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第62話 軌道

生徒会室に向かい、スケジュールを確認する 兵藤は「明日からダンスの選抜しねぇとな。 明日と明後日が予選で24日が本番だ! 中等部は…どうなってんだ?」と、康太に確認した 康太は「知らねぇな、伊織、悠太を呼べ! 校門の所にいたろ?すぐに来るだろ?」と榊原に頼んだ 榊原は悠太の携帯に電話して直ぐに来なさい!と、告げると、今から向かいます…と、答えた 暫く待てば悠太と葛西は…飛んで来た 康太は兵藤の後ろに隠れた 兵藤は、「中等部はダンスの選抜は、何時から始めるんだ?」と問い掛けた 葛西が兵藤に「今日から始めて、23日には選りすぐりを出します!」と告げた 兵藤は、ふん…と鼻を鳴らし 「必ずだぜ!これは行事じゃねぇ! 勝手にやってんだからな、送れたらナシで進める事だけは忘れな!」と厳しく告げた 葛西は兵藤に頭を下げ「解っております!」と返答した 中等部は、生徒会室を出て行った 悠太は、ずっと……康太を見ていた… 康太は…兵藤の後ろに隠れて…顔を出す事は…なかった 中等部が帰ると、兵藤は、 「何故隠れてんだよ?」 と康太の顎を持ち上げた 「捨てとけ!」 「捨てとけねぇからな、聞いてんだよ!」 「オレは今、触られたくねぇんだよ!」 「力を遣うからか?」 「そうだよ!でも、アイツはお構いナシで突進してくる…。」 「瑛太の出来損ないは……康太命だからな」 「貴史!それ以上言うな!」 「言わねぇよ! 俺はお前が生きていてくれるなら、何も言わねぇよ!」 兵藤は、笑って康太にキスすると…離れた 「さてと、オレは帰るな。」 「あぁ。後3日だ!気を抜くなよ!」 康太は片手をあげて、生徒会室を出て行った 一生が、やはり…刹那過ぎる…とごちた 榊原は康太を抱き上げると「消毒!」と康太の唇を舐めた 横を通り過ぎた生徒が…固まってしまったのも構わず… 榊原は機嫌が良かった 学校から帰ると、約束通り、慎一が一生と榊原の消毒に出掛け、康太は玄関まで見送った 康太は応接間で、聡一郎や隼人、源右衛門と子供の世話をしていた 学校から帰った悠太が…康太の側に来ると… 康太は「オレに触るな!」と拒否した 「康兄…何故?」 「オレは今、触られたくねぇんだよ!」 悠太は…固まった 「オレの肩には明日の飛鳥井が掛かってる 聡一郎、オレは部屋に帰る。 伊織が帰って来たら、伝えてくれ。 それより早く笙が、来たら呼びに来てくれ!」 康太はそう言い…応接間を出て行こうとした すると悠太が…康太の手を掴もうとした その手を…聡一郎が押し留め…睨んだ 「触るな!康太に触るな」 「聡一郎…ごめん…」 康太は悠太の横をすり抜け…応接間を出て行った 康太は自室に戻ると…鍵をかけた そしてリビングのソファーで寝そべり…TVを見て……いつの間にか…眠った 榊原と一生が病院から戻ると応接間に康太の姿はなく… 榊原は聡一郎に康太は?と尋ねた 聡一郎は「悠太がいたので、康太は部屋に戻りました。」と告げた 榊原は悠太を見て…溜め息を着いた 「康太に触ろうとしましたか?」 悠太は頷いた 「康太は今、飛鳥井の会社の為に動いてます 改革を進める為に、日々力を使ってます そんな時の康太は触らせません…。 当分…康太には触らない様に……。」 「何故!義兄さんは許して、一生君や隼人君には触らせて…兵藤にも触らせてたのに!」 「康太は僕の妻です。 飛鳥井の家族はそう僕を認めて家に入れてくれたのではないのですか? ならば、妻を触るのは当たり前でしょ? 一生、聡一郎、隼人、慎一は、康太の為に飛鳥井にいてもらう人間です! 康太の為の存在が触れないで、どうするのですか! 