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第32話 転生し魂

一生と力哉がリビングを出て直ぐに弥勒の声が部屋に響き渡った 『 康太…慎一の深淵まで行って見て参った』 弥勒から声が聞こえ、康太はリビングのドアを閉め鍵をかけた 「弥勒…どうだった?」 康太は弥勒に尋ねた 『康太…慎一殿は…前世の記憶を持っておる…』 「えっ…それは……オレが討ったのを…覚えていると…言う……事なのか!」 康太の体が…グラッと崩れた 榊原の腕が…康太を抱き締め…ソファーに座らせた 『慎一の深淵には…御厨忠和として生きた…記憶が残っている…。 記憶として…慎一の中に……有るのだ お前に討たれ…お前に還ると決めた…決意も…慎一の深淵に突き刺さって…いた。 そして……康太…お前の姿しか…慎一にはなかった…。 女や男も…慎一には不要。 主に仕える…その意思だけで…アイツは生きている…。 唯…好いた女の想い出は…無くしてはおらぬ…。 慎一の想いの半分は過去の記憶で…少しだけ好いた女の思い出があり… 半分以上は、お前が救ってくれた姿だった 墜ちる慎一を救ったお前の姿や、拷問に苦しめられ…目にした…お前の姿ばかりだった 地獄から救ってくれた飛鳥井康太の姿しかなく… 慎一は、お前に仕える気持ちしか…なかった 慎一にとってお前は…産まれながらの…主だった。』 弥勒に言われ…康太は泣いた 「総て知って…それでも…主と定めて…くれたのか…。」 『康太…慎一を抱き締めてやれ…。ではな…』 「ありがとう…弥勒。本当に…ありがとう。」 『お前が…生きていてくれたら、それだけで良い…。ではな。』 弥勒は消えて行った 康太は…榊原に縋り着いて…泣いた 「康太…朝を食べたら、慎一に逢いに行きますか?」 康太は頷いた 康太の体にコートを着せて、促した ドアを開けると、一生が聡一郎と、力哉と待っていた 聡一郎は、康太の睫毛に残る涙を見つけ…抱き締めた 「聡一郎、大丈夫だ。後で話す。」 榊原は康太を抱き上げ、階段を降りて行く 途中で悠太を拾い、力哉に車を出させ、ファミレスへと向かった 軽く朝食を食べ、飛鳥井に帰ると、康太はスーツを着せてくれと…榊原に頼んだ 正装の方のスーツを康太に着せると、榊原も対のスーツに袖を通した 「君が…慎一に向き合うのなら、主に相応しいカタチを、取りたかったのでしょ? ならば、君の伴侶として、僕も応えたいのですよ。」 康太と榊原は、正装して、階下に降りて行くと…瑛太が何処へ行くんですか?と尋ねた 玲香も京香も、清隆も、一生も、聡一郎も、尋ねた 「慎一に逢って来ます!」 康太は皆に頭を下げると…背を向けた それ以上は…聞かせない…拒絶した背中に…皆は何も言えずに送り出した 飛鳥井の主治医の病院へ行き、慎一の病室をノックすると、足を引き摺った慎一がドアを開けてくれた あわてて榊原が慎一を支えて、ベットに戻した 康太は慎一の前に…立つと… 優しく…頬を撫でた 「御厨…忠和…。 お前は…討たれし記憶を持っていたのだな…。」 慎一は康太の顔を見て…微笑んだ 「貴方が主を持てと……言ったんですよ? 転生したら……主を持って生きろ……と。 私は『ならば、私はお前に還ろうか? お前なら私を使えたろうに………』と最期の言葉を吐いて…貴方に還る道を現世の貴方に組み込ませた…。私はその道を辿り…貴方に所縁の人間に根を下ろした。」 「お前は…それで…良かったのか?」 「私は…それで…良かったんです 御厨忠和としての、記憶を遺したのは…、貴方に逢った時に…何も覚えていない自分でいたくなかったからです…。」 「オレの側で生きるか?」 「はい。もう駄目だと言っても、私は貴方を主と定めて根付いた…。遅いです。」 「慎一。オレの側で生きていけ。」 康太は慎一を抱き締めた 「飛鳥井康太の側で…生きたい… 貴方が主なら…討たれし瞬間に…願いました…。 違う生き方が出来るのなら…人に利用される…愚かな人間には…もうなりたくないと…。貴方を主と定めて…生きてみたい… その想いさえあれば…俺は生きていける… だから…いさせて…側に…」 「いれば良い…。オレの側にいろ。 そして…今の世界を幸せだと…思え… 仲間もいる…弟もいる…そしてオレもいる… そして、お前の子供もいる……この場所で…生きていけ慎一…」 慎一は頷いた…何度も何度も……頷いて…泣いた 源右衛門は……その様を…何も言わずに見ていた… 康太は慎一を抱き締めたまま、微動だにしなかった 暫くして…源右衛門は、康太に 「慎一は…始祖の一族の転生か…?」と聞いた 「オレが討った……御厨忠和…。 120年の…時を越えて…転生し…魂だ。」 康太はそう言い…慎一の顔を持ち上げた 「能力は…そのままか?」 