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第46話 黄泉で
康太は…………黄泉にいた
「なぁ、茗、まだ還ったらダメなのかよ?」
康太が聞くと女神は
「まだダメだ
こんな弱った魂では体に入ったら…少ししか持たんぞ」と脅した
「それは、嫌だわさ!」
康太が呟くと
「相変わらずだなぁ!おめぇはよぉ!」
と言う声が聞こえた
顔を上げると…黒龍が立っていた
「数千年振りやん黒龍…」
炎帝だった……その時に友と呼び合った男は…
当時と変わらぬ男前で…優しい瞳で…康太を見ていた
「お前は…人に堕ちても…炎帝だな…。
あまりにも…変わらねぇから、腹が立つ!
お前が青龍んちの土地に呪いをかけた所為で………
近所に住む俺は住む所を無くしたって言うのによぉ!」
そして……文句を言う様も…黒龍だった
「あぁ…オレは一人で堕ちる気だったからな…。
まさか…最後の最後で…青龍が現れるとは…思わなかった…。」
「お前を愛してるからだろ!我が弟は…!」
康太は…何も言わず…笑った
「無茶するのは…昔からだが………
我が弟を泣かすな……」
「一応努力はしてみる…」
「そう言う奴だよ!お前は!!
そう言やぁ、閻魔が朝から……そわそわしてる
やはりアイツは、弟には甘いのだな…」
「そう言うお前も、弟には甘いな
…青龍が心配で………今世は…お前の身内が
…オレの側にいる。」
「………本当は…俺も…地龍も…地に堕ちた青龍が…心配だ…
兄弟だからな…。
まさか…あんなガチガチの奴が…お前に着いて…堕ちるとは…想いもしなかった
赤龍も…青龍の事を…心配してる…弟だからな…
まぁ青龍にしたら、赤龍に心配なんて…余計な御世話だろうがな…」
黒龍は、笑った。
青龍と赤龍は……仲が悪い…から
康太は…両手を…上げて…呪文を唱えた…
人間界に堕ちた時に…吐いた…呪いの呪文を…解除する為に…
呪文を唱えた後……康太は黒龍に向き直った
「オレは…青龍だけを愛している。
青龍がいてくれるから……
オレは(人の世に堕とされても)堪えられた…。
オレだけの…蒼い龍だ
オレだけの龍だ。
誰にもくれてはやらねぇ!」
「誰も盗らねぇよ!
炎帝を敵に回して…勝てる気はしねぇ!
それに、俺はお前の唯一無二の友だろ!」
康太は…拳を…合わせて…黒龍の胸を叩いた
「お前とは…数千年振りだが……
つい昨日…飲み明かした気がする…
お前とは…切れねぇ友情が有るように
幾度…生まれ変わろうとも…オレは…青龍しか愛せねぇ。」
「青龍だってそうだろ?
あんなにガチガチで、法を司って、法と秩序を、織り混ぜた鎧を着ていたのにな…。
性格も…生まれ持っての堅物………
なのに…愛した…奴は…男で破天荒な破壊神…だ
自分の培った総てを捨てて…
お前を選んだ…運命だな。」
「黒龍、お前の弟を…貰ってしまって…
すまねぇな…。
それでも…オレは…還せねぇ…。
オレは…青龍のいない世界では…生きていたくねぇんだ…もう……。」
「ならば…一緒にいろよ!
お前らは、お似合いだぜ!」
康太は嬉しそうに…微笑んだ
「炎帝、お前の次の転生は…ないだろ?
この混沌とした…魔界に…閻魔は戻す気だろ?
法の番人も欠いて…
誰も恐れぬ存在もいない…今、魔界は…荒廃を続けて…
そのうち閻魔の手に終えなくなる
それこそ…閻魔の終焉だ…。」
「我が兄…雷帝が閻魔を辞めても…次はいるだろ?