兵藤貴史は、果ての康太に縁があるんですよ! だから、切らないで触らせる 康太の行動の総てには意味がある 悠太は飛鳥井の人間なのだから、兄を助け協力しなさい! 決して、足を引っ張るな!」 悠太は…項垂れた… 榊原は応接間を出て自室に戻った ドアを開けようとすると…鍵がかかっていて…榊原は驚いた… 榊原は鍵を開けると自室に入っていった ソファーで丸くなる康太を抱き上げると、榊原は膝の上に乗せた 康太は……痩せた… 力を遣うと…その体は…痩せてしまう 榊原は、康太の頬を撫でた 傷付き…ボロボロになろうとも、康太は歩みを止めない 康太は…その命の止まる瞬間まで…飛鳥井の家の為に……動く 継ぎの真贋が、継ぎを見付けて…この世に出す瞬間まで… 康太は…飛鳥井の家の歯車の一部として生きる… 幾度…生まれ変わろうとも…飛鳥井の家での人生は…気が抜けない… 過酷で…苦しみも…哀しみも…織り成して… 生きていかねばならぬ…運命に…堪えれたのはやはり…… 互いの存在だった…… 互いが…いなければ…投げ出したい位の…辛さに… それでも…生きてきた… 康太は、瞳を開けると…榊原の姿があった 「伊織…帰ってたのか?」 康太が嬉しそうに笑う 「下で悠太に説教してきました」 「伊織…」 「今の君には悠太の想いは…負担にしかなりませんからね…言わなければ…いけなかった」 「聡一郎が可哀想だ…」 「でも、聡一郎はあのバカがお好きですからね。」 「伊織…」 「聡一郎は、あの顔が好きなら…瑛太さんもイケるんですかね?」 「無理だろ? 瑛兄の性格は…どっちかと言えばお前に似てる…。 完璧主義者の聡一郎に完璧主義者の瑛太では…一緒にいるのも不可能だ。」 康太は聡一郎の性格を想い口にした 「悠太は完璧ではないです ですから、兵藤に瑛太の出来損ない…って呼ばれるんでよ そこで非情になれよって所で…躓く…甘い!」 「聡一郎は、そこが好きなんだろ?」 「人の趣味までは…文句は言いませんけど…」 「伊織…聡一郎の気持ちも…少しは汲んでやれ…」 「汲んでませんか?」 「時々…お前はあからさまだ…」 「………聡一郎へのフォローは怠りませんよ?」 「あのバカでも…今世のオレの弟だ…無下にはしたくはねぇ!」 「解ってますよ? ですから、教育してるでしょ?」 「伊織…ギュッ…って抱き締めて…」 康太に言われ榊原は、強く康太を抱き締めた 「悠太の事は、捨てておきなさい! 君が考える事ではないですよ!」 「ん、伊織…怪我は?どうだった?」 「消毒してもらいました。 宣言祭の頃には治るかも…って、残念がってましたね」 「早くねぇ?」 「今の僕は…完全体でしょ? 治癒が早いんですよ?」 「………なら、一生も早いのかよ?」 「一生は……無理しすぎ…と、医者に怒られてましたよ…」 「やっぱし…。 寝てなきゃいけねぇんだよな?」 「でしょ?」 「寝かすか?医者に頼んで…注射とか…?」 「久遠医師が、僕にこそっ…と、一生の薬に睡眠薬を混ぜとく…って言ってましたよ?」 「解ってるな!あの医者は!」 「慎一は、それを帰ってきて直ぐに飲ませましたからね。今は…寝てるでしょ!」 「なら、安心だな!」 「康太、僕の康太!」 榊原は、康太を力強く抱き締めた 「なぁ伊織」 「なんですか?」 康太は榊原を見て「一生が赤いのだって、今のお前は知ってるよな?」と問い掛けた 「ええ。知ってます」 「ならば伊織…昔話をしてやろうか?」 「え?康太?昔話ですか?」 「あぁ、お前は知らねぇとならねぇからな まぁ、聞けって!」 「はい。」 