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第63話 戦略
康太達はトナミ海運を出て飛鳥井へ向かった
飛鳥井建設の地下駐車場で車が停まると
「オレは瑛兄に逢って社内を見てくるから、力哉は伊織を消毒に連れてってくれ」
「解りました。では後で…」
康太は車から降りると…車を見送ってから、エレベーターに向かった
丁度…誰かが下がって来て、ドアが開いた
栗田が目の前の康太の姿に……固まった
「康太、貴方、怪我とか大丈夫なんですか?」
「オレは怪我なんてしてねぇぜ」
一生と榊原が刺された日…康太は血だらけだった…
だから、康太も怪我したと…栗田は思っていたのだ…
「まぁ、話は今度な!
お前は下りるんだろ?」
康太が謂うと栗田は
「降りるつもりでしたが…貴方と上に逝きます!」と言い最上階のボタンを押した
「今日はお一人ですか?」
「消毒に行かせた。」
「貴方が血だらけでしたから…怪我したものだと想いました」
「だが、オレの命を狙ったも同然だ!
伊織が死んだらオレも確実に後を追うからな!」
「そうですね…貴方は…その命を…傷つけられたも同然ですね…」
「それより、栗田、社内の雰囲気はどうよ?」
「どうですかね?
今は昇進試験の真っ只中ですから、それに向かっている感じはします」
「栗田、頼みがある。」
「貴方の頼みは怖いから…俺は貴方の頼みなら何でも引き受けてしまうんだよな…」
「副社長室まで来い。そしたら話してやるからな」
「………俺は瑛太さんに嫌われてませんか?」
「嫌ってねぇだろ?嫌ってたら…首になってる…」
「……基準はソコですか…」
「瑛兄は、オレ以外は…あんなもんだろ?」
「……そうですか…?」
「気にするな…お前が瑛兄より年上だから…
どう接して良いか解らねぇだけだ!」
「…………あの方は…まだ30そこそこでしたね」
「気にするな…気にするのはお前を選んだ恵太を否定する事になるんだぜ!」
「……それは、嫌ですね」
「栗田…」
「なんですか?」
「副社長室に行ったら…瑛兄に話す」
「……解りました」
「お前は…この先もオレのモノだろ?」
「当たり前です!オレを飛鳥井に引っ張ったのは貴方でしょ?」
康太は栗田に抱き着いた
「お前はオレの最強兵器だかんな
オレの戦略の一番前を走らせて来た
お前にしか出来ねぇ事をしてもらう」
「コキ使われましたからね…貴方には」
栗田も康太を抱き締めた
「コキ使った分は、お前にしてやりたかった
誰よりもお前を幸せにしてやりたかった…」
「貰いましたよ。
貴方は…沢山…俺にくれた。」
「これから、お前を…もっと過酷な位置に置く…オレを許してくれ…」
「貴方の期待に、俺は応えて来ませんでしたか?
なら、次も大丈夫です!」
栗田は、康太の背中を撫でてやった
最上階に着くと、康太は栗田から離れた
栗田一夫は…子供だった飛鳥井康太に見込まれて、引き抜かれた存在だった
初めてWAKITAの仕事した時に出逢って以来の付き合いだった
康太は栗田の…全体を見る洞察力を買っていた
そして、命令は寸分違わず完遂する責任感の強さも気に入っていた
栗田は飛鳥井建設の社員ではなく、飛鳥井康太に雇われ
康太の命令で飛鳥井建設で働いている、飛鳥井康太の駒だった
栗田の雇用主は飛鳥井康太、だった
康太の戦略の一番前を常に走らせて来た…盟友…でもあった
康太は副社長室のドアをノックすると、瑛太がドアを開けてくれた
「康太、栗田?珍しい組み合わせですね。
どうぞ。お入り下さい。
佐伯、珈琲と紅茶をお持ちして。」
瑛太は笑ってソファーに座った
副社長室の机の前には…特大のネズミが座っていた
「瑛兄、栗田はオレの最強の駒だって、知ってるよな?
オレはその駒を使って戦略をかける
栗田を設計、施工、建築部の総責任者に任命する。
社員を高い上から監視して、適切な指示をだす司令官に栗田をする
他の部署にも司令官を作る
総ての情報を司令官が把握し、適切な指示を出させる
ワンクッションを置く事によって関係が上手く流れていく事もある!
栗田は最前線で仕事をさせる!
栗田の人を見る眼は確かだぜ!
異存がないなら、伝令を流せ!」
「康太、君が栗田を拾って来て
飛鳥井で働かせている真贋です
飛鳥井で働いていますが、栗田の雇用主は康太でしたね。
異存は御座いません。
栗田……最前線に出てくれるのですか?」
瑛太が栗田に声をかける
「俺は何時の時も、飛鳥井康太の命令通りに動く手持ちの駒ですから!」
何があっても…康太の意図を汲んで動ける人間
…それが、栗田一夫だった
「………なるほど。康太の眼は…凄い…」
瑛太は呟いた
「栗田」
「はい。」
「お前が逝くは修羅の道
一筋縄では逝かぬ場所!」
「元より、その覚悟がなくば、貴方とは共には行きません!」
「ならば逝け!
お前をこれより統括本部長の地位を任命する!
オレも共に逝き、皆に伝える事としよう!」
康太は立ち上がると、栗田の手を掴んだ
「そのまま…行きますか?」
流石と栗田は聞いた
「たまには良いだろ?」
「昔は良く肩車させられましたからね。」
「お前はオレの持ち物じゃねぇのかよ?」
「はい。俺は貴方の持ち物です。
ですから、何があっても貴方の期待を裏切った事はない。」
「と、言う事だ。
オレは栗田を設計、施工、建築部へと共に逝き皆に知らしめる!
