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第76話 問題多発 後半戦
慎一が…天宮東青が訪問したと告げ、康太は起こされた
午後5時の事だった
康太は起きるなり、恵太と栗田を呼んでくれ…と頼んだ
榊原は、栗田に恵太を連れて飛鳥井へ直ぐに来るように告げた
電話を切ると、康太に服を着せ、一階の応接間に康太を連れていった
「東青、手間かけたな…」
と康太が言うと天宮は頭を下げた
「体調がお悪いとか…大丈夫なのですか?」
天宮が心配して…声をかける
「飛鳥井の悪習で…毒を食らうだろ?
オレは人の倍…新陳代謝が良いらしくて…毒が…内臓まで浸透して…今解毒してる所だ…」
天宮は言葉もなかった
「紫雲龍騎と弥勒が体内の解毒はしてくれたけどな、内臓に浸透してるのまでは解毒しきれねぇからな…無理しないようにしてんだよ!」
天宮は用件を言う事にした
「貴方から依頼されました件です総てカタが着きました!」
「悪かったな…飛鳥井の事じゃねぇのに頼んで…。
向こうは手離したい意向でだったけどな…
法的にしとかねぇとな…後で返せとか…は勘弁だからな!」
「はい。解っております!」
「恵美は?何処にいる?」
「息子の東真が車の中で見ています…
飛鳥井へはお入れは出来ません…してはなりませんよね!」
「あぁ!入れれは…オレの子が…負けるかも知れねぇからな…。
入れて欲しくはねぇな」
「ですから、車の中におります!
恵太さんは?」
「来るだろ?
余分なもんも一緒に来るみてぇだけどな!
慎一、蒼太と矢野、一生と聡一郎が兵藤貴史と美緒を引き連れてやって来る!
恵太と栗田が来て、重なって…神野が小鳥遊と隼人と…今枝浩二を引き連れてやって来る…
一挙に大挙して…揉め事がやって来るぜ!お茶の用意をしとけ!」
康太に言われ慎一は「はい!」と立ち上がった
そこへインターフォンが鳴って、慎一は直接玄関のドアを開けた
玄関を開けると、康太の言う人間が立っていた
慎一はスリッパを出し、応接間に通してからお茶を入れにいった
キッチンへ向かいお茶を淹れる
榊原は全員をソファーに座らせた
「今枝、久し振りだな…。
少し待ってくれ…
飛鳥井は問題が山積してる…
それを片付けるから…暫し見ててくれ…
写真を撮りたいなら撮れ…構わねぇからな」
「お久し振りです…。
顔色が悪い…神野さんから…死にかけていた…と、お聞きしました…
大丈夫なのですか?」
「死にかけたのは事実だ…
飛鳥井は真贋を亡くさない為に毒を食らわす
だが、その毒が…長い年月をかけて…体内に浸透し……蝕む…。
オレは新陳代謝が人の倍…早いらしいからな
…その毒に…体内を蝕まれてる…
今、治療の最中だ…これが飛鳥井家真贋…飛鳥井康太の生き様だ…仕方がねぇ…」
今枝は、後はなにも言わずに…押し黙った
康太は「恵太と栗田からだ…こっちに来い…」と告げた
恵太と栗田は、康太の前に座った
「お前の家に一部屋空いている部屋があるだろ?
あれはな、恵太、お前の子供を引き取ってやるつもりで…開けておいた」
恵太は、えっ?……と、驚愕の瞳で…康太を見た
康太は辛そうな顔をしていた
「天宮…頼む…」
康太が言うと、天宮が恵太に説明をした
恵太さえ同意するなら、恵美は恵太の戸籍に入れれると言われた
恵太が引き取らない場合は…進藤に渡すつもりで引き取った
「恵美と…暮らせるのですか…」
離れて暮らしていても…我が子に変わりはない…
恵太は…想わず涙をこぼした
康太は「栗田…異存はねぇか?」と問い質すと…
「異存など有りません!」と答えた
天宮は「恵美さんは今、我が息子が車の中で面倒を見ています。
飛鳥井の血筋の子ですので…今は…飛鳥井へは入れられません…。
それだけは、ご了承下さい」と説明をした
「可奈子の二人目の子供は恵太の子供じゃねぇだろ?