「昔、紅い龍がいたんだよ! その紅い龍は…見た目はチャラいが中身は誠実で…炎帝と言う奴と…永久の友情を誓った 紅い龍は…青龍と言う弟が自慢だった その自慢の弟は…炎帝と人の世に堕ちた 信じられなかった…信じたくなかった… 紅い龍は兄の黒い龍に『嘆くばかりじゃなく、己の目で知るが良い』と謂われ決意するんだよ 決意した紅い龍は…人の世を…見せてくれ…女神の泉の女神に頼んだ… そこには楽しそうに笑う…青龍の姿があった… 紅い龍は…何度も…黄泉の泉に通った… 紅い龍の横には常に‥‥女神がいた 女神は紅い龍が今にも泉に飛び込まないかと心配していた そんな女神と紅い龍が……心を通わせるのに、そんな時間は要らなかった 紅い龍は女神と愛していた… 女神は紅い龍を愛していた 友人の…朱雀は…止めたよ 黒い龍も弟を止めようと必死になった 二人は……逢瀬を続け……互いを愛し合っていた… だが女神は‥‥閻魔の妻だった 人妻だったんだよ 遅い愛だった‥‥‥許されねぇ愛だった 元は閻魔が妻を愛さなかったのだから…仕方ねぇ事だったが… それでも閻魔は女神を魔界や黄泉には置いてはおけれなくなり…人の世に…落とされた… 二人の愛は終わりを告げた だが紅い龍は…女神を追って…人の世に落としてくれ…と、新しい女神に頼んだ 新しい女神は、閻魔の娘…前の女神の娘に…頼んだ… 女神は…情けをかけて…オレと同じ…今世に紅い龍を落とした その時…朱雀も…紅い龍を追いかけて堕ちたのは…想定外だったがな… そして、紅い龍は…人に堕ちた女神を見付けて…愛し合った… だが…またしても…彼女は…人のモノだった… 禁断の愛だと解っていても…二人はやはり愛し合い…今世でも…子を成した… 禁忌なのに……だ! オレ達は…弥勒や龍騎の様に…子は遺せねぇ…なのにだ! 女神は…もう、神への転生の道は途絶えた 人として…幾度も…生まれ変わらなければならくなった 閻魔は…妻だった女だ…情けをかけた… 情けをかけて…記憶を…『 無 』にして落とした 無で産まれたのにな…やはり…愛は皮肉だった… 紅い龍は…やはり、その女を…未来永劫…愛すと誓った そして……その女も…やはり愛するのは貴方だけ…と愛を誓う… 紅い龍は……来世の転生はねぇ オレと共に…還る… 閻魔の下した…最大の罰だ… 還った世界に…あの人はいねぇんだからな… でも、流生が生き続ける… 流生は…二人の愛の結晶だ… 紅い龍は…誰よりも傷付き…誰よりも愛を貫いた… そんな昔話だ。 カビは生えちゃいねぇだろ?」 「康太…それが紅い龍が人の世に堕ちた…真実なのですか?」 「お前は…知っておく必要があるだろ? 元はと言えば…お前がオレと堕ちなければ… アイツは…黄泉の泉に行く必要などなかった…。」 「紅い龍は…どんな気持ちで…記憶をなくした…弟を見ていたのですか… どんな……気持ちで…側にいたのですか…」 「例え地に堕ちようとも…紅い龍にとって… 青龍は誇りだった そして……今世のお前の記憶を封印したのは…知っていた…黄泉の泉から、見ていたからな… 総てを知っていて受け止めて…墜ちてきた…。 紅い龍は、精一杯に…お前に対しては誠実であろうとしなかっか? お前を絶対的に信じて動いてくれなかったか? お前は不思議には思わなかったのか? あの絶対の信頼は…何処から来るのか…を?」 「………言われてみれば…そうです。 でも…紅い龍は…炎帝を愛してはいませんでしたか?」 「……友情…と言う事にしておけ! 多分…愛の種類は…違う…オレとアイツの間には…セックスは存在しねぇ…。 精神的な愛だろ? 絶対的な愛だろ? 譲れねぇ存在なんだろ?」 「…セックスが介入するよりも…質が悪いと思いませんか…それって…」 「今更変われねぇかんな、諦めろ」 「康太…僕は…君を愛せて良かったと想います 君を愛したからこそ解る想いが…沢山あります 君と出逢ってなかったとしたら…と、想うと…僕の人生は…怖いものになります 僕は…生きているんです…。 