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第73話 問題多発①

神野の事務所へ着くと…神野が飛び出してきた 康太は…怒った顔で神野を睨んだ 「オレは死にかけてたんだよ! なのに、コキ使う気かよ…ったく! 卒業式があんのによぉ!」 神野は…康太に謝った 死にかけているのも…瑛太に聞いて知っている 飛鳥井へ行ったら…康太は…持たないかも知れない…と瑛太は泣いていた… 「事務所に入れろ!」 と康太は鷹揚に言い放った 事務所の一番良い部屋に通すと…康太の前に…ミルクティーを置いた 他には…珈琲を置いた 「貴方には…言ってなかったのですが…隼人は……」 「隼人の…婚姻の事実が…発覚したんだろ?」 康太が言うと……神野は頭を下げた 「やはり、ご存知でしたか…。 貴方には言いそびれてました。 隼人の婚姻に、音弥の戸籍の件に関しては…貴方には言いそびれてました。」 「それは良い…。 オレが見えてるから…解ってると思ってたんだろ?」 「はい。それ位…隼人の婚姻に関しては…厳重に…していて、外には漏らしていません…なのに…」 神野は憔悴していた 「ローランド…が、ダラダラと事務所で見聞きした事をさも偉そうに垂れ流しているんだよ! アイツ…売れてるから、錯覚してんじゃねぇのか? 守秘義務が守れねぇ様な奴は、切るしかねぇ… 神野、解雇処分しろ!」 「え?ローランドが、ですか?」 「デビューさせた頃は、虐めにあい見返してやる為に必死に働いた… でも今は…人気が有るから、何やっても許されると勘違いしてるんだよ… アイツら道を違えた! 世界を変えろとは言ったが…変わりすぎて… 回りが見えねぇ馬鹿になるとはな… 本人に問い質す!呼べ!」 「解りました…本人を呼び出します!」 「先手を打つ! 隼人は絶対に潰させない!」 「宜しくお願いします…」 「神野、ローランドを呼ぶまで、蒼太の所にいる! ローランドが来たら呼びに来い!」 「体調は!どうなんですか?」 神野は…康太に聞いた 「飛鳥井の真贋は毒を食らう… その毒が、新陳代謝を早めた事によって… 浸透して…内臓の組織を破壊して言っていた… 危うく…死ぬ所だったが、何とかとりとめた まだ本調子じゃねぇがな…」 そんな状態の康太を呼び寄せた‥‥ 神野は深々と頭を下げた 康太はソファーから立ち上がると、事務所を出た エレベーターに乗り、矢野のアトリエへと向かった 呼び鈴を押すと…蒼太が出迎えてくれた 「康太……体はどうなんですか!」 「死にかけたが…何とか…な。 それより、喧嘩してたって?」 蒼太は、バツの悪い顔をした 「隼人の仕事を疎かにしたくない宙夢と、ネットの通販が起動に乗ったから、そっちに力を入れたい、お前! オレは言った筈だ! 隼人の仕事を疎かにするなら、追い込むと! しかも一条隼人の名を無断で使った違法な商売に手を出しがって‥‥ 泣きついて来たとしても、オレは動く気はねぇ! てめぇのケツはてめぇで拭きやがれ!」 康太はそれだけ言うと、背を向けた 「言い訳は聞かねぇ! 飛鳥井へ来るな!」 康太は神野が呼びに来て外に出た 神野が乗って来たエレベーターが開きっぱなしで止まってたから、康太は乗り込んだ 事務所に行くと、ローランドがソファーに座っていた 康太はローランドの前のソファーに座ると、ニャッと笑った 「久し振りだなローランド。」 ローランドは、軽く頭を下げただけだった 康太はローランドに単刀直入に問い掛けた 「隼人の婚姻はお前がリークしたんだろ?」 