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第39話 苦悩
康太の誕生日も、そろそろ近付いた日の学校の帰り道
康太は力哉に
「力哉、帰りに宙夢の所へ寄ってくれ!」と声をかけた
力哉は「解りました。」と車を神野の新しい事務所の方へ向けて走らせた
神野の芸能事務所は完成し
蒼太と矢野宙夢は神野が経営する芸能事務所の上のマンションに居を構えていた
力哉は神野の芸能事務所が入ったビルへと向かうと駐車場に車を停めた
康太は榊原と共に車を下りて、蒼太の住む部屋の階まで向かった
矢野のアトリエ兼住居のベルを鳴らすと、宙夢が出て来て、康太の姿に…驚き言葉を無くした
「宙夢…何方でしたか?」
蒼太が、声をかけながら奥から出た来ると…
康太の姿に…驚いて…やはり言葉を無くした
「宙夢…オレは門前払いなんかよ!」
康太が拗ねると、慌てて矢野も蒼太も、康太達をアトリエに入れた
康太はアトリエのソファーに座ると、足を組んだ
「2月1日に飛鳥井の家へ…行く前に君に逢えるなんて…驚きでした」
矢野が康太達の前にお茶を出しながら嬉しそうに言う
「何時でも遊びに来いって言っても来ねぇのは宙夢じゃねぇか
オレの子は、もう二人になってんぜ
子守しねぇのかよ。」
康太は笑った
飛鳥井の家へ敷居は…やはり高かった…
蒼太は、康太に「今日は、何か用ですか?」と尋ねた
「用が無きゃ来るな…と言うのかよ?」
蒼太は、慌てた
「違う!でも貴方が…来たと言うのは…用がなくては…有り得ない…。」
蒼太は…康太にそう言った
康太は優しく笑った
「宙夢に1000人分のチョコレートを用意する手助けをして欲しくてな。」
矢野は驚いた
「1000人!」
「そう。卒業だかんな
イベントをやる!
全校生徒にオレ等から贈るチョコレートだ。」
康太が言うと、蒼太は康太を抱き締めた
「卒業……そうか
もうそんな年になるんですね。」
康太は笑って蒼太を見上げた
「蒼兄、幸せか?」
「幸せですよ。
君がくれた幸せです。」
「ならば、良い
もっと気楽に飛鳥井の家へ来い。」
「………案外…敷居が高いんですが…」
「オレが何も言わねば、誰も文句は言わねぇ。」
「君が…そんなんだから、甘えてしまうでしょ!」
康太は笑って兄を抱き締めた
「宙夢…幸せにしてもらってるか?」
康太はそう言い、手を広げた
吸い寄せられる様に…矢野は康太に抱き着いた
「幸せです!こんなに幸せで…怖い位です!」
「なら、動いてやった甲斐があるな。」
矢野宙夢は、一条隼人の専属デザィナーとして注目を集めていた
新進気鋭のデザィナーとして、仕事も入って来て、経済的には…二人で食べて行くには充分以上の稼ぎをしていた
矢野は顔が広く…パテシェとかにも顔が利き、康太はそれを知っていて、矢野を尋ねた
「康太!予算は幾らなんですか!」
矢野は、頼ってくれて嬉しそうに康太に声をかけた
「一つ、200円位の単価計算で1000個。
200000円位の予算を予定してる。」
「解りました。聞いてみます。
で、何時までに必要なんですか?」
「2月24日の朝までには要る。ダメかな?」
「絶対に!間に合わせるしかないでしょ!
