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第69話 歩み出す時

薄暗い夜道を…康太は榊原と、共に歩く 飛鳥井の家へ行く道でなく、坂道を登り…高台まで行く 高台まで行くと、一際目立つ御屋敷って感じの家が見えた 高い塀で…囲まれ…洋館の家がライトアップされていた 榊原は、呼び鈴を鳴らすと…真矢の声が聞こえた 『どなたですか?』と真矢が尋ねる 榊原は『母さん、僕です。伊織です!』と答えると 真矢は「まぁ!伊織、今開けます!」と返答があり、ガチャっと、ドアが開かれた ノアノブを捻りドアを開けると、真矢が走って出迎えに出てくれた 「伊織!まぁ康太も!どうしました?」 康太と榊原が家に入ると…ドアが締まり…ガチャと鍵がかかった 「清四郎さんに、話があって来ました。」 と、康太は深々と頭を下げた 真矢は康太と榊原を応接間に招き入れた ケーキと紅茶を入れて、真矢がもてなす 「伊織にまだ鍵を渡していませんでしたね 何時でも帰ってらっしゃいと言いながら… 鍵も渡してないなんて…ごめんなさいね」 真矢が康太に謝っていると、清四郎が応接間に現れた 「康太、来ると言ってくれれば迎えに行ったのに!歩いて?」 「学校の帰りなので…、歩いてきました 今日は清四郎さんに話があって来ました」 清四郎は、ソファーに座り、真矢に笙を呼んできなさい…と、告げた 「家族全員が聞く…それで良いですか?」 「はい。構いません…オレは覚悟を決めて…此処にいます。 それだけは…解って下さい……」 清四郎は康太を見た 康太の瞳は…覚悟を決めていた 笙が呼ばれて…ソファーに座ると…榊原の家族が揃った 榊原は、康太の手を握り締めた… 康太は、その手を…やんわり外した 「御家族、揃いましたね? 良いですか?話をしても?」 「はい。お願いします」 「清四郎さん、貴方は父親の事を覚えてらっしゃいますか?」 「いえ…。家には父親の写真は…一枚もなく…私は…父親の写真すら見たことすら有りません…なので父の事は何も解りません」 「父親が生きてるとしたら…逢いたいですか? 恨み言…位…言ってやりたいですか?」 康太が問うと…清四郎は驚愕した瞳で…康太を見た 「私は…父親を探しました! 真矢も頼んでくれて探してくれた事も有ります! それでも……見付からなかった…」 「何故…探そうと…?」 「逢いたいからです…。 血を分けた親が生きているなら、私は逢いたい…!」 清四郎は、心から…訴えた 「清四郎さん、オレは貴方に謝らねばなりません! 飛鳥井家 真贋として…オレは貴方に…心よりお詫びを申し上げます…」 康太は立ち上がると…深々と清四郎に頭を下げた その横には…榊原も一緒になって…頭を下げていた 「ちょっ……ちょっと待って下さい! 私に解りやすく…教えて下さい… まずは…座って…康太…伊織も…座りなさい」 清四郎は、深呼吸して…座り直した 「清四郎さん……オレは何時も貴方が、瑛兄を懐かしい瞳で見るのを、不思議に思っていました そして、伊織が…飛鳥井の家に違和感もなく…溶け込む姿が……不思議で仕方がなかった 溶け込むんじゃなく… 最初からそこに在る様な存在に…何かあるのを感じていました そして、先日…清四郎さんが見せてくれたお兄さんの写真を見て…総てのピースが嵌まりました…。 清四郎さん、貴方の父親は飛鳥井源右衛門、オレの祖父です…。」 「えっ!…………嘘…」 「総て…本当です。 貴方は…瑛兄に良く似た兄の人生を辿るかの様に生きてきた… そして、貴方の亡くなった兄… 彼は…役者になりたかった訳ではない… 役者とか…TVに出れる仕事をすれば… 生き別れた父親に逢えると思い…役者になりたかっただけです… そして、そのお兄さんですが…転生して… 飛鳥井に還っています… お兄さんは、相当…父親に逢いたかったと思える 死して…飛鳥井へ還り…転生してます 飛鳥井瑛太…彼は…貴方の兄の…転生し姿です…。 瑛兄と伊織の姿が似てるのは…当然です… 叔父と甥の関係になります しかも…あの魂は榊原一葉…本人です 無意識に…榊原の血をかぎ分け…気を許してるんでしょう…」 康太の言葉が…清四郎の耳には入って来なかった… 康太は……清四郎が落ち着くまで…榊原の指を握っていた… 落ち着くと…清四郎は、康太に経緯を聞かせて欲しいと…頼んだ 「最初に…飛鳥井と言う特殊な家の事を話さねばなりませんね 飛鳥井と言う家は平安の世から…生き抜いて来た一族です。 王朝の時代から…眼を持つ特殊な一族です 彼等は真贋と言う人間を神聖視し、特別なモノに祭りたてた 邪魔なモノは闇から闇へ葬り去り…… 幾多の時代を生き抜いた…一族です それを頭に入れて…話を聞いて下さい そして、飛鳥井源右衛門と言う人間は…体の弱い…何時死ぬか解らぬ…状況で、外に捨てられた存在だった…と付け加えさせて下さい!」 