だから恵美は引き取る権利はあるかんな!
恵太、ちゃんと育てろ…お前の子供だ!」
恵太は康太に深々と頭を下げた
「恵兄…悪い…蒼太と話が…っ…伊織!」
康太は、榊原の名を呼んだ
榊原が慌てて…康太を抱き締めると…
グッ…ハッ…!!!と嘔吐を吐き出すかのように
康太は………… 血を吐いた…
「伊織…伊織…」
血だらけになりながらも…康太は榊原の名を呼んだ
慎一が瑛太を呼びに行き、慌てて瑛太が飛んできた
「康太!大丈夫ですか!」
瑛太は、主治医の所へ電話を入れた
今康太が血を吐いた…と告げると…主治医は
「今直ぐ連れて来い!」と怒鳴った
「伊織…ごめん…」
榊原は泣きながら…康太を抱き締め…
「謝らないで…良いですよ…」と声をかけた
今枝は…飛鳥井家の真贋の…今の写真を撮った
瑛太は非常識に!と怒ったが…
「瑛兄、オレが撮れと言った…今枝は仕事をしてる…邪魔するな…」と言った
瑛太は榊原に康太を車に運んでください!と頼んだ
兵藤美緒は…着ていたショールを康太にかけた
「無茶して…バカな子じゃ…」
と泣きながら…榊原に抱き上げられた康太にショールをかけた
榊原が玄関へ向かう
一生と慎一が康太を追いかけた
「一生……慎一…戻るまで頼む…」
「解ってるよ!無理しやがって!」
一生が涙を堪えられずに叫んだ
「貴方が… 戻られるまでに進められらものは進めときます…だから!!」
慎一が…悔しそうに…呟き…泣いた
榊原は、康太を抱き締め瑛太の車の後部座席に乗り込んだ
瑛太は…主治医の病院に向けて走った
慎一は、応接間に戻ると…掃除を始めた
「皆さん…少し掃除をさせて下さい!
主が戻る時には、痕跡を残したくはないのです!すみません!
サンルームの方へ移って下さい」
天宮は書類を抱え…動いた
恵太と栗田も動き、蒼太と宙夢も動いた
神野と小鳥遊は慎一に言われ動き、今枝は…会社に帰っていった
兵藤美緒と貴史も動き…慎一と一生、聡一郎、隼人は、手分けして掃除を始めた
この徹底した…動きは…康太がいなくても変わることはなかった
綺麗に床を拭き…染みを抜く
ソファーの染みも抜き…徹底した掃除をしていた
そして、何時もと変わらぬ応接間になると
一生はサンルームに動かした人間をソファーに座らせた
そこへ、一生が皆の前に新しく入れた茶托を置いた
その横に聡一郎が茶菓子を置き…
康太が…座る席には誰も座らず…皆が席に着いた
一生が「天宮さん、恵太さんに書類にサインをもらって書類を作成して下さい!」と告げる
天宮が恵太の前に書類を置いた
そして、説明し書類にサインをして行く
総ての書類を整えると…天宮が恵太に
「恵美さんを迎えに来てください」
と告げ、恵太は栗田と飛鳥井の家を出て行った
一生は、蒼太と矢野を睨み付けていた
一生だけてはない…
慎一も聡一郎も隼人も…兵藤貴史も…
許せない瞳を…蒼太と矢野に向けた
一生は「飛鳥井蒼太、神野と小鳥遊もいるので説明願います!」
と詰問を投げ掛けた
「貴方は一条隼人の…専属を承知したのではないのですか?
専属になるって、どんな事か知ってますか?
総ての権利が事務所に帰属される!
一条隼人の名を無断で語れば…事務所側から、横領、営業妨害で訴えられますよ?
解らなかったのですか?
矢野宙夢が作ったデザインでも、一条隼人が着けている限り…それは事務所の帰属だ!
勝手にそれを語れば…営業妨害…人に売れば…詐欺だ!