君を愛する感情を…僕は泣きたい位…感じているんです。 君が要るからですよ」 榊原は康太を力強く抱き締めた 康太は…榊原を力強く掻き抱いた 二人は…慎一が呼びに来るまで…互いを抱き締めていた ノックをしてから、ドアを開けると… 康太と榊原がソファーの上で抱き合っていた 互いを…確認し…… 互いを支え合うかの様な抱擁に…慎一は、声をかけずらかった が、「笙さんが来ました。 応接間で待ってもらってます!」と告げた 康太は榊原から離れると立ち上がった 「慎一、外で撮影するから暖かい防寒着を着てから来てくれ。 オレも伊織に防寒着を出してもらって下へ降りるかんな!」 康太が言うと慎一は「解りました。あっ!一生は寝かしてます!明日まで起きませんから!」と告げ部屋を出て行った 「伊織、そう言う事だから、防寒着にマフラーに手袋にホッカイロ、頼む」 「解りました。ついでに暖かい珈琲とミルクをポットに入れて行きます」 「オレは応接間で笙といる。頼めるか?」 「下に持っていくので構いませんよ」 康太は一階まで降りて行き、榊原は支度に取り掛かった 康太が応接間へ行くと、笙が神野に連れられソファーに座っていた 「神野、防寒対策して来たか?」 「はい。車の中に入ってます。」 「ならば、笙は商品は着てるのかよ?」 「まだです。」 康太は笙に、向き直ると、笙の膝の上に乗った 「笙、脱げ!」 「ちょ!……止め…康太!」 康太が笙の服を脱がす… 上半身裸にした所へ…榊原が支度を済ませ…入って来た 榊原は目が…点になった 「兄さん…康太に襲われてます?」 「伊織!お前の妻だろ!止めろ!」 笙は噛み付いた 康太は構わず、笙を裸に剥いて行く ズボンに手を掛けた所で…榊原が止めた 「脱がすなら、僕のにしときなさい! 僕なら抵抗なく康太に脱がさせてあげますよ」 笙は呆れた… 「違げぇよ! 笙に商品を着せねぇとCMが撮れねぇんだよ!」 「でも、康太が上に乗らなくても! 神野に遣らせておけば良いじゃないですか!」 榊原は焼きもちを妬いて…ムキになって言った 「その神野が着せてねぇから剥いてんじゃねぇかよ!」 「慎一、康太を剥がして下さい!」 榊原は流石と…康太を抱き上げられず…慎一に頼んだ 慎一は笙の服を脱がす康太を、笙から剥がして榊原に渡した 榊原は康太を抱き締めて離さなかった 笙は苦笑して…神野にCMの服を渡してもらい…着た 「本当に…伊織の独占欲は凄いな 僕も次は…それ位愛して離さないで…この子を世に送り出します」 と笙は胸の十字架を握り締め…接吻した 榊原は兄を見詰め… 「兄さん…貴方とは恋愛の話もした事が有りませんでしたね。 でも多分…僕の初恋は康太ですので…話せなかったと想いますよ。 何時の世も…同じ性を持つ恋人は……紹介し難い…。 外で堂々と手を繋げませんからね…閉鎖的な世界にだけ…僕達は在る存在ですから…」 と、哀しげに…榊原は呟いた 自信満々で康太を愛して止まない弟は… 世間の目から見た自分達の異端さも…知っていた 「飛鳥井の家族が…僕達を受け入れて下さったから…今がある…。 まぁ認められなくても…僕は康太と生きていくつもりでした…。 覚悟をしなければ…同性など…愛せません」 「伊織…そんな風に想っていたのか?」 「僕は康太を互いの両親に紹介して…反対されても…黙認と言うカタチで、認めさせ…生きていくつもりだったんです。 両親には……申し訳ない… でもこの愛だけは…誰にも譲れない… だから、飛鳥井の家族にも…榊原の家族にも…認められて…僕達は…ラッキーな存在です。 幸せです。 僕達は…子供も…産めませんからね…母さんに…無理させてしまいました。 