ならな。瑛兄」
瑛太は「伊織は良いのですか?」と問いかけた
「途中で逢うだろ?」
康太は副社長室を出てエレベーターのボタンを押した
エレベーターが、開くと…そこには榊原が、立っていた
榊原は………エレベーターの、前に立つ康太が目に飛び込んで来た
良く見ると…康太は栗田と仲良く手を繋ぎ…
笑っていた
榊原は………固まった…
「伊織!これから四階の設計、施工、建築部へ行く。
お前も行くか?行くなら少し離れて見てろ」
「……康太…浮気ですか?」
「違げぇよ!
栗田はオレの持ち物だ。
持ち物に触っても浮気にはなんねぇよ!」
康太はそう言うとエレベーターに乗り込み四階へと向かった
四階で停まると、康太は栗田と手を繋いだまま、部屋の中に入って行った
全員が…固まり…康太を凝視した
その中で、九頭竜遼一だけが、大声で笑って
「康太!ソイツはお前の駒だと公言しに来られたか?」と問い掛けた
「そうだ!オレの最終兵器だぜ!
オレが10になるかならねぇかの時に引き抜いた、オレの持ち物だ!
オレの思いの通りに寸分違わず動けるのは、飛鳥井の中でも、栗田は断トツだぜ!」
「では、俺等を集めた意図を告げられよ!」
遼一は康太が発言しやすい雰囲気を作る
「飛鳥井建設は各部署に統括本部長と謂う部の最高責任者を置く事となった
栗田一夫は設計、施工、建築部の統括本部長に就任した
栗田一夫の言葉はオレの言葉だ!
真贋の目となるべき存在を、此処に配置する!
仕事で意見の違いは認めてやる!
だが!縄張り争いみてぇな陰険な争いは排除する!
栗田の言葉はオレの言葉だ!
栗田の言葉を聞かぬと謂う事は、飛鳥井家真贋の言葉を聞けぬと見なし、処分の対象となる!
心しておくように!
明日には正式な辞令を渡せる。」
康太の言葉を…社員は…真剣に聞いていた
逆らえば…切られるのは…目に見えていた
社員の願いは1つ…
会社の為に働いて認められたい
恵太が「異存は有りません!」と叫んだ
康太は栗田の手を離すと…抱き締めた
「お前に…辛い道を歩ませる…許してくれ」
「構いません!
俺は貴方の持ち駒ですので、貴方の為に働く!
それはこれからも変わりません!」
栗田はそう言い、康太に頭を下げた
康太は笑って、社員を見渡した
「遼一、おめぇは飛鳥井家真贋の耳だって忘れるなよ!」
「おー!任せとけ!」
「ならば遼一、今週末から各部署の懇親会を開始しろ!
違う部署の奴等と懇親会を開け!
飲めば本音も出て来るだろう、お前はその一つ一つを拾い上げてオレに伝えろ!」
「了解!今週末から懇親会を始める事にする!」
「って事だ!皆も楽しめ!」
康太が言うと、皆、オオオオオッと歓喜する声が響き渡った
康太は話が着いたと踵を返すと、恵太が康太の側に来て
「君が相手なら…勝ち目がないと…泣きそうでした…」と呟いた
康太は笑った
「恵兄、アレはオレの駒だぜ!
飛鳥井に栗田を連れてきたのはオレだ
恵兄と恋人になる遥か前から、オレのなんだよ!
オレの持ち物だと、知らせねぇとな!
栗田は恵兄一筋だ!安心しろよ!
オレは栗田の直属の雇用主だ!
会社じゃねぇ!
雇用主に対して誠実で在るのは、当たり前だろ?」
「えっ!知りませんでした…。」
「当たり前だよ!誰にも言ってねぇかんな
社内にオレの眼を潜ませてんだよ!
オレの言葉を寸分違わず動く…駒をな!
さぁ、恵兄は設計部、部長になるんだから、率先して懇親会に出てくれ!」
「解りました。
では。また飛鳥井に行きますね。」
恵太と離れと康太は榊原に向き直って笑った
「なっ!浮気じゃねぇだろ?」
「驚きました…。
皆に知らしめる為でしたか
でも心臓に悪いです
栗田が…どうして、あんなにも、貴方に社員の動向を進言するのか…やっと解りました
君の持ち物だったんですね
でも君が…僕以外と…手を繋ぐのは…見たくないです…。
頭が真っ白になりました
浮気だったら…僕は………」
「オレが浮気するかよ!
伊織にしか反応しねぇのに…無理だろ?」
「康太…下半身に…来ました」
「なら、トイレに行くか?」
「康太…僕は今……ゴムは持ち歩いてはいません…。
中出ししたら嫌でしょ?我慢します。
飛鳥井へ帰りますか
でも力哉はまだ仕事中ですよね?どうしますか?」
「タクシーで帰れば良い。
誰かを迎えに越させるのは、気が引けるかんな」
「では、帰りますか」
「おう!」
康太はエレベーターのボタンを押すと扉が開いた
一階まで行き、会社の外に出ると…そこには、一生が待っていた
「よぉ!力哉が康太と伊織の迎えにいってくれ…と頼んで来たんだよ!」
康太と榊原は一生が運転する車の後部座席に乗り込み、還って逝った
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