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第70話 卒業式制作 4日目
朝、笙がリビングに出ると、ソファーの上には康太と一生がいた
一生は康太を守る様に…座っていた
「一生…前世のオレは30歳になる前に…死んだ…
今世は…それより早かったら…どうするよ?」
「康太!体調が悪いのかよ!言えよ!
そう言う時はよぉ!」
「………体調が悪い訳じゃねぇ…。
力を使うと…その命を…縮めているかのように……体が悲鳴をあげる…」
「今世のお前は…小さいからな…
魂が潰れたんだっけ?
昔のお前は、こんなに小さくなかったもんな…」
「体が…小さいのもあるが…そればかりじゃねぇ…
飛鳥井の悪習…毒を食らった体が…悲鳴をあげてんだよ
食らった毒に侵食される…それが早まって来てる…みたいにな。
前世でオレが死んだ時の様な痛みに襲われる…時がある……」
「今日の帰りに病院に行くぜ!
お前が嫌がっても連れて行く!覚悟しとけ!」
「一生…。」
一生は康太の頭を抱き締めた
「俺の作る馬を見てねぇじゃねぇかよ!
逝かせるかよ!……」
「一生…すまん。」
「お前が死せる時…俺は共に逝く…
流生に父親だと名乗る前に…逝かせるかよ!」
一生が謂うと、ガタンっと音がリビングに響き渡った
康太は一生の胸から顔をあげた
「……ん?笙?……よく眠れたか?」
康太は呆然と立ち尽くす笙を見付け…笑った
「康太…体調が悪いんですか?
伊織は知ってますか!」
「知ってる…。
伊織は…オレと魂を結んだ
オレの体調や…考えは自分の事の様に…解ってる筈だ…。
オレが命を落とす時…その日は伊織の命日にもなる!
寸分違えずに…伊織は…オレと共に死ぬ…」
「なら、伊織は…康太の体調を知っているのですか?」
「だろ…?今日の帰りは…病院に引っ張って行く奴が…三人は出て来る…」
「だったら、僕が病院に乗せて行ってあげます!僕は一緒に学園に行きます!」
と、頑固な血筋が…言い出した
そこへ、榊原がやって来て
「康太、今日の帰りは、飛鳥井の主治医の所へ行きます!」とタイミング良く…言い出した
「………今、笙に言われた所だ…」
「兄さん?何て?」
榊原が聞くと、笙が自ら
「康太を主治医の病院に連れて行ってあげます!と、言ったんだよ!逃げないように学園に行って、帰りに連れて行ってさしあげます!ってね!」
そう言い、笑った
榊原は……「兄さん…同じ事を考えてましたか…」とボヤいた
笙は、そうか?と、嬉しそうに笑った
キッチンに行くと…頑固者は増殖する…
清四郎が、「康太、体調はどうですか?」と心配そうに問い掛ける
笙が「父さん!康太は僕達に…体調の悪い事を隠しています!
死んだらどうする…なんて一生に言ってました」と、少しご立腹で話す
清四郎も瑛太も…慌てて康太に飛び付いた
「「病院に行きましょう!」」と、声を揃えて言う
「学校の帰りに…主治医の病院に寄るよ…」
康太が言うと、瑛太は
「なら、乗せて行きましょう!
久し振りに級友のビーカーの珈琲でも飲みに行き時間を潰します!」
と、笙と同じ様な事を言っていた
「それ……三階で笙も同じ事を言っていた…」
「似るんですよ、血は繋がってますからね!
なら、笙、一緒に行きましょう!」
瑛太はさらっと言った
「瑛兄…会社は?」
「………父さん、副社長代行…宜しく…」
清隆は…溜め息を着いた
「解りました…佐伯に怒られますよ?」
瑛太は嫌な顔をした
「清四郎さん、笙、私が乗せて行きます!」
「オレは貴史と歩きだぜ」
「ダメです!
今日位、力哉に乗せてって貰いなさい!
一生、貴史を呼びに行きなさい!」
瑛太は…何があっても絶対に!康太を病院に連れて行くつもりだった
貴史が飛鳥井の応接間に来ると…瑛太は詫びを入れた
「康太は昨夜倒れました。
今日は学校に行くと聞きません!
ですから、私達は学校に着いて行って、帰りに病院に連れて行くつもりです!
申し訳ありませんが、今日は力哉の車に乗って行って下さい。」
瑛太は軽く頭を下げた
兵藤は驚き…康太に詰め掛けた
「康太!大丈夫なのかよ!倒れたんだろ!
無理すんな!今日は休んでろ!」
「嫌だ!オレが言い出しっぺじゃねぇかよ!
しかも、貴史…時間がねぇじゃんかよ!」
「土曜を入れれば、間に合う!
なら、朝会で生徒の総意を聞いて決が出たら、おめぇは、病院に行きやがれ!解ったな!」
「……貴史…すまねぇ…。
その変わりに…オレの策士と、頭脳を置いて行く。
オレは…病院が終わって行けれる状態なら行く…無理なら伊織を戦力に出す!
一生、聡一郎、オレの変わりに頼むな」
康太が頼むと一生は「任せとけ!」と返答し、聡一郎も黙って頷いた
なら、行くとするか…と、康太が言うと、全員外へと向かった
駐車場へ出て、力哉の車に乗り込むと、瑛太はベンツに清四郎と笙を乗せた
清隆と、玲香は、会社に出勤して、京香は午前中、源右衛門と子守りをする
源右衛門は真矢に「時間があるなら子守りを共に頼めんか?」と誘われた
真矢は笑って「勿論、お爺様と共に出来るなら喜んで!」と快諾して応接間へと入って逝った
体育館の壇上に上がって、康太は場内を見ていた
康太はマイクを掴むと、生徒に呼び掛けた
「お前等の総意を問いたい!
