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第72話 卒業式制作 6日目
学園の駐車場へ行くと、力哉の車が停まっていた
康太が榊原の車を降りると、兵藤や一生達が車を降りた
「遅せぇよ!」と兵藤が康太を突っつく
「すまねぇ!亭主の実家は大切にしねぇとな!」と返され兵藤は爆笑した
「おめぇは嫁だもんな!
そりゃぁ気配りは必要か?」
「嫁の鏡…と呼んでくれ!」
胸を張って言うと兵藤に
「お!ピカピカやん!頭がな!」と返され…
康太は兵藤を追い掛けた
「クソッ!人が気にしてる事を!」
康太が喚き散らす
額を縫って以来…少し気になる…髪の毛事情
剥げたら…やっぱ、こっそり瑛太に言って植毛しかないかなぁー…と、悩みし日々を…
兵藤は知らなかった
一生は…あ~あ…地雷踏みやがった…刹那すがやん…と呟いた
毎朝恒例の…この騒ぎも…
月曜日の卒業式で…終わりとなる…
これで、本当の…高校生活最後の…
日々を…迎える事となる…
静まり返った体育会に…藤森のピアノの音が響いていた
この日は最後の…練習日
次は、卒業式当日
通しリハーサルは、午前中に卒業証書授与式
午後から、卒業式を通しで本番さながらにやる!
卒業式に読み上げる答辞は、毎晩…兵藤とPCでチャットをやりながら、書き上げた
時間が足りないなか…それしかなく、10分ちょっとの時間をかけて読み上げる
前代未聞の答辞…となる
最終リハーサルなのに、理事長の神楽四季が…出て来て、卒業証書を渡す
本番さながらだから、泣き出す生徒も…いた
午前中の通しリハーサルが終わると、全員が体育館で弁当を配ってもらって食べる事となった
康太達は、体育館の壇上で…弁当を食べていた
一緒に写真を撮ってくれ…だの、サインしてくれだの…ひっきりなしに来るから…
昼位は…ゆっくり食べたかったからだ
一生が康太の耳に「首筋…吸われてねぇ…?旦那の実家にいたんだよな?」と囁かれ…康太は…食べてたモノを吹き出した
ご飯粒が…兵藤にかかり、兵藤は喚いた
「汚ねぇなぁ!おまぇはよぉ!
静かに飯も食えねぇのかよ!」
怒りまくる兵藤の制服のご飯粒を、榊原は取ってやりながら…
「康太…ですからね…」と呟いた
一生が「すまん!俺が余分な事言った!」と謝った
榊原が「なに言ったんですか?」と尋ねると
「いやな…お前の実家に行ったんだよな?
なのに、首筋に吸われた跡が有るからな…聞いてみたら…康太が吹き出した」
榊原は、額を押さえた
制服に隠れない…所を…我慢出来ずに…吸った
最近は…我慢して…内腿とか胸とか背中とか
…服の中に隠れてる所しか…吸わないようにしてる…のに…
兵藤が「おいおい…5時間…飛鳥井で部屋に籠ってただけじゃ足りねぇのかよ…」と呆れて言った
「康太は潔癖症な所が有りますからね…
榊原の家で…帰ろと泣くから…ハードルを越えてみたんですよ…」
「おめぇも…大変だな…」
兵藤はしみじみと呟いた
飛鳥井康太を支えるのは…結構大変だ…
「それも総て愛してればこそ、乗り越えられます!」
まさか…一番…愛と言う台詞の似合わなそうな奴から…聞くとは…と兵藤と清家は…苦笑した
榊原が「ほらほら、食べないと時間がなくなりますよ!」
と世話を焼きながら康太に食事を取らせる
そうして笑いながら昼食を食べ、昼からの通しリハーサルを迎える
その前に榊原は一生に
「リハーサルが終わったら神野の所へ行きます…」
胸ポケットの携帯を見ると、康太のスマホが震えていた
取り出すと…神野からだった
榊原は、少し離れて…携帯を取ると
「今は忙しいのですが…」
『すまん!確認だ!