「解りました…」 「飛鳥井源右衛門は、成人過ぎるまで… 本家からは…無用の人間と扱われ捨てられてたんです 源右衛門は、この先…一生…真贋としてはお呼びはかからないだろうと… 今の飛鳥井の家で…好きな女と…新生活を始め…幸せに暮らしていた。 だが…子供が産まれ、入籍しようとした頃から…… 入籍に横槍を入れられたり…命を狙われる…様な事が…起きるようになった… 本家は…幾ら待っても真贋が産まれない…… だったら仕方なく、源右衛門を真贋に据えるしかないと決めて…真贋の席も…妻も用意した 邪魔物は…闇に葬れば良いわけだから… 幾度も命を狙われて…分家の人間が…命懸けで清四郎さんの母親を逃がした だが、本家が見つけ出すのは早かった… 清四郎さんの母親は逃げて…逃げて…消息を断った 源右衛門は、清四郎さんの母親と子供に手を出せないと言う約束で…本家に入り…結婚した… 清四郎さんが、父親を探せなかったのは、入籍していなかったのと、本家から逃げる為に…転居し過ぎた所為です… これが、本当の経緯です!」 清四郎は黙って…静かに聞いていた 「伊織が入院した時に…君は毒を食らっているから、薬は効かないと言った…… それは、真贋だから?」 「そうです。 真贋を毒殺されれば…家は終わる…。 即ち終焉です…それを避けるために毒殺で死なないように…毒を食らわせる…」 あまりにも重い…飛鳥井家…真贋… 「康太…ならば…君の…伴侶が男だと…反対されたのではないのですか…?」 「誰がオレに反対出来るって謂うんだよ! オレは飛鳥井の家なんて、何時でも捨て去れる覚悟は出来ているんです! 殺しに来る奴がいたら返り討ちにしてやれる自信もある オレの選ぶ伴侶に異議を唱えるなら… 飛鳥井など滅ばせてやる覚悟は伊織を受け入れた時に出来てます… だが…オレを失いたくない飛鳥井は…それを受け入れるしかない… 継ぎの真贋に引き継がせ、軌道修正すれば良いだけの事と一族はそれを飲むしかなかった 稀代の真贋を失くせば、飛鳥井の明日は消滅するしかねぇからな! まぁ万が一反対さたら…いっそ、出ていってやりてぇ気持ちは常にある 伊織といられるなら…誰に反対されたって構わない… オレは総てを、さっさと捨てて…伊織と生きていく覚悟は出来ているんですよ!」 康太は、覚悟の程を…清四郎に話した 清四郎は康太の…伊織を思う気持ちを聞かされ…胸が一杯になった 「でも、飛鳥井の家族が…自分の命と引き換えにしても…オレを守る覚悟を決めているから…捨てては、行けません…。 源右衛門も…愛する人と引き裂かれた過去から、オレと伊織とを守ってくれた… そんな家を…オレは…捨てられはしない オレと伊織とを飛鳥井の家族は…守ってくれてるんです…」 覚悟を決めた人間の話を耳にするならば‥‥ 自分も聞かねばならない 清四郎は康太に 「康太…教えてください! 兄は何時も私に言ってくれました 『何時か…誰もが知る役者になるからな!』と、言うのが口癖でした。 なのに…我が兄は…役者になりたかった訳ではないのですか?」と問い掛けた 康太は静かに榊原一葉の想いを口にした 「清四郎さん、貴方の兄は、役者として名を馳せれば何時か父親が自分に気付いてくれるんじゃないかと想っていた だから誰もが知る役者になろうと想っていた それは、父親の顔も知らない弟に、父親と逢わせて遣りたいと言う願いがあったからだ… 弟に…父親に逢わせて遣りたい……その願いで…彼は生きていた… 父の顔を見た事のない弟に父の顔を見せてやりたい そして父に抱一度も抱かれた子とのない弟を、父の腕に抱かせてやりたい その願いしかなかった」 清四郎は…目頭を…押さえ…涙した 「兄の魂は…」 「一葉は、その命が尽きる瞬間まで…飛鳥井へ還りたいと願った 女神は…真面目に生きて来た魂の最後の願いを叶えてやった 元々…飛鳥井と無縁の者ではないからな… 飛鳥井へと還り……今世は…飛鳥井瑛太…として、転生した 残念な事に…瑛兄には、転生前の記憶はねぇ…」 今…瑛兄には…と、言った? だが…清四郎は、口には出さなかった 「そうですか…」 「清四郎さん、信じたくなければ信じなくても良い… 許せないなら…許さなくて良い… 恨みたいなら…恨んで良い… 飛鳥井のした事を許せるとは思わねぇ… だが、源右衛門は…知らないうちに…家族を奪われた… それだけは、解ってやってくれ オレは覚悟を決めている 憎むなら…憎んでくれて構わない… 決めるのは…清四郎さん…貴方に任せます 失礼します…」 康太は…深々と頭を下げ…榊原の家の応接間を出て行った 榊原が康太の後を追う… そして、二人で…榊原の家を後にした 少し歩くと…力哉の車が停まっていた 康太は…その車のドアをノックすると…車に乗り込んだ 車に乗り込むと…康太は…スマホを取り出した 「瑛兄…?オレ…」 康太は…瑛太に電話を掛けた 『康太、何か有りましたか?』 「飛鳥井の家に…家族を集めて…話がある…」 瑛太は…解りました…と言い電話を切った 「伊織…早く家に帰って飯を食う… そしたら、家族に総てを話す…」 康太が言うと…一生は 「俺等は…遠慮した方が良いか?」