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第42話 母として‥

榊原の、車に一生、聡一郎、慎一が、乗り込んだ 車の中は…会話もなく…重苦しい空気が広がっていた 病院の駐車場に着くと、瑛太が待ち構えていた 「瑛兄、待ったか?」 「いや…少し前に着いた所です。 じゃぁ行きますか? 一生、聡一郎、慎一は隼人の病室へ行きなさい。 康太と伊織は私と来なさい。」 瑛太はそう言い…歩き出した この病院が…玲香の 実家である以上… 適当には扱えは出来ない… 飛鳥井家総代としての、役目を果たさねばならなかった 病院の駐車場には、神野も小鳥遊と共に来ていた 「では、康太、伊織、行きますよ!」 瑛太は、康太を促し…院長室へと…向かう 院長室に辿り着くと、ノックをした ドアが開くと…中から玲香の弟の村瀬英明が出迎えてくれた 「御待ちしておりました。」 村瀬は頭を下げ…全員を院長室へ招き入れた 「姉がお世話になっています。」 村瀬は飛鳥井家の総代である、瑛太に頭を下げた 「いえ、此方こそ…妻と隼人の彼女。 そして、弟の伴侶の家族もお世話になっている。 なんとお礼を申し上げて良いか…」 「まぁ固い挨拶は…これ位にして良いですか?」 瑛太は頷いた 「一条隼人の内縁の妻、奈々子さんの件で…いらっしゃったんですよね?」 村瀬の瞳は…康太に確認を求めていた 康太は、その瞳を貫き…「そうだ。」と答えた 康太は菜々子の状況を的確に話し始めた 「元々…奈々子は8ヶ月位で…帝王切開で出さなければ体力が持たなかった…。 だけど今…衰弱してるだろ? 8ヶ月まで持たせれば…出産と同時に…命を落とす…事となる…。違うか?」 村瀬は感心した 飛鳥井家の真贋と言うものを… 何処で信じていなかったから… 「違いは…ありません。 近いうちに…ご相談せねば…と思って神野さんに話を入れようかと思っていた所です。 凄いタイミングなので驚きました。」 「オレは……地球の裏側にいても…見えるからな。 飛鳥井の明日に組み込まれた人間なら…果てが見える。 奈々子は……隼人の…子がいるからな…。 手に取るように…それが解る。」 「……貴方の目は本物ですね。 寸分違いません。 奈々子さんは…今…産まねば…出産と同時に…命を落とす可能性が大きい。」 村瀬は…康太に問い質した 「どうなさいますか?」と。 「この病院には…最近、最新の保育器を入れたろ? 6ヶ月…で出産しても…その保育器に入れておけば…胎内と同じ様に育つと言う保育器が在る ならば、産ませてくれ。 少しでも…奈々子も我が子を見たいだろう… そして隼人は三人で…過ごしたいだろう…。 そして…出産で命を落とす危険も回避できるのであれば…今…産ませるしかないと想う。」 最新の保育器を入れたのは…まだ、病院の人間でも知る人間は少ない それまで把握してるなら…そうするしか…ないのだろう… 「……産ませるとしたら…何時が宜しいですか?」 「一分一秒でも早い方が…良い。 でないと…家族三人で…居られる時間は…減るばかりだ…。」 「ならば、明日、手術前の検査と打ち合わせを致しまして 明後日、一月31日にオペの運びと致します。どうですか?」 「その方が良いだろう。 2月1日には榊原真矢、伴侶の母親が双子を産むからな。 その時に緊急オペに入ると……医者が不足するのは避けたいしな。」 「えっ!榊原様は…もう少し後の予定ですか…。早まりますか…。」 「双子が体に負担になりすぎてる。 なのに、女優だからな、異常を顔にも態度にも出さないからな…見逃してしまう。 早目に2月1日にオペを入れておいた方が懸命だな。」 「解りました。 31日に術前検査を致しまして、2月1日に、オペの予定を入れておきます。」 「多分、今からだとオペは午後からしか取れねぇからな。 それで良い。 院長、今オペ室を取ってくれ。 奈々子の分も真矢さんの分も。 でねぇと予定がはいっちまう」 「解りました。暫しお待ちを。」 院長は部屋を出ていった。 暫くして戻ってくると「一足違いで取られる所でした。」と言って入って来た 「世話をかけるな院長。 奈々子も真矢さんも、どうか、宜しくお願いします。」 康太は立ち上がり…村瀬英明に頭を下げた 村瀬は康太を止めた 「飛鳥井家の真贋に頭を下げられたら、我が姉に怒られてしまいます。 およしになって下さい。」と笑った 康太は村瀬を見た その瞳が…村瀬を貫き…果てを見た そして……星を詠み… 「此処の経営は日々…苦しいだろ?」