蒼太!康太の頼みです!僕をこれから、乃木坂の神林パテシェの所へ乗せて行きなさい!」
矢野が言うと、蒼太は「はい。」と言い、尻に敷かれていた
康太は立ち上がった
「宙夢、2月1日のオレの誕生日には絶対に来いよ。
オレの子供を子守するんだろ?」
矢野は何度も頷いた
「じゃ、頼むな。」
康太はそう言い片手をあげて背を向けた
その後ろに榊原が続き、一生、聡一郎、慎一、力哉が続いた
力哉の車に乗り込むと、榊原が
「蒼太さん、幸せそうで良かったですね。」と言った
康太は笑顔を曇らせ‥‥
「軌道修正すれば‥‥正しき道へ導かれると想ってたんだがな‥‥」とごちた
榊原が「康太?」と問い掛けると
「伊織、帰るとするか」と声を描けた
力哉が車を出そうとすると…神野が窓をノックした
康太は深い溜め息を着くと…車から降り
「力哉、帰って良いぞ
オレは歩いて帰れねぇ事もねぇからな!」と告げた
榊原は、車から降りドアを閉めると、車は走り出した
榊原は康太の背後に立ち…抱き締めた
神野は…康太に深々と頭を下げた
「済みません…お呼び止めして……
隼人を…支えて下さい……見てられません…」
と、泣きながら…康太に哀願した
「………神野、明日の夕方四時位に病院へ行く
駐車場で待ってろ
その足で院長の所へ向かう
院長に飛鳥井康太が逢いたがっていると伝えて、アポイント取っておいてくれ」
「解りました。」
「神野…哀しみは…これでは終わらねぇ…
まだ序章にもなってねぇ……
亡くしてからが…本当の隼人の闘いになる…。」
神野は…グッと堪えた…
「ならな、神野。」
康太は歩き出した
「車で…お送りします。」
「嫌…良い
歩いて帰っても知れている。」と言い康太は振り向きもせずに歩き出した
歩き出して直ぐの場所に力哉の車が停まっていた
康太はドアをノックすると、榊原と共に車に乗り込んだ
一生は「神野は何だって?」と問い質した
「家に帰ってからな。」
そう言い…後は…何も言わなかった
家に帰ると康太は3階自室のリビングに座って…溜め息を着いた
後から…榊原と一生、聡一郎、慎一が康太を見守っていた
「一生、東青が双子を連れて来る
慎一と応接間に行って待ってろ
その前に慎一の部屋を教えてやれ。」
康太が言うと、一生は、了解…とリビングから出て行った
「聡一郎、東青にお茶を淹れてくれ。」
聡一郎は「解りました。」と言い、リビングを出て行った
康太は目を瞑り…
弥勒に呼び掛けた
「弥勒…弥勒…オレはどうしたら良い?」
『産ませるしかなかろうて…6ヶ月過ぎた今なら…保育器に入れて育てられる…』
「オレは……今回は…流そうと思う…
琴音は…黄泉に送ろうと…思う…
清香の元へ琴音の魂を送るしかねぇ…と。」
『康太…それでも…奈々子は…助かりはしない…。
子供も奈々子も亡くした隼人の想いを…考えた事は有るのか…?』
「何もかもが…狂った…果てと……オレの所為だ。
転生させずに…送っておけば良かった…。」
『康太!!人の命を決めるのは、お前であって良い筈がなかろう!
転生させてしまったんだ!お前が諦めるな!』
「総ては…オレの所為だ…未熟なオレの所為だ。」
『今更自分を責めるな!
伴侶殿…康太を叩いて下さらぬか?
自分を責めても何も始まりはしない。
後ろ向きに考えて、先は見えぬ。
頼みます……』
榊原は、弥勒に言われ…
康太の頬を叩いた
康太の瞳が…榊原を見た
「伊織…」
「弥勒の言う通りです!