「言い掛かりは止して下さい! 証拠は有るんですか? 証拠を出してください!」 康太は榊原に手を出した すると榊原は康太のスマホを渡した 康太はスマホを手にすると、何処かへ電話を入れた 「飛鳥井康太です。 頼んでおいたの出来ましたか?」 康太が誰かと喋っていた 「バイク便で送って下さい!頼みます 本当に今枝は仕事が早いですね! このお礼は倍返しで返しますので、待ってて下さい! 独占インタビューでも何でも受けますよ! 今、飛鳥井は企業改革の真っ只中だ! 取材をしたいなら、オレに言って下さい お礼は必ずしますから!本当に助かりました。 その前に…一条隼人の単独インタビューを入れときます 月曜は卒業式ですので、その時に逢いまし ょう!では!」 電話を切ると…康太の唇の端は瓜を描いて笑っていた 「神野、出版社に持ち込んだ映像が有るんだよ! その証拠をバイク便で運んでくれるってさ! その時の…会話は総て録画されているって事だからな、証拠はバッチしって事だ!」 康太は足を組んで…出されたケーキと紅茶を味わっていた 神野は相変わらずの手際の良さに感心していた 飛鳥井康太は証拠が出なくば動かない その彼が事務所に来て、本人を呼び出せと謂う事は、総てを用意したも同然だと謂う事なのだ 「神野、この程度のタレントなら、またオレが見付けて来てやる! 本当にこんな莫迦なタレントを押し付けて、すまなかった お詫びに…隼人のレコーディングに入ってやるよ」 「えっ!本当ですか?」 「但し、オレの名は…入れるなよ! 絶対にだ!」 「解ってます、貴方は飛鳥井家の真贋…ですから」 「神野、隼人の婚姻の事実は公に出す! 隼人と奈々子との日々を一生達に録画させてある。 そして、亡骸に抱き着いて…泣く隼人も…。 雪に埋もれて死にそうになる、隼人も…総て撮影してある! それをドキュメント枠を入れて流す そして、記者会見をする! 今度はオレとお前等と隼人だけで充分だろ? 隠すから…困るわけで…隠さなきゃ…良い それで、仕事が減るなら、それまでた! オレの下で働かせる…賭けだな…」 「異存は有りません! 貴方の想いのままに…俺は貴方に従います」 神野も腹を決めていた バイク便が事務所に荷物を運んで来る頃には…ローランドは、顔色をなくしていた ローランドのいる前で…証拠の映像を再生する そこにはバッチリ…ローランドが映っていた 映像はローランドがバーに入って来る時から映し出されていた 『キャー!ローランドよぉ!』 女性や客の羨望と奇声とざわめきの中、ローランドはバーのカウンターに座る 御近づきになりたい女性がローランドを取り巻く 褒め称えられ、ローランドは得意気に話し出した 最初はたわいもない会話から… お酒を進められ飲んでいるうちに…酔って…調子に乗って…事務所で聞き知った隼人の実態を話していた ちやほやされて気分を良くして…ベラベラ話す… 小銭の欲しい女は録画して…マスコミに売ったのだ… 「神野…未成年が…酒、煙草は…問題外だろ? 即解雇だな! 違約金を取る所だが…未成年の喫煙、禁酒…があるかんな…厄介だ!解雇しろ!」 「解りました!直ぐに解雇致します」 「明日の昼に…隼人の映像を流せ!」 「はい!一生に連絡を取り手筈を整えます!」 神野が立ち上がろうとすると、ドアが開いた ドアの向こうから…小鳥遊と笙が立っていた 仕事から帰って来て、外に榊原の車を見付けて…来たのだと言う 笙は、ドアを開け…康太の顔付きが違って……戸惑っていた 小鳥遊も…平伏す神野に…タイミングが計れず…立ち尽くしていた 康太はドアの方へ…視線を向けた 「笙、仕事帰りか?」