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第43話 喜びと‥‥哀しみと‥
康太は、辛い想いを隠すかの様に……
精力的に動いていた
【出ていってやる宣言祭】の準備をしに、午前中は学校に出向き、
午後は、村瀬の病院に指導に行く
榊原に医者と、看護師の教育をさせ
接客は一生が担当した
プライドばかり高くて…
人に習う事をしなかった人間は…頑なだった
康太は巡回をしながらメモを取った
京香が入院していた時にどうだった?と聞くと、看護師の態度が…最悪…と言った
申し送りが行き届いてなくて
注射を二回やられそうになったり
注射器を置いたまま出てったり
その日の気分で…扱われた…と言ってた
そこを徹底的に治す
治らないなら、首を切る!
そこまで、行かないと解らないかも知れなかった
院長に院内を一緒に、何度も歩かせた
自分の目で確認しなければ、村瀬に解らせられない…と思ったから。
村瀬の白衣を脱がせ…
一般人に紛れて院内を巡回すると…
目を覆いたい場面に何度も出会した
村瀬は…これじゃぁ、二度と来たくない気分にはなりませんね…と康太に愚痴を漏らした
「ちゃんと教育の行き届いた病院はな、何処を見ても、ちゃんとしてんだよ!
金太郎飴の様に、何処を見てもちゃんとして、徹底してるんだよ!
この病院はバラバラだろ?
そいつの気分でやってるからだよ!」
村瀬は…言葉もなかった
康太は、榊原を呼び出した
「伊織、院長に総合病院を見せる
乗せてってくれ」
康太が言うと、榊原は一生に暫し出ます。と告げ、駐車場まで出た
康太と村瀬を乗せて総合病院へと向かう
康太と榊原が入院していた総合病院の駐車場に車を停めると、康太は村瀬を連れて院内に入っていった
患者に紛れて院内を歩く
患者を見掛けると事務員も看護師も医者も…
笑顔で挨拶をしていた
キビキビ動く姿には自信があり
自分の病院のスタッフ達とは違う…
と、村瀬はしみじみ感じていた
「どうだ?この病院は?
教育が行き届いて要るだろ?
オレは、お前の病院のスタッフに責任と優しさを持たせたい
人は居心地の良い場所に集まる
幾ら腕が良くてもな、その場所が…居心地悪ければ…人は避ける。」
村瀬は頷いた
院内を歩いていると、入院中にお世話になった久遠医師が康太に声をかけた
「坊主、今度は何処を怪我したんだよ?」
と久遠は、笑っていた
康太は笑って
「怪我じゃなくな、此処の病院のスタッフの躾の行き届いた姿を見せてるんだよ。」
と、応えた
「村瀬…先生?」
久遠は、村瀬の名を呼んだ
村瀬は久遠の顔を見て…思い出した
「久遠君じゃないか!
今はこの病院に?」
康太は「知り合いなのかよ?」と尋ねた
「私が教授をやってた頃の生徒だ。」
村瀬は嬉しそうに言った
「村瀬先生、坊主と…お知り合いですか?」
久遠は尋ねた
村瀬は「私は康太君の叔父に当たる
姉の子供が康太君だ
今日は、この病院の教育の行き届いた現場を見学に来たんだ。」と応えた
「こりゃまた…甥っ子さんでしたか
この病院は…飛鳥井の四男が入院していた時に…看護師も医者も…相当鍛えられました
その後に恋人も兄も入院されるから、態度のなってないスタッフは、叱りつけられ…
教育し直しましたからね
『笑顔』が作れないなら…
『辞めろ』…なんて言われれば…もぉ……ね
職員の意識改革は物凄いモノでしたよ
そのお陰で、この病院は何時も笑顔を絶やさない…病院になりましたとも。」
「あれは…無愛想に脈を取るから…じゃねぇか!