本当に…僕達は…恵まれていると…想います」 「伊織…お前は…そこまで…愛を貫いて…生きていく覚悟を…決めていたんだな お前とは…話した事がなかったからな…解らなかった… お前は…何でも手中に納めている…苦悩なんてない奴だと想っていた… 同性の恋人でも…皆に認められ…苦悩なんて感じてさえいないと…想っていた…」 「兄さん…そこまで僕は厚顔無恥にはなれませんよ…」 「意外だったな…」 笙は笑った 「伊織…僕はお前と康太を応援します! 父さんや母さんの様に…お前達を守ってやる 何があろうとも、伊織は僕の弟だ!」 「兄さん…ありがとうございます…」 兄弟で分かち合っていると康太の怒声が響き渡った 「おい!早く行かねぇと満天の夜空がなくなるぞ!」 康太は急かした 笙は商品の服に身を包み、商品の防寒着を着た 「神野、バスはチャーターしてあるよな?」 「はい。もう着いてると想います。」 「忘れ物はねぇか?行くぞ!」 榊原は康太にダウンジャケットを着せてマフラーを巻いた 慎一は、隼人を促した 康太は聡一郎を促し、応接間を出る 家を出ると、駐車場にはバスが停まっていた 神野の後に着いて、バスに乗り込もうとすると、クラクションが鳴らされた 振り向くと…瑛太が、車から降りて康太に近付いた 「康太、何処へ行くのですか?」 瑛太は康太を抱き上げ、頬にキスをした 「笙のロケに飛鳥井の資材置き場に行くんだよ!」 「資材置き場?箱根の?」 「そう。資材置き場の裏の山で撮影すんだよ 帰宅は夜中か、明日の朝…かな?」 「気を付けて行ってらっしゃいね」 「おう!行ってくんぜ!」 「晟雅、私の大切な家族達だ、気を付けて下さいね!」 と神野に頼むと、康太を離した 康太がバスに乗ると、聡一郎から聞いて作ったと言う『一生特製オニギリ』を手渡してくれた 「おっ!一生特製じゃん!慎一が?」 「聡一郎に聞いて作りました。」 「ありがとな!うめぇな!」 康太は慎一が作ってくれた一生特製オニギリに齧り付いた 聡一郎が康太の顔を泣きそうな顔で見てたから、康太は聡一郎を招いた 康太に抱き着いて泣く聡一郎の姿を見れば… 榊原は胸が痛んだ 「康太…僕は…」 「悠太と別れる…って言うなら止めねぇぞ でもな、話し合わずに別れたら後悔するぞ」 「悠太は…僕じゃ支えきれません…」 「ガキだからな! アイツはまだガキなんだよ! 本当の男になるには…また少しかかる 別に……支えてやる必要もねぇのによぉ! 聡一郎は甘いんだよ! それで疲れたら、本末転倒だ!」 「康太…僕は…どうしたら良い?」 「今決めなくても良いんだよ! どうして、おめぇは白黒ハッキリ着けたがりなんだよ! 結論は出すな!解ってるな?」 聡一郎は、頷いた 榊原は「聡一郎、早まると後悔しますよ…」と言い…思い付いたかのように携帯を取り出した 「悠太、お前、聡一郎と別れる気なんですか?」 電話口の悠太は大声をあげ慌てて、凄い音を立てて………転げ落ちたみたいな音がした 『痛てぇ…義兄さん! 俺は別れたくないです! 聡一郎が言ったのですか?別れるって? 義兄さん!聡一郎を止めて下さい! お願です!義兄さん…』 と、榊原に泣き付いた 「なら、飛鳥井の家に帰るまで待ってなさい!寝たら…そこで終わりです!良いですね?」 『解りました…義兄さん…ありがとうございます…』 榊原は、電話を切ると 「聡一郎、悠太は別れたくない…見たいですよ? しかも驚いて…何処からか落ちました… 怪我してますね…あれは。」 「えっ…怪我…嘘…」 榊原は聡一郎の頭を叩いた 「そんな心配な顔するなら別れる決意なんてするんじゃありません!」 「伊織…だって…」 「とにかく、総ては帰ってからです!」 榊原が言うと聡一郎は頷いた 道路は空いていて、予定より早く飛鳥井建設の資材置き場に到着した 「撮影は、この山道を登るんだよ! 