と、問い掛けた 「いて構わない…。 お前達とオレは欠かせない存在…だろ?」 康太は…前の座席にいる一生の首に抱き着いた 「一生…卒業したら…お前の牧場で…暮らそうかな… 何か…飛鳥井の家は…しんどい…」 「おい…康太、どうしたよ?」 「いっそ…何もかも…捨て去ってやろうかな… 何処かにビルでもおっ建てて…家賃収入で…優雅な生活…とか…」 「………何処でも良いぜ…! 俺等は、お前と共に在る…。 何処へ行こうとも、一緒だろ?」 「…ん。」 康太は…一生の首に顔を埋めた… 「しんどい時は、甘やかしてやるだろ?」 「ん。」 「お前は、飛鳥井康太にしかなれねぇんだから、好きに生きれば良いんだよ!」 康太は…飛鳥井の家へ着くまで…一生に抱き着いていた そして、車から降りると…飛鳥井の家へと入って行った 玄関で靴を脱ぐと…キッチンへと向かう キッチンに行き席に着くと、慎一がせっせと康太のご飯をよそう そして作り置きしてある、おかずを康太の前に置くと、沢庵を切った 榊原も、せっせと康太の世話を焼く 「康太、食事が終わったら着替えに行きますか?」 「おう!その前に食う!」 康太は、沢庵をポリポリ食べた そして、食事を終えると、榊原は手分けして片付けをして、食洗機に食器を突っ込んだ 「皆、着替えに行きますよ!」 康太を促し、着替えに行く 寝室で着替えをすると、榊原は康太を抱き締めた 「康太…大丈夫ですか?」 「伊織…皮肉だな…。 こんな皮肉…あって良いのかよ…」 「……康太…僕がいます! 君には…僕がいます!」 康太の腕が…榊原を抱き締める… 「あまりにも…辛れからな…逃げ出してぇ… そんな気分になった…」 「なら、卒業式が終わったら…消えますか?」 「良いな…お前と二人で…旅行にでも行こかな…」 康太…と、優しい榊原の腕が…その体を強く抱き締めた すると、榊原の匂いに包まれる 大好きな…男の…体臭と…香水の入り交じった香りを…胸一杯に吸い込む 大丈夫だ… まだオレは……闘える 伊織がいるから… オレは立ち上がれる… …………でも、その前に…家族に話さねばならなかった… 康太は体を離すと… 「その前に…片付けねぇとな…」 「そうですね。」 康太は榊原の指に手を伸ばした そして、手を繋ぐと…下まで降りていった 一階の応接間に行くと、家族が揃っていた 康太は何時もの席に座ると、足を組んだ 「皆には…話しとかねぇとな…… じぃちゃん…話すか?オレが話すか?」 康太は源右衛門に問い掛けた 「お前が話してくれ…頼む…」 「解った。これから話す話しは…真実だ 聞いてくれ…」 康太は清隆や玲香、瑛太に…源右衛門の事を話した 「飛鳥井の本家は…その頃権力も…実権も握っていたから源右衛門は、言うことを聞かなければならなかった! 聞かねば…闇から闇へ葬り去る事も出来た時代もあった…事を頭に入れて聞いてくれ 康太は源右衛門が、結婚を約束した人がいて…その人との間には子供もいた…と、話した 真贋として、使うにはあまりにも体が弱く、源右衛門は長い間捨てておかれた存在だった 本家には相変わらず真贋は生まれなかったからな、捨て置いた源右衛門を正式な真贋に据えるしかなかった ずっと見向きもしなかったのに‥‥だぜ、身勝手な奴等だよな 本家にずっと見向きもされなかった源右衛門は結婚していた 真贋でない人生を送る為に、愛する妻を見つけ子を成していた 幸せに暮らす源右衛門の前に本家の人間がやって来て、真贋として責務を果たせと言ってきた そして本家の人間は源右衛門を本家に入れるに当たって、本家の認める嫁と家を用意していた 源右衛門は、無理矢理…妻と子供を奪われた 本家に反発して抗ったが、何度も何度も命を奪われそうになり、脅された お前が大人しくしてなくば、お前の前の妻と子は生きてはいまいぞ!と脅され、謂う事を聞かねばならなくなった 本家の認めた嫁と謂うのが清香だ。 源右衛門は、清香を愛したが…はやり離れて暮らす…愛した女も子供も気掛かりだった 源右衛門は清香には総てを話した 誠実であろうと総てを話した 清香は源右衛門に妻と子を探す様に謂った 源右衛門はツテを辿り探した 清香も死する直前まで探した だが見つからず……この年まで…来た 源右衛門は…捨てた子供を気にしてた 当たり前だ…親だからな… そして…皮肉な巡り合わせをする… 源右衛門が置いてきた子供は…榊 清四郎…だ! 清四郎の兄の一葉は若くして他界し……飛鳥井へと転生して…飛鳥井瑛太へと生まれ変わった… この話しは…清四郎さんにもして来た 選ぶのは…清四郎さんだ だが飛鳥井の人間は罪を作った事を忘れてはならない! と、康太は総てを飛鳥井の家族に話した 玲香は「ならば……我が亭主、清隆と清四郎さんは異母兄弟か…。 しかも…瑛太は…清四郎さんの兄の転生ですか…伊織と似る筈ですね…。」と呟いた 清隆も「他人とは思えぬ付き合いが出来…これからも、付き合って行けると想ったら、異母兄弟だったとは…。 