37 / 79

第37話 宣誓

お前等に 追い出される前に 出ていってやる 朝、目が醒めると、榊原は康太を胸に抱いた 康太が、榊原の胸から顔を上げ…笑う 「おはよう伊織。」 「おはよう…康太。」 榊原が康太の唇にキスを落とす 二人は起きて、浴室で体を洗うと、何時ものように榊原が、康太の支度をして行く 支度が済むとリビングに座らせ、掃除と洗濯に精を出した 一生が、覗きに来ると、康太がリビングに座っていて、思わず康太に飛び付いた 「お前が…此処に座ってるって事は! 旦那は目を醒ましたのかよ!」 「あぁ。昨日、目を醒ました…」 「早く言え…馬鹿野郎!」 一頻り、一生を慰めると康太は不敵にほくそ笑み…言葉にした 「一生、四悪童としての最後の置き土産! やるぜ!やらずに卒業するかよ!」 一生は、嬉しそうに笑うと 「やるのかよ!」と確認した 「やんぜ!追い出される前に…追い出されてやる! その前に学園を捲き込んで、でけぇ花火を上げねぇとな。」 「何すんだよ?」 「取り敢えず…学校に行ってメンバーを集める。」 「兵藤?」 「だけじゃねぇ! 清家も伊織も…前期生徒会と執行部は使わねぇとな。伝説にならねぇとな。」 一生は、わくわくしていた 「今日は28日だから、今しかチャンスはねぇ! 慎一も帰って来る。 そしたら、オレ等四悪童と伊織と慎一を入れて、全校生徒で想い出を作る。」 康太が謂うと一生は四悪童の一人 一条隼人に想いを馳せた 「最近……隼人は…来ねぇな…何か有ったのか?」 「……菜々子は入院してるだろ? 下手したら…出産まで…体力が…持たねぇ… 子供も…生めるか…危ねぇ状態だ…隼人は…離れられねぇだろ…。 オレの見る果てと…違うかんな…解らねぇんだよ…」 「きっと産まれる…諦めたら…その手から零れて行くって…教えたのは!おめぇだろ!」 「…一生…」 康太は…一生に抱き着いた 一生は、康太を抱き締め… 「そう言やぁ、慎一の部屋、出来上がったな 元、慎一の部屋も客間に変身していた。 すんげぇゴージャスな部屋になってて瑛太さんも義母さんも驚いてたぜ。」 「慎一の部屋のクローゼットの中に服とか下着とか…入れといてくれたか?」 「バッチリ入れといたぜ!」 「なら、慎一がいつ帰って来ても安心だな 今日辺り…帰って来るからな…間に合って良かった」 「えっ!早えぇよ!2月頭だろ?」 「じぃちゃんと、慎一が、もう退院させろと煩くて…… 主治医が…許可を出したって…瑛兄が、言ってた…。」 「えっ!やはり医者を脅すのは…飛鳥井の専売特許だな…」 「学校の帰りに…迎えに…行く予定だ…。 待たなきゃ金は払わんぞって脅しといた…って瑛兄が……。」 「………瑛太さんは…怒ると怖ぇーからな そりゃぁ聞くしかねぇな…。」 「……??瑛兄は、怒らねぇよ? 見た事ねぇもんよー」 「嘘…あの鬼を?? 鬼と言えば伊織も鬼だぞ…」 「鬼??瑛兄も伊織も??? 怒るのか? 怖えーのか? チビりそうに怖えーのか? あっ!執行部の鬼って言われてたな…。」 「忘れてたのかよ? 確実に…チビりそうになるな 何たって…鬼だからな!皆…ビビりまくりだ!」 「そうなのか?なら、オレもチビりそうになる位…怒られるのか?」 その時…ヌーッと黒い影が…一生の上に被った 見ると…榊原だった… 一生は、慌てた…なんせ鬼だから… 「一生、僕は鬼では有りませんよ。 義兄さんは知りませんが、僕は仏と有名です。」 一生は、心の中で『嘘つき!鬼だろ!おめぇはよぉ!』と毒づいた 「一生…永久に眠ってみますか?」 冷たい微笑みを浮かべ…榊原は、一生の耳元で囁いた 一生は、慌てて飛び退いた! 