と尋ねた 村瀬は…驚愕の瞳で…康太を見た 「そりゃぁそうだな。 芸能人や著名人の御用達みたいな事を続ければな…一般人の足は遠退くのは必然か…。 かと言って、そんなに頻繁には芸能人や著名人は来ないからな…。」 「見えましたか?」 「今、見えた」 「この先…一般の方を投入出来ねば…経営は回っては行かなくなります…。 何とか…努力はしたのですが…行き届きません。」 「病院を建て直したいか?」 「はい。出来るのでしたら、存続させて行きたい。」 「方向転換をせねば生き残れはせぬぞ この景気で…セレブと言う人種は激減だ。 狙うなら、一般の妊婦だろ? そうしたら、高級感で売ってきた…事とかけ離れる…」 「構いません。 元々、セレブなど対象では有りませんでしたから。 患者あっての、医者。 患者あっての病院ですから!」 「ならな、神野の事務所に席を置き、TVに出ろ。 そして、名を売れ。 医療番組に出させて、一般の妊婦にアピールして、名を売って行け。 そしたら、見ている視聴者は、私でもあそこで、産めるのか!と、殺到する。 そしたら、その患者を大切に扱えば、口コミで産みに来る。 そして、そこで産んだ妊婦は、またそこで産もうと思う。 但し!売れたからと患者に差をつければ、滅ぶのは早いぞ! もてなされれば、行こうと思うが、差をつけられれば…行こうとは思わぬ! それが人の感情だ。」 康太はそう言い、村瀬に釘を刺した 「人はな、敏感な生き物なのだ。 情報で左右される。 ネット社会も視野に入れねぇとな。 そして、医者や看護士にも意識改革をさせて、患者様と言う意識を持たせろ! ネットは四宮聡一郎を送り込む。 彼に任せてホームページの立ち上げを、まずしろ。 聡一郎は、高校生だが、その能力は大人でも真似は出来ねぇ。 オレの懐刀だ。貸してやる。 聡一郎なら、1日で立ち上げる。 そして、医者と看護士の意識改革には、我が伴侶、榊原伊織と緑川一生を貸し出す。オレはそれを見届ける。 それを来週、一週間かけてやる。良いか」 と、スケジュールを述べた 「はい。異存はありません!」 「院長、その時に、使えねぇ人材は切り捨てられる権限も寄越せ。 医者だろうが、看護士だろうが! 使えねぇ奴は、この病院に必要はない。 使えねぇ人材は切り捨てて、入れ換えれば空気は循環するぜ。」 康太はぞーっとする程…冷酷な瞳で…村瀬を見た 「総ての権限を…貴方に託します。」 「なら、号令を出せ! 飛鳥井康太の権限の元、病院は再生する。意識を改革せぬ者は切る…とな。」 「解りました。今すぐ、伝令を、回します」 院長はそう言い、部屋を出ていった 「と、言う事だ。神野、村瀬を使え。 TVに出させろ。 取り敢えず人気の医療番組にごり押しさせるように、オレが須賀直人に頼んでみる。 お前はその後に辺りを着けて動け。」 神野は院長室に貼ってある賞状を見て 「凄い医者なんでしょ?」と尋ねた 「腕は良いぞ。 だがな、セレブ御用達になってしまってる現状を抜け出さねぇとな、その宝も持ち腐れになる。」 「ならば、院長の経歴を貰い、仕事を見付けて行きます。」 「頼むな。この病院が潰れれば、玲香は京香と同じ道を辿る。 この病院の為に離婚して…親や弟を助けようと…出て行く そんな想いは…させたくねぇ。 あのまま…飛鳥井の女として終らせる 子供としての義務だ。」 康太の…母への愛だった… 瑛太は…胸が詰まった… そっと…康太を抱き寄せ…胸に抱いた 暫くして院長が、戻って来ると、康太達は、奈々子の病室へと向かった 奈々子の病室のドアをノックすると、慎一がドアを開けた 康太は病室の中へと入って行くと、隼人が康太に抱き着いてきた 「どうしたよ?隼人。」 康太が隼人を撫でていると、奈々子が康太に声をかけた 「あの…康太さん。 お話が有ります。宜しいですか。 出来れば二人だけで…お願いします。」 「解った、仲間は他に行って貰う だけど伴侶は側にいて良いかな?」 「伴侶さんだけなら…構いません。」 「と、言う事だ。 瑛兄、一生達にお茶でも奢ってやってくれ。」 「解りました。では、行きましょうか?」 瑛太は隼人の肩を抱いてやり、一生、聡一郎、慎一と病室を出ていった 康太は奈々子のベッドの横に、榊原と一緒に座った 榊原の指が…康太の指に絡み…手を繋いだまま…だった 「康太さん、貴方の瞳には…その人の果てが映るんですよね?」 「あぁ。飛鳥井に所縁が有れば、オレは果てを見る」 「私の果ては見えますか?」 