良いかぁ?」
と康太が呼び掛けると
場内から【オオオオオオオッ!】と野太い声が響いた
「卒業式だが、2時間じゃ収まらねぇから困ってんだよ!
で、卒業式を二部構成にして、午前中は卒業証書授与式!午後は卒業式だ!
異義がある奴は言ってくれ!
一人でも反対をする奴がいたら!
卒業式は2時間で終わらせる!」
康太はそう言い、マイクを兵藤に渡した
康太は…胸を押さえ…辛そうにしていた
「決を取る!
反対の者手をあげろ!
お前等の意見を聞かせてくれ!
皆!目を閉じろ!
そして、お前等の意志で答えてくれ!」
兵藤はそう言うと、榊原にマイクを渡した
「目を瞑って下さい。
卒業式、二部構成は反対だと言う者、手を挙げてください!
誰も見てないので自分の意志で挙げてください!」
榊原は、そう言うと、清家にマイクを渡した
そして、康太を心配して、体を支えようとした
その手を…やんわり断り…康太は立っていた
桜林学園 高等部の生徒は…一人も手を挙げなかった…
康太が「おいおい!良いのかよ?
卒業式に1日かかるんだぜ!
反対なら反対って手を挙げて良いんだぜ!」と叫んだ
場内からは【良いぜぇぇぇぇぇ!】と声が上がり
その中の誰かが、3日かかっても良いぜ!と叫んだ!
康太は兵藤にマイクを渡した
「3日はかからないが、1日はかかる
午前と午後、2時間ずつ使って、計4時間
その後卒業生は謝恩会だ!
丸1日は覚悟しねぇといけねぇって事だぜ!
良いのかよ?」
場内からは、異義なし!の声が上がった
兵藤は清家にマイクを渡した
「決を取ります!
反対者0と言う事で、生徒の総意を此処に表明します!
高等部の諸君…朝から集まって下さり有り難う御座いました!」
清家は深々と頭を下げた
そして、マイクを康太に渡した
「皆、有り難う!
オレはオレ達の卒業式を作るに当たって、卒業証書授与式は、省きたくはなかった。
理事長の神楽四季の願いでもある
神楽四季は理事長になって以来…生徒全員に卒業証書を渡した事がない…と、嘆いていた
オレ等は、理事長に全員が卒業証書を授与されて、卒業してぇと思った
手は抜きたくねぇが…時間が…掛かりすぎる
だから、生徒の総意で決定しよう!と、話し合った!
反対者0と言う事で、今年は理事長から、一人一人手渡しで卒業証書を貰えれる
本当に…皆、有り難う!」
と、康太も深々と頭を下げた
そして、マイクを兵藤に渡した
「来週の月曜日!
修学館 桜林学園は晴れて卒業式を迎えられる事となりました!
今年は全校生徒が手伝ってくれ…心暖まる手作りの卒業式が出来そうです!
今年は慣例に囚われない、俺等の卒業式をする!
俺等の手で作った卒業式をします!
皆!本当に有り難う御座いました!」
兵藤も深々と頭を下げた
榊原が「これで、朝会は終わります!
皆さん朝から集まって下さり有り難う御座いました!
後少し、頑張りましょうね!」と、言い頭を下げた
そして、マイクを現生徒会長に渡した
榊原は、康太と共に壇上を後にした
壇上を後にした榊原は、体育館の片隅で見ていた瑛太の側へと向かった
瑛太は康太の顎を上げると…眉を顰めた
「顔色が悪い……こんな弱ったお前を見ようとはな…さぁ行きますよ!」
瑛太は榊原を促し、清四郎と笙と共に…駐車場へと向かった
黒塗りのベンツの後部座席に康太と榊原と清四郎が乗り込み、助手席には笙が乗り込んだ
車に乗り込むと…康太は息を吐き出した…
榊原の胸に抱かれ…辛そうに…瞳を閉じていた
「康太、その症状は何時から有るのですか?」
と瑛太が康太に声をかけた
康太の変わりに榊原が、答えた
「伴侶の儀式の時に、僕は康太の魂に自分の魂を結び付けました。
未来永劫、康太と共に在る為に…。
魂を結ぶと…康太の事が…自分の事の様に解るんです!
多分康太も僕の事が自分の事の様に解ってます!
康太は真贋になった辺りから…痛みに身を丸める事が多くなった…
そして、昨夜は…前世に僕の腕の中で…息絶えた…あの時の様な…痛みでした
幾度…転生しても…康太の寿命は短い…
だから、康太はその時を精一杯に生きている
でも、今世は…早すぎる…康太は…まだ18です……」
榊原の言葉は…悲痛な想いを溢していた
笙は「康太は…前世は30前に死んだと…一生に言っていた…本当なのか?」と尋ねた
「本当ですよ……
康太は…早死にしてます
康太は…人に堕ち…飛鳥井の一族に根を下ろしてから…
その体を毒に蝕まれ…早死にばかり…康太はその命を…削って明日の飛鳥井を築いて来たのに…その命は…あまりにも儚い…。」
笙は「人に堕ち…?」とごちた
昨夜…康太も…そう言っていた…
笙は「伊織は…前世の記憶が有るんだ…」と尋ねた
「遥か昔の人になる前の…記憶から…その記憶は在ります!
狂いそうな記憶に飲み込まれないのは康太がいるから!