「冗談!永久に眠りたくなんかねぇよ!」 「ならば、疎い康太に、あれもこれも聞かせなくて良いです 僕は康太の前でだけ優しい男でいれば良いんですからね。」 一生は、うんうん!と頷いた なのに!康太は! 「伊織、お前、鬼なのか? そう言やぁ、執行部の鬼って言われてたな 鬼じゃなくて龍なのにな…。」 そう言い笑った 「康太……。」 榊原は、情けない声を出した そんな古い……遥か…昔の…事を言われても… 康太は手を伸ばして…榊原に抱き着いた 「オレの伊織だから。」 榊原は、康太を抱き上げ 「君の僕です。」 と言い、頬にキスした 何時もの朝だった 熱いカップルに…仲間がいて… 朝食を取り、学校に行く 当たり前の…日々が…再び訪れた 学校に行くと、康太と一生と聡一郎は、普通に授業を受けた 桜林はエスカレーター式の学校だから幼稚舎から、大学まで進級試験に受かれば上がって行ける学校だった その所為か、そのまま大学に進級する奴は… 揺ったりと過ごし、外部入試組は殺気だっていた 2月に入ると3年は…卒業式の練習と… 授業数の足りない奴以外は自由登校になる その前に動かねば、何も出来ず終わってしまう… 康太は昼休みになると、すぐに動いた 授業が終わると生徒は…帰ってしまうから… 3年は半日の登校が続いていたから…。 康太は昼休み前に…3年A組のクラスに行き 兵藤貴史の…眠りの邪魔をした 遣る事もなく…眠たい退屈な時間に辟易して、兵藤は目を瞑ろうとしていた 眠りに着こうかと思っていたら… 廊下から慌ただしい足音がして…振り向くと康太と一生、聡一郎が兵藤目掛けて歩いていた 康太は、兵藤と目が合うと…嗤った 「兵藤貴史、話が有る。」 「楽しい話なら聞いてやる 違うなら、聞く気はねぇぜ!」 「楽しいに決まってるやん オレ等、3年生は、追い出される前に、出ていってやる!宣言祭をやんだよ! 学園の奴を捲き込んでな! 3年生壮行会なんてクソ食らえだ! 追い出される前に出ていってやるぜ!って事で、清家も榊原も、駆り出して、盛大にやんぜ! オレ等のいなくなった後も…語り継がれる…事をやらねぇとな!」 康太が言うと、兵藤はニャッと笑った 「楽しそうじゃんか! なら、3年の前期の生徒会の執行部の役員を揃えて、花火を上げねぇとな!」 「だろ?追い出されてたまるか!」 「だな!こっちから、出てってやるんだよな!」 康太と兵藤は、悪ガキの様に笑い、互いの拳を重ねた 「卒業を前に…あんまし平和で眠くなってた所だ。」 「平和ボケするには若すぎんぜ! 若いうちは攻めて行かねぇとな!」 「それも、そうだな 平和なんて感じるのは…ジジイになってから充分だな」 「オレ等…これから行くのは戦地だぜ! 戦い抜かねぇと、認められねぇ世界に行くのに平和ボケしてんじゃねぇよ!」 「お前にかかったら、俺は形無しだな…」 兵藤は苦笑した 「オレは負けねぇぜ!」 「当たり前だ! お前は飛鳥井康太だからな!」 兵藤は、清家と榊原、そして前期生徒会役員と執行部の役員に声をかけた 「我等、前期生徒会役員、執行部役員の底力を見せてやるぜ!」 と、声をかけると、前期役員は、大喜びをした 「何処で話し合うよ?」 兵藤が言うと、康太は 「そりゃぁ生徒会室に決まってるやん! お前等は功労者なんだぜ! 現、生徒会と執行部は、食っちまわなきゃな!」 兵藤は、ふふふっと笑った そして兵藤は立ち上がると 「我等の底力を見せつけてやる! 最後の置き土産だ!手を抜くな!」