他人ではないじゃないですか…。 でも、飛鳥井の家は…許されませんよ……彼を施設に入れて…悲しい大人にしてしまった…許されません…」と悲しげに呟いた 瑛太は「本当に……飛鳥井は罪ばかり作って… そんな犠牲者の上に…今の飛鳥井が在る…。 二度と…そんな罪は…作ってはいけません! 清四郎さんが、私の顔を懐かしそうに見ているのは…お兄さんの面影を求めていたんですね…。」と、言葉にした 康太は……叫んだ 「オレは……いっそ、飛鳥井を捨ててやろうかと想った…。 こんな家…滅んでしまえば良い…! 百年前も…オレはそう想った…! だが、女神から…ならば、正しい明日の飛鳥井を作れば良いではないか!と諭され…転生してきた… 百年前…オレはちゃんと、軌道修正出来てなかったんだな… そのツケが…源右衛門に出てる… そして馬鹿げた本家なんてのが有るんだ? 百年前には無かったのに…何時本家なんて出来たんだよ! もっと酷くなって…軌道修正しろったって! 飛鳥井のした事実なんて変わらねぇよ! 飛鳥井のした事を考えろ! 三人の人間……嫌…じぃちゃんも入れたら四人の人間の人生を奪って変えてんだぜ! しかも!清四郎の兄は…飛鳥井に殺されたんだ! 清四郎の兄の事故は…本家が差し向けた…刺客だ! 兄は…弟を庇って…死んだ… 殺したのは飛鳥井だ!馬鹿げた本家なんてのを作るから! 飛鳥井は狂った方へと…行こうとした! 人の命をなんだって思ってるんだ! オレは…飛鳥井を捨てる…卒業したら、飛鳥井を出る!」 その叫びは…悲痛な…康太の魂の叫びだった 瑛太は…康太を抱き締めた… 「お前が…そう言うなら…出ていけば良い… 飛鳥井を捨てて、出ていけば良い… だけど、お前は…私の弟だ…! お前を愛して止まない兄も…一緒に出ていってやろう… お前を無くして…私は…生きては行けない」 瑛太は…決意を秘めた瞳で康太を貫いた 瑛太の康太を抱き締めた腕が…震えていた 「瑛兄…」 「私は…既に…決めている… お前を無くす時…私はお前と共に逝くと… 誰が何と言おうと…私はお前と共に行く!」 「やはり…瑛兄は引かねぇからな…オレは動けねぇ…」 「私は、この命を懸けて…お前と伊織を守る…。 その決意は…今も変わりはない! お前が笑って幸せなら…兄は生きていける」 「瑛兄…本当に…殴りてぇ位の頑固者だな…」 「康太、お前の回りにいる者は…皆、頑固者ばかりでしょ? お前の亭主と言い、お前の親友と言い、お前に仕える者と言い、一筋縄で行かぬ頑固者ばかりだ…。 特に…お前の亭主は、頑固者だろ?」 「義兄さん!僕は頑固者とは違います! 失礼な!義兄さんじゃあるまいし!」 「あーそう言う事を言いますか!」 喧嘩に発展するのを…康太が止めた この二人…何かにつけて楽しく喧嘩したがるから困るのだ…… 「瑛兄、ソファーに座れ…話しはまだ終わってねぇ!しかも…来るぜ…清四郎さんが…」 康太が言うと…ドアフォンが鳴った… 慎一がカメラを作動させると…そこには、清四郎と妻と息子がいた 「康太、榊原の家族が来ました。 御通しして良いですか?」 「あぁ。通してくれ」 康太が言うと、慎一は解錠した。 そして、玄関へと迎えに行く 瑛太は康太をソファーに座らせ…自分も座った 応接間に招かれた清四郎の殻は…破れていた 役者になりたかった兄の人生を生きた… 兄の代わりに…兄のように…と、生きてきた その心の殻が…総て落ちた…… 素の…榊 清四郎の姿だった 榊原は、康太を抱き寄せた… 何者からも…守ろうとする姿が…そこにはあった 清四郎は、飛鳥井の家族を見渡した そして…………源右衛門を見た 飛鳥井瑛太を………やはり…懐かしそうに見ていた 「康太から…話を聞きました… 飛鳥井の方は…知ってらっしゃるのですか?」 と、清四郎は、飛鳥井の家族に配慮して…確認をした 清四郎の優しさが…胸に痛かった 康太は清四郎を真っ直ぐに見据え 「今、話した所だ!全員聞いている。 だから、何でも言え! じぃちゃんは貴方に刺されて死んでも本望と願ってる」 「康太!そんな言い方は…止しなさい!」 清四郎は、康太を止めた 「私が来たのは…恨み言を言いに来たのではない。 我が兄が…命を懸けてまで…逢わせようとしてくれた父親に…逢いに来たんです 兄は…父の話を…良くしてくれました。 兄が話してくれる父しか…私には…いなかった その父が生きていると言うのなら…逢いたいと願うのが…子供なのではないですか? 私は…逢いに来たのです。 罵りや恨み言は…兄が持ち去ってくれました 私は兄の話してくれた父親に逢いに来たのです」 清四郎は静かに語った 物凄く落ちた面持ちで、総てを受け入れた先にいる顔をしていた 「清四郎さん、貴方の父親の飛鳥井源右衛門です。 源右衛門の命は…持って数年… 飛鳥井源右衛門は、飛鳥井家の真贋… 毒を食らっていました。 その毒が体内に侵食し…昔の真贋は…長生きは出来ませんでした。 