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第33話 掌

掴んだと… 想ったのに……… 掌から………零れて… 無くならないように… 願った 1月21日 月曜日 朝から康太は、スーツに袖を通し、支度していた 尤も…支度に精を出してるのは榊原で、康太は着せて貰ってるだけなのだが… 今日の康太のスーツは瑛太からのプレゼントで、黒のスーツだった 胸には康太の誕生石と同じ色のシルクのポケットチーフを入れた 榊原のポケットには康太と御揃いのポケットチーフが入っていた 支度が済むと、康太はリビングに出た するとスーツを着た一生が、やって来た 康太は……一生の顔を見て微笑んだ 「とうとう…この日を迎えたな…」 「あぁ。だが、俺は穏やかに…この日を迎えれて…お前に感謝してる…。 お前が…愛を教えてくれたからな…。」 一生は穏やかな顔をしていた 榊原は、リビングに来て、一生の顔を見て…微笑んだ 「さぁ、行きましょうか。」 榊原が言うと康太は、歩き出した 一階に降りると…瑛太が出社を遅らせて…待っていた 玲香と、京香が源右衛門のいない時には翔の世話をしていた 玲香も…康太を見送りにやって来た 康太は靴を履くと、玲香と瑛太に向き直った 「飛鳥井の家に、家族が増えます。 彼等は、明日の飛鳥井を築く礎になる存在 愛して育て上げて下さい。 飛鳥井康太の子供として、受け入れて下さい」 康太は…そう言い…深々と頭を下げた そして、背筋を正すと踵を返し、歩き出した 榊原がその後ろに着き… 一生が続いた 榊原の車に乗り込み…トナミ海運に向かう 力哉は…飛鳥井建設へ出社をした 「僕は飛鳥井康太の秘書ですから、仕事をしてます 今日は仕事ではないので、向かいません」 力哉のケジメだった 一生が亜沙美と逢えるのは…今日で最後 最後の時間を…邪魔などする気はなかった トナミ海運に着くと、秘書の田代が康太を待っていた 「お待ちしておりました 弁護士の天宮さんは既にお見えになっておいでです。どうぞ。」 康太は車を降りると、榊原が側に控え、一生はその後ろに着いた 毅然と歩く姿は、前を見据え、風を切って歩く 社内に入ると、社員は康太に頭を下げ、通り過ぎるのを見送った 悠然と歩く康太は笑っていた 田代は…最上階へ行くエレベーターの前で、待つ エレベーターが到着すると、田代は康太達を先に乗せ、最上階を押した 最上階に着くと、田代は社長室のドアをノックした 「どうぞ。お通しして。」 と、戸浪海里の声がすると、康太は部屋の中へ入っていた 社長室に入った康太は亜沙美の顔を見ると、優しい顔をして会釈をした 「飛鳥井康太です。 隣にいるのは我が伴侶、榊原伊織 そして、我が永遠の親友、緑川一生です。 この度は無理な話に了承して戴き、心よりお礼を申し上げます。」 康太は亜沙美に深々と頭を下げた 亜沙美は、白いワンピースを着て、髪を美しく結わえ、化粧をしていた そして、腕には純白レースで包んだ赤ん坊を抱き締めていた 亜沙美は康太に 「私も…貴方に感謝しております。 何処の誰とも解らぬ方に貰われて行くのは…堪えられませんでしたが…… 貴方が貰って下さると申し出て下さった…。 一生が側にいて…見守ってくれるのなら…私は…安心です…。 本当に…ありがとございました。」 亜沙美は康太に…頭を下げた 康太は天宮の横に座ると、認知する書類にサインした そして親権を持つ書類にサインした 亜沙美は……一生に赤ん坊を渡すと、ソファーに座り、その書類にサインした 総ての書類にサインすると、戸浪の隣に立った 弁護士の天宮は、サインの入った書類を鞄にしまうと 「これで、飛鳥井康太の子供として、飛鳥井へ連れ帰って構いません。」 