人の命を決めるのは…君では有りません!」
康太は苦しそうに瞳を閉じ、弥勒に尋ねた
「弥勒…ならば、今……産めば…少しは子供を見れらのか?」
『今ならな…魂が…尽きるまで…少しはある……』
「ならば、三人の時間を…作らねぇとな…」
榊原は…康太を抱き締めた…
「弥勒…ありがと…な 」
『康太…堪えてくれ…。』
「あぁ……解ってんよ
明日……院長に…産ませるように…言う。」
『ならば…俺は導こう…。
龍騎と共に…導き…お前に渡そう…』
「………あぁ。……っ…」
康太は…目頭を押さえ…嗚咽を漏らした…
榊原は康太を抱き締めた
そこへ慎一がリビングに入って来た
榊原の胸に顔を埋める…康太の姿を見て、慌てて近寄って来た
「康太…どうしたんですか?」
慎一が心配そうに聞くと…
一生もリビングに顔を出し…慌てて康太の側に寄ってきた
「康太!どうしたよ!
何があったんだよ!」
榊原は康太の背中を撫でながら…
「隼人の……事で…康太は悩んで苦しんでいます…。」
一生は康太を抱き締めた
「だから、悩むな!
あるがままを受け入れろ…と言ったじゃねぇか!」
康太は顔を上げて…一生を見た
「オレは……隼人に何もしてやれねぇんだ!
何故だ?
こんな辛い想いをさせてるのに…
何故?
何も出来ねぇんだ?
隼人が初めて愛した女なのに……こんな!
何故!何故……隼人ばかりこんな目に合うんだ?
アイツの人生を…幸せで…満たしてやりたかったのに…」
榊原は康太を抱き締めた
「康太…諦めないで…」
悲しむ康太を……慎一は…苦しそうに見て‥‥
その原因になった己を‥‥呪いたくなっていた
「俺の所為ですか?
俺が…放った滅びの序章で…貴方の果てが狂ったのですか?…
ならば……俺は…貴方の側にいる資格すらない……」
総てを憎み…飛鳥井を恨んだ
同じ眼を…女神から譲り受ける一族なのに…
…何故…御厨は滅び…飛鳥井は栄える?
何故?
何故に?
目の前から…総てが消えた…
信じていた…人間も…友人も…お金も…名声も…眼も…
総てを無くし……飛鳥井を恨んだ…
逆恨みで…恨んで
滅ぼそうとした…
百年の時をかけて…飛鳥井を滅ぼす為に……
それが……飛鳥井康太の果てを狂わせた…
慎一は…背を向け…部屋を出ようとした
「行くな!行くな…慎一!
お前の所為じゃねぇ!だから、行くな!」
康太は叫んだ!
慎一は…首をふった…
「俺の放った…滅びの序章で…貴方の果てが…狂ったんでしょ?
ならば俺の所為です…」
「一生!慎一を捕まえろ!」
康太が叫ぶと、慎一が逃げるよりも早く
一生は慎一の腕を掴んだ
康太は慎一を抱き締めた
「オレを主と定めたんじゃねえのかよ!
なら……お前は見届ける定めじゃねぇのかよ!
逃げんじゃねぇ!
ちゃんと!その目で見届けろ!」
慎一は…康太を抱き締め…泣いた
「伊織、鍵を閉めてこい。」
言われ榊原は、リビングの鍵を閉めに行った
康太は慎一をソファーに座らせると抱き締めた
「慎一!オレの前から消えねぇと約束したんじゃねぇのかよ!」
康太は叫んだ!
でないと…消えてしまうから…
「しかも!オレに還す前に消えるんじゃねぇ!
双子が来てんじゃねぇのかよ!」
「康太…俺が…」
「お前じゃねぇ!
お前は緑川慎一だ!
前世の記憶なんて犬にでも食わせてしまえ!」
康太が言うと、一生が
「ぐだぐだ言うな!
おめぇはもう康太のもんだろ!
逃げんじゃねぇよ!」と慎一の背中を叩いた
慎一が「一生…」と呟いた
「おめぇは双子の父親だろ?
情けねぇ顔してんじゃねぇよ!」
慎一は頷いた
慎一が落ち着くと、康太は
「想い出作んだよ!