慎一、懐中電灯を渡してくれ!」 康太が言うと、慎一は懐中電灯を一人ずつに渡した 「遼一に頼んでセットはしておいてもらった さてと、行くぜ!」 康太はそう言うとバスから降り、山道を懐中電灯で照らしながら歩いて行く 30分位登ると…真っ暗な中から…満天の夜空が見える…広い場所に出た 広い場所に出るとそこには照明があり、慎一はライトを灯した 康太はその広い場所の中央に立つ様に、指示した 「伊織、笙を照す様に下にライトを設置して…」 康太に言われ、榊原は照明の一個を持つと、笙の足元に置いて、笙を照らした 「大きい方のライトを消すから、あまり動くなよ!此処は柵とかねぇからな、落ちるぞ!」 康太はそう言うと、大きなライトを消させた 辺りは真っ暗になり…暗闇に笙だけ写し出されていた 康太は小型カメラを持つと、笙に話しかけた 「笙、上を見てみろよ! 星が一杯に有るぜ!」 康太に言われて…笙は上を向いた 康太は…撮り続けて話し掛ける 「星が大きいだろ? 落ちてきそうに…デケぇだろ?」 「うん。こんなに大きく光る星は見たことないよ…」 「幾千の星があるように… 幾千万の人がいる 人の出逢いはあの星の中から…探し出すようなモノなんだぜ! 況してや人生の伴侶とも謂える恋人って言うのは…特別な輝きを放っている それを見つけて縁を結わえる 出逢う事事態が奇跡なんだよ… そして出逢った人と愛の手を掴んだら離したら…ダメなんだ…消えちまう…」 笙は…星空を見上げて…泣いた… 輝く星の数程、人生はある 僕もこの星の数の一つ 輝きを放たねば視界に入る事もない‥‥ 出逢いこそが奇跡なら‥ 還っておいで‥‥僕の元に‥‥ 綺麗な涙が…笙の頬を流れて…落ちた… 「この星の中から…探し出せ…お前の永久の恋人を。」 笙は…康太の方を向いた 「笙、オレは子供の頃な、あの星が掴めると思い…この崖から落ちたんだよ! 旨そうな星が、オレは食いたかったんだよ!」 康太らしくて、笙は笑った 凄い自然な笑顔だった 心からの笑顔だった 撮影は、夜中を越えて…行われ… 康太は…ならば、朝陽も撮るか…と、言った 慎一は建築現場とかに置くストーブに火を着け、暖を取っていた 遼一が準備しておいてくれたものだ ストーブの上にやかんを置いて…その湯で…康太はカップラーメンを作って食べていた 榊原は珈琲を作り、皆に配った そして、暖を取りながら…朝陽が出るのを待った 水平線から太陽が顔を出すと…辺りは…紫色に色を変える… モノクロだった世界は色を帯びて生まれ変わって逝く 康太は笙に 「見てみろよ!笙! この朝焼けの赤さを…忘れるな!」 と朝陽を指差した 笙は…康太の指差す方を見た 遥か彼方から…顔を出す…紅い太陽が…昇り始めていた 「朝は、やって来る。 どんなに辛い時だって…朝はやって来る 燃え滾る紅さを携え…太陽は昇って来る 生命の赤さだぜ笙! 生命の産まれる朝だ 人の1日の始まる…朝だ… 見ろよ…街を…照らし…朝を告げる 起きろ!目覚めろ!笙! お前の人生の第二部が幕を上げたぜ もう降りられねぇぜ! さぁ、歩き始めろ…」 笙は…朝陽を見詰めていた… 風に髪を靡かせ…闘志を湛えて… 笙は朝陽に向かって吠えた… 康太はそれらを総てカメラに納め、撮影は終了した 「撮影は終了だぜ!お疲れさん!」 康太が声をかけると、皆が動き出した 笙は…康太に飛び付いて…泣いた… 「このフィルムを編集して、CMになるのは来月中旬か、下旬だ。 このフィルムは、このまま業者に渡す 編集は…企業の委託会社の人間がやる」 「康太…本当にありがとう…」 「さてと、帰るぜ笙! オレはこのまま飛鳥井に帰って、学校に行く そして、昼から戸浪だ! スケジュールが詰まってんだよ」 康太は笑って笙の背中を撫でると、神野にカメラを渡した 「神野、帰るぞ!」 