オレも前世は30前には、死んでいる… 源右衛門は、今、体内の毒を抜きに行っているが…高齢だ…。 親子と名乗って…1日も長く…親子でいてやってくれ! それがオレや飛鳥井の家族の願いだ!」 「康太…私は…親子の名乗りをしても…許されるのでしょうか?」 「子供が、親に逢うのは、いけねぇ事なのかよ! 反対する奴がいたら、オレが排除してやるよ!」 康太は……ゾッとするような冷たい瞳で嗤った 瑛太が康太の頭を叩いた 「飛鳥井の家族は誰も反対なんてしてないでしょ! 一族を…黙らせるだけの力は…私にだって有ります!」と瑛太も…ゾッとするような冷たい瞳で嗤った 榊原は、瑛太を叱り着けた 「さっさと、親子の対面をさせなさい! 貴方が一族を黙らせなくても、康太が飛鳥井を出ると言えば黙るでしょ! 今は本家なんていないんですからね! ったくもぉ!」 と、榊原に怒られ…瑛太は清四郎に抱き着いた 「伊織は…兄に冷たいんです…」 清四郎は瑛太を抱き締め…頭を撫でた 「伊織、瑛太はお前の妻の兄! 義理とは言え兄になる方!そんな人を叱るんじゃありません!」 と、瑛太の肩を持った 康太は源右衛門に 「じぃちゃん、おめぇの死ぬまでに逢いたがっていた息子だ! その腕に抱き締めてやれ!」と謂った 康太はさっさと瑛太を剥がし、清四郎を源右衛門の前に連れていった 源右衛門は、震える手で…清四郎の頬に触れた 清四郎は、その手の厳つい刻まれた皺に… 源右衛門の生きてきた…険しさを…知った 「許してくれ…総ては…わしが不甲斐ない男だったから…罪を作った…」 清四郎は、初めて、源右衛門の顔を…まじまじと見た… 今まで…源右衛門の顔を…まじまじと見たことは無かった 何故か…その存在を…肌で感じ、安心出来たのを覚えている… 清四郎は、源右衛門の顔を見て…… 似ている…と、想った 兄に…そっくりで…母親が…兄ばかりを溺愛したのが…良く解った… 「父さん…」 清四郎は、産まれて初めて…その言葉を…口にした 「清四郎…お前の名前は…わしが着けた 腹の子は…清四郎と名付ける…と、お前の母親に話していた… 着けてくれたんだな…悦子は……ちゃんと着けてくれたんだな…」 源右衛門は、清四郎の母親の名を呼んだ… 間違いない… この人が…父親だ… 夢にまで見た…父親なのだ… 「父さん…生きているうちに…貴方に逢いたかった…」 この言葉に…清四郎の苦悩も…伺えれた 源右衛門は、息子を抱き締めた 『清四郎、僕達のお父さんはね、ガッチリとした体で… 抱き締められると…安心出来る人なんだぞ…凄いだろ?お前も逢えば解るよ! 僕が絶対に、お前に逢わせてやるからな!』 清四郎は、兄の言葉を…思い出していた あぁ…兄は…私のために…役者になろうとしていたのか… 「父さん…私は家族がいます! 貴方の孫が…私にくれた家族です! 私は榊原清四郎…飛鳥井にはなりません! ですが、父さん…貴方と時間が許す限り…親子でいたい…許してくれますか?」 「今の真贋は…飛鳥井康太だ! 彼が許せば…誰も文句は言わんだろうて! それでも、文句が出るなら…わしは家を出て暮らせば良い。 わしの残り少ない人生は…お前に統べてやろう…。 それがわしの償いにもならぬが…願いじゃ」 源右衛門は、清四郎を抱き締めた 「じぃちゃん、オレに文句を言う奴なんているのかよ?今の飛鳥井に! 誰か文句言わねぇかな…そしたらオレは飛鳥井の家なんて出てってやるのによぉ!」 康太はそう言い…榊原の首に腕を回し笑った 「と、言うわけだ!清四郎さん、気にぜず好きな時に父親に逢いに来ると良い。 清四郎さん、貴方には母親違いの弟がいます…飛鳥井清隆、我が父は貴方の弟です! 貴方の家族ですよ! 血を分けし兄弟が、貴方にはいるんですよ! 飛鳥井の家は何時でも歓迎します。」 清四郎は、康太を見ると 「瑛太は…我が兄…一葉の転生した姿なのですか? 兄は…父の側に…転生していたのですね…」 と、呟いた 「飛鳥井瑛太は…貴方の兄の榊原一葉の転生した、魂と器を持った人間です。 貴方は何時も…懐かしそうに…見てたでしょ… 貴方は…自分の兄の存在を…瑛兄の中から…嗅ぎ取っていたのですね」 清四郎は、瑛太を懐かしそうに…見詰めた 「清四郎さん、貴方の兄の声を聞きたいですか?」 「えっ…?出来るのですか?」 清四郎は唖然として聞いた 「出来ますよ! 一度だけ…呼び出してあげましょうか? 飛鳥井瑛太の中で眠る…一葉…本人を……。 但し、呼び出せるのは一度だけ… 2分だけなら呼び出せない事もない… それ以上は飛鳥井瑛太の人格を破壊する… だから、出来ねぇが…別れ位は言える 別れも言えなかったんだろ? なら、言えよ。そして先に進め… それが、榊 清四郎として生きる、お前の定め!解ったな!」 清四郎は、康太に深々と頭を下げ… 「お願いします…別れだけでも言わせて下さい…」と、告げた 康太はサンルームに立つと、天を仰いだ 「弥勒、サポートだけ頼む…」 『承知した!』 