と問い掛けた 「何か有ったの?」 笙は、思わず聞いた… 朝、弟の伊織に甘えていた顔は…険しさに変わり…甘い雰囲気はなくなっていた 康太の生きている世界の厳しさを…思い知る… 「そこの神野は…死にかけたオレをコキ使いやがるんだ! 卒業式の練習してたのによぉ! 呼びやがるんだぜ!」 康太が言うと……神野は頭を下げた 「すみません…本当に世話をかけます…」 謝られれば…文句も言えず…ため息をついた 「身の程を弁えないバカが、ちやほや持て囃されて、己が未成年だと謂う事すら忘れて酒に煙草に…事務所の極秘をベラベラ喋ったんだよ!」 康太が言うと、笙は 「それは御法度でしょう! 芸能界の暗黙のルールでしょ! 事務所を売った奴なんて、他の事務所は絶対に使わない! 況してや康太の子を傷つけるならば! 僕が使えるコネは総て使って…邪魔をしてやる! 二度と芸能界には入れると思うな!」 と脅した その時…三木から電話がかかり、康太は手を出した 「三木か。あんだよ?」 康太は苦虫を噛み潰した様な顔をした 「嫌だよ!オレは死にかけたんだ! あんまし動くと、オレの亭主は煩いんだよ! やだよ…オレは今他事に忙しい…濱田と会食なんてしたくもねぇよ! 今、制服なんだぜ…お前スーツ買ってくれるのかよ? だからぁ…あぁ。もういい。行くよ。 なら、リムジンを飛鳥井に向かわせろ!」 電話を切ると、溜め息を着いた スマホを榊原に渡すと…帰る!と告げた 「神野、お呼びがかかった! スーツを買えって言ったら、何十着だって買ってやるさ…だってよ! お前はオレの…パトロンかよ…って言ってやりてぇけど、止めとく…。 前総理が、お目通り願います…だってさ。 行かねぇと三木がうるせぇかんな、行くわ!」 康太がボヤくと、神野が 「三木って、三木繁雄…ですか?」 と問い質す 「知り合いか?」 「いいえ。滅相もない。」 「明日は日曜だ!家に朝から来い! なら、オレは帰るわ! 伊織、スーツ着せてくれ!」 「解ってます! では、神野、小鳥遊、また。 兄さん、隼人を飛鳥井の家に連れて帰ってくれますか? 僕達は支度をして出ないといけません! なんなら、神野も小鳥遊も兄さんも飛鳥井に泊まりなさい! そしたら、朝早く話が出来ますよ! では失礼します!」 榊原は、隼人を抱き締め、笙に連れ帰って貰うように言うと、康太を急かした 康太が外に出ると…蒼太がいた 康太は無視して…車に乗り込んだ 榊原は、良いんですか?と聞いて、構うな!と言われ車を出した 飛鳥井の家に走ると駐車場に車を停め、家の中に入った 入って直ぐ三階の自室に直行する クローゼットの中から、新しく作ったスーツを取り出し、康太に着せた 榊原も、揃いのスーツを着ると胸ポケットにクレジットカードの入った財布を入れた そしてコートを着せて、寝室を出た 寝室に鍵をかけ、一階に降り、駐車場に出ると、神野が車を停める所だった 神野は小鳥遊と一緒に、笙と隼人を連れて来ていた 飛鳥井の家の前に…リムジンが停まると 運転手が降りて…深々と頭を下げた 「飛鳥井康太様と、御伴侶の榊原伊織様ですね。お迎えに伺いました!」 ドアを開けられ…乗り込む 康太は、他は見なかった 榊原は、兄の笙に頭を下げると…リムジンに乗り込んだ 笙は……弟の…役割の大変さを目の当たりにした 飛鳥井の家 真贋…飛鳥井康太… 彼の生きざまは…果てしなく…重責なのかも知れない 財界、政界、芸能界…その力を…借りたいと思う人間は…後を経たない 神野は「飛鳥井家真贋の見る果てが…その重責を担う、こうして見ると近寄り難いな‥‥康太は‥‥」と呟いた 笙は「伊織の…飛鳥井での立場は…誰よりも重いんですね…」と想いを溢した… 小鳥遊は「飛鳥井康太を支えるのは…君の弟ですからね。 