それが解らぬ…バカだとは…思いたくもねぇけど…現実は無知なバカじゃねぇのかよ!」
一生はテーブルを叩き、怒りを露にした
聡一郎も「飛鳥井康太が血を吐き守る飛鳥井を…貴方達が…汚すのは許さない!
康太は…明日の飛鳥井を築く為に動いている!なのに!
何故!その名を貶めようとする!
飛鳥井の為にならぬのなら、名を捨てろ!
飛鳥井を名乗るのは許さない!
死にかけた康太がどんな想いで…僕達を動かしたか解りますか?
貴方達は康太に甘えるばかりで…康太の想いには応えてはいない…
貰うばかりで…康太の想いも解らぬのなら…もう二度と康太の前に顔を出さないで下さい!」と叫んだ
慎一は「我が主は…明日の命も解らぬのに…その歩みを…止めない…
俺は、主の与えてくれた…
今があるから、生きています…。
世の中は…苦しい事ばかりで…施設を飛び出て…中学生でホームレスになりました…
ホームレスになっても…俺は施設には戻りたくなかった…
無知な子供は…人に騙され…少年院に入れられた…
惚れた女一人幸せにも出来ず…この世で唯一の血を分けし子供も手離したい…
犯罪スレスレの日々を送り…落ちて行くのは…一瞬でした…。
統べてなくして…自暴自棄になってる俺に…主は…無償の愛を与えてくれた…
手離した…我が子も…
一度も味わった事のない学園生活も…与えてくれた…
返そうにも返しきれない恩が…主にはあるます
だが主は…恩は返すもんじゃねぇ!
見返りを求めて…動けば相手は足元を見る…
オレは恩なんて受け取らねぇよ…
それでも返すと言うのなら…お前が誰よりも幸せになれ…と言って下さいました…
そんな台詞を吐けるのは…飛鳥井康太、我が主しかいません!
主を苦しめる…総てを排除してやりたい…
主を!苦しめないで下さい!
…でなくば‥貴方達を許しません!」
慎一の…魂の叫びだった…
矢野は…泣き崩れ…蒼太は…自分のした罪を…噛み締めた
しーん…と静まり返った応接間に…インターフォンの音が響き渡った
慎一が慌てて涙を拭い…出ると、そこには榊 清四郎、真矢、笙の三人が立っていた
慎一は解錠して応接間に招き入れた
三人は…応接間に康太の姿と…榊原の姿がなく…一生に問い掛けた
「一生…康太と伊織は?部屋ですか?」
清四郎が問い掛けると、一生は立ち上がった
「康太が吐血して…飛鳥井の主治医の所へ行ってます…。
康太が帰って来るまで、片付けねぇといけねぇ事が山積してるので…行けません!
俺は康太に頼まれた…だから!行けねぇ!」
清四郎は……吐血…と言葉を失った
真矢は…顔を覆った…
笙は「なら、康太が帰って来るまで…問題を片付けないとね!」とソファーに座った
「一生、僕達は、康太の伴侶、榊原伊織の身内!家族も同然の存在です!
そして、僕はそこにいる飛鳥井蒼太とは旧知の友です…聞く権利はある……話して下さい!」
笙は一歩も引く気はなかった
一生は、それを感じていた…
だから、総てを話した…
飛鳥井蒼太のした事を…総て話した…
そして、聡一郎はPCを取り出し、笙に見せた
総てを見聞きした笙は、蒼太に…そこに立てと告げた
「蒼太、僕と君とは幼稚舎の頃からの付き合いですが…僕は今…神野の事務所の所属タレントです…。
そして…僕は…榊原伊織の兄として…君に物申します!そこに立ちなさい!」
蒼太は笙の前に立った
すると笙は…拳を握り…その頬に…迷う事なく…振りかざした
蒼太は…サンルームまで飛ばされ…床に崩れた
「我等、所属タレントの総ては、所属事務所に帰属される!
君は神野の事務所に多大な損害を背負わせる事となる!
況してや…飛鳥井の家を…血を吐いてまで…守ろうとした康太の想いを…君は踏みにじった!