康太は集中して…瞳を閉じた… 目を開くと…床に…五芒星の円陣を足元に出した 紅蓮の焔に包まれる康太は…神々しく見えた 「榊原清四郎、前に来い! 飛鳥井瑛太、オレの横に来い!」 瑛太は焔に恐れる事なく、康太の側へと行くと、焔は…意思を持ったかの如く道を作り…迎え入れる 清四郎も、瑛太に続き、円陣の中へ入ると、焔は…元通りに円を描いた 「弥勒…瑛太の精神だけ…守ってくれ オレは一葉の精神を導き…清四郎に逢わせる」 『解っておる! その心…壊れる事なく俺が守ろう!』 弥勒の声が…答えると…康太は呪文を唱えた 「伊織!瑛兄の体を支えてくれ」 康太が言うと、榊原は焔の中へ悠然と入って行った 「伊織、清四郎と瑛太が焔を触らねぇように気を付けてやってくれ…。 この焔に触れば…その火傷は…永遠に跡になる…消えねぇかんな!」 康太は、さぁ行くぜ!と、言うと瑛太の額に印字を切った 「榊原 一葉…出て来い!」 康太が言うと…瑛太の顔付きが…穏やかに変わった 清四郎は、涙が溢れて…止まらなかった… 瑛太の姿は…間違う事なく…亡くなった兄 榊原 一葉…そのものだったから… 「さぁ!別れを言わねぇと、永遠に別れは言えねぇぜ!」 清四郎は、一葉に触れた 「兄さん…覚えていますか?」 一葉は、ニッコリと優しく笑い 『清四郎…お前に…別れも言わず…僕は行ってしまいましたね…。 でも……お前の事は…彼の意識の奥で見守っていました 幸せそうで…兄は…本当に…喜んでいます…。 清四郎…やっと父さんにも逢えたんだね 家族や父さんと仲良くね… 僕は…お前の幸せを…何時も願っています』 「兄さん!聞かせて下さい!貴方は役者になるのが夢じゃなかったのですか?」 清四郎は泣きながら兄に問い掛けた 『僕は、父さんに会わせてやりたかったんだよ…。 お前に、父さんと逢わせてやりたかった… 父を知らない…お前が…兄は不憫で…可哀想で仕方がなかった…… やっと…父さんに逢えたね清四郎…本当に良かった。 これからは、自分の好きに生きなさい 自分の道を行けば良い 清四郎は、役者に向いてるよ… 僕の生きたかも知れない道を辿るんじゃなくて、自分の道を歩むんだよ 僕はずっと……お前を見守っているからね… やっと、お前に…さよならを、言える』 「兄さん…兄さん…! 貴方でなく私が死ねば良かったと…そう思って生きてきました! 兄さん…私を庇って後悔してませんか?」 『清四郎、後悔なんてしてないよ! 僕は弟を守れた…。 後悔なんてする筈がない! 清四郎、後悔なく生きろ…解ったな』 「兄さん!有り難う御座いました!兄さん! 何時か貴方に逢った時に…恥じない様に生きます!兄さん!」 清四郎は泣きじゃくった 一葉は、清四郎を抱き締め…耳元で… 『またな…清四郎…』と言い…床に崩れ落ちた 「兄さん!さよなら!兄さん!!」 榊原が、瑛太を支えた 「弥勒…瑛兄は?」 『案ずるな…!気を失っただけだ!』 康太は息を抜いた… 「弥勒…助かった…ありがとな。」 『なら、またな…』 そして、その手に…蒼い槍を出すと 「伊織、しゃがんでろ!」 榊原が瑛太と共にしゃがむと、康太は天を斬った そして「 覇 !」と、五芒星の結界を消し去った ピキッピキッと回りの空気を凍てつかせ、焔は消えた 康太は、その手から槍を消し去った そして、深呼吸した 一生が康太に駆け寄り、その体を支えた 「あー疲れた…腹減った……」 一生が康太を何時もの席に座らせると 榊原は、瑛太をソファーに座らせた 慎一が、清四郎を支えてソファーに座らせる 榊原が康太を膝の上に乗せ、その体を抱き締めた 「大丈夫ですか?康太?」 「あぁ。腹減っただけだ!」 「なら、話が終わったら食べさせてあげますから、少し待ちなさい」 清四郎は、榊原に 「伊織…火傷は?大丈夫なのですか?」と尋ねた 「僕は康太の焔では火傷はしません。 他の人はダメですよ…あの焔に触ると一生消えない… 酷い火傷をする事になりますからね 僕は康太と契っていますからね…大丈夫なんです!」 少し惚気にも似た言葉に清四郎は苦笑した そして深々と康太に頭を下げた 「康太…我が心の師匠… 本当に…貴方は…私に沢山のモノを与えてくれます。 今回は…生き別けれの父親… 探偵を使っても…見付かりはしなかったのに… そして、別れも言えず亡くなった兄と……別れが言えました… 本当に…有り難う御座いました 君には…家族も…貰った 今ある幸せは…総て君が…私に与えてくれたものだ…」 「清四郎さん、貴方はオレに伊織をくれた そして、大空と太陽をくれた オレは幸せです。愛する男と生きられて幸せだ。 それは、オレ等を守ってくれてる飛鳥井の家族や榊原の家族がいるから、そして仲間がいてくれるからだ! 貴方にしてあげた事など…伊織をくれた事でチャラですよ!」 康太は笑った そして姿勢を正すと 「榊 清四郎、お前はお前の道を行け!」と言葉にした 「はい。何時か兄に逢っても恥じない様に…生きていきます!」 「なら、良い。 じぃちゃんと1日でも1時間でも、1分でも1秒でも長く過ごせ! 