オレは繊細なんだぞ。」
「繊細と言う言葉が似合わない…方なんですがね……」
村瀬は…康太に魅せられ…
この病院の同様、職員の意識改革をせねば…
何が自分の病院に足りないか思い知らされ…心に決めた
村瀬は…翌日から、精力的に職員の教育に目を配り
病院の改革に自ら乗り出し、職員に示した
1月31日にオペ前検診を受けた真矢は、康太の謂う通り、双子がかなり体力を消耗させている事が解り翌日オペに取り掛かる事を清四郎に告げた
オペの予定時間よりも早く真矢は…破水して…
オペ室へと運ばれて行った
2月1日 この日も昼から病院に来ていた
夜には、飛鳥井の家で誕生会だった
昼過ぎに…病院に行くと…
榊原の母親は…オペ室に運ばれた後だった
清四郎が…心配そうな顔で…榊原に抱きついていた
康太は生まれるまで…傍にはいられないと、飛鳥井の家へ還り祈っていた
人の生き死には立ち会えないのが……
飛鳥井家 真贋だったから……
傍に行きたいと思っても……
許されはしない
康太は真矢を想って祈った
何と言っても高齢出産だ…
真矢に辛い選択をさせたのは康太だった
榊原の血を分けた子を欲したから……
真矢は今闘っている
康太の為に…真矢は…辛い…痛みと闘っている
真矢の愛だった
康太は祈った
祈る事しか出来ず‥‥
愛する男の…血を分けし…命
産まれてくれ…
頼むから…
産まれてくれ…
オレの前に出てこい…と祈り続けた
祈り続けた…康太の元に…
『今……産まれました……』
と榊原から電話が入った
『 2月1日 午後1時31分
…… 双子の男の子が誕生しました』
「……伊織……真矢さんの状態は?」
『眠っていますが……早い対応が出来たので…母子共に大丈夫だと言われました』
「……伊織……ありがとう……って伝えてくれ…」
『それは明日……君が母さんに言いなさい』
そう言い榊原は電話を切った
康太は電話を切ると……
神に感謝して……
果てをずっと視ていた
翌日 病院に見舞いに行くと
真矢は美しく笑っていた
気高く…美しい…姿だった
康太を見ると真矢は手を広げた
「康太、貴方に…やっと渡せます!」
康太は…真矢の胸に…引き寄せられる様に…
顔を埋め…泣いた
「ありがとう…」
それだけ言うのが精一杯で…肩を震わせて…
何も言えなかった…
清四郎は…そんな康太を優しく抱き締めた
「翔も流生も…私には可愛い孫だ。
この双子も可愛がろう。
お前達の子を…愛してやろう。
だから、泣くな…康太…。」
「清四郎さん…オレの我が儘で…本当に……
すみませんでした…」
「我が儘なんかじゃない…。愛だろ?
康太は…伊織を愛しているのだから…願いだろ
私達夫婦は…お前達の願いを叶えられて…凄く…嬉しいよ」
「清四郎さん…」
父親の…愛だった…
母親の愛だった
康太は…双子にそっと口吻けた
奈々子は…
我が子を…世にだして
三日後…
眠る様に……
瞳を閉じて…
二度と…目を開けることはなかった
隼人は…奈々子に寄り添って眠っていた…
菜々子は自分の命の灯火が……
消えるのを感じた
隼人……
隼人……
私がいなくても……
音弥を護って生きて下さい……
もう……隼人にキスする体力も残っていなかった
隼人……
私が逝ったら……
貴方は……音弥は……
頼まねばならなかった
それが遺して逝く者の……願いだから……
最後の力を振り絞って…
………康太の元へ魂を飛ばし逢いに行った
深夜……寝静まった…
空間に…
奈々子の気配を感じ康太は…
目を開けた……その姿を捉えた
「奈々子か……
永久の別れを…言いに来たのか?」
『……はい。隼人と…音弥を…頼みます…』
「お前の変わりなんて…誰も出来はしない‥‥
頼まれても困ると…言いたいが…」
『私は…幸せでした…。
悔いも…想いも…
ないと言えば嘘になりますが…
精一杯で…守り…守られ……
幸せな想いだけ抱いて…
私は…逝きたいと…想います』
「奈々子…オレは何もしてやれなかった…」
『沢山…してもらいました……