専属は解消して、君達は康太にも飛鳥井にも世間にも見放されて勝手にやって行けば良い!
康太の行為と…想いを…見事に…踏みにじった…君は…最低です!
また、矢野宙夢、君も同罪ですよ!
恋人の舵取りも出来ぬのなら、一共に生きて逝く資格はありません!
律してこそ…保たれる秩序を…解らぬのなら…資格はない!」
笙は…友だからこそ…厳しく制裁の言葉を投げ掛けた
兵藤美緒は立ち上がった
「これからは…飛鳥井の話…我等は帰ろうか?貴史?」
「俺は康太が戻るまでいる!」
「ならば、母は帰りますよ?
飛鳥井の家の事に口は挟めぬ…
なぁ玲香…私に入ってなぞ欲しくはないわよな…」と声をかけた
何時の間にか飛鳥井玲香が応接間に入ってきて…その一部始終を見ていた
「慌ただしいから来てみれば…康太は吐血して…伊織と瑛太が義恭の所へ向かって…
原因が…蒼太か…何ともまぁ遣り切れぬわ!」
玲香は……溢した
慎一は…玲香の前に出た
「部屋へ帰られよ飛鳥井玲香!
我が主は…貴女には知らせるな…と言っていた…。
知らぬを決め込まれよ…」
「そう言う訳にはいかぬ!
我は飛鳥井家の女、飛鳥井玲香!
己の子供の…最後は見届けてやらねばな…
それより、何故!兵藤美緒まで引きずり出した!誰の指示じゃ」
兵藤美緒は「康太の指示じゃ!助けてくれ…と言われれば…何を差し置いても我は聞く…
康太のくれた無償の想いに報いる為なら…動くしかあるまい…」と玲香に言った
「美緒…話してくれ…康太は…何を頼んだのだ…?」
「我の叔父は…警視総監…!
叔父を動かし…詐欺サイトの運営グループを摘発させた…
そこの緑川一生と四宮聡一郎が、飛鳥井蒼太の一切の痕跡を消し…追撃を断つ為に動いていた…
その準備が出来次第…我は叔父を動かし…康太の戦略を完遂した…
康太が命を懸けて守る飛鳥井を…守る手助けをする!
それが、我の息子の果てに繋がるのだからな…」
「美緒…」
「我は…息子の為に…我が亭主の為に…動いた…。
飛鳥井を助ける為ではない…
康太の頼みだからな、聞かない訳にはいくまいて!
玲香…我は…自分の為に動いた…だから構うでない…」
「全く美緒は昔から…康太に甘い…
康太は我の子ぞ…遣りはせぬ…」
「貴史の嫁に…欲しかったが…伊織では勝ち目はないわ…」
美緒は高笑いをした
そして、美緒は…玲香を抱き締め…
「修羅の道を行く子を…想いはしても…
その道は…止められはせぬぞ…」と言葉を送った
玲香と美緒は…女学校時代からの友だった…
時代劇が好きで…古くさい…言葉遣いをする…数少ない…親友だった…
「解っておる…解って…おるが…
変われぬのは…この身を無くすより辛い…」
初めて……溢す…飛鳥井玲香の弱音だった
「美緒…我は…明日の飛鳥井よりも…康太が幸せで…元気でいてくれるなら…潰れても構わぬ…
我の子が…幸せで…生きているのなら…
飛鳥井など…どうでも良いと…想うのは…許されはせぬ事なのか…」
これこそが…飛鳥井玲香の本音だった
「それでもな…行かねばならぬが…世の定め…!
玲香…また歌舞伎座に行こうとしょうぞ!」
「美緒…世話になったな…落ち着いたら…海老さまを応援しょうぞ!」
と、固く約束し、兵藤美緒は…帰って行った…
康太は…榊原の胸に抱かれ…辛そうな…息を漏らしていた…
「伊織…」
魘された様に…榊原の名を呼び…康太は榊原を探す…
瑛太が「伊織はお前の横にいる…だから、もう少し…我慢しなさい…伊織がいる!お前には伊織がいるから…」叫んでいた
涙で前が…見えなくなりそうで…瑛太は涙を拭う
そして…主治医の病院へと走った
主治医の病院に車を停めると…瑛太は病院の中に走って行き…主治医を呼んできた
主治医は榊原に手術室まで、康太を連れて来い!…と告げ…院内に走っていった
手術台の上に寝かされた…康太が目を開け…主治医を見る
「明日は…卒業式だ!
