと… 手を差し伸べてくれたのは、おめぇだから! お前を主と定め…役に立ちたい…と、アイツは言ったんだ! 定めや運命なんかじゃねぇよ! 慎一が選んだんだよ! だから、アイツは狂うような拷問にも耐えて…生きてる。 精神が壊れても不思議じゃないって言われてるのに! アイツは…正気を保って要られる! それは慎一の想いだ! 運命も…定めも…介入なんざ出来やしねぇよ!」 「一生…ありがと…」 「おめぇはよぉ、考え過ぎるんだよ!」 康太は…何も言わずに…一生に抱き着いた

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