天宮は…そう言い…ソファーから立ち上がった 「若旦那…暫し時をくれ。」 「承知しております。」 戸浪はそう言うと…妹の背を押した 「一生…伊織に子供を…渡してくれ…」 康太に言われ…一生は、赤ん坊を榊原に渡した 康太は…ソファーから立ち上がると、榊原の腕を握り締め… 弁護士の天宮と戸浪と…社長室を後にした 二人きりになった… 一生と亜沙美は…何も言わず 見詰め合っていた そして……一生は…腕を伸ばし… 亜沙美を…抱き締めた 「貴方を愛しています…今までも…これからも…。」 一生の腕は…震えていた ギュッと抱き締め…亜沙美の髪に… 一生は顔を埋め…匂いを嗅いだ 亜沙美の体臭が…一生を包む 「私も…一生…貴方を愛して…生きていきます…。」 「俺の子供は…生涯…流生…一人と決めた 流生を見守り…育てて行きます… だから、貴女は…苦しまないで…。」 「一生と結婚して…ありふれた生活を…送りたかった 貴方に…抱かれて…目醒めた朝は…忘れません…一生…一生…愛してる!」 戸浪の人間として生きて行かねばならぬ使命は…産まれた時から…決まっていた 親の決めた相手と…愛などない…… 生活を送る…毎日 女として愛されも…抱かれもしない そんな生活じゃない…愛される事を教えてくれたのは…一生だった 愛して…愛して…愛して… 死にたいと想う程……愛してる 一生は…………最期に………優しく接吻した これが……最後の接吻を……… 愛した人と………永久の別れとなる その瞬間に… 刻む様に……一生は… 亜沙美に………接吻をした もう……手には出来ない… 愛しい女性よ… 貴女の分まで…愛すから… どうか…… どうか……… 幸せになって下さい 愛する… 「亜沙美……愛してる…」 一生は…永遠に封印する言葉を…亜沙美に贈った 亜沙美は…一生の手に…銀色の…十字架を握らせた 亜沙美の首に…光る…銀色の…十字架と同じものだった 亜沙美は…一生の頬に…キスして 体を離した そして……ドアに…向かって歩いた ドアを開けると…康太が、流生にキスしていた 優しい瞳で見詰める伴侶が…康太の手から流生を受け取ると… 亜沙美に…渡した 「せめて…貴女の…キスで…お別れしてあげて下さい」 亜沙美は…流生を抱くと… 額にキスを贈り… 抱き締めた 抱き締めて…涙を流した 女なら…我が子を離したい筈などないのだ 一頻り…流生を抱き締めて…亜沙美は… 康太に…流生を渡した そして、榊原には、この日の為に用意した紙袋を…渡した そして、戸浪海里の横に立つと… 深々と頭を下げた 顔を上げた時には…覚悟を決めた瞳をしていた 「流生を幸せにしてあげて下さい。 宜しくお願いします。」 康太は亜沙美の側に行くと 「何時か…逢ってやれ。」 と、伝えた 亜沙美は…何度も頷き…そして… 兄…戸浪海里に頭を下げると、後ろは向く事なく…歩いて行った 榊原は、俯き…涙を流す…一生を抱き締めた そして康太は…一生に流生を抱かせた 「若旦那。本当にありがとう…」 康太の瞳は…涙で…揺れていた 戸浪の瞳も…涙を溢れさせ…泣いていた 「康太…君に渡せて…本当に感謝します 妹の子供を…誰か解らぬ方に…… 里子に出さなくて…本当に良かった…」 「若旦那、オレは流生に総て話して… 受け入れる時が来たら… 逢わせてやりたいと想う。 流生が……自分の生い立ちを受け入れて乗り越えられた時…逢わせてやってくれないか?」 「はい。何時か…… 一生が、その耳のピアスを我が子に渡せ……受け入れし時…逢わせてやりたいと想います。」 