そうして閻魔は継がれる。
魔界の者だからと言って、その命…永遠ではない
黄泉の女神が…母から娘に世代交代したようにな…。」
「俺は次は…人になろうかな…
お前の側で…弟とお前と…過ごすのも良いかもな。」
「オレの側で生きるのは…楽じゃねぇぜ…」
「だろうな。何たって炎帝だもんな。」
黒龍は、笑って胸から…如意宝珠を取り出し…
康太に差し出した
「これを…我が弟に…渡してくれ。」
「これは?」
康太は…黒龍から如意宝珠を…受け取った
「宝珠…だ
如意宝珠
アイツは…こんな大切な…宝珠を置いて…
お前と堕ちた…
龍が…宝珠を無くしたら…何も力を持たぬ…
これは青龍の宝珠だ!
何時か…お前が…黄泉に来たら…渡そうと思っていた。」
龍は、産まれてくる時に…如意宝珠を持って産まれて来る…
その宝珠の中に…龍の…能力が…総て詰まっていると言っても過言ではない…能力玉だった
龍は…それを捨てたら…只の人に…なる
即ち…青龍は…総てを捨てて…炎帝と共に…
人の世に堕ちたと言うことになる…
康太は…宝珠を握り締め…
「必ず渡す!」と黒龍に言った
黒龍は、康太の手から宝珠を奪うと…袋の中に入れ、首から下げさせた
「お前は雑いからな、落とされたら大変だ!
宝珠は一体の龍に一個しか持たぬ物だからな
我が弟の手に渡る前に…壊したりしたら…恨んで出るからな!」
康太は…笑って「おめぇは昔から細かい!」と怒った
黒龍と昔話に花を咲かせていると…馬の蹄の音がした
振り向くと…そのに…閻魔がいた
「……!!これは……珍しい方が…」
黒龍は、閻魔の姿に…やはりな…と、笑った
「炎帝…我が弟…。」
閻魔は…馬から降りると…康太を抱き締めた
溺愛していた…弟だった…
閻魔は…弟を…人の世界に堕としてから……
ずっと後悔して……苦しんでいた
炎帝に…魂の選別など…出来ないと解っていて……
閻魔は…その地へ行く様に…指示を出した…
弟ばかり…依怙贔屓していれば…批判は…当然出る。
しかも…炎帝でいる限り…魂の昇華…は、炎帝が司る…定めだから…
出さぬ訳にはいかなかった…
そして……総てを『 無 』にしてしまった…
その責任を問われ…
閻魔は…決断を迫られた…
抹消か…人間界か……
閻魔は…炎帝を人間界に堕とした…
愛しい弟を…抹消など出来なかったから…
「炎帝…戻って参れ…!」
「青龍も…一緒ならな
オレは…蒼い龍を…離す気はねぇぜ!」
「お前達は…引き離せは出来ぬだろ。
青龍の変わりになる存在など…四龍…兄弟でも…おりはせん。」
閻魔がそう言うと、黒龍は拗ねたように口を尖らせた
「閻魔!それは言い過ぎ!
俺は日々職務を全うしてる!」
「でも青龍には及ばない…。
アレの魂は…生まれ持っての堅物…。」
「まぁ我が弟は…側にいるだけで…息苦しい…からな。
喜んでいるのは炎帝だけだ。」
黒龍は、愚痴をこぼす。
それを…ことごとく無視して…閻魔は康太に訴えた
「次の転生は…ない。
今の命が…尽きたら…戻って参れ…。
どうぜ、お前と青龍は魂を結んでる…。
お前が息尽きる時…共に…参れ。」
「まぁ、それは…この命が尽きてから…な。
迎えが来たしな。
龍騎、オレの迎えか?」
康太が声をかけると…紫雲龍騎がそこに立っていた
「還れるのなら…戻ろうぞ…。」
「龍騎、紹介する。
オレの兄の閻魔…雷帝だ。
そして…こっちのが、青龍の…兄の…黒龍…だ。」
「伴侶殿…の……?」
それだけで…紫雲龍騎は、榊原の正体を知る事となる…
「さてと、還るか
メラメラ燃えてるからな
魔界の温度を上げそうだしな…。」
康太は…笑って閻魔を、抱き締めた…
「兄よ…。
オレは…人に堕ち…学ぶ事は…多かった。
青龍が、側にいてくれたからだ。
兄や黒龍の…想いを汲んだ…者が…いてくれたからだ…。
オレは…幸せを…初めて知った。
オレは…苦悩を…初めて知った。
オレの蒼い龍が…側にいてくれる限り…
オレは…生きていける…。
オレは…絶対に!曲がらねぇ!」
「炎帝…無駄な時間でなかったのなら…
兄は…今後一切…後悔は…せぬ!」
「後ろを向くな…。前を行け!
