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「舞浜さん、俺、今日はこれで帰ります!」 「はーい。あ、笹川君、東海林課長知らない? 検査結果で話したいことがあるんだけど」 舞浜さんが検査用紙を手に掲げている。 「あ、いや、すんません、知らないっす」 俺は咄嗟に嘘を吐いた。 「そう。じゃ、気をつけてね」 定時を三十分過ぎていた。俺はカバンを引っ掴むと、白衣を脱ぎながら実験室を出てエレベーターホールに走った。 あ、いた、東海林課長! 追いついたのも束の間、閉じられていくエレベーターの扉に課長の姿が呑み込まれる。俺は階段を使って急いで三階から一階へ走って降りていく。 定時を過ぎているし、管理職の東海林課長には残業代が付くわけでもない。席を外しても構わないが、このパターンは先日会議のあと、仕事を抜け出したときと同じ匂いがする。 「はあ、はあ……」 俺は息を切らしながらも、今にも駆け出しそうな勢いで通りを歩いていく東海林課長の背中が見える距離にまで追いついた。 あの慌てようは飯を食いに行く、とかのレベルじゃないしな……。 そんなことを考えていると、東海林課長が車通りに向かって手を上げ、タクシーを呼び止めた。 マジかよ! お、俺も! 急いで手を上げ、運良く滑り込んできたタクシーに俺も飛び乗る。 「前の黄色いタクシーを追ってください!」 「お、あんた刑事さんかい? もしかしてあの車に犯人が乗ってんの?」 悪ノリしてくる初老の運転手をうざったく思いながら、俺は一台車を挟んだ先のタクシーから目を離さない。 工場のある山の手から、タクシーは次第に繁華街へと近づいていく。そして賑やかな大通りから脇道に逸れ、五分ほど走ったあと、入り組んだ路地の手前で黄色い車体が停まった。 俺も停めてもらうと、また急いで東海林課長のあとを追う。六時を過ぎているが夏の夕方はまだまだ明るい。 どこへ行く気だ……? 蒸すように暑い路地を何の迷いもなく歩いていく東海林課長の後ろ姿を追いながら、疑問が湧いて出る。 一体ここはどこなんだ……? あ、あれ?  辺りにやけにカラフルな建物が多いことに、ふと気づいた。 も、もしかしてここは……。 俺は周りをキョロキョロと見渡しては挙動不審に陥る。 ホテル街!? どういうことだ?  会社からタクシーでホテル街に直行?  あんなに慌てて? そうか、女だな! 女に呼び出されたんだな! 合点のいった俺は呆れた溜息を吐きながら、案の定、東海林課長がラブホテルの自動ドアを潜るのを見届けた。

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