「………見える。」 「そうですか。なら、私は‥‥後‥‥どれ位、生きられますか?」 「……奈々子…。」 「答えて下さい! 私は、ちゃんとこの子を産めますか!」 奈々子の瞳は…既に母親の瞳だった 「その話をしに、オレは院長に逢いに来た……。 奈々子、お腹の子は明日検査して、産めれるならば、明後日にはオペに入り産ませる。 そうしたら、親子三人…過ごせる時間を作れる。」 奈々子は、康太を見た 「産めるんですか…本当ですか…」 奈々子の瞳から大粒の涙が零れて落ちた 「その命は…長くはない。 心臓が動きを止めるのは……免れは出来ぬ定めだからな‥‥。 だが母親として…お前に赤ん坊を見せずには逝かせたくない。 その腹の子は…オレは貰わねぇよ。 隼人に…育てさせ…隼人の子として育てる それが、お前の本望だろ?」 「康太さん…ありがとうございます…」 「お前は立派な母親だ! 誰にも負けねぇ母親だ! 隼人にも、お前にもなかった家族と言うものが…出来るんだ。 1日でも長く生きろ! お前の命を決めるのは神でも仏でもねぇ! お前自信だ! お前が生きたいと想えば…その命は…1日でも長く生きられる筈だ…」 「なら、悔いのない日々を送らないといけませんね。」 「あぁ。…そうだ。」 奈々子は…泣いた… 康太は…そっと奈々子を抱き締めてやった 康太の体からは……隼人と同じ香水の香りがした 隼人は…この人の側にいたいのを…堪えて…いてくれてるのを…改めて想う 康太は奈々子を、そっとベッドに寝かせた 「少し休むと良い。 明日は検査して、明後日には…お前はその腕で…我が子を抱くんだ! 解ったな?」 「はい。」 優しく髪を撫でると…奈々子は瞳を閉じ… そして………眠りに落ちた どんなに辛くても… 苦しくても… 私は…この子を産む… 例え……この命の灯火が…消えたとしても… 私は……この子を…この世に産み落とす… それが……… 私が生きてきた… 証しになるのだから…… 1月31日、奈々子は…帝王切開で子供を産むことになった 妊娠周期 23週の早産だった 先天性の心臓疾患が有る為、総合病院から、応援を頼み、万全を期した ギリギリ…産める22週を越すのを待っての決断だった 帝王切開で…奈々子の子供を取り出し…直ぐに保育器に入れて24時間体制で…観察をする 奈々子の子供は…550グラムと言う 超低出生体重児(超未熟児)として、この世に誕生した 産まれて直ぐに保育器に入れられ… 奈々子は…麻酔が醒めて…初めて…我が子と対面した 康太は菜々子の子の為に病院へは来ていなかった 一生達が康太の想いを受けて隼人を支えて傍にいた 出産を終えて…菜々子は一時昏睡状態になり その処置を受けていた 母親が…我が子に逢ってないのに…逢う訳にはいかないと‥‥ 一生達は康太に赤ちゃんは無事誕生したが、まだ逢ってないと伝えた 子供の名前は『音弥』おとやと言う名を、康太が命名した そして……隼人が認知して…一条音弥…となる予定だ。 隼人の子供として、誕生した…………琴音の転生し魂は…飛鳥井の輪廻から外れた事となる… 飛鳥井の人間には…話した そして…瑛太にも京香にも…。 飛鳥井の人間は…黙って了承してくれた… 隼人は……悩んでいた… 康太に子供を…あげる約束だったから… 「悩まなくて良い…お前が悩む事はねぇ…」 康太は…隼人を抱き締めて…慰めるから… 余計…隼人は…辛くて…辛くて… 堪らなくなってしまう… 隼人は…奈々子に……泣きながら… 「オレ様は…育てられない… お前を亡くして…一人で子育ては…出来ない…。この子は…康太に育てて貰いたい… 康太に…やると…約束した…約束を反故には…したくはないのだ…」と頼んだ 奈々子は…笑って 「そうなると…思ってたから…」と答えた 隼人は…奈々子を抱き締めた… 「飛鳥井…音弥…。隼人は…ずっと見守ってね。小さい…命を…私に変わって…見守ってね」 隼人は…頷いて…奈々子を抱き締めた… 奈々子は、母親の顔をして… 保育器の中の…我が子に触れた 小さな命は…それでも頑張って… 呼吸していた… 私が…生んだ…我が子… 神様…有り難う… 私に家族を与えて下さって… 有り難う御座います… 長くはない人生だったけど… 愛されて…守られた… 人生の中で一番…愛されて…愛した 一条隼人と言う男を… 誰よりも…愛せて…良かった…

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