無くしたら…僕は狂います…だから僕は今世も康太の魂に自分の魂を結び付けました
僕達は…来世の転生はありません
来世は…還ると、決まっている…だから、長生きさせて…ジジィになるまで…生きようと…決めていたのに…」
榊原は悔しそうに…呟いた
榊原は、康太を抱き締め…擦り寄った
「康太…ジジィになる姿を僕に見せてくれるって言いましたよね?
今は医学が発達してます!だから、気を確かにしなさい!」
「オレはまだ死ねねぇかんな!
オレの子供を…此処で放り出せねぇよ!」
「当たり前でしょ?」
榊原が言葉を続けようとすると、康太の携帯が鳴った
榊原の胸ポケットで鳴る携帯を取り出し、通話ボタンを押した
「もしもし、若旦那?お久し振りです」
電話の相手は戸浪海里だった
戸浪は『伊織?康太はどうしました?』と尋ねた
「康太は…これから病院に向かう所です…。
多分…電話にはでられません…。申し訳ない…電話に出られる様になりましたら、かけさせます」
『何処の病院に行くんですか!私も行きます!』
「……。若旦那…仕事は?」
『仕事なんて手につく筈ないでしょ!
教えなさい!何処の病院に行くんですか!』
榊原は、飛鳥井の主治医の病院を教えた
戸浪は慎一の見舞いで来ているから解る!と電話を切ると、行く支度をする
榊原は、病院に来るな…と溜め息を着いた
「若旦那が病院に来ます…」
榊原が言うと…康太も…溜め息を着いた
瑛太の車が、飛鳥井の主治医の病院の駐車場に着くと、康太を抱き上げ榊原は病院の中へと向かう
瑛太は主治医を呼び出し…今直ぐ康太を見ろ!と、迫った
主治医は看護師に車イスをもって来させて、康太を乗せると…検査室に向かった
主治医の飛鳥井義恭は、康太に「全身、検査するのでCTへ入ってもらいます!」
と、告げ看護師に康太の準備をさせ、CTの寝台に寝かせる様に告げた
義恭は、銃創で康太を見た時に…近いうちに来るのは解っていた
康太の検査は…午後を過ぎても終わらず…
駆け付けた戸浪は、祈り続けた
検査が終わると全員、カンファレンス室に呼ばれた
そこには康太はいず、榊原は康太は?と尋ねた
「今、点滴中だ!
お前は大人しく説明を聞きやがれ!」
と、怒鳴り、義恭は説明を始めた
「飛鳥井康太の新陳代謝は、人の倍早い…食らった毒が…体を蝕み…臓器を…破壊している
源右衛門の度合いより…早くてな…
想像を越える…良くもまぁ生きてるな…と言うのが感想だ!
直ちに毒を抜き処置をする!
本当は入院してもらいたいが…今週はダメだと抜かしおる!来週の頭が卒業式だから、待ってくれ…と!
今週は…毒を抜きに通え。
その後入院してもらい…本格的な治療をする!
今やらねば…明日の命の保証はせん!」
主治医は断言した
そして続ける
「飛鳥井康太の場合、力を使えば使う程、新陳代謝を早め、活発にさせておる!
だから、力を使った後、激痛に襲われるのだ…!
力を使わずに1週間過ごし…後は本格的な治療をする!
治療は、家族や伴侶が積極的にしてくれねば!あの真贋は…動くぞ!
そして、動けば…次は…その心臓を停めるだろう!
それ位の悪化だと、断言する!
前回見た時は…これ程は進んではおらなかった!
真贋は確実に…その命を削りながら…生きている
動き続ければ…次には死ぬ…」
瑛太は…言葉もなかった
榊原は…康太の体の状況を…薄々は感ずいていた
清四郎は、そんな体で…兄…一葉を呼び出してくれたのか…と涙した
笙は…黄泉まで向かいに来させ…転生の義を唱える儀式までやらせた
その命を削り…康太はやってくれた…と思うと…涙が…止まらなかった
戸浪は…康太の無償の愛をもらい…会社は救われた
その為に…康太は命を削っていた…と、思うと…いたたまれなかった
戸浪は主治医に
「飛鳥井康太の命を救う為ならば、この戸浪海里、この命擲ってでも…助ける為に動く
必要な医者は手配するので医療チームを作って助けてくれませんか?」
と、頼み込んだ
「飛鳥井家 真贋の治療は…普通の医療では…治癒は出来ぬ…
………そうであろう?弥勒高徳…!
また来たのか…今度は紫雲龍騎も伴い来やがったよ!」
義恭はボヤいた
何時入って来たのか…そこには弥勒高徳と、紫雲龍騎が立っていた
「康太の命の灯火が…消えかかっておるのに…菩提寺の山になぞおれるか!」と、紫雲龍騎は、叫んだ!
「俺の命を…懸けても…康太は死なせはしない!」と、弥勒高徳も叫んだ!
弥勒は「と、言う事で…伴侶殿…少し話をさせて下さい。
院長、屋上を使わさせて貰って良いか?」
と主治医に聞くと、主治医は、好きにしろ…
と、何を言っても無駄だと…投げ槍に言った
榊原は、弥勒と紫雲と屋上に出た
屋上に出ると、弥勒は榊原を挑発した
「康太は元々は神だ…焔を纏う浄化の神…炎帝!
康太の体で…あの焔を使うのは…無理がある…!
新陳代謝が活発になるのは…人の体に…神の力…バランスに欠いているからだ!