オレは…止めても帰るぜ!」
康太の言い種に…主治医は飽きれ…
「帰して欲しければ大人しく処置させろ!
止血している、孔を塞ぐ…!
死にたくなければ!大人しくしてろ!
当分大人しく力を使うな!良いな!」
「解ってる…今夜で…騒ぎは少し収まる…
後は…力を使う事はあまりねぇ…
少しは大人しく…過ごす…」
「嘘臭いが…許してやるわ…絶対に無理はするな!
粘膜の強化をする…卒業式が終わったら入院しろ…無理なら午前中、治療に通え!」
「解った…オレは…伴侶を愛してる…
長生きせねば…ならぬからな…言うことを聞く」
主治医の飛鳥井義恭はため息をつき…カテーテルを送管した
胃カメラで、出血の原因を探る…
康太は…麻酔が効いて…眠りに落ちていた
だが、飛鳥井家の真贋を眠らせる量はなく…
何時目覚めるか解らぬ状況の中で…手際よく…処置をする…
康太の出欠箇所を…塞いで…感染症を防ぐ為に点滴をして…三時間ちょっの処置を受け…
康太は家へ帰る事になった
榊原は、ずっと康太の手を握り…その様を見守っていた
手術室の前の瑛太の所へ…榊原が腕に抱き上げ連れて来ると…
瑛太は…安堵の息を吐き出した
瑛太の車で…飛鳥井の家へ帰る
康太は…榊原に抱き締められ…胸に顔を埋めていた
「ごめん…伊織…瑛兄…」
康太が謝ると…瑛太は…
「謝らなくて良いですよ…
君は何も悪い事なんてしてはいません!」と言葉を送った
謝らなくて良い……
康太は…何一つ…悪い事なんてしていない!
なのに…謝るな…と瑛太の心は叫んでいた
榊原の指が優しく…康太の髪を撫でる
「康太…君が生きていてくれるだけで…
僕は…それだけで…」
後は………言葉にはならなかった…
飛鳥井の家へ帰って来ると、一生が飛び出してきた
そして、慎一が飛び出し…兵藤が飛び出してきた
榊原は、静かに…康太を抱き上げていた
「伊織…応接間に連れていけ…」
榊原は、問題山積の…所へは連れては行きたくなどなかった
だが…康太は…その場所を…避けては行かない…
仕方なく…応接間に連れて行った
応接間には、清隆も玲香も源右衛門も出て来ていた
「仕方ねぇな…知らせたくなかったんだけどな…」と康太は…溢した
榊原は、康太を抱き締めたまま…ソファーに座った
榊原は、康太の吐いた吐血で…血まみれだった
慎一は「康太は…見てます。その血を…」と榊原に言うと、榊原は首をふった
「離れたくは…ないのです…許してください」
榊原は、康太の頬に…自分の頬を…擦り合わせた
笙は、榊原に部屋の鍵を貸しなさい!と告げた
榊原はポケットから鍵を出した
すると笙は応接間を後にした
暫くすると…榊原の服と康太の服を持って来た
「さぁ着替えなさい!
でないと気になって話し合いにはなりません!
慎一、康太を持ってなさい!