誰よりも最前線で…その命を懸けて…愛する者を守る… 変わりはいませんからね…二人とも…重いです…」と刹那く呟いた 隼人は「康太も、伊織も…そんなん重々承知して生きてんだ! オレ様は康太と伊織と共に逝く…! 我等は共に在る!」と言い切った そこへ、瑛太のベンツが帰って来て隼人は駆け寄った 「瑛太!お帰りなのだ!」 隼人に抱き着かれ、瑛太は笑ってその体を抱き締めてやった 「今の…リムジンは、康太が?」 瑛太が聞くと隼人が「そうだ。」と答えた 「そうですか…。病み上がりなのに…」 と瑛太は…心配して呟いた リムジンは、政治家御用達の料亭の玄関前に停まった 料亭の中から女将が迎えにやって来た 「御待ちしておりました。さぁどうぞ!」 案内され…通された部屋の襖を開けると、三木と前総理の濱田政親が座っていた 康太は座椅子に座ると…胡座をかいた 「用件を早く言え!オレは忙しいんだ!」 「貴方には見えてるのてはないのですか?」 「昨夜までオレは死にかけていた! 瀕死の縁にいて見える程…オレは凄くねぇ… まぁ、弥勒と紫雲がオレを死なせなかったから、生きてんだがな…」 「そうでしたか…。 知らぬとは言え…お許し下さい! で、体調はどうなんですか?」 「身体中に…毒が回って…その命を…終わらせるところだったが…まだ死ぬなと…繋ぎ止められた…。 まぁ体調は…良くねぇな…死にかけたからな、ダメージがまだある…」 「そんな時に…大変申し訳有りませんでした」 濱田は深々と頭を下げた 「お前が聞きたい事は………選挙の事だろ? ハッキリ言ってやる…お前は、落選する!」 「え!」 康太は…濱田を見据えて言葉にした 「………それ程…現実は厳しいと…と?」 「違う…お前も兵藤も、国民を見ていねぇからだろ!国民は敏感なんだよ! 国民が、お前等政治家を見放した…と言うのが現状だろ? 現総理の安曇勝也の向いてる視線を追えば、己の足りねぇ部分は解る筈だぜ? お前達は国民の為の政策や雇用対策だと絵図ばかり掲げて…その実…何一つ国民の期待に沿ってはいない! 国民を置き去りにすれば…人は離れる! 同じ事を、オレは兵藤貴史にも言ったぜ!」 濱田は、押し黙った… そして、康太に…土下座した 「何とか…当選する手立ては…ないのですか?」 「なくはねぇ…でも、それがおめぇに出来るか…。 プライドも自尊心も総てかなぐり捨てて…出来る覚悟がねぇと…お前は負け犬のままだ!」 真髄を突かれ…濱田は…康太を見据えた 「覚悟が…有れば…勝てると?」 「総てはお前次第だ…オレは無理難題を言う 飲むのはお前次第だ…と言う事だ!」 康太は目の前のお茶を飲んだ 「濱田、お前の見ている世界を変えろ! お前は今、高みの見物してんだよ! 高い所から、見ていたって何が解るんだよ? 今の日本は、不景気な就職難が続いてんだぜれ! 景気が底冷えして、給料は上がらずで、色んなモノは値上げの一途を辿ってる…! 消費税も上がり、キャッシュレスを日常に取り込もうとしてるが、年よりは置いてきぼりだ サラリーマンの小遣いが幾らか知ってるか? ワーキングプアと言われる人の給料が幾らか知ってるか? パートに出てる主婦の時給は幾らか知ってるか? 最低賃金すら廃止する…と言う動きも出てる中、庶民に目を向けねぇ議員は落ちる 若者が、選挙に行かねぇのは何故か解るか? 