と宣言した 兵藤と康太が、悪巧みを話して楽しそうに歩く 康太の後ろには榊原が控え一生と聡一郎、そして兵藤の後ろには前期生徒会と執行部の役員が着いて歩いた 生徒会室のドアをガラッと開けられて、現生徒会の役員は飛び上がる程に驚いていた 康太は兵藤を肘で催促すると…兵藤は 「おめぇが言え! 言い出しっぺが言え!」と聞いてはくれなかった 康太は一歩前に出ると、現生徒会役員に深々と頭を下げた、そして右手を胸に当て 「現生徒会役員、執行部役員に告ぐ! 我等は追い出される前に出ていってやる! それを此処に宣言します!」と宣誓した 兵藤は笑って 「そう言う事だ。我等、前期生徒会役員と執行部役員は『追い出される前に出ていってやる!宣言祭』をやる事にした。 祭りをやる デカイ花火を上げ…我等3年は此処を出て行ってやる だから、この部屋を使わせろ! 使わせねぇと占拠する。」と言い捨てた 現生徒会長は…溜め息を着いた… 「占拠されなくても…ご自由に使って下さい 無論、お手伝いも致します。」 「だとさ、康太。良かったな!」 「なら、サクサク動くもんよー! 時間がねぇかんな!動きやがれ!」 康太が、そう言うと、兵藤が康太に食って掛かった 「何をやるか聞いてねぇ! 何やる気なんだよ!」 「卒業って言えばダンスパーティーだろ? クラス対抗で踊って貰って…最後は皆で踊る そして、各自、材料を持って来て…鍋だな!どんな味になるかは解らねぇ! 持って来たのを、全て入れて…鍋にすんだよ!それを、2月24日にやる。 オレから全校生徒にチョコを送ってやんよ!」 「なら、俺にも乗せろ。」 兵藤が言うと、清家も榊原も、乗ってきて 結局、前期生徒会と執行部役員で出し合う事になった 兵藤は「でも…最大の敵は時間か……。時間がねぇな…」と呟いた 「貴史、今晩、連絡網で明日の朝全校朝礼を開くと流せれば良い。 現生徒会に伝令を出させて教師を動かし、確実にやらせれば時間は短縮出来るぜ! そしたら、明日の朝には全校生徒の知る所となる。だろ?」 「だな。現生徒会の方に動いて貰うのは忍びねぇ…。 俺が自ら行って教師を動かすとするか。 ほれ、康太、行くぞ。時間がねぇぞ!」 兵藤は、康太を急かし、生徒会室を出て行った ついつい早足に走る二人に…榊原は 「廊下は走らない!!」と怒鳴った すると、生徒の動きがピタッと止まった 康太は「やはり、鬼か…」と呟き笑った 康太は兵藤の背中に這い上がり、こなきジジイと化した 「二人で走ると怒られる…貴史、お前走れ!」 兵藤は康太を背負い…走った 「康太!そう言う意味では有りませんよ! 廊下を走るな!と言ってるんですよ! 兵藤の背中に乗ったって…ダメなんです!」 榊原が怒り狂って…叫ぶ 兵藤が「怖ぇな…規律と秩序を守る執行部の鬼は健在だな」と笑った 「貴史、走れ!」 康太は叫んだ 職員室に来ると、康太は兵藤の背中から降りた そして、ずんずん職員室に入って行く 職員室の奥の校長室まで進み、ドアをノックした すると…校長室の中には理事長の神楽四季が待ち構えていた 「君が動いたと春彦から連絡が入ったので来ちゃいました。」 神楽はそう言い、康太に抱き着いた 「彦ちゃんの情報網はすげぇな…」 康太が呟く そこへ榊原を初めとする面々が到着し、神楽は校長室の椅子に座った 神楽は康太達に向き直ると 「御用件を伺いましょうか?」と切り出した 康太は神楽の前に立つとお辞儀をした 「我等四悪童と、前期生徒会、執行部の面々とで、在校生に送られる前に 『出て行ってやる!宣言祭』を遣ろうと思うので、明日の朝全校朝礼を開くと伝令を流して欲しいのです。」と御願いした 神楽は微笑み 「追い出される前に出ていってやるんですね 貴方らしい。 全面協力して差し上げます 在校生に置き土産して行って下さいね。」 