それは!青龍殿…貴方には一番解っておられる事ですよね…?」
と榊原を睨み…言葉にした
「解っています!康太は…今は人…。
そして僕も…今は人で在る
だが、その力…誰も封印は出来はしない!
神の力を封印出来るのは…神でも至難の技だ!
況してや康太は…力を使う、力持ち…
その力を封印すれば…飛鳥井家の真贋にすら値はしない…。
それは……康太の望む所ではない!」
「そうして、幾度転生されたのだ!
あの魂を早死にさせて、幾度参ったのだ!」
「幾度も…ですよ!
力を使わぬ真贋でいるのは嫌だと…言われれば!聞かない訳にはいかない!そうして、僕は共に来た!」
「そして…今世も…逝かせるのか?」
「早く逝かせたい訳などない!
だが、僕には…共に逝くしか出来なかった!
非難などされなくても解っています!」
「解っているなら動かれよ!
木偶の坊でないなら、何故…動かぬ?
本当に康太を愛しておられるのか?」
「貴方に…何が解ると言うのですか!
手の中で苦しみ死んで行く愛する人間を看取る…それがどんなに辛い事か!
貴方には解りますか?ならば!一緒に逝くしかない…!
好きで…何度も…炎帝を死なせている訳ではない!貴方に…その苦しみが解るか!」
「解りたくもない!康太の命は風前の灯!
そうなる前に手を打つのが、伴侶であろうて!違うか!青龍!」
「手を打てば、康太の動きを封じる!
それは!如何に不本意か!貴方は解っていて言われるのか!
僕だって…行かせたくはない!
だが、動きを封じられてまで生きたくはないと!康太は…言う!
そうして幾度も…僕は共に逝くしか出来なかった!
なら、どうすれば良かったんですか!」
榊原は、蒼い妖炎を上げて…怒り狂っていた
弥勒を睨む瞳は…龍の如く…金色の瞳に変わり…睨み付けていた
振り絞る魂の叫びだった……
思いの丈を総て…溢れさせ…榊原は叫んだ!
魂が…潰れん位の叫びで…叫喚した!
今にも飛び掛かり牙を剥きかねない…榊原の変貌に…弥勒は…ニャッと笑った
静まり返った屋上に…龍が…哭く…
すると、その静けさを破るかの如く
「青龍!人の世で姿を変えんじゃねぇ!」
と怒号が聞こえた
振り返ると…そこには緑川一生が立っていた
一生は、つかつかと榊原の前に行くと頬を叩き、その体を抱き締めた
正気に戻った榊原の瞳から…涙が溢れた…
「弥勒、青龍を挑発して、どうする気だ!」
榊原を抱き締め…一生が吠える!
「やはり、おみえになりましたね!」
弥勒が呟いた
「龍は魂で叫喚して動く…その姿…時をも越す!
俺だけじゃねぇぜ!此処に来てるのはよぉ!」
一生の横には…黒龍と地龍が立っていた
「これはこれは、四龍神の登場ですか…」
「それが目的で青龍を、怒らせた!
違うか?我等四龍を呼び出して何をさせるつもりだ?」
「失礼をお許し下さい!」
弥勒は…頭を下げた
お許しを…と言いながらも、弥勒は…言葉を続ける
「この世に…朱雀も堕ちておろうて…飛鳥井家の裏辺りに…」
と嗤って一生に言った
一生は弥勒の真意が…解らない…
四龍…四神…それ等を配置して…弥勒は…何をするつもりなのだ?
「神を揃えて…何をするつもりだ?」
と横柄な態度で聞いた
「神を配置して…行うのは1つしかなかろうて!
絶対の世のバランスだ!
半世紀…四神を欠いて、世の中はバランスを欠いている!
この世の中の乱世は…神の力の墜ちた証拠だ
神の張り巡らし結界が…落ちて来てるんだよ!
少しずつこの世を狂わし…歪ませてるのは…東西南北を司る神の不在が原因
即ち…青龍と朱雀の不在だ!
この世は微妙なズレを伴い…暴走している…
それは、地龍…お主が肌身に感じてはおらぬか?
地脈の暴走、マグマの流動……天変地異…
既に…地龍の手に余りつつある!」
地龍は…息を飲んだ…
この人は…一体…誰なんだ…
「愛と平和を司る赤龍よ!
お前の目にこの世はどう写る?
人は便利さに…恋など必要もせず
草食系男子…なんて子孫を作らぬ人類の果てを考えたか?
人は…子孫を遺し…受け継がれる…
そのバランスが…崩壊している!
それも…解らぬのか?」
弥勒の言葉に…一生は反論すら出来なかった!
「光と影を司る…黒龍!
夜も眠らぬ不夜城が、蔓延り…人は…夜に眠らなくなった…
光の世界に…闇は存在せず…人の心に闇を蔓延らせた…
四龍の力の配分が出来ないのが実情だ!違うか?」
黒龍は…バランスを取るのが難しくなり…力の限界を…感じていた
黒龍は、項垂れた
「そして、魔界のバランスと秩序と規律と法律を司る…青龍
お前が…地に墜ちたのが…一番の原因
魔界の崩壊…即ち、人の世の崩壊だ!
魔界に戻られよ青龍!
と、申しても…貴方は帰りはしない
ならば!絶対の結界を…四神に張らせる…それしか道は残ってはいない
そして四龍が司る…バランスを保たせる!
安定した結界の中に…康太を置いて…体内の毒を浄化させる!それしか道は残ってはいない!」
一生は…なっ!無謀で有ろう!と怒鳴った
「無謀は…重々承知!
何も動かず手を拱いていたら、確実に…康太は…死ぬ…
俺は死なせたくはない!龍騎もな!