来てくれるんだよな?』
「はい。リハーサルが終わったら行きます!」
『なら、待ってます!』と告げて電話を切られた
榊原は携帯をしまうと康太に
「神野は相当…焦ってます…!」と告げた
康太は「焦られてもなオレ等の作る卒業式を放り出して行けねぇだろ?
待たせとくしかねぇ!
卒業式を放ってまで行く事じゃねぇ!
オレは手を抜く気はねぇんだ!」と返した
午後からの通しリハーサルでは、送辞と答辞、理事長の言葉、を、抜いて行われた
今回の卒業式は、一風違うのは…卒業式のラスト
卒業生は手にした花束を在校生に放って…外へと出る
最後まで送られたくない…姿を見せる為だ
その練習は…1.2年を入れずに、朝早く呼び出しをかけ練習は終わっている
総ての通しリハーサルが終わり、チェックをして…
総ての行程が、終った
康太は兵藤、榊原や清家、そして一生達や前期役員達と壇上に上がった
清家は康太にマイクを渡した
「これで、卒業式制作総ての行程を終わります!
全校生徒の皆さま方!本当に有り難う!
皆が参加して、皆で作った卒業式です
思い入れも一塩です!
校内を見れば、皆の想いも伝わる!
卒業色に染まった校舎は美しい!
それは皆の想いで、染め上げた色です
オレは皆と桜林祭や宣言祭を作り上げ…皆と紡いだ…楽しい日々を忘れません!
本当に、有り難う御座いました!」
深々と…頭を下げて…康太はマイクを一生に渡した
一生は、驚いた顔をして康太を見ていた
「最後位は全員が喋ろうぜ!」
言われ、マイクを持つが…胸が一杯で…
喋れば…涙が…溢れた
「俺は…悪童と呼ばれる嫌われ者だった…
そんな嫌われ者の俺と四宮聡一郎に、最後まで…見放さず…いてくれたのが飛鳥井康太、お前だ!
お前がいたからこそ、俺と聡一郎は、この壇上にいられる人間になった…
俺は…お前と共にいて学ぶ事も沢山あった
それら総て…お前がくれた日々だ…
俺は…全校生徒の嫌われ者のまま、卒業するんじゃなくて、本当に…良かったと思います
本当に…有り難う」
緑川一生は、マイクを四宮聡一郎に渡し、深々と頭を下げた
聡一郎はマイクを貰い…泣きながら…
「僕みたいな者が…こんな場所で喋れるとは想いもしませんでした…
緑川一生が言っていた様に……僕達は…学園一の嫌われ者でした
なのに…こうして、皆と楽しい日々を送れた…!本当に有り難う御座いました」
後は…涙で…声が詰まって…喋れずに…
一条隼人に…マイクを渡した
「オレ様は…心を持たない…人形だった
康太と知り合い…沢山の想い出を貰った…
オレ様は…卒業式を、迎えられるとは想ってもいなかったのだ…本当に嬉しい
オレ様は…愛する人がいた…その人の為に…卒業は諦めた…。
その人が死んでしまって…オレ様も死のうと想った…。
そんな時…康太がオレ様を命に変えて助けてくれた…
だからこそ迎えられた…この卒業式は…本当に格別な…想いがある…本当に…有り難う」
隼人も…涙で…喋れなく…マイクを慎一に渡した
「えっ…俺?…良いんですか?喋って…」
戸惑う慎一に体育館にいる生徒は
【良いぞおおおおおおお!喋れよ!】と声を上げた
「施設で育った俺は…中学もろくに行かず働いていました
弟が…飛鳥井の家に世話になってて…その縁で…飛鳥井の家で暮らす事になりました
中学もろくに行った事もない人間に、家庭教師を着けてくれ学ぶ機会を与えてくれました
俺は…産まれて初めて高校生活ってのを送れました…
高校へ通っていなければ味わう事も、知る事もなかっただろう‥‥この日々を…俺は…一生忘れません!