康太も着替えさせないと…可哀想です
一生、タオルを濡らしてきて下さい!」
笙に言われ、一生は「あいよ!」と言い洗面所へ向かった
何枚もタオルを濡らして持って来て、それを笙に渡した
「母さんは伊織を、僕は康太を拭きます。
そして、着替えさせてから、話し合いをするんでしょ?」
榊原は、真矢に血糊を拭いてもらっていた
上半身…裸になり、体を拭いてもらう…
康太も笙に…服を脱がしてもらい体を拭いてもらった
二人のヘソには揃いのピアスが嵌まっていて…
康太の乳首には…所有権の主張のようなピアスが嵌まっていた
そして首には揃いの指輪と神器が通してあり…肌身離さず…着けていた
康太の血糊は…こびりつき乾いていた
それに混じって…キスマークも…それは凄く…榊原の執着を見せ付けられた
それを綺麗に拭き取り…笙は康太に服を着せた
総て出来ると…笙は母親を見た
真矢も…榊原の血糊を綺麗に拭き取り…服を手渡した
榊原は、総てを済ますと…康太を腕に抱いた
「伊織…離せ…」
康太が言うと……榊原は康太をソファーに座らせた
「一生、恵太は?
恵美を引き取ったのか?」
問い掛けられて一生は
「おう!恵太は天宮の提示した書類を総て書いて、恵美を連れて帰って行った
栗田が…後で礼を言いに来ますって謂って帰って行った」
と、告げた
康太は…そうか…と呟いた
康太は…榊原に身を寄せ…皆を見た
「神野…流したか?」
「はい!テレビ局の電話が鳴り止まぬ程の…反響でした…。」
「そうか…明後日は記者会見の準備をしとけ」
「……そんなに弱って…無理はしなくて良いです!」
「オレが出ねぇと…カタは着かねぇぜ…
オレが出るまで…終わらねぇ…」
神野と小鳥遊は…深々と康太に頭を下げると
「お願いします…」お願いした
「一条隼人は…飛鳥井康太の宝だ…
オレの誇り…オレの子供の一条隼人を、身を捨ててでも守るのは…オレの務め…
弱っていても…それは違えられねぇんだよ」
康太は…そう言い笑った
そして姿勢を正すと
「さてと、飛鳥井蒼太…お前は本当に約束を違えるな…
お前は飛鳥井の名を地に貶め様とした
これ以上の情けは…かけられぬ…
オレは…飛鳥井家の真贋!
それでも…定めを…騙し騙しに歪め…お前を守ってやったがな…今度で終わりだ!
宙夢…お前は…愛するなら舵を取れ!
道を違えるなら…殴ってでも…矯正しろ!
それが出来ぬのなら別れてしまえ!
と、言う事で…飛鳥井への出入りは禁止だ…」
蒼太は…項垂れて…泣いていた
矢野と蒼太が…康太の前で…土下座したが……康太は…瞳を閉じ…見なかった
玲香は…蒼太の前に出ると…その頬を殴った…
「飛鳥井の名を汚すな!」
と涙ながらに…蒼太を殴る…その様は憐れで…哀しかった
康太は…泣いて…それを見ていた
榊原が、康太の頭を抱き寄せた
一生が「ぶざけんじゃねぇよ!
何故!母親を泣かす!
康太を泣かす!
お前は…自分のした事が解ってねぇ!
お前が作った罪だ!
お前が貶めた母親と弟だ!
その瞳に焼き付けろ!」と叫んだ
清四郎がそれを見ていて…静かに口を開いた
「蒼太…宙夢、座りなさい…土下座は謝罪ではありませんよ!」
清四郎に、言われ、蒼太と矢野はソファーに座った
「君には君の想いもあるでしょう…話さないと…伝わりませんよ?
飛鳥井蒼太、君はその口で話す義務がある…違いますか?」
清四郎の口調は優しいが…絶対の厳しさがあった
蒼太は「僕は…康太や母さんを安心させてやりたくて…躍起になってました…
認めて貰いたかった…安心させてやりたかった…。
外に出て…自分を知れば知る程…僕は…自分が嫌になった…
宙夢を泣かせて…ダメな自分にも…嫌になった
だから…自分を認めて貰える…何かを…始めたかった…
それが……犯罪の荷担をしているとは…思いもしなかった…
おかしいと想ったのは…宙夢のアトリエに苦情が舞い込んでくるようになってから…
騙されたと想っても…後の祭りでした…
何処まで行ってもバカで…自己嫌悪に陥ってる時に…宙夢と喧嘩ばかりしました
それを聞き付け…康太が来た時…バレると思いも焦りました
やはり…何処まで行っても…裏目ばかりの僕の人生に…嫌気が刺し…死のうと想いました…
そんな僕の想いに宙夢が気が付いて…
僕と…一緒に死んであげると言ってくれました…
死にに行こうと…想って決意してたら…
弥勒…と言う人の声がして…
逝かすには康太の了承がない……と、動けなくなりました…
その時…一生と…聡一郎が兵藤親子と来て…
何だか知らないうちに…飛鳥井に連れてこられました…
死して…償うしか…思い付きませんでした」
兵藤貴史が…蒼太の前に…出て行くと…
ニャッと嗤った
「死ぬのは…一瞬だがな…想いは昇華されねぇんだぜ!