将来に夢なんて感じねぇからだろ? そうさせたのは、お前等、政治家じゃねぇのかよ? そんな庶民に目を向けねぇ奴なんて…次の選挙は生き残れねぇよ!」 総て…現実だった! 飛鳥井康太の瞳は…その社会の…総てを映しているかのように…現実を喋っていた 「20代のホームレスが増えてるのを知ってるか? 人間関係が気臼になって…それと同様に…家族関係も気臼になっている… 親からも…社会からもはみ出た人間が…仕事もせずにホームレスと化している… お前等政治家は、どう言った救済をするんだ? 好きでそうなってる訳じゃねぇんだぜ! お前等政治家が、作ったんだよ!それが現実だ! 目を向けろ…濱田! お前の瞳に…それを捉えろ! それには…詭弁を言ってるだけでは…ダメだな… 現実を知るには…そこへ行け 知りたいなら、自分の目で確かめろ! 秘書が集めた資料をさも知ったかぶりで話すから、お前等政治家の言葉は薄っぺらいものに成り下がるんだ!」 手厳しい…一撃だった 濱田は…肩を落とし…項垂れた 三木が慌てて「康太、叔父貴を助けてはくれねぇか?」と取り成した 「三木、オレは今、何を言った? 助けて当選したとしても長くは続きはしねぇ! 自分の手で勝ち取らねぇとな! その為に今動くか…、動かねぇでいるか…で道は別れる! どの道を行くかは、本人が決めて動いて勝ち取るしかねぇと、オレは言っている!」 「………どの道を選んでも……修羅の道ならば…私は…この手で掴み取るしか…道はない! 片道切符…しかないのならば!行くしかなかろう!」 濱田は…決意を…決めた! 「濱田、これからオレと街をドライブしねぇか?」 「ドライブ?」 「そう。飛鳥井から車を呼ぶ! そんなリムジンじゃ…現実は見えねぇよ! 伊織、力哉と慎一を呼べ!」 言われ榊原は、力哉に電話をいれた 「三木、濱田に変装させろ! リストラでもされたヨレヨレのスーツ着た親父の格好をさせろ!」 「あいよ!叔父貴の秘書に持って来させるな!」 三木は康太の指示で動いた 準備が整うまで、康太は飯を食わせろ!と催促した 「飯を食わせろ! オレは他の所用で動いてて夕飯も食ってねぇんだよ!三木!」 文句を言いつつ三木を呼ぶ 三木は「何だよ?」と康太に問い掛けた 「プリンも食いたい…」 「はいはい。頼んで来るがな!」 三木は立ち上がって注文に行った 暫くしてお膳が運ばれ、康太と榊原の前に置かれた プリンが乗ったお膳は、康太の前に置かれた 榊原は、康太のお膳の食べ物を食べやすく…してやったり、世話を焼いてから、自分も食事を始めた 食事中に…力哉が慎一を伴いやって来た 力哉と慎一の前にもお膳が運ばれ置かれた 「え…何故?」慎一が呟く… 力哉も「僕は良いです…」と遠慮した 康太は二人に「食っとけ!味は良いぞ!沢庵がねぇのが…気に食わねぇがな」と食事を取る様に進めた 濱田の秘書が安物のスーツを持ってやって来た 康太はそのスーツを手にすると、くしゃくしゃにした 「糊がきいたスーツじゃ意味がねぇんだよ」 康太はそう言うと濱田の髪の毛もグシャグシャに掻き乱した 乱れた髪を手櫛で適当に整える 康太は「このスーツに着替えろ」とシワシワのスーツを手渡した 濱田の着替えが終わる頃 力哉と慎一が、食事を終えるていた 総てが整うと康太は立ち上がった 康太はその間、榊原にタブレットを出してもらい、ドライブコースの道順を立て、力哉の車のナビに送った 「力哉、ドライブに行くぜ! 走る場所はナビに送っといた! 濱田、秘書や護衛は邪魔だ! 連れてくるな!」 