「はい。飛鳥井の家に寄らさせてもらって良いですか?」 「良いぜ!飯を食っていけよ! オレが瑛兄に頼んどいてやる!」 康太は瑛太に、これから帰るから朝飯を用意しておいてくれと頼んだ。 全員の分を頼むと言うと、用意しておきます…と、返事をもらい電話を切った 康太は、腹減ったぁ~と山を降りて、バスへと目指す 皆、康太の後を追い、山を降りて、バスに乗った 朝早くと言う事もあり、道路は空いていた 飛鳥井の家の駐車場に着くと、全員が降りた 全員が降りると、バスは発車して帰っていった 康太は飛鳥井の家に入って行くと悠太が突進して来た 康太は思わず…慎一に抱き着いた 悠太は聡一郎目掛けて…走って行き…聡一郎を抱き締めた 「慎一、オレをキッチンに連れていけ…」 「解ってます! 伊織、隼人、神野、小鳥遊、笙も、さっさとキッチンに行きますよ!」 と全員を促し…キッチンへと向かった キッチンに行くと、康太を何時もの席に座らせ、慎一は朝食の準備をする すると、そこへ、かなり怒りモードの一生が…康太に抱き着いた 「俺を置いて何処へ行ってんだよ!」 康太は一生の背中を撫で、落ち着くのを待った 「一生、飯食うぞ! 後2日しかねぇんだぜ! 食ったら支度しねぇとな!」 康太が言うと一生は席に着き食事を始めた 康太は……何日も…食べてない如く…の食べっプリで、沢庵が足らねぇ…と慎一に泣き付いた 慎一は沢庵のおかわりを作ってやり、甲斐甲斐しく世話を焼く そして食後の玉露を入れてもらい、それを飲むと、自室に戻り、着替えを始めた 康太は自分で制服を着て行く 榊原は自分の支度をすると康太を構った 「廊下に聡一郎と悠太はいませんでしたね?」 「犬も食わねぇ…ってやつだろ?」 康太の髪をセットしてやり、鞄を持つと、寝室の鍵をかけ、リビングに出た リビングに、出ると一生が待っていた 「眠れたかよ?一生」 「朝まで爆睡だよ! 朝起きて、皆を探していたら悠太が玄関にいた。 皆はロケに出てるって言ったからな…少しアイツの話を聞いてやった」 「聡一郎が別れる…って泣いてた」 「…らしいな。子供だからな…アイツは。」 「当たり前だよ…4月で高校生だぜ… オレ等だって子供と言われる年なんだぜ… アイツはガキの中のガキのキングオブガキだぜ!」 「でもよぉ…15で…一児の子持ちかよ… 仕事止めたんだろ? 彼女…生む決意したんだろ?」 「らしいな。力哉に任せて有るからな。」 「聡一郎や悠太は知ってんのかよ?」 「知らねぇよ!教える気もねぇかんな!」 「俺は口は出さねぇけどな…。」 「そのうち…だな。 今は…オレはそれに構ってらんねぇよ!」 「だな!なら行くか!」 「おめぇは寝てろよ!」 「嫌だよ!」 一生は笑ってリビングを出ていった 部屋を出ると隼人が呼びに来るとこだった 「康太、貴史が遅いって怒って来てるのだ オレ様は…思わず…チビりそうになったぞ…」 「隼人、大丈夫だ。 お前に手を出したら3倍返ししてやるからな!」 康太は笑って隼人の手を繋いで一階に降りていくと… 怒りモードの兵藤が…朝飯を食わされていた 「よぉ貴史。待たせたな…。」 「遅せぇんだよ! 俺は凍えて死ぬかと思ったぞ! しかし…飛鳥井は…俺の顔見ると飯を食えって…しかし…この珈琲はうめぇな!」 「悪かった…。 昨夜からオレは箱根に行ってた。 しかも山の中で…寒みぃー場所で撮影してたんだよ!許してくれ。」 「箱根かよ…。 あっ!昨夜、来たバスはお前んちだったのかよ!」 「そう。バスに乗って寝ずに箱根の山の中に…満天の夜空を見ながら撮影だ。」 「撮影ってお前が撮るのかよ?」 