ならば!神を動かし…手を打つしかねぇだろが!
今世は…何故か…人の世に…人のなりした神が…潜んでやがる!
四神…と四龍…。
その両方に青龍は在る
お前を欠いて…閻魔は…苦悩の毎日だな…
まぁ…それも人の世には関係ねぇけどな!」
弥勒は…一歩も引かぬ覚悟で…榊原を見ていた
榊原は、覚悟を決めて…弥勒を見た
「転輪聖王…この世を正すのは…やはり、貴方しかおらぬか…。
一生、飛鳥井の菩提寺に場を移す!
貴史…嫌……朱雀を…呼んできて下さい!
康太を菩提寺に移した後…僕達は…黄泉に渡り霊峰に上がり絶対の結界を張ります!
その後…絶対の秩序と規律と法律を…還るまで…保てる様に…強行しましょう!
僕の…湖の見える家に…鎧は有りますか?
赤龍…兄さん…」
榊原に言われ一生は笑った
「当たり前じゃねぇかよ!そのままになってる!」
「ならば!あの鎧を着て…魔界を正してやりましょう!
正義の槍で…魔界を駆け回るのも…また一興じゃないですか!」
榊原は、康太を助ける為に……動いた
「伴侶殿…」弥勒は榊原に声をかけた
「貴方と魔界へ行って宜しいですか?」
「構いませんよ。
霊峰で、眠らせている天馬を取りに行き、走るので…落とされない様にして下さいね」
「康太の蒼い龍を…見てみたい…
秩序と規律と法律を紡いで造った鎧を着た…貴方を見てみたい!」
榊原は「弥勒…時間がない…康太の作りし卒業式が…終わる前に…片付けます!」と言うと、弥勒は
「ほんの数日であればこの世に影響なく時空を歪ませられる。
魔界へ行った日に還れる様に、過去に上って帰れば良い!
時空を歪ませて…時間の調節をする!
それで良いか?」
「異存はないです!」
「ならば!伴侶殿、飛鳥井瑛太を説得して参れ…。菩提寺に動かし…龍騎に守らせる…」
榊原は、頷いた
そして、屋上を後にして…瑛太達のいるカンファレンス室に向かった
カンファレンス室に帰って来た榊原を見て、瑛太は…何も言えなかった…
榊原は……極度の怒りから瞳の色が…まだ金色で…龍の瞳をしていたからだ…
屋上で何があったのか…詮索すら出来ぬ…険しい状態に…全員が…押し黙った…
「義兄さん、康太を飛鳥井の菩提寺に移します!
そして、体内の毒を浄化させる…。
それを弥勒と紫雲とがやります…。
可能性が在ると言うのなら…それに懸けてみたい…
康太を移すのを許して下さい!」
榊原は深々と頭を下げた
榊原の後ろに…弥勒と紫雲…そして何時来たのか緑川一生が立っていた
一生の横には…見た事もない人間が…一緒にいた
瑛太は…黒龍と地龍を、見て……此方の方は?と尋ねた
すると、弥勒が「魔界から迎えし…協力者だ!」と答えた
瑛太も清四郎も笙も…魔界から…と聞き…言葉を無くした…
人と変わらぬ姿をしている
黒龍と地龍は…優しい顔をして瑛太に頭を下げた
瑛太は…榊原に「康太を頼みます…」と頭を下げた
「義兄さん…飛鳥井の家へ乗せていって下さい!支度をして僕は魔界へ渡ります!
総て…紫雲がやります故…菩提寺には来ないで下さい!」
「解った…お前に総てを任せる…」
榊原は主治医に康太を連れてきて下さい!…と頼んだ
主治医は、看護師に…康太を連れてこさせた
弥勒は…紫雲の運転する車に黒龍と地龍を、乗せ…菩提寺に向かった
榊原は、飛鳥井の家へ向かい、自分の車に乗り換えた
榊原の車に康太を寝かせ、兵藤を呼びに行った一生が、兵藤を連れて来ると…車に乗り込んだ
瑛太と清四郎と笙と戸浪…その車が…見えなくなるまで…見送っていた
一生は、車の中で…兵藤に総て…説明した
菩提寺に行き、黄泉へと渡る…
兵藤は、了承した…
菩提寺に到着すると、本殿儀式の間に…康太は…寝かされていた
紫雲が…康太を守って…結界を張った
榊原は「弥勒、儀式の間から黄泉へと渡れる部屋が有りましたね?
そこから、黄泉から魔界へと渡り…霊峰へと昇ります
東西南北に在る霊峰の頂上から、総結界を張ります!」と、弥勒に告げた
弥勒は「本体で参られますか?ならば、俺も本気を出して着いて逝くとします!
龍騎、後を頼む!」と立ち上がった
榊原は、眠る康太の唇に…接吻して…断ち切るかの様に立ち上がると、弥勒を促し…本殿奥へと向かった
「このドアの向こうは黄泉だ!お願い致します!」と、弥勒は頭を下げた
人間が…黄泉へと本体で行けば帰られはしない…世界へ…弥勒は…そのままの姿で行くと言う
一生は「黄泉に入ったら、自分の仕事に取り掛かる!青龍、お前はお前の仕事を完遂する事だけ考えて動け!解ったな!」と檄を飛ばした
「解ってますよ、赤龍…。
その為に僕は行くんですからね!」
「ならば、良い…。
何があっても我等兄弟は共に在る!