本当に有り難うございました…」
と、慎一は深々と頭を下げ、マイクを清家に渡した
清家はマイクをもらうと…康太と兵藤に深々と頭を下げた
「飛鳥井康太!やはり、貴方が学園の台風の目でした!
そして笑わない頭脳、兵藤貴史!
貴方の人間味溢れる姿を知る事が出来、我等生徒会も…全校生徒も…安堵してるでしょう…何故なら…貴方が誰よりも近い存在に感じるから!
貴方は…生徒の一番前で輝いて…光っていた
それは電子頭脳じゃなく兵藤貴史と言う人間臭い…肖像ではなく生身の姿を見せてくれたからです!
僕は…飛鳥井康太、君と…色んな事が出来て本当に…良かった!沢山の想い出をありがとう!
全校生徒の諸君!本当に有り難う!」
清家はマイクを榊原に、渡した
榊原もマイクをもらうと、深々と頭を下げた
「僕は…厳しいばかりの鬼でした!
規律を乱す人間を取り締まって来ました
ですが…飛鳥井康太と恋人同士になって…
取り締まる自分に…苦悩しました…
完璧の理想を求めて…やって来た自分の総てが崩れ去りました…
悩んで苦しんで…出した結果が…総辞職でした…
あの時…僕は…飛鳥井康太が恋人でも…許してもらえた…から、今こうして壇上に立っていられるんです…。
楽しかった日々は…過ぎるのが早すぎます…
月曜日に…卒業式を、迎える事の早さを…痛感しています…。
それでも、僕は高校生活に悔いはない!
悔いなど残さない程に…僕は完全燃焼しました!本当に有り難うございました」
マイクを、兵藤に渡した
兵藤はマイクをもらうと…
「もぉ卒業式かよ!」と毒づいた
「俺は中学の時、生徒会に入るなら…交遊関係を正せ…と言われた
俺は教師の言う通り、交遊関係を正し‥‥‥飛鳥井康太を切った
それからは目の敵みたいに……
俺は……アイツを取り締まる様に指示を出した
最低な奴だな……と想いつつも俺は生徒会長として皆の前に立ち続けた
生徒会長と言う地位を手に入れて…絶対の地位を学園で構築して来た
だけど‥‥俺の中では…生まれた時からの友にして来た事が‥‥胸に突き刺さる茨の刺みてぇに‥‥俺を苛んだ
生徒会長と謂う地位に立っているのに‥‥求めて来たものの…価値を見失った…
生まれた時からの友は…俺に時間と想い出と…先の保証をくれた!
それからの日々は皆の知っての通りだ
電子頭脳なんて威名が…なくなる程の…壊れようだ!まぁ俺は…これが地だ!
皆と築き上げた日々はオレの宝だ!
ぜってぇに忘れねぇ…!
友達と喧嘩してる奴、仲直りしろよ!
離れたくねぇ奴とは一緒にいろよ!
俺は…後悔してる!
沢山あった筈の時間を…みすみす手放して…何も得れなかった日々を!
だから、皆!ぜってぇに後悔するんじゃねぇぞ!
お前等と作れた日々は、ぜってぇに忘れねぇ
本当に有り難う!」
兵藤は、そう言い深々と頭を下げた
そして、マイクを…現、生徒会長に渡した
現、生徒会長は、マイクをもらうと
「これで、卒業式通しリハーサルは、終了します!
椅子を片付けて…帰宅して下さい」と終了を告げた
終わりを告げられても…生徒は動けなかった
体育館は、鳴き声や、鼻を啜る音が響き渡り…生徒会の役員に退出させられるまで続いた
康太と兵藤達は…食堂に来ていた
「後は…本番だな…」
兵藤が淋しげに呟いた
「……そうだな。
良い式にしょうな…」
「あたりめぇじゃねぇかよ!