慎一は、首をふった 「今の俺には…何もない 最期の力を総て使って貴方の道を辿った」 康太は、「そうか…」と言ったきり黙った 「力に溺れ…力に騙され堕ちた… だから、転生するなら…何も持たない…人間に…なって始めたかった…」 「お前は…緑川慎一だ 他の何者でもない。」 慎一は頷いた 「オレの元に還って来た。そうだろ?慎一?」 慎一は何も言わず…康太を抱き締めた 落ち着くと、主に 「昨夜…源右衛門が魘されてました…。」 昨夜の源右衛門の状況を伝えた すると源右衛門は 「康太…昨夜…清香が夢枕に立った… お前だろ? わしは…あやつにこってりと絞られた…。 やはり…10年は…(迎えに)来ないと…言いやがる…。 勝手に退院したら…もう一切迎えには来ねぇよ!と言われた…。」 と、泣きながら…康太に訴えた 「だから、大人しく入院してろよ、じぃちゃん…。」 「だから、寝とるわい!」 源右衛門が言うと、慎一は笑っていた 「源右衛門は、うろうろ歩いてばかりですよ。」 とこっそり教えると、源右衛門は慌ててた 「慎一、余計な事を謂うでない! 玲香にでも告げ口されたら説教をされるではないか!」 源右衛門にとっても飛鳥井の女は怖い存在だった 源右衛門は話を反らそうと康太に 「康太、この男はお前を主と定めて仕えし者 その精神力は…半端ではない。 悪夢に魘されても…お前さえいれば乗り越えられらだろう…。 弥勒に慎一の深淵を見に行かせたのか?」と問い掛けた 「あぁ。高徳に頼んだ じぃちゃんの方は龍騎に頼んだ。」 「弥勒の気配を感じたからの…。 退院したら厳正の所へ顔を出そうかのぉ。」 「そしたら、お酒は2本持ってかねぇとな 厳正の所には、菩提寺の元住職もいる。」 「勇退したのだろ? 何故…厳正の所へ?」 「住職は……最期の御厨の血を引く者。 そして……御厨の放った滅びの序章に取り込まれし傀儡だった…… 勇退して厳正の所へ預けた そして、その息子は高徳に預けた。 だからな、酒は多い方が良い…って事だ。」 源右衛門は「うむ。そうか ならば、楽しい酒が酌み交わせるな。」 と楽しげに言った 「でもな、あまり飲むな 年だからよぉー」 「旧友に逢って酒を酌み交わさぬ様な…情けのない奴には成り果てたくはない……。」 康太は笑って 「ほどほどにな!じぃちゃん。」とたしなめた 「じぃちゃん、慎一、今月中は入院してろ 2月1日はオレの誕生日だかんな、退院したら宴会だ。」 康太が言うと源右衛門は嬉しそうだった 康太は慎一を怪我の状況を見る為に、パジャマを捲った 「慎一、背中の刀傷は、治ったのかよ?」 「今は包帯も取れて、何かテープみたいなのがしてありませんか?」 慎一の背中には……真一文字に刀で切りつけられた傷が残っていた 「消すか?この傷…? 消えるんだよな?伊織?」 康太が言うと榊原も慎一の傷を…指で触れた 「皮膚移植して…消す事も可能ですよ」 榊原が言うと慎一は 「別に女じゃないし、構いません。 和が主は肋骨の所と肩に怪我が有るじゃないですか?」 と、笑った 「爪は?後、火傷は?」 康太は…刀傷ばかりじゃなく…爪を剥がされ …燃え滾る鉄を押し着けられた場所を聞く 「爪は、少し生えて来ました…。 でも、まだ薄皮みたいなので、当分…プロテクトを着けないと生活は出来ません。 火傷は…まだです。 どの道、刀傷も火傷も肥厚性瘢痕の治療になります。」 康太は慎一の頭を抱き締めると 「もう…誰にも…お前を傷付けさせねぇ お前を傷付けた奴は…生きちゃいねぇ… この先も…お前を傷付ける奴は…オレが許さねぇ!」 「貴方は…悩まなくて…良い… 俺が撒いた種を…貴方が刈らなくても良い…」 「お前が退院したら…双子を戻す。 その頃には久宝は片付いている筈だ。」 「康太…。」 「お前の宝だろ?双子は?」 慎一は頷いた 「絵里が俺にくれた家族です。 何も持たない俺を愛して…与えてくれた…宝です。」 「ならば、大切に育てねぇとな。」 慎一は頷いた 康太は慎一を、ベットに寝かせた 「少し眠れ。深い眠りに堕ちろ…」 康太は慎一の瞼に触れ…瞳を閉じさせた 慎一は…眠りに堕ちて…行った 「じぃちゃん、明日は流生を連れて来る。」 「あぁ。翔…同様…愛してやろう…。」 「じぃちゃんは優しい、じぃちゃんになれ それが清香の願いだ… そして、オレは翔に毒は飲ませねぇ 三歳までは…普通に…愛して…育ててやる 修行は…それからだ 飛鳥井の真贋として恥ずかしくねぇ真贋を育てる」 「お前の想うままにしろ。 わしは、一切口は挟む気はない 現、真贋は、お前だ。 ならば、お前の想うままに… それが総意だ。」 康太は源右衛門に深々と頭を下げた そして、病室を、出ていった

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