「飛鳥井流生… この子の先が明るいように…照らしてやってくれ。」 「力の限り…尽力したいと想います。」 「若旦那、またな。」 「はい。貴方の番犬に近いうちに逢わせて下さい。」 「今日は……一生にくれてやった 明日でも良いかな?」 「はい。此方には来て貰えませんよね?」 「来れねぇ事はねぇ なら、明日な 世話になった 飛鳥井は、此れからも…若旦那、トナミ海運と共に在る。」 戸浪は康太に頭を下げた 康太は、戸浪に軽く頭を下げると、歩き出した エレベーターに乗り込み…扉が閉まる瞬間、康太は笑って…片手をあげた 戸浪は…姿が見えなくなっても… その場を動く事は…出来なかった 康太は…流生を抱き歩く一生に 「顔を上げろ…一生 俯くな…目を離すな… この先も…だ……解ったな?」と告げた 一生は「あぁ、俺は俺の道から目を反らさねぇ…。」と康太に言った エレベーターが一階に着くと、康太は…前を見据え歩いた 会社の外に出て…榊原の車に乗り込むと、榊原は…車を走らせた ゆっくりと…走る…車は… 横浜を抜け…鎌倉に向かった 榊原は、神野が連れて来てくれたレストランへ向かい… テラスでお茶をする事にした 一生は、車の中で…親子の時間を…噛み締めていた この手から…離せば… この子は…俺の子じゃなくなる… 離したくはない… 何処かへ逃走して行きたい… ずっと抱いていてやりたい… だけど…それは出来なかった… 一生は……流生を抱き締め…泣いた 康太と榊原は…身も凍りそうな寒さに耐え… レストランの外のテーブルに座っていた 暖かい珈琲が……あっと言う間に…冷たく…凍える 「伊織…オレ等…相当…変わり者だと思われてるだろうな…」 「そりゃあ……そうでしょ? 上質なスーツを着てるのに…… 震って珈琲なんて飲む奴は…変わり者以外の何者でもないでしょ?」 康太は車の方を向いて 「飛鳥井の為と言え…オレは…ひでぇ事してる自覚は在る…。 飛鳥井へ帰れば…流生は、オレの子供になる… 一生は、我が子は抱けぬ…目の前にいるのに…ひでぇ話だよな…」と呟いた 「それは義兄さんも同じでしょ? 何時か……親として…名乗れると…良いですね。」 「あぁ。そんな日が来たら…飛鳥井に残れるか……解らねぇけどな…。」 「飛鳥井康太の子供ですから…残るでしょ…。君の子供でしょ?」 「……オレと伊織の…育てし子供だ。」 康太はそう言い身震いをした 「伊織…お前を愛してるけど…この寒さは…厳しいな…」 「君への愛で心は燃え滾ってますが…… こうも寒くちゃ…厳しいですね…。」 「伊織…抱き締めて……寒いもんよー」 「此処では…抱き締めて…あげられないので…絶えて下さい。」 「絶えても良いけど…風邪引きそうだ… そもそも…スーツって…暖かさを追求出来ねぇ服だなんだな…」 康太は……震っていた 「しかし…何で僕達は…外で震って…… 珈琲を飲まねばならないんですか…」 「そろゃぁ…一生を見守ってあげましょう…何て言って…… こんな外で飲もうとする…オレ等だからじゃねぇ?」 「そうですね 見守りたいですが…こうも寒くちゃ…座って珈琲なんて…拷問ですね…」 「かと言って……おめぇの手を握って暖めてたら…ホモだと視線は痛てぇしな…… まぁ、オレもホモの自覚はあるかんな…。」 「君は…僕との愛を…ホモと言ってしまいますか……。 まぁ僕達は…堂々とキスできませんが…愛なら誰にも負けませんよ…。 負けませんが…外では出来ませんね… 僕も…君も…同じ性を持ってますからね…」 「男を愛すのも大変だな…誤魔化し生きねぇと…しんどい…想いもある…」 「でも康太…僕達は恵まれてますよ。」 