それだけは忘れるな!」
「はい。」
榊原がそう言うと…赤龍が、黒龍が、弟の肩を叩いた
そして、地龍が、兄の肩を叩いた
榊原は、開かれたドアへと入った
黄泉へと足を踏み入れた榊原は、蒼い龍へと姿を変えた
赤龍も黒龍も地龍も龍に姿を変えた…
四龍兄弟の…帰還に…魔界は…その存在を感じ取っていた
そして、朱雀は鳳凰へと姿を変えた
朱雀は「さてと、玄武と白虎を脅して配置させて来るとするか!
青龍、お前はさっさと、自分の霊峰へ行きやがれ!」と文句を行って、羽ばたいて行った
青龍は、まず、魔界へ渡り、湖の見える家に鎧を取りに行き…準備をした
弥勒の目の前に…現世より大人の姿に変えた榊原がいた
これが、魔界での青龍の姿なのだろう!
青龍は、その体に…秩序と規律と法律を紡いで造った鎧を着た
がっしりとした体に…蒼い鎧が…似合っていた
弥勒は…青龍の家を見渡した
炎帝と暮らしていたにしては…あまりにも殺風景で、何もない…
部屋のど真ん中にピアノがドテンッと置いてあるだけで、家具も…調度品も…最低限のモノしか置いてない部屋
飾り棚には、酒しかなく…独り身の…住居みたいだった
「この家に…炎帝は?」
「一度も入ってはいませんよ!」
弥勒は驚愕の瞳で青龍を見た
「名ばかりですが…僕には妻がいたので、炎帝は…此処へは来ませんでした…」
その言葉で…納得した
「行きますよ!弥勒!」
青龍は、家の外に出ると再び…龍に姿を変えた
その頭に弥勒は乗り込むと…青龍は、物凄い速度で…遥かに聳え立つ…霊峰へと向かった
「弥勒、途中で天馬を起こします!
そしたら、天馬に移って下さい!」
青龍は、物凄い速度で…天へと上る
魔界の者さえ…近付けぬ霊峰に沿って上がると…山は凍っていた…
吹き付ける風も…総てを凍らせる…冷気を持っていた…
人では…堪えられない…
なのに、弥勒は…平気な顔をして乗っていた
青龍は、その山の中腹に…眠らせておいた天馬を見付けると…
その口から…火を噴いた…
弥勒は…青龍が火を噴くとは…知らなかった
嫌…知らなかったのではなく…青龍は、赤龍と違って噴くのは…ブリザードなのではないのか?
「伴侶殿は、火を吐かれるのか…?
誠…珍しいモノを…見れてしまったわ…」
「僕は、炎帝と契っています!
神々の契りは…即ち…力の伝承…。
僕は炎帝の紅蓮の焔の中でも火傷はしません
それと同じで炎帝は、僕の噴くブリザードでも凍りません!
それは互いの体内に…契った時に…相手の力を取り入れるから……
僕は炎帝と契りし龍なので…火も噴けます…
ですが…僕の焔は…炎帝の焔なので…赤龍とは違います…。
赤龍の焔は…誰も傷付けはしません…
僕は『 無 』になってしまいますからね…」
「契ったから…か。そうか…。」
弥勒は納得していると、天馬が起き上がり…弥勒を突っついた
「乗るんなら早く乗りやがれ!」
悪態をつく天馬も…弥勒は…初めてだった
「天馬…眠りから醒めた感想は?」
榊原が聞くと
「熱いんだよ!おめぇはよぉ!
もっと優しく温泉に着けるとかで起こしやがれ!」
と天馬が毒づいていた
弥勒は「これはまた…性格の凄い天馬だ…」とボヤいた
「炎帝の天馬なんですよ!
炎帝はこの馬に乗って…
駆け巡っていました!」
青龍は弥勒を天馬に移らせた
「貴方は人ではない…。
天馬の焔も大丈夫ですよね?」と青龍は言った
「おいおい!俺は人だぜ!
今少し本気を出してるだけだ!
本気を出してる間は‥‥まぁ大丈夫だけどな」
青龍は、天馬に乗る弥勒を見た
焔に包まれても…平気な顔をしていた
「僕も人ですので…同じですね!」
弥勒は…蒼い龍を見て……笑った
「さぁ行きますよ!
ちんたらしてたら朱雀にどやされます!」
青龍は、その体を駆使して…凄いスピードで上って行った
霊峰の頂上に辿り着くと…青龍は、人に姿を変えた
青龍は、蒼い槍を握って、山頂に立っていた!
「用意は良いぞ!」
青龍が言うと……
「遅せぇんだよ!待たせんじゃねぇ!」
と声が…天空に響いた
「玄武!白虎!半世紀振りだな!
変わりはないか?」
朱雀は無視して…玄武と白虎に声をかける
玄武は「今世で還らぬなら…呼びに行こうと想っていた!
朱雀では全く役には立っておらんからな!
青龍の後継者が…おらぬ今、混乱は避けれぬからな!」と言葉をかけた
白虎は「堅物が…人の世には堕ちるとは…想いもしなかった!
しかも、前とは違う話の解る奴になってるではないか!
還ったら炎帝も入れて飲み交わそうぜ!」と、楽しげに返された
「では、始めるぞ!」
青龍が号令をかけると、皆臨戦態勢を取った
青龍は、その体に…冷気を貯めて…霊気に変えた
霊峰の空気を肺一杯に吸い込み…その槍に…霊気を貯めた
青龍の体が…蒼く光ると…槍先も…蒼く光った
その時…眩い稲妻が辺りに走り……槍の上に…雷が…墜ちた…
「閻魔も…加勢してくれる見たいですので…頑張るとしますか!」
物凄い…霊気を…槍先に貯めて…
青龍は吠えた
「行きますよ!用意は良いですか!」
青龍は、槍を振り回した…
ビュンビュン!ビュンビュン!