康太が言うと秘書は、なっ!と驚愕の瞳で康太を見た 「先生に何かあれば、貴方は責任が取れるのですか?」と食って掛かる 「責任?何故取らねばならぬ! 本人の意思に任せた! 本人が決めたんだろ? オレがやれと言った訳じゃねぇ!違うか?」 康太は不敵に嗤い、秘書を見据えた 濱田は総理経験者然とした風貌でなく 萎れた背広に袖を通し、冴えない眼鏡をし、髪を乱している姿に苦悩が伺えれる程になっていた 「私がやると言った! お前が口を挟むな!」 濱田は秘書を叱った 「支度が出来たみてぇだからな、行くとするか!」 康太が立ち上がると、榊原も力哉も慎一も立ち上がった 三木が康太の肩に手をかける 「悪かったな…体調悪いのにな…」 「お前は…昔から…オレを酷使するからな…」 「労ってやってるだろ? お前がスーツを欲しいなら…何十着だって買ってやるさ! 買えるものなら買ってやるって言ってるだろ?」 三木は肩を竦めた 「おめぇは、オレのパトロンかよ!ったくもぉ!」 「パパ、スーツ買ってぇ!ってそのお口で言ってみろよ! 明日には送ってやっからよぉ」 「三木、スーツは、貢いでくれるパパが沢山いんだよ! 若旦那にも作って貰った! 出来上がるのを待つだけだし、亭主の父親にも貰ったし、瑛兄にも貰った オレはスーツより、ゲームが良いのによぉ!」 「なら、モンハン、新作出たら飛鳥井へ持っていってやるよ!」 「ホントかよ!なら許してやる!」 「交渉成立と言う事で、さくさく働きやがれ康太!と、言っとかねぇとな」 三木は笑った 「しかし…おめぇの亭主は…男前だなぁ… 本当、おめぇは面食いだな…」 「そうか?三木も負けてねぇぜ?」 「…俺は愛する人間を…手離した時点で…負けてっから、比較すんな!」 「貴史と…一緒だな…。 この先…アイツは…美しい…見た目の良い女と結婚し子供を作る…。 そして、政治家として生きて行く…」 三木は頭の中に兵藤貴史を思い浮かべた 「……あぁ…アイツも…… 政治家の定めだな…俺は政治家でいる事を選んだからな… さてと、さくさく働きやがれ…!」 「やっぱ、コキ使うのかよ…」 康太はスタスタと駐車場へと向かった そして……天を仰ぎ見て、星を見た 駐車場に行き、力哉の車の後部座席に、三木と濱田、康太と榊原が乗り込んだ 慎一は助手席に乗り込んだ 力哉は康太から送られた指示通りに車を走らせた 横浜にある…どや街へ走っていく 昼と様変わりした街が、そこに在った 萎びれたスーツを着た濱田は…車から降りた その後ろを慎一が、護衛に着く 濱田は…見た事もない世界があった… 路上に寝る…人間がいた… 高齢者が…家もなく…外で寝ていた… 若かりし頃は…働いて…この国を支えていた …人間達ばかりに…若者も…混じっていた その日…生きていくのに必死で…切実な姿がそこに在った… 慎一は…冬の寒さに…堪えきれぬ者は…死にます…と濱田に話した 保険証もないから…病院に運ばれる頃には手遅れになってる人が多い……僕は…此処で…寝てる時が有りました… 近くに寝ている人が…朝には冷たくなって…死んでいた… そんな事が…此処では…当たり前の様に有りました 慎一の口から告げられる…想像を越える…… 現実が…在った 「君は…此処にいた事があるのかい?」 「はい。施設を飛び出して…行く所がなく…少年院に入れられるまで…此処にいました」 「路上で…寝たのかい?」 「はい。段ボールを拾って来て、風避けにするんですがね…冬は…本当に寒くて…地獄でした…」 「…………何故?働かない? 働けば…何とかなるだろ?」 