康太は深々と頭を下げた 兵藤も「忘れられない伝説は…語り継がれる 俺等は、誰にも抜かせねぇ伝説を作る。 全面協力、有り難う御座います。」と深々と頭を下げた 神楽は「誰よりも愛された四悪童と、誰よりも名を馳せた生徒会長、そして、規律と秩序を守り続けた執行部の部長。副会長の清家。 君達の時代を目の当たりに出来た生徒は幸せですね。奇跡の世代…。まさに、君達は…奇跡で出来ているのかも知れない。私はそれを見届けさせて貰うよ。」と、言葉を贈った そして立ち上がり、職員室に顔を出し伝令を出した 康太はその姿を見て「動き出したな。」と呟いた 動き出したイベントは…最後を迎えるまで…終わらない 康太の髪が…風も無いのに靡いていた 暫くして…神楽が伝令を流した…と戻って来た 「参加せねば卒業も進級もさせないので、絶対に参加しないと付け加えておきました」 と神楽は笑顔で康太に言い…康太を抱き締めた 「もう…卒業ですか 君に始めて逢った時は…高校に入る前… その君が…この学舎を巣立って行きますか…感慨無量です。」 「また、逢える だから哀しむな。」 「絶対ですよ!」 「逢いたいなら逢いに来い四季」 「行きます!だから………」後はもう…言葉にならなかった… 康太は一頻り神楽を抱き締め…そして、一礼して校長室を後にした 「貴史、オレは今日はもう帰る 慎一が、退院して来るんだよ、明日な 朝早く、お前んちに行くかんな 久し振りに歩いて来るか?」 「慎一に退院おめでとうと、伝えてくれ。 明日の朝は待ってるな。ならな。」 康太は片手を上げると、兵藤に背を向け歩き出した 清家にも別れを告げ、康太はクラスに戻り、鞄を取りに行き、駐車場へと向かった 駐車場には、力哉が待っていて、康太達は車に乗り込んだ 力哉は飛鳥井の主治医の病院へ向かい、車を走らせた 病院の駐車場に車を停めると、康太は車から降りた 榊原も一生と聡一郎も車を降りた 力哉は康太から封筒を渡されると、院内に入って行き精算をしに行った 康太達は慎一と源右衛門のいる病室に向かった ドアをノックすると、慎一がドアを開けた 康太は病室に入ると慎一と源右衛門は、既に支度を済ませていた 「伊織、一生、聡一郎を連れて、病室の荷物を車へ運んでくれ。」 康太が言うと、榊原は三人で手分けして源右衛門と慎一の荷物を運び出した 康太は慎一の頬に手を当てた 「お前の部屋は二階になった 文句は聞かないからな。」 「文句など言いません。」 「卒業まで……後少しだ 想い出を作らねぇとな。」 「はい。」 康太は……優しく…慎一を抱き締めた 「部屋は二階になっても、じぃちゃんの事も気に掛けてやってくれ。」 「解ってます。」 「二階の部屋には子供の勉強机とベッドが1つになってる奴を入れたから、小学校は飛鳥井から通わせろ。」 「えっ?」 「週末は牧場に連れて行け。」 「康太…」 「そして、お前は上へ進学しろ 双子に恥ずかしくない学歴を持たなきゃな。」 「康太…俺は…」 「双子が小学校に上がるまで、大学へ行き、小学校に入学の頃には落第しなきゃ卒業だ そしたら、お前が働いて双子を桜林に入れて育てて行けば良い。」 慎一は…言葉もなく…康太に抱き着いた… 「慎一、お前は力を持たぬけど…和希と和馬は受けて出ているぞ。」 慎一は顔を上げ…驚愕の瞳で康太を見た 「嘘…何故…」 「お前の…御厨の血を引く…住職とその息子も…少しだけ力を持っている だから弥勒親子に預けた だから、不思議ではねぇんだよ 和希と和馬が影響してても。 も少ししたら…その力が人と違うと悩む時が来る…からな、翔と共に…修行させる気だ。 