人は…死ぬ時に…必ず後悔する…
死して…良い時などないのだからな…
康太は…今、力を使えぬのなら…俺が昇華してやろうか?
自ら命を断てば…輪廻の輪には加えさせれねぇ…死にたいのなら…送ってやろう…」
兵藤は立ち上がると…その手に真っ赤な炎で燃える朱雀の剣(輪廻の剣)を握っていた
魂の…再生も昇華も消滅も、自在に手中に納めし朱雀は…意のままに…その命を…操る
「朱雀…止めろ…!」
一生は…叫んだ…
深紅の炎に…包まれて…朱雀と化した…兵藤が嗤う
「飛鳥井蒼太…目を閉じろ!」
蒼太は…目を閉じた…
蒼太の…頭上を朱雀の剣が掠って斬って行った
「お前のツイてない運は斬ってやった…
お前さぁ…どうせ着けるなら…貧乏神は止めとけ…」
「え?…」
「裏目に出る訳だわ…。
朱雀の剣で斬ってやったわ!」
と兵藤は笑った
「飛鳥井蒼太…お前は…今死んだ…
生まれ変わって…今度はマイペースに歩いて行け!
焦っても…何も始まらねぇぜ!
お前を助けるのは…一回限りだ、次はねぇぞ!
ならば、お前は…変わらねぇとな…」
蒼太は…言葉もなかった…
「飛鳥井蒼太、お前は今、剣を向けられてどう思った?
その命…惜しいと思ったろ?
ならば、その命尽きる時まで悔いのない人生を送れ…!」
兵藤貴史の言う言葉は…まさに真髄を突いていた
蒼太は…剣を向けられて…死にたくない…
生きて…やり直したいと…願ったのだ…
康太は…貴史に抱き着いた…
「有り難う…貴史…」
「良いさ…お前と俺は…腐れ縁だ…この先もな!」
「そうだな…この先も…お前はオレの腐れ縁だ」
康太は…そう言い兵藤と拳を合わせた
康太は「伊織…もう寝る…。
明日は卒業式だかんな!
一生、貴史を送ってやってくれ
母ちゃん…父ちゃん…蒼太は…貴方達に任せます…。
貴方達が決めれば良い…
では、おやすみなさい!
貴史、今日はありがとな…。
清四郎さん、真矢さん、笙、明日はオレ達の卒業式です!
明日に備え…寝ます…。
おやすみなさい」
と告げ、康太は…榊原と共に…寝室へと向かった
榊原は応接間を後にして…良いんですか?と問いかけた
「父ちゃんや母ちゃんは、決めねぇからな…別に良いんだよ!
飛鳥井はオレが絶対なんだよ…オレが決める事にしか従わねぇ…
明日が卒業式じゃなきゃ良いけどな…無理はしたくねぇ…
しかし…貧乏神かよ…
お前には見えたか?」
「いいえ…斬られ消える瞬間…見えました…」
「流石は朱雀だな…貧乏神は…気付かなかったかんな…
貧乏神は…悪賢い…オレの目から逃れる方法など熟知してるからな…」
「何処で…拾ったんでしょうね?