「アパートを借りようにも、保証人がいないと部屋は借りられません…。 そもそも、俺は両親を亡くし施設に入ったので…親がいないんですよ! 大人に騙されて……知らないうちに犯罪に手を染め…少年院送りになりました そんな人間はいくら願ったとしても…仕事も…住む所も…手に入らない… 犯罪に走るしか…住む場所は…掴めない… そんな人間もいるんです!」 慎一の言葉は…重かった… 「何も知らない大人は言います! 『お前、そんなに若いのに…ホームレスかよ! 働けば…こんな生活から脱出出来るのに!』 って! でも現実はそんなに甘くは無いんですよ! この世には親さえいない子供だっているんです! そんな子供は…アパート1つ借りられない! 大人は言います! 『社宅だってあるでしょ?』って!社宅の在るような会社は…身元の保証人がいない人間なんて、使いません!」 これが…現実なのか… こんな……苦しい…想いをしている人間が…いるのか? 決して…特別…とかじゃなくて…埋もれている人間の叫びだった 康太が何故…慎一を呼んだのか…濱田はやっと解った 一通り見て、車に戻って来ると、今度は繁華街へと向かった 繁華街外れの…ガード下の屋台に…慎一が、濱田を連れていけ…と、言われた 「濱田、お前はリストラされた親父! 慎一、お前は息子で、親父家に帰ろ…と宥めて…背中でも撫でとけ…。 濱田…おめぇは、泣いて酒でも飲んでろ! さっ!行って来い!」 康太が言うと…濱田と慎一は、屋台の方へと向かった 少し酔っ払ったフリをして、濱田は歩いた… そして、屋台に座ると… 「親父!酒をくれ!」と注文した 慎一が「親父!何件目だと思ってるんだよ!帰らねぇと…ダメだろ…」と演技をした 「帰っても仕事もねぇ! クビになったじゃねぇかよ!」 濱田も迫真の演技を見せ…酒をかっ食らった 「そうやって酒に頼るなよ! 仕事を探せよ親父!」 慎一が、言うと屋台に座ってた連中が 「ボーズ、仕事を失うってのはな!せつねぇんだよ!」 とか 「世の中が悪いんだよ!」 とか 「政治家ばかり…良い目をして、庶民の暮らしなんて無視じゃねぇかよ!」 と口々に…愚痴を溢した 噴き上げた…愚痴は…止まることを知らない リストラされた…人達は…どうやって…明日を過ごしているのか… 考えるだけで…怖い… これが現実だと言うのか… フラフラになりながら…濱田は…車に戻って来た… そして、座席に座ると…濱田は…泣き出した 止めどなく涙が溢れ…止まらなかった 「濱田、お前が目にしたのはな…世間に弾かれた一部だ… 一部だがな、その一部の力が合わさると…世界を変えるだけのパワーを秘めてるぜ… そんな奴等の声も拾ってこそ、政治は成り立つ! 政治は人の暮らしの上に立つ事を忘れるな!」 「はい。忘れません… 街頭演説をして、町の人と触れ合ってみようと思います!」 「そうか。なら、歩く人と同じ目線になって声をかけて話しかけるんだ…演説は…それからだ!」 「はい。心掛けてみます」 「と、言う事で…お前が秘書に持参させて来た金は持って帰れ!」 「え!……何故ですか?」 「オレはアドバイスをしただけだ! 当選するか落選するかは…お前次第だ オレが導き出す事じゃねぇ… 勝利はな、自分の手で掴むもんだろ? 人に頼って用意してもらうもんじゃねぇ オレに金を払うってくれると言うのなら、当選した暁に…政策について…どうなるか見て下さいって言われたら…貰うとする!」 康太の言葉が…身に染みて…来た 敷かれた線路を走り続ける… そんな誰かに総てを用意され…走り続けた政治家だった 本気で…走って来た事は…有ったのか? 