力を否定させたくはねぇんだよ。 知らずにいれば…間違った方に行く可能性もある。 そしたらオレは…討たねばならぬ。 喩え…オレを継ぐ人間でも…違えれば討つ…それがオレの定め…許せ…」 慎一は…俯き…呟いた 「皮肉ですね…力は要らぬと…捨てたのに… 何も持たぬ男の子が…力持ちとは…」 悲観する慎一の頬を康太は叩いた 「オレが間違った方へは行かせねぇ! 命に変えても…絶対に守ってやるから!」 「康太…」 「だから、4年で大学を出て、そしたら、双子を引き取れ。 良いな。戸浪から賃貸料が入る。 それを遣り繰りして、お前は学べ 良いな。」 「はい。」 「そしたら…後はオレが引き受ける。 お前は何も心配するな 今晩、双子は飛鳥井の家に帰ってくる 久し振りだ。抱き締めてやれ。」 慎一は…何度も頷いた 榊原や一生、聡一郎は、そんな二人を…何も言わず…見ていた 榊原は、慎一の側に行き…優しく抱き締めた 「何も心配しなくて良いんですよ 在るが儘に……受け入れれば良い。」 慎一は頷いた 一生も聡一郎も慎一の側に行き…抱き締めた 一人じゃないと…思い知らされた瞬間だった 優しい手が…慎一を慰める… 康太は慎一の背中をポンポンと叩くと離れた そして源右衛門の所へ行った 「じぃちゃん、帰るぞ 毎週の通院は欠かさずにな。 欠かしたら玲香の所へ連絡が入る様にしといたから。」 源右衛門は、よりによって…一番怖いのに言わなくても…と、情けない顔をした 「康太…玲香は……怒ると怖い…」 「なら、瑛兄?」 「それも…怖い…」 「なら、伊織にしとく?」 康太の後ろの榊原が、ニャッと嗤った 「一番嫌かも…」 何故!清隆と言ってくれねないのか… 源右衛門は焦れた 「あぁ。父ちゃんは『なんなら、毒が総て抜けるまで入院なさってて下さい!』って伝えといてくれって! 毒が浸透する位なら入院してろ!って、言ってたから、今回は味方にすらならないぜ! 入院か通院か…って事だ。」 源右衛門が肩を落とすと、榊原が 「僕が毎週、連れて来ますから、治して下さいね。」と追い討ちをかけた 「鬼…に睨まれては…敵わんな… 瑛太と言い…伊織と言い…玲香と言い… 融通がきかないのばかり…おりおって…」 康太は呆れて「それを言うなら、じぃちゃんが一番、融通がきかねぇじゃんかよー」とボヤいた 源右衛門は、拗ねて立ち上がると、榊原が体を支えた 慎一が立ち上がると一生が、支え 聡一郎は病室のドアを開けた 「じゃぁ、飛鳥井の家へ帰るかんな!」 康太が言うと、全員が歩き出した そこへ支払いを済ませた力哉が現れた 「康太、車を正面玄関に着けました 病室側から見送りをしたいと言う事なので 正面玄関から、帰るようにと言われました。」 「なら、仕方がねぇな 現 真贋と 前 真贋だからな 敬って貰うのは当たり前ぇだかんな。」 正面玄関まで降りていくと、院長の飛鳥井義恭を初めとする職員が立っていた 「御退院 おめでとう御座います。」 義恭は頭を下げ敬った 「世話になった。 なんせ、我が儘だかんな じぃちゃんも、慎一も頑固だしな…」 「貴方と共に行く人間は…総て頑固でしょうて。 でなけば、修羅の道は通れはせん。 慎一も源右衛門も、通院は欠かさずにな。」 「解ってる!オレが連れてくる。 オレで聞かぬ時は…伴侶がおる。」 義恭は榊原に目をやり…納得した 伴侶と言うだけあって、一筋縄では行かない人間だと…顔を見れば解る程に… 義恭は深々と頭を下げた 康太は軽く礼をすると、歩き出した そして力哉の車に全員乗り込むと片手を上げた 車は…静かに走り出し…飛鳥井の家へ向かった

ともだちにシェアしよう!