何故…蒼太に取り憑いたんでしょう?」
「部屋に帰って…弥勒辺りに聞いてみるか?」
「そうですね…
それより、部屋に戻ったら何か作ってあげます…。
夕飯食べてないでしょ?」
「うん…あんまし食えねぇけどな…」
「でも食べてから…薬を飲まないとね」
自室のリビングのソファーに康太を座らせると、ドアが開き、一生が何かを運んで来た
一生 はテーブルに食事を置き
「食べてないと薬が飲めないでっしゃろ?」
榊原は「流石は一生…。それより蒼太は…?」と尋ねた
「玲香が…康太のいない時に…話す事はない!
話があるなら…二人で話し合って…結論を出してから…康太に聞いてもらえ!
と、言い捨て…部屋に帰って行った
源右衛門も清隆も…部屋に帰って行ったから、帰ってもらった…
だからな…此処で夕飯を皆で食って構わねぇか?」
一生が榊原に問い掛ける
「構いませんよ…お湯を沸かして来ます」
一生が廊下に顔を出して、運び込め…と言うと、皆…手にトレーを持ち運び込み出した
そして、瑛太までいた
「義兄さん…貴方もですか…」
「良いでしょ?兄だけ除け者は嫌です」
「僕が除け者にしましたか?」
「伊織は…時々…兄に意地悪しますからね…」
康太の吐血を聞いていて……
瑛太には言わなかった事を…言っているのだ…
「義兄さん…」
瑛太は笑って…榊原を抱き締めた
「たまには良いでしょ?」
「神野と小鳥遊と父達は…帰りましたか?」
「ええ。明日の卒業式は出席します…
と、君のご両親も笙も、神野と小鳥遊も言っていました。
卒業式には一条小百合…も来ると言ってました」
「そうですか…慎一がお茶を入れてくれました。食べますか?」
榊原は康太の横に座り…食事の世話を焼く
「伊織…沢庵が…消えた…」
康太が…淋しそうに…呟いた
「沢庵は…消化に悪いでしょ?駄目ですよ」
「う~」
「唸らないの…当分…一枚か二枚ですよ?」
「う~う~~」
「ほらほら、食べなさい…食べさせてあげましょうか?」
本気で言われ…康太は…唸るのを止めた
一生が「……しかし…貧乏神かよ…」と呟いた
康太は…天を仰ぎ…弥勒に問い掛けた
「弥勒…何で貧乏神は蒼太に取り憑いたんだ?」と問い掛けた
『あの男は…気の迷いが多い…
人生の岐路に立った時…迷ったからなのと…
あの貧乏神は…もともと、矢野宙夢に憑いていた
矢野は…若くして…親を亡くし…兄弟もなく…才能は有るが…運はない…
その時…飛鳥井蒼太と出逢い…矢野の運は開いた…
そして、貧乏神は蒼太に取り憑いた
何をやっても裏目なのは…貧乏神に憑かれてたら、成功なんて…しないわな…
あれは厄介で…本人に同化するからな…斬るのは至難の技…油断させて…顔を出した時に斬らねば…昇華は出来ぬからな…
流石は…朱雀だ…
俺は、永らく生きたが…朱雀の剣は…目にした事がなかった
珍しいモノを見れて…誠…良かったわ』
「朱雀の剣は…輪廻を自在に操る…
その力…神をも上回る絶対の存在…だからな
輪廻を、司る…絶対神だ…
その焔…オレのをも上回る…焔だかんな」
『俺は、炎帝のあのメラメラ燃え上がる元気な焔は…大好きだな!
あの焔は…お前と似てる…
明日、式の後…弥勒院に寄るが良い…
粘膜の特効薬を…父 厳正と前住職とで作って持ってきた…それをお前に渡さねばな』
「なら、明日な…。
伴侶に連れて行って貰う…。
弥勒…ありがとな」
『我は…お前さえ生きていてくれれば…それで良い…
お前のいない世に…未練はないのだ…またな』
弥勒の声が…聞こえなくなると…康太は呟いた
「人であればこそ…我は…想うまま動く
されど…神なれば…それは許されん…
想いで動くは人にけり…
神は…万物平等に…あらねばならぬ…
それが…神の定め…」
と天を仰いだ
その夜、康太の部屋のリビングで、楽しく食事を取り、話をして…皆部屋に帰って行った
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