死に物狂い…で、闘った事は…有ったのか? 「濱田、最後にデカイ花火を打ち上げろよ! お前の政治生命もそんなに長くはねぇからな、此処で…軌跡作っとけ!」 濱田は…深々と頭を下げた 「力哉、料亭で三木と濱田を下ろしてやれ 三木、それで良いか?」 「あぁ。今夜は助かった!」 「また、オレを飯に連れて行け! それで許してやるよ! お前との仲も…長げぇからよぉ!」 「なら、旨い店を捜しとく! この前連れてったラーメン屋、美味くなかったか?」 「あぁ、あれは美味かったな!」 「また捜しとくよ 後2年したら、お前と居酒屋にも行けるしな、楽しみが増える」 「酒豪の飛鳥井を誘えば…財布は空で後悔するってのが、定番だぜ三木!」 「お前に貢ぐなら…幾ら使っても惜しくはないさ!」 三木と康太は楽しく会話していた 三木の…康太への絶対の信頼は…見ていて…感じ取れていた 榊原は、言葉を挟む事なく…康太の側にいた この男は…こう言う気配りが容易に出来る男だった 力哉は料亭の駐車場に車を止めると、康太に 「料亭に到着しました!」と声をかけた 三木と濱田は、康太と榊原に礼と別れを言い、車から降りていった 康太は榊原の胸ポケットから適当にスマホを、取ると一生に電話を入れた 「あ、一生? 飛鳥井に帰るから沢庵、用意しといて! 頼む…沢庵食いてぇ…」と言うと、スマホを榊原に、渡した 「一生…すみませんね。 懐石料理…は、食べたんですがね…沢庵がないのが…気に入らなかったみたいで…。」 電話の向こうの一生は、絶句した 『旦那…懐石料理に沢庵は不可能でっしゃろ?』 「でも、欲しがるのが…康太ですからね…」 『まぁな…用意しとくよ! 飛鳥井には、神野達や旦那の兄が来てるぜ!』 「知ってます。後、プリンも宜しくお願いします!」 『了解!旦那は欲しいのはねぇのかよ?』 「僕は珈琲をお願いします!」 一生は、了解と電話を切った 榊原はスマホを胸ポケットにしまい、康太に話し掛けた 「ねっ…康太…三木の手離した…相手って…」 康太ですか?と、聞こうとしたら 「………俺じゃねぇぜ…。」と返された 「三木は…政治家になる為に…切った人間がいる それは……兵藤鳴海… 兵藤の本宅に行った時に逢ったろ伊織も? あの一癖も二癖もある綺麗な男だ… あの男に、三木はベタ惚れだった…… 離れたくは…なかった…! 手すら出せねぇ程に…惚れてるんだからな! 鳴海が手にはいるなら…三木は総てを投げ出して…共に…行ったかも知れねぇ… だがな、三木は生まれる前から政治家になるのは…決まっていた…定めだ …政治家になる為に……アイツは距離を置いた…。 そして、一生…友として…生きて行く…道を決めた…! 鳴海も…それが解ってるから…友として…絶対の存在になる事を決めた… オレは…そんな二人を…ずっと見てきたんだ…」 まるで…今の…兵藤貴史の様ではないか… 康太を愛し……愛するのは生涯…唯一人…お前だけ…と、言いながら…政治家として…兵藤は生きて行く…… 切れないならば…一生友として…生きて行く… それじゃぁ…まるで、兵藤貴史ではないか… だから、三木が…『あぁ…アイツも…』と、言葉にしたのか…? 榊原は、康太を抱き締めた 「君を…誰にも…渡したりは…しません」 榊原は、刹那くて…康太の胸に顔を埋めた 「あたりめぇだろ? 渡されたら…オレは死ぬ…」 康太の指が…優しく…愛する男の髪を撫でた

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