お前と俺等が作る卒業式だぜ!
一生に一度の…学生生活の集大成の晴れ舞台だ…!
良い式にならねぇ訳がねぇ!」
緑茶を啜りながら…兵藤が言う
「貴史、三木が言ってたけど、お前留学しねぇのか?」
「あぁ。断った…。
俺がやりてぇのは丈一郎の様な政治家だ…
海外を知っても仕方がねぇ…
俺は大学に入るまで飛鳥井建設でバイトする
バイトを沢山して、現実ってのを知る!」
「貴史、お前の様な、ボンボンには、建築屋はキツいぜ!
でも来ると言うのなら、遼一に頼んでおいてやる!」
「遼一って…お前をバイクに乗せてった…あの伝説の暴走族?」
「そう!アイツは頭が良いからな、一目置かれている
オレが拾ってオレの指示で働かせてる。
雇用主はオレだ、飛鳥井じゃねぇ!
現場で…兵藤貴史と言う名を捨て…働いてみろよ…。その時は慎一も着けてやるからな」
「キツいのは承知だ…。
でもな、知らずして語らず!じゃねぇか!知るしかねぇだろ?」
「だな!慎一、ちょっと来い!」
康太に呼ばれて慎一が、側にやって来ると
「お前さ、貴史に手を見せてやれよ!」と言った
慎一は、兵藤に掌を見せてやった
その掌には…建築や食べる為に働いた…タコが出来ていた
「慎一はな、食う為なら、何でもして来た
建築もウェイターもバーテンも…。
それこそ…言えねぇ仕事もな…。
そして、路上で寝た…事もある…。
これが自分の力で生きて来た手だ…。
触ってみろよ」
兵藤は、慎一の節だった手を触ってみた…
ゴツゴツ…タコと…節だった手が、生きて来た年輪を物語っていた
「すげぇな…これが生きてく…手かよ…。」
「オレの慎一は建築屋に入れても遼一クラスの腕前だ…。
カクテルを作らせれば…ピカイチの働きぶりだ…。
そして、子育ても上手いぜ。
何たって双子の父親だからな。」
兵藤は慎一に「俺に色々と教えてくれ!」と頼んだ
慎一は「主に頼まれるのであれば断れません…。
ですが、遊びで足を踏む込むような…訳には行きませんよ?
金を貰うと言う事は、甘くはないです…。
そうして人は生きて行くのです!」
と現実の言葉を…送った
「手厳しいな…。
慎一、俺も遊びで行く気はねぇんだよ!
何も知らねぇボンボンだけどな、知る為の努力は怠らねぇ!」
慎一はニッコリと笑った
「行く時には声をかけて下さい。」
慎一はペコッと頭を下げて…後ろに下がった
「さてと、オレは解毒に行く
一生、力哉を呼んで家に送ってもらってくれ!」
「了解!ならな!」
「隼人、お前は来い!
帰りに神野の所へ行くからな!」
隼人は立ち上がり…康太に抱き着いた
「ならな、貴史、月曜日にな!」
「おう!月曜日にな!」
康太は片手をあげて…食堂を後にした
康太と榊原と隼人は、駐車場に行くと車に乗り込んだ
そして、主治医の病院へ行った
この日は検査結果が出て、治療方針が出るから土曜でも病院へ向かった
主治医は、体内の毒は…内臓に侵食してる分だけだから、週に一回の通院と薬を飲む様に言われた。
榊原は、ひと安心して…息を吐き出した…
診察が終わると…神野の事務所へと向かう
榊原は「あんなに慌てて…用は何なんでしょうね?」と呟いた
「隼人の婚姻の事実が……出たんだよ!
誰もが隠していたのにな…誰かが…マスコミにリークした…」
「え!………何故!
なぜ追い討ちをかける…?」
「まぁ、行かねぇとな…。」
康太は…瞳を閉じ…思案していた
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