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「……では、これで品質管理課定例会議を終わります」
その後、数件の事案を確認し会議が終わると、課員たちは各々徐に席を立ち、品質管理課の実験室に戻り始めた。
東海林課長からは叩いても何の埃も出ない気がするな……。
そんなことを考えながら手元の会議資料を片付けていると、当の東海林課長が携帯電話を耳に当て、慌てた様子で俺の横を通り過ぎていった。
「ん?」
途端に俺は片眉を寄せ、訝しんだ表情になる。
今、東海林課長が持ってたの、黒い二つ折りタイプのガラケーだったような……。課長は普段スマートフォンを使ってなかったっけ?
些細なことでも気になったことは確認する。それが俺たちの仕事の基本だ。
俺は急いで資料を束ねて脇に抱えると、東海林課長のあとを追った。
廊下に出ると、電話を終えた課長が同じ品質管理課課員の舞浜(まいはま)さんを呼び止めていた。
新入りの俺の指導係でもある舞浜凛子(りんこ)はふわふわとした長い茶髪がよく似合う入社五年目の可愛らしい女性だ。臨床検査技師の資格を持ち、仕事に対する態度も真摯で残業も厭わない。
舞浜さんと一緒に仕事ができるだけでも、ここに派遣されてよかった……。
おっと、今はそんなことはどうでもいい。
東海林課長はなにやら焦った顔で舞浜さんに二、三言告げると、やってきたエレベーターにそのまま乗り込んでしまった。
あんなに慌ててどこ行ったんだ……?
俺は閉まるドアの中に東海林課長の背中が消えていくのを見届けたあと、怪訝な表情のまま実験室に戻った。
この広い実験室は黒い天板の実験机が奥まで並び、左手に窓、右手には試薬の納められた棚が一面に据えつけられている。部屋の奥の扉を抜けると大型の検査装置が集められた小部屋があり、そこからは装置が稼働する音がひっきりなしに聞こえていた。
会議中もセットされたプログラムを黙々とこなしていたのだ。
俺は検査の準備を始めた舞浜さんに声をかけた。
「東海林課長、あんなに急いでどこ行ったんですか?」
「え、課長?」
舞浜さんはビーカーを手に持ったまま俺を振り返る。
「そうそう、営業部の本田(ほんだ)さんと打ち合わせがあったのを忘れてたとかで、本社に行ったわよ? どうしたの? 何か急ぎの用事?」
「え、いや、大丈夫っす! ありがとうございます!」
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