明日から忙しくなるぞ。
明日は隼人の所へ行くしな。」
と明日からの予定を話した
榊原が「明日は朝から兵藤と共に学校に行き、全校朝礼をやって、昼から隼人の所へ行きますよ
休んでる暇も逃げてる暇なんて無いですよ?良いですね?」と念を押した
慎一は「すみません…取り乱しました
貴方の役に立ちたい…
貴方の側にいたい…
許されるなら…」と呟いた
「おめぇはオレに仕えてんだろ?
勝手に消えてもオレの眼からは逃げらんねぇんだぜ。
それはお前が一番身をもって知ってんじゃねぇのかよ?
さてと、双子に逢ってくるか
慎一、双子を愛せ
お前の持てる限りで愛せ
オレも愛してやる
オレの子と変わらぬ位愛してやろう。」
康太は立ち上がると、歩き出した
「双子は何処にいんだよ?」
康太が尋ねると、慎一が「部屋で寝てます。」と告げた
「自分のベッドか?」
「喜んでました。
はしゃいで…あっ!天宮さんが応接間で御待ちです
聡一郎が天宮さんの接客をしてくれてます。」
「早く言えよ。」
康太は慌てて一階に降りて応接間のドアをノックして開けた
すると、天宮が息子と一緒にソファーに座っていた
聡一郎は、その傍らに座り、康太の顔を見ると微笑んだ
康太は笑いながら何時ものソファーに座った
「東青、世話になったな。」
康太が声をかけると、天宮は深々と頭を下げた
「双子について尋ねたく…待たせてもらいました…」
「双子には、オレと変わらねぇ能力がある事か?
超能力と言われる力がある
透視でカードなんてすらすら解る和希と
次、何が出るか解る和馬
透視の和希に、先詠みの和馬。
二人には力がある…
それはな、父親がオレと変わらねぇ能力が有ったからだ…仕方がねぇ…」
天宮は、慎一を見た
「お話しできるのでしたら…
お聞かせ下さい」
「慎一は…今から120年程…時を遡りし頃、オレと同じ眼を持つ一族だった
その家は滅んだ
御厨忠和はオレが時を遡り…討った…
慎一は…総ての力を使い…オレの辿った道を辿り転生し……オレに所縁の人間に根付いた
まぁ…嘘みてぇな話だがな…真実だ。
そんな男の…子供だからな…力があっても不思議ではねぇんだ。双子は…諦めろ。
オレが修行させるつもりだ。
双子は研究対象にはならねぇ。
対象にするなら…オレはどんな手を使っても…それを潰すぜ…。」
康太に…此処まで言われたら…引くしかなかった
「双子の力を……知っておいででしたか…。
当たり前ですね…
貴方の眼に…映らない筈などないのですからね…。
双子は誰にも手は出させません!
今後も一切、手は出させませんので安心して下さい。
綺麗も…貴方を敵に回せば…どうなるかを!知らない筈などないのですからね。
元は…飛鳥井の一族の娘…一番解っていると想いますよ。」
「ならば、良い。」
天宮は「唯…組織細胞まで…寸分違わず…の双児は…珍しく…お聞きしたくて…お許し下さい」と頭を下げた
「元々は…一人で生まれでる子供を…女神が危惧して…2つに割った…と言ってた。
一人で出たら…オレを凌ぐ…力があるのを…分散させた…。と、オレは聞いた。
本来なら…子は遺すべきではねぇんだけとな…。だから、オレは子を遺さねぇ…。
でも、慎一が心底惚れて…出来た子だ…
否定はしたくねぇ
オレが間違わねぇ様に育てる
小学校はここから通わす
そしたら、翔と一緒に修行させるつもりだ」
「そうでしたか
それなら安心ですね。
今後も私は貴方の手となり足となり…
貴方を支えます…。
私が衰えたら息子の東真が貴方を支える礎になる。
私達親子は…これからも貴方と共に在る。
お忘れなき様に。」
「東真がオレに力を貸してくれるのか?
そりゃぁ心強ぇーな。
これからも、宜しくな、東青、東真。」
天宮親子は…康太に深々と頭を下げた
そして、暫しの談笑をして、帰っていった
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