「恵まれてなくても…… 伊織はオレと共にいようとマンションを、買おうとしてくれたり…二人でいられる様に…親にも話した…。 布石を打って…共に暮らす道を…選んでくれた だから、今が在るんだぜ…。」 「康太…」 「オレは…見てるしか出来なかった… 榊原伊織を………見てて…満足してたからな。 動いて…オレを愛してくれたのは…伊織、お前だよ オレは…お前が動かなかったら…今も…お前に嫌われながらも…見てるしか出来なかった… でもな…見てるのは…辛れぇかんな… 逃げて…誰かのモノに成り下がったかな… 魂を結び着けて…来世もお前を愛してる…と、囁いた口で… オレじゃねぇ奴を口説くのを見るのは…耐え難かった… オレは…今世は…諦めた… お前の側に行くのは…諦めた…時もある。」 「康太…」 「お前の…その想いは…前世のモノだと言ったら? お前は…前世でオレの恋人だった…… だから……今も…愛してると…錯覚をしてるのかもな…」 「前世では僕達は親友でしょ? 恋人としては生きてなんかいない……。」 「お前……記憶が…有るのか?」 「夢を見ていましたからね…前世の僕が…康太を愛せと…煩く…夢を見せていました あの夢の中の…君は…大きいでしょ? 清家と変わらない位に…大きく…妖艶でした… 最初…清家と勘違いしたくなる位に…でもあんな性格は…御免ですけど… 僕は、康太に…一目惚れしたって言いませんでしたか…?」 「今のオレは……ちぃさぃからな…」 「僕は飛鳥井康太を愛してるんですよ? 前世の錯覚なら…君には行きません…。」 「……見せた夢が…逆に…オレに向かわせたか?」 「………嫉妬深い…想いは…似てるでしょうが… 僕は…榊原伊織…今世の君の恋人でしょ? しかも…僕の記憶を封印してるのは…君でしょ?弥勒が言ってました。」 「……オレは…お前に…前世の記憶でなんか…愛されたくなかった…。」 「君らしいですよ。僕の奥さん。」 榊原は嬉しそうに微笑み‥‥ 寒い現実を口にした 「奥さん…凍る前に…車に帰りませんか?」 「…だな。」 康太と榊原は、立ち上がると…車へと進んだ そして……車に乗ると榊原はエンジンをかけ …ヒーターを強めた 「寒すぎます…康太…暖めて…」 「仕方ねぇな。」 康太はそう言い、榊原の手を取ると…暖めて擦った 康太の手も…凍えて冷たいから… 息を吹き掛け…擦って暖めると…榊原はその手を…康太の頬に当てた 「冷えきってます…。 こんなに君が冷たくなって…」 「車の中は暖ったけぇな さてと、源右衛門と慎一に見せたら、瑛兄達に見せて…飛鳥井へ帰るとするか! 1ヶ月は外の風に触れさせたらダメだかんな サクサクやるもんよー」 康太が言うと、榊原は車を走らせた… 飛鳥井の主治医の病院まで行き…源右衛門に流生を抱かせた 源右衛門は「生まれし嬰児の先が幸多い様に…我が命…懸けて守ろうぞ」と優しく胸に抱いた そして次に…慎一に…流生を抱かせた 慎一は「皆が愛します…幸せになりなさい…。」と流生の額にキスをした そして康太に頭を下げ 「飛鳥井流生。 飛鳥井康太の子として…見なければならぬ…定めの辛さ…。 我が弟…一生を守って下さって…ありがとうございました」 礼を謂った 一生の兄として心より主に礼を謂う 一生は、そんな兄の優しさに触れ‥‥ その存在の…心強さに…甘えてると…唯一を噛み締めていた 康太は…一生や聡一郎に、慎一の前世の記憶の事は…話してなかった 緑川慎一…それが現在生きる慎一の名前だから…存在だから… 慎一は康太に流生を返すと…一生を抱き締めた 「一生、お前に…似てるな 俺の双子の赤ん坊の頃の顔に…良く似てる…。」 