空を斬る…槍は…物凄い音を立てて…回っていた
回りの空気がピキッピキッと音を立てて凍りつく
「「「用意は良いぞ!」」」
朱雀、玄武、白虎からの声がすると、青龍は、その力を放出するかの様に…
地面に…槍を突き立てた
「「「「覇ぁぁぁぁ!!!!」」」」
四神が同時に…力を放った
無数の光の筋が…駆け巡る…
天に…地に…光が走り…交わって離れる…
東西南北の霊峰から放たれた光の筋が…交差して…絡まり…離れ…天空を突き抜け…消えて行った
地を這う…光も…絡まり…離れ…そして地面に…消えた
「弥勒、結界は無事に成功しました!
なんたって…雷帝の『 気 』まで込めた結界、そう容易くは破れはしないでしょう!」
青龍は、そう言うと槍を消し…蒼い龍へと姿を変えた
「天馬、お前の夫の風馬を地上に呼びなさい!
君の声を聞いたなら、飛んで来るでしょ?」
青龍が言うと、天馬は
「仕方がねぇな!
呼んでやるよ!」
悪態をつき、ヒヒヒヒィーンと啼いた…
青龍は「本当に性格が悪い…。
その減らず口を縫い付けますよ!」
と怒ると…龍の尻尾を…パクっと食べられた
「痛い!」
と振り向くと…風馬が青龍の尻尾に噛み付いていた
青龍は、ピキッと怒りマークを額に張り付けた
「ほほう!
お前は主も忘れた愚か者ですか!
その体に…主を解らせてあげましょうか?」
悪魔の様な微笑みに…風馬は逃げた
青龍が後を追うと…一瞬にて…追い詰められた
「よくも僕の大切な尻尾を噛みましたね!
炎帝が愛して止まない…蒼い龍に傷を付けましたね!」
そう言い、青龍は噛まれた尻尾を撫でた
「だって…青龍が悪いんでしょ…妻を虐めるから…」
風馬は、くしゅん…と言い訳をした
「還ったら…新しい馬を手に入れましょうかね…
素直な馬が良いですねぇ…飼い主の尻尾を咬むバカ馬など要りません!」
榊原が呟くと…風馬が、えぇぇぇぇぇっ!と慌てた
「そんなぁ…酷い…」べそべそ風馬が泣く…
天馬がその顔を舐めてやっていた
弥勒は「本当に番《つがい》なんですね…」と、呟いた…
「オス♂同士ですがね…飼い主に似るのですかね…皮肉なモノです…
風馬、天馬を眠らせたのは僕ではありませんよ!炎帝です!
欲求不満を僕に八つ当たりは止めなさい!」
ヒヒヒヒィーンと、風馬は啼いた
そして、青龍は霊峰を降りて…人の姿に変わった
重い鎧を着た青龍が、槍を背中に装着して、風馬を駆け走る
その後に…弥勒も着いて走って行く
途中で、嫌がる女を取り囲む男を見つけた
青龍は、背中の槍を取り出すと、乱暴している男の頬に当てた
「誰だ!俺様の頬に刃を向けるのは!
命知らずな奴だな…覚えときやがれ!」
と、男が…振り向くと…そこには青龍が、眼光鋭く…槍を向けていた
「ほほう!私がおらぬ間に…雑魚が一人前の台詞を吐くようになりましたか!」
青龍がニャッと嗤うと、槍先を…皮膚に突き付けた
「魔界の秩序は我が守る!
秩序と規律と法律を守る…私の目の前で…傍若無人な行為をしますか?愚か者よ!」
青龍の側から…他のメンバーが去って行こうとすると…青龍は、もう一方の手に正刀 正宗を握り、他のメンバーに斬りつけた
「動くな!命が惜しいなら…動くな!
この剣は正刀 正宗。
斬られたなら…その命…転生などせぬ…!
脅しだと思うなら動いてみなさい!
魔界の塵になりたいのなら、斬り捨ててあげましょう!」
絶対の姿が…そこに在った…
槍先を食い込まされた男は…
「ゆ…許して…下さい…」と、謝った
「女!貴方はどうしたいんですか?」
青龍に言われ…女は…
「魔界から消し去ったなら…夢見が悪過ぎる…
悪さをせぬのなら、もう良い…です」
…と、言葉を絞った…
「次に見たら…迷う事なく斬ります!」
青龍は、そう言うと槍を背中に戻し、正宗を手の中に消し、風馬の手綱を動かした
「風馬、魔界中、走りなさい!
デモンストレーションです!
途中で…四龍が合流して…バランスを司ります!」
風馬は、言うことを聞くと…走り出した
風の如く…走る…風馬は、青龍の馬だった
風馬の後を、弥勒を乗せた、天馬が着いて行く…
青龍は、馬を走らせながら…後ろの弥勒に
「人の世界は…何日…過ぎたんでしょうか?」
「魔界の時間と…人の世の時間は違うからな…。
案ずるな伴侶殿…元いた時間に戻してやるから、後半分…頑張って下され!」
魔界の中央にある、世界樹の広間に行くと…そこには赤龍、黒龍、地龍が待っていた
そして、中央には、閻魔が…混じって立っていた
青龍は、馬の上から降りると、閻魔に倣った
「魔界に参ったのに…挨拶もせず…無礼をお許し下さい!」
閻魔の目の前には…人に落ちる前の青龍と寸分違わず…立っていた
嫌…その姿には…苦悩や慈愛の年輪を垣間見せていた
人に堕ち…味わった日々が…青龍を変えていた
「青龍…再び…転輪聖王をお連れしたか…」
「いいえ、閻魔、この方は人です!