そうオレに言ったのは雷帝じゃねぇかよ!もう後悔すんじゃねぇぞ!」
閻魔は…頷いた
「黒龍、呪いは解いた。
あの荒廃した地に…緑は戻り…湖には…白鳥が…泳ぐ…
あの地を頼む…。青龍の家を頼む…
戻るなら…オレはあの家に住む!
掃除しとけよ!黒龍!綺麗に磨けよ!」
「あぁぁ!そう言う奴だったよ!お前は!」
黒龍は、康太の背中を叩いた
康太は笑って
「人の命は…高々…百年にも届かない
暫しの別れだ…。
兄者、黒龍、またな!」
別れを告げた
康太は…背を向け、紫雲龍騎の横に立った
「天には星を散りばめ……
地には花や緑に満ち…
魔界は生まれ変われば…落ち着く
オレの気を…魔界に散りばめた…。
その熱から…生物は育ち…
ギスギスした荒廃は…落ち着く。
も、少し、四神と四龍に頑張って貰って…
統治すれば…魔界は変わる…兄への土産だ」
康太は…そう言い…片手をあげた
「オレの蒼い龍が呼んでる。
オレは還る。
オレの名は…飛鳥井康太。
今はまだ人だ
人として思い残す事は…沢山ある。
だから、還るな。
オレは子育てや学校生活に、毎日、忙しい。」
閻魔は…「炎帝…お前の還る日を待っている、後悔のない日々を…な」と康太に言葉を贈った
黒龍は「また酒を交わそうぜ!
青龍に怒られる位…飲んだくれようぜ!」
と物騒な事を言い…別れを告げた
康太は女神に「もう飛び込んで良いか?」と尋ねると、女神は「おう!良いぞ!」と答えた
康太は…一度も…振り向く事なく…
紫雲龍騎と共に…湖に…身を投げた
閻魔は…湖に…消えた炎帝に…想いを馳せた
「炎帝が消えて…魔界は光を失った…
炎帝がいるだけで…その場は光輝き…
色を取り戻す…。
しかも…あやつは誰からも愛され過ぎであろうて…」
思わず呟くと…
「仕方ねぇよ…炎帝は……愛されて止まねぇ…神だからな…。
アイツの姿を見たさに…隠れて壁になってる奴を見てみろよ…
人を惹き付けて…止まねぇからな…アイツは…」
「やはり…人に堕ちても…その力…寸分違わず…持っていたか…。
なのに…幾千と…人の世は…炎帝の力で…破壊はされてはおらぬ…青龍の愛であろうな…」
黒龍は…静かに頷いた
「雷帝…見てみろよ…
炎帝のかけた呪いが解けて……
光を取り戻した。
その光…炎帝が戻ったかの如く…暖かい…」
閻魔と黒龍は、天を仰いだ…
人の世を…後悔なく生きろ…炎帝よ…
我が弟…炎帝よ
お前を…人間界に堕とした…
だけど…幾度…転生しようとも…
その魂は…曲がらず…
痛みと悲しみを知った魂は…
慈悲深い…愛に…満ちていた
青龍の愛が…炎帝を育てたのだ…
康太は…紫雲龍騎と共に…
黄泉の泉に身を投じ…現世の道を…辿った
「悪かったな龍騎…手間をかけた…」
「貴方のいない世界などに用はない
ならば、貴方を連れて還るしかないではないか…。」
康太は笑った
「オレはまだ、子供を育てねばならねぇからな!
オレの子供を育てる
育児と学校が忙しいんだよ!
さてと、サクサク還るとするか!」
康太は…狭い…輪廻の輪を…現世へと潜った
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