一生は慎一の服を掴み…頷いた 慎一の存在が…どれたけ救いになったか… 同じ父親の血を受けし慎一の存在が…一生の救いであり…支えだった 康太とは違う部分で…一生は、慎一の存在を…救いに想っていた 康太は流生を、榊原に渡した 「一生、会社に行く 慎一、明日の朝、迎えに来るから…トナミ海運へ行って、書類にサインしに行こう 呼びに来るからな。」 慎一は頷いた 康太は…源右衛門に頭を下げ、病室を後にした 駐車場に行き車に乗ると、康太は流生を一生に渡した そして助手席に乗り込んだ 飛鳥井建設の地下駐車場に車を停め 最上階へ向かうエレベーターに乗り込み… 最上階へ向かった 最上階で、エレベーターが止まると、康太は下りた 一生から、流生を渡してもらい、その手に抱く 途中で設計部の部長の栗田に出逢った 栗田は驚いた顔をしていた 「その赤ん坊は? どうなさったのですか?」 栗田が尋ねると…康太は笑い 「オレの二人目の子供だ」と答えた 「産んだんですか?君が?」 「栗田…オレは…男だからな産めねぇよ だがな、戸籍上は…オレの実子は既に二人目、この子は次男になる。」 深い訳など聞いてはならぬ… 栗田は話題を変えた 「可愛い…赤ん坊ちゃんですね…」 「そりゃぁな、種が良いからな お前の目の前の男の子供だからな…可愛くねぇ訳はねぇんだよ。」 栗田は…ギョッとして一生を見た 「ならな、栗田 恵太は元気にしてるか? 2月1日のオレの誕生日には飛鳥井へ一緒に来い 蒼太も呼ぶ 来ると良い。 その時に、オレの子供を見ると良い オレの子供の長男は一条隼人だが、戸籍上は…翔が長男だからな 見に来ると良い オレの長男は…飛鳥井瑛太に酷似してるぜ なんせ、瑛兄の子だからな。」 康太はそう言い…笑って栗田の横を通り過ぎた 榊原が康太に「栗田が固まってますよ…」と苦言を呈した 「道ずれだ…どの道…見なければ行けねぇだろ? ならば最初に教えとく人間も作っておく」 康太は笑って歩いた そして、瑛太のいる副社長室をノックした すると、瑛太がドアを開けた 「康太?……ひょっとして…流生ですか?」 「そうだ。戸浪から…託された…子供だ。」 瑛太は流生を康太から渡してもらい…腕に抱いた 「和希と和馬に似てますね。」 瑛太は流生を、胸に抱き…頬に接吻した 「流生、君は愛を込めて、この世に生まれし子供です 私も…愛しましょう君を。 翔と共に…愛します。」 「瑛兄、そのまま、母ちゃんの部屋に行って見せてくれ オレは父ちゃんを呼んで母ちゃんの部屋に行く。」 瑛太は、解りました。と、部屋を出て…行った 康太と榊原と、一生は社長室のドアをノックした ドアを開けた清隆は…康太を優しく抱き締めた 「流生は、来たのかい?」 康太は頷き…父に抱き着いた 「父ちゃん…オレは…」 康太が言いかけると…清隆は康太を抱き上げた 「康太、父も愛しますよ…お前の宝を。 お前の子を。だから、泣かないの。」 康太は父の首に腕を回し…抱き着いた 「母ちゃんの所に…流生がいる。」 「ならば、見に行きますか。」 清隆は康太を抱っこしたまま、歩き出す 皆で…玲香の部屋に行き、流生を目にした 玲香は流生を腕に抱いて 「流生…幸せに…なれ…。 誰よりも幸せになれ。」頬にキスを落とした 清隆も康太を下ろし、流生を胸に抱いた 「翔も流生も…後3人、我が家には赤ちゃんが来ますね…。 そしたら、瑛太の所も産まれますか…。 飛鳥井の明日は…輝かしい明日に包まれています。」 そして、清隆も…流生にキスを贈った 「流生…君が苦しまなくて良い…明日を築いてあげましょう じぃじは、お前の為なら…命を懸けて守ってあげましょう。」 