「そうだぜ!飛鳥井のCMは総てオレが撮ってる。 でも、今回のは飛鳥井の仕事じゃねぇ。 紳士服の防寒着の仕事だな。」 「器用な奴だな…お前は。」 兵藤が食事を終えると、慎一が片付け、康太達は立ち上がった 康太が廊下に出ると、神野と小鳥遊と笙が帰る所だった 「帰るのかよ?」 「そう。瑛太に乗せてって貰うところだ。 バスを呼んだから…歩いて来たからな、足がねぇと言うと乗せてってくれると言うから、乗せてって貰うところだ」 「オレは学校に行く。 昼からは若旦那と会食だ。」 瑛太は「気を付けて行くんですよ。」と康太を抱き締めた そして、兵藤の顔を見て軽く会釈をして、外へ出ていった 兵藤は、瑛太の顔を見て「隙がねぇな…」と康太に囁いた 「飛鳥井瑛太は…その仕種や動作に隙がねぇんだよ。」 康太は何も言わず笑い、兵藤を急かした 学園に行くと、午前中はダンスの選抜をトーナメント方式でやり 明日は準決勝をやり、明後日は本番となった 昼前に駐車場に行くと、力哉が待ち受けていた 慌ただしく車に乗り込むと、康太は聡一郎に、今夜部屋に来い…と告げた それまで、二人で話し合って、答えを聞かせてくれ…と、康太は言った 「力哉、ROMの焼き増しは?」 「出来てます。 もう鞄に入れてあります。」 「なら、聡一郎は話し合い、慎一は一生を消毒に。 オレはこのまま戸浪に行く。」 「なら、飛鳥井で一生と慎一、聡一郎を下ろします。」 力哉は飛鳥井の家へ行くと、三人を下ろして、戸浪へ向かった トナミ海運の駐車場に車を停めると、社内に入っていった 受付嬢に到着を告げると、直ぐ様、社長室へどうぞ!と言われた 直通のエレベーターに乗り、最上階に行くと、戸浪はドアを開けて待っていた 「若旦那、時間を作ってもらって悪かったな 今日は、若旦那に飛鳥井のCMを見て欲しくてな、ROMを持ってきたんだ。 会食はまたな。一生の傷が…未だだからな、スーツの約束も待ってくれ」 「幾らでも待ちますよ。 田代、珈琲と、紅茶と、ケーキを持ってきなさい。 後、このROMを見れるように支度をして下さい」 戸浪は秘書に指示を出してから、康太に向き直った 田代は康太の前に紅茶とケーキを置き 榊原と、戸浪の前に珈琲とビターケーキを置いた そして、康太の持ってきたROMをPCにセットして、テレビ画面で見れるように入れようにした 社長室の大型テレビの画面に…一条隼人が映し出された 隼人の腕には…裸の赤ちゃんが抱かれていた 赤ちゃんの笑った顔がアップになり、優しい隼人の顔が映し出されていた 戸浪は…その映像に…釘付けになっていた 「この赤ちゃん……ひょっとして、流生ですか?」 「そうだ。流生はこれからも、時々飛鳥井のCMに出るからな、そのたびに持ってくるよ。」 戸浪は…言葉もなかった… 田代は…もう一度……そのCMを流した 戸浪は…その映像を見て……涙を流していた 目頭を押さえて涙を拭いてから…康太に向き直った 「ROMが二枚…妹にも…下さるのですか?」 「海外は、CDだと見れないのも有るからな。ROMならPCで見れる。 オレには…これ位しか出来ねぇけどな。」 「十分です…本当にありがとう… 幸せそうに笑って…大切にされてるのが解ります。ありがとうございました」 「若旦那、またな。 宣言祭が終われば、卒業までの間が時間が出来る。 そしたら一生も出てこれる。 その時に教育をする。」 「宣言祭の成功を願っております。」 「ありがとう。ならまたな。」 「はい。また来てくださいね。」 戸浪は康太を抱き締めた 康太は戸浪の背中を撫でると、体を離した そして片手をあげて…社長室を出ていった

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