父ちゃん、おめぇの兄だぜ! 腹は違うが…同じ父を持つ…兄弟だ…仲良くしろ!」 清四郎は、清隆に向き直った 「弟だったんですね…貴方は…」 「兄であられたのですね……。 私には兄弟がいません。 母、清香は、一人しか…子供を産みませんでした…。 誰に批判されようと…母は…私一人だけ…この世に産み落とした そう言う訳があったんですね… 兄さん、貴方とは…他人の気がしませんでした 気が合い…飛鳥井に来られると…貴方とは酒を酌み交わすのが…楽しくて仕方がなかった… 兄弟だったら…当たり前ですね…。 貴方さえ許してくだされば…伊織はこのまま、康太と暮らさせてやって下さい。」 清隆は、清四郎に頭を下げた 「頭を下げないで下さい! 私も飛鳥井のご家族が大好きです この家に来ると…帰って来た感じがしてならなかったのです。 伊織は…本当に…良いご家族に恵まれた…と、感謝すらしております 伊織をずっと飛鳥井の家に置いてやって下さい! 愛する康太と引き離す事だけは…したくは有りません…。 お願いします。」 清四郎は、そう言い頭を下げた 慌てて清隆が、それを止め、顔を見合わせて、笑った 清隆は笑って 「兄さん、清隆とお呼び下さい。 私は、兄さんと呼ばせて戴きます。」 と清四郎に申し出た 清四郎も笑って、清隆を抱き締めた 「清隆…貴方の存在が…こんなにも心強い… 私は貴方の兄としても、恥じる事く生きねばなりませんね。 真矢、私の弟だ。 私には父と弟がいたんです。」 清四郎に言われ真矢は、二人の姿を見た 二人は…良く似た笑顔で…笑っていた 「貴方の弟さんだったのですね。 ならば、私は…義妹になる、玲香と今まで以上に仲良くせねばなりませんね。」 真矢は玲香の手を取った 玲香はその手を、強く握り返した 「我に取ったら、貴方方は既に家族じゃ!」 真矢と玲香は…手を取り…この家族を命に変えても守ろうと…改めて決意した 康太は……とうとう、榊原の胸に抱かれ…眠ってしまった すーすーと寝息を立てる康太を、笙は見て、可哀想になった 「伊織、飯を食わせてやってくれ! 父さん、母さん、飛鳥井は逃げません! 貴方達の家族もきえません! だから、康太に飯を食わせてやってくれませんか! 仕方ない、慎一、デリバリ頼みなさい! 康太に食べさせてやって下さい! 康太は、僕の命の恩人ですからね、大切にしないと!」 榊原笙は、再デビューを果たし…着実に名を売っていた 康太の取ったCMは…爆発的にヒットして…商品も売れまくったらしい 慎一は、笙に言われデリバリの注文を入れに行った 榊原は、胸に埋まり眠る…康太にキスして…その胸に大切に抱いた 悠太は立ち上がり、慎一と共に食事の支度をする 源右衛門は、幸せそうに…家族を見ていた 二人の息子に…孫たちを… そして、笙と目が合うと、笙を呼んだ 「笙、お前は悦子に似てるな…その目元…」 しわしわのゴツゴツの手が…笙を撫でる 笙は源右衛門にそっと抱き着くと…顔を埋めた 「お祖父様!と呼ばせて下さい。 僕の母親は、父と同じ施設の出なので、親はいません! ですから、僕は祖父とか、叔父とか…には縁がありませんでした… お祖父様、大切にしますからね!」 「笙…ありがとな…」 源右衛門は、涙を拭った 感動の再会をしている側で…榊原は康太の唇に…深々と接吻をしていた 「……………伊織…お前、場所を弁えなさい…」 と、笙は慌てた 瑛太は「気にしなくて良いですよ…伊織は…何時もの事ですから…」と笙に気にするな…と、言った 「何時も…なんですか?」 「伊織は康太を愛して止まない…家族は気にならないんで…止めなくて良いですよ!」 「嘘…すみません…変な弟で…」 「私は…二人が離れる事の方が…怖い 康太が伊織と離れて一人でいる時…私は…その方が…恐怖です…。 離れられない二人なら…一緒にいさせてやりたい! 一人でいる時…康太はその命を…投げうる覚悟…。 その時…飛鳥井の家族や…康太の仲間は……覚悟をきめる… ですから、イチャイチャしてる方が…安心出来るんですよ」 瑛太の言葉に…今更ながらに…康太の背負う重さを思いしる… 「そのうち、気にならなくなります。」 瑛太はさらっと言った 飛鳥井の家族は…気にしている人間はなかった 慣れるのか… そうか…慣れか… 「瑛大さん…叔父さんと言うにはあまりにも若いので、僕も瑛兄さんと呼ばせてもらえますか?」 と、笙が言うと、瑛太は笑った 「構いませんよ! 好きな呼び方で呼んでください。 私は笙と、呼びましょう。」 笙は、瑛太をまじまじと見た 弟の容姿と酷似するその姿は…やはり、血の繋がりを感じていた 「あ!オレの寿司が来た!」 