だから、貴方に…お別れに来ました…』
康太は天を仰ぐと……
「龍騎…奈々子を送ってはくれぬか…
黄泉の道を……送り届けてはくれぬか…
それがオレに出来る……最後の餞だ…」
紫雲龍騎に菜々子を託した
奈々子は…康太に頭を下げて…
消えて行った…
紫雲龍騎が
『ならば、連れて行こう…
お前の変わりにな…』
と告げ…消えた
康太は…空を仰ぎ…涙を流していた…
榊原は、そっと康太を抱き
「奈々子は…逝ったのですか…」と尋ねた
「あぁ…隼人の所へ…行かねばならぬ…」
康太は…涙が溢れて…止まらなかった
榊原は、一生に電話を入れた
夜中なのに…一生は…直ぐに出た
「……隼人の所へ行きます…」
それだけで……総てが…解った
『……!解った…』と電話を切った
康太に服を着せ、支度を済ませる頃には…
康太は…涙を流してはいなかった
悲しい瞳で…追悼の想いを…込めて立っていた
「行きますか?」
「あぁ…」
康太は…スタスタと榊原の先を歩いた
隼人は…康太の子供も同然存在だった
確りせねば…と自分を建て直していた
隼人を支えるのは康太しかいないのだから…
一階に降りていくと…一生、聡一郎…慎一が
…康太を待っていた
康太は…一生に抱き着いた…
「奈々子が…別れを言いに来た…」
「ならば!送ってやらなば、な。」
一生は、康太をギュッと抱き締めると…体を離した
康太は…外に出て…榊原の車に乗った
榊原は…村瀬の病院へと走った…
病院の駐車場に車を停めると…
康太は早足で隼人のいる病室に…向かった
榊原は、院長を呼び出す…手筈を整えた
隼人の病室に辿り着く頃には……
村瀬を初めとする医者が…出迎えて待っていた
病室に入ると…奈々子は眠っている様だった…
隼人は…奈々子を抱き締めて…眠っていた
慎一が…隼人を起こすと…
康太の側へと連れて来た
寝惚けた隼人は…
「康太…こんな時間に…どうしたのだ?」
と無邪気に尋ねた…
康太は…隼人を抱き締めた
「隼人…奈々子は、オレに…永遠の別れを言いに来た…」
「嘘だ!奈々子を抱き締めて寝てた!
さっきまで起きてた!
話もしたのだ!嘘をつくな!」
「隼人…」
隼人は康太の胸を叩いた!
「嘘だ!オレ様は信じない!」
慎一が…隼人を康太から離して…抱き締めた
「隼人!康太に当たるな…」
慎一が宥める…が
隼人は…泣いて…認めなかった
医者が…奈々子の瞳孔を確かめ、脈を取る
そして……………!!
隼人の方へ向いて起立して…頭を下げた
「御臨終です。
2月4日…午前…0時12分…確認いたしました」
そうして…奈々子の顔を白い布を被せ…
枕元に…線香を焚き……遺体を…霊安室へと移す
隼人は………
連れ出される奈々子の遺体に縋り着き…
離さなかった
「奈々子を連れて行くなぁ……!」
慎一が隼人を押さえた
隼人は床に崩れ落ち……立ち上がれなかった
「離せ!奈々子は生きてる!」
連れてくなぁぁぁ……………!!!!
隼人の悲しい…叫び声が…
静まり返った……建物に響いた
嗚咽が響き……
隼人の慟哭が部屋に響いていた
慎一は言葉もなく……
立ち竦んでいた
愛する者を亡くす想いは……
誰よりも知っていた……
慎一は涙を拭う事すら出来ず……
立ち尽くしていた
一生と聡一郎も……
隼人に掛ける言葉が……
見付からなかった
隼人は……精一杯の力で愛していたのだ
愛していた者を亡くす……
それは想像を絶する想いなのだ
言葉なんて……
見付かる筈なんてなかった
康太は榊原の胸に顔を埋めた
何度も転生して……
榊原は愛する者を亡くした……
亡くしたら生きていけない……
だから魂を結び付けて……
共に……幾度も転生して来た
隼人は………
愛する人を失って……
生きて逝かねばならない
亡くした想いを抱えて……
それでも生きて逝くのか?
榊原は涙を拭う事すら出来ず康太を抱き締めていた
隼人の………嗚咽が何時までも……
部屋に響いていた
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