飛鳥井の家族に大切にされている…流生を、一生は、じっと見ていた 愛され…大切な宝に…されて…生まれし魂は…光輝いていた 清隆は康太に流生を返した 康太は家族に「総て、滞りなく、東青がやってくれた 手続きは、総て東青がしてくれる 飛鳥井流生として、この子は飛鳥井の歯車に嵌まった…もう替わりはいねぇ。」と告げた 瑛太は…そっと…一生を抱き締めた 「慎一の所も、後少しでカタが着く。 そしたら、オレの誕生日には退院させて、祝ってくれ 恵太も蒼太も声をかけた。 来てくれる筈だ そしたら、宴会だな 母ちゃん。楽しむもんよー」 康太は笑って家族に言葉を投げ掛けた 一番……胸を痛めてるのは康太なのに… 榊原は、康太の手から流生を貰うと…一生に渡した 「飛鳥井の家に入るまでは…君が持って行きなさい 家に入ったら…返して下さい。 康太の宝ですから…。 僕の子供ですから。 僕と妻が…精一杯愛します。」 榊原は、康太を抱き寄せ…つむじにキスした 名実共に…飛鳥井康太の実子として戸籍に入っている… 翔と流生を…家族皆が…守り育てて行く決意をしていた 「ならば、オレは流生を飛鳥井の家に連れ帰る。」 康太はそう言うと…姿勢を正し…家族に深々と頭を下げた 「飛鳥井の家は…オレから翔に受け継がれ…明日へと続く… オレはその礎になり飛鳥井の為に死ぬ…。 在るべきカタチに歯車は動き出した…。 もう……オレが死んだって…その歯車は止まらねぇ…。 オレの我が儘を受け入れてくれて…有り難う御座いました。」 ケジメだった…。 康太の家族へ対する…ケジメ。 家族は総てを受け止めて…明日へと続く… 決意は…とうに出来ていた 康太が血を吐き…苦しみ泣いた日々を… 家族は決して…忘れはしない…… 康太は背を向けると、振り向かず歩き出した 康太の背に、榊原は続いた そして…一生が流生を腕に抱き…飛鳥井の家族に頭を下げ…康太に続いた 玲香の部屋を出ると…京香が立っていた 康太は笑って京香に近付いた 「翔は?留守番か?」 「聡一郎と悠太が家にいる。 二人が見ててやるから…見届けに行けと言った その子が流生か?」 「そうだ。 でも、飛鳥井に帰ってから抱け。 一生が父親として抱けるのは…… これで最後だ…。邪魔をしてやるな…。」 「解っておる 解っているから来たのだ…。 我も見届ける…。 一生の想いを…見届ける為に来たのだ…。」 「なら、見ておいてやれ。 飛鳥井の家に帰れば…その子は…飛鳥井康太の実子となる。」 京香は、頷いた そして…一生と流生の姿を見ていた その姿が…揺らいで…霞もうとも… 京香は……見届けて…見送ってやった 翔と…同じ…境遇の子を…愛して…見守る為に …京香は…何時までも…その姿を…見送った 飛鳥井の家の駐車場に車を停めると、聡一郎と悠太が…翔を腕に抱いて、外に出て来た 康太が車から降り、榊原が車から下りると… 一生も…流生を腕に抱えたまま…車から降りた 一生は……腕に抱いた…命を抱き締め… そして想いを振り絞った 「流生は、飛鳥井の家族に愛され…誰よりも幸せそうに笑っていた…。 亜沙美が言っていた様に…何処の…誰か…、解らない人間に貰われた訳じゃねぇ…。ずっと見続けられる…。 康太…本当に有り難う………流生を愛してやってくれ…」 一生は、そう言い…流生を康太の手に渡した 康太は……菩薩の様に慈悲深い笑みを浮かべると、流生を貰った 「誰よりも…幸せにする… 翔も流生も…他の子供も。 愛して育てる 一生、お前も…一緒に育てるんだぞ…。 何時か…名乗れる日まで…堪えてくれ…一生……」 一生は、頷いた…

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