康太は目を醒ますと、榊原の腕から飛び起きた すると、インターフォンが鳴り慎一がカメラを作動した デリバリの配達員の姿を見ると、玲香は玄関に行き支払いをした 慎一や聡一郎や悠太が応接間に運び込み、支度をする 食事を目の前にして…食べようとするが…康太は…… 榊原に縋り着き…「吐く…」と訴えた 「康太…少し我慢なさい…」 榊原が慌てて…康太を抱き締め…応接間から連れ出す… 三階の自室に連れ込むと…康太は堪え切れずに…吐いた… 榊原の服に…康太の吐瀉物がかかり、康太は…謝った 「伊織…ごめん…吐いた…」 昼から…何も食べてなかった康太は、ほぼ胃液しか出なかった 「康太、大丈夫ですか?」 ソファーに寝かせ、榊原は服を脱いだ 洗面所で、タオルを濡らしてきて、榊原は康太の口と顔を拭いてやった 「まだ、気持ち悪いですか?」 「ごめん…伊織…服が汚れた」 「服なんて、どうでも良いです! 君より大切なモノなどないんですから!」 榊原は、康太を、抱き上げ洗面所まで連れていくと、床に下ろした 「口をゆすぎなさい。 気持ち悪いでしょ?」 コップの中に水を入れ康太に渡すと、康太は口をゆすいだ リビングのソファーに康太を寝かせ、少し休ませる 「病院に行きますか?」 「嫌…良い。今世のオレはちぃさぃから、力を使い過ぎると…吐き気に襲われる…」 榊原は、ソファーに座ると、康太を膝に抱き上げ…抱き締めた 「伊織…寒くねぇか…服着て構わねぇ…」 「君を離したくないんですよ」 榊原の優しい手が…康太の背中を撫でてくれる 少しすると、瑛太が顔を出した 「康太、病院に行きますか?」 榊原と同じ事を聞いてくる… 「瑛兄…気にするな…」 瑛太と一緒に清四郎や真矢や笙、一生達もやって来た 慎一が康太の口に体温計を食わせる 康太は榊原の胸に顔を擦り寄せ…離れなかった ピピッと体温計が鳴ると、慎一は康太の口から体温計を取り出した 「7度…少し高めですね。 食事は出来ますか?」 「食いたい…」 「本当に…貴方は無理ばかりする! 食べてみてダメなら、お寿司は諦めなさい! 良いですね!」 慎一は…情け容赦なかった 「う~」と康太が唸ると… 「卒業式前ですよ! 倒れたら総てがダメになりますよ!」 叱咤が飛ぶ 一生が康太の側に来ると 「旦那、康太が吐いたんだろ? シャワーを浴びて…着替えて来いよ。 康太は俺が見てるからよ」 と言われ、康太を榊原から離し、抱き締めた 榊原は、立ち上がると「頼みます」と言い寝室へと消えた 「康太、体調悪かったのかよ?」 「今日は…あんまし、食ってねぇからな それで、力を使ったから…吐き気が止まらなかった…。 時々あんだよ…力を使うと吐き気が止まらねぇ時がよ…」 「病院に行くか?」 「極度の緊張と…力を使うと…こうなる。 昔は…瑛兄の胸に…吐きまくった… なぁ…瑛兄?」 「そうでしたね。 君は限界を越えてしまうからでしょ?」 瑛太は一生の腕から康太を貰い、抱き上げた 「限界を越えましたか?」 「………ん。少し…。」 「もう、気持ち悪くないですか?」 「ん。伊織が口をすすがせてくれ、背中を撫でてくれた」 「伊織は何時もすぐ側で君を受け止める分…大変ですね…。」 「瑛兄…」 「清四郎さんも、皆も心配して見に来てくれましたよ!」 康太は瑛太の胸から顔を出し、清四郎達に謝った 「清四郎さん、ごめんなさい…真矢さんも、笙も…ごめん」 真矢は康太の頬を優しく撫で 「気にしなくて良いのよ。」と慰めた 軽くシャワーを浴び、着替えた榊原がやって来ると、瑛太から康太を渡して貰い、抱き締めた 「康太も落ち着いたので、応接間に行きましょう。」と皆を促した 応接間に行くと料理の支度がしてあり、源右衛門と清隆と玲香が心配した顔で康太を見た 慎一が「少しずつ口にして、様子を見てからしか食べてはいけませんよ!」と見張ってて… 康太は仕方なく…少しずつ…食べた 康太が食べれると解ると…家族は安堵して… 食べ始めた 源右衛門と清四郎と清隆は…盃を交わし 楽しそうだった 康太は榊原と慎一と一生に、京香と赤ん坊を応接間に呼んで来るように頼んだ 応接間のベビーベッドが組み立てられると、榊原達が赤ん坊を腕に抱き締めて入ってきた 「母ちゃん、父ちゃん、もうじき音弥が退院して来る。1500グラムまで増えたので退院して良いと言われた。 毎日慎一が見舞いに行ってくれたかんな」 「そうか…良かった。 慎一、ご苦労様でしたね」玲香は呟いた 真矢は、全員の赤ん坊を…見詰めて、順番に抱き上げた 「翔は少し大きいのね」と真矢が抱っこしたのは…太陽だった 「真矢さん…それ太陽です。」 「嘘…なら、解らないわ…。」 「翔は瑛兄に似てるんですよ 流生は一生に似て、太陽は笙、大空は伊織に似てるんです。 そして、近々来る音弥は隼人にそっくりです。」と、説明したが…真矢には…全員…一緒に見えた 特に、翔と大空と太陽は…酷似している 「康太は…立派なお母さんね。」 「どの子も可愛い、オレの子供です」 康太は笑って子供にキスした 夜が更けるまで、飛鳥井の家は笑い声が耐えなかった この夜…清四郎は飛鳥井の家に泊まった 清四郎と真矢は客間に泊まり、笙は、康太達の寝室の隣に泊まることになった

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