それ以外には…名乗られぬ…弥勒高徳だと、言い切られます」
閻魔は「なら、そう言う事にしておきましょう!
今回…魔界の結界の強化は、人の世の歪みを正す為か?
歪んだ世を正し、飛鳥井康太の胎内の毒を抜かれるか…」と、問い質した
「我が妻…飛鳥井康太の命を救うなら、我はこの命…擲ってでも助ける…!
愛する妻をやすやす死なせはしない!
未来永劫…我の妻は…唯、一人!
と、言う事で…これより、兄と弟の力を借り、魔界のバランスを司ります!」
閻魔は、笑って
「私も力を貸そう!
朱雀も玄武も白虎も参った!
魔界のバランスを…全員の力を合わせ…保てば…お前達、夫婦が戻るまでは…バランスは保てる!違うか?」
青龍は「はっ!」と頭を下げた
「我の妻は、炎帝!
我は未来永劫、炎帝を愛す!」
青龍が宣言した…
蒼い焔を撒き散らして…青龍は吼えた…
その姿を…蒼い龍へと変えて、秩序と規律と法律を司る天秤にその身を投じた
赤龍は、赤い龍に姿を変えて、愛と平和を司る天秤にその身を投じた!
黒龍は、漆黒の龍に姿を変えて…闇と光を司る天秤にその身を投じた
地龍は、真っ白の白龍に姿を変えて…地脈を司る天秤にその身を投じた
東西南北、四龍の守りし…バランスは…歪みを軌道修正して、直る…
龍が…吼えた…
その口から…赤龍は愛と平和を織り成した…赤い炎を撒き散らし
黒龍は闇と光を織り成した黒い炎を撒き散らした
青龍は、秩序と規律と法律を織り成した蒼い冷気を吐き出し
地龍は、地脈を織り成したマグマを吐き出した
四方から吐き出された…炎が…中央で絡み合い…1つの渦になり…巻き上がった…
朱雀、玄武、白虎、閻魔もその力の渦に目掛けて力を放出する
莫大な…力の塊が…渦になって…舞い上がっていた
その力は…魔界をも飲み込む…驚異になりかねない力の塊だった
広間に集まった魔族は…あまりの迫力に頭を抱えて…地面に突っ伏した…
閻魔と弥勒は…それを悠然と見ていた
天秤の均衡を正してバランスを司る
四龍は、天へと上り…大雨を降らせた…
そして、一頻り…天空を駆け巡り…閻魔の前に来て、人に姿を変えた
「これで、我等が帰るまでは…均衡は保たれる!
これで、ノルマの達成ですか?弥勒?」
「あぁ。見事だ!
この均衡の中なら…完璧な結界が張れる!」
青龍は、微笑んで…息を吐き出した
そして黒龍の側に行くと
「黒龍、頼み事が有ります!
聞いてくれませんか?」
と、声をかけた
「お前の家だろ?
炎帝と戻るなら…あの家を何とかしてくれ!と、言うのだろ?」
と、青龍の気持ちを汲んで…言葉にした
「そうです。改めて見ると…酷すぎる…」
「俺の家なんて…あれより酷いぞ…」
「………僕は…堪えれません…」
「解ったよ!」
と、約束をもらい、青龍は、弥勒に向き直った
「さっ!帰りますよ!」
と、さっさと、赤龍と朱雀を促し、帰る算段をする
来た道と同じ道は使えないのですか?
と弥勒に聞くと、大丈夫だろ?と、言われ、魔界の入り口に…移動した
そして、入り口に…足を踏み入れると…
グニャリと体が歪んだ…
その気持ち悪さに堪え…強引に抜けると…
飛鳥井の菩提寺の儀式の間に出た
あまりの気持ち悪さに…外に出て堪えていると…弥勒が
「時空を遡らせた…。
故に…時空の歪みをまともに食らわれたのだ!
だが、これで、魔界へ行かれた少し後の時間に戻って来られている筈だ!
康太の卒業式制作に支障なく行える」と、説明した
榊原は、時計を見た
すると、菩提寺に康太を運んだ日付で…帰って来た事となる…
弥勒は…その体に…力を貯め…妖炎を撒き散らしていた
黄金色したその炎は…人の世の再生の炎の様で…暖かい色を放っていた
紫雲も…その体に力を貯め…その体を…オーラで光らせた
康太の頭に紫雲が立ち、康太の足に…弥勒が立った
二人の紡ぐ結界に…康太の体が持ち上げられる
康太は…結界の中で…中に浮いていた
「伴侶殿、康太の中の、毒素は抜き取るので…臓器に侵食している毒素は解毒で抜いてくだされ!
体内の…総ての解毒が出来る訳ではない…。それだけ承知して下され!」
弥勒は、榊原に言われ承知した
「康太が…少しでも長く…生きてくれるのであれば…それだけで……」
言葉を詰まらせる榊原の想いが…痛かった
「結界の中に…12時間…明日の朝まで…入っているので、食事を取りに行かれると良い…」
「いえ…構わないで下さい!」
榊原は、康太の側を離れなかった
微動だにせず…榊原は康太を見守っていた
榊原は、気が狂いそうに長い夜を…息を潜めて…過ごしていた
一生と兵藤も…祈り続けた…
朝方…康太の体が布団に下ろされ…長かった夜が終わった
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