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第2話「懲りない課長」

「笹川君、東海林課長がどこに行ったか知らないか?」 トイレから実験室に戻ってきた俺に声をかけてきたのは、製造部の部長だった。大柄で熊のような印象の製造部長の背後には、本社の営業部長並びに来客と思しき欧米人がふたり並んでいる。 「え、知りませんが……」 「困ったな……。二時から東海林課長が、このヒノメディックの方々の工場見学を案内する予定になってたんだが」 製造部長が溜息混じりに腕を組んだ。 「そうだったんですか。一体、どこ行ったん……」 そこまで言いかけて、ふと思い出した。そういえばトイレから出てきたとき、すれ違いで東海林課長が中に入って行った気がする。 課長は電話で何か話していた……。 「あっ」 思わず声に出して叫んでしまった。 「どうした? 笹川君?」 「い、いえ」 課長が耳に当てていたのは……、黒いガラケーだった! ひしひしと嫌な予感が背筋を這い上ってくる。 「お、俺、課長を捜してきます!」 製造部長たちを置いて急いで実験室を出ると、男子トイレに向かって走った。 「課長? 東海林課長?」 小さな声で呼びかけながら扉から中を覗く。この階のトイレは他の階よりずっと広く、ずらりと小便器が並び、個室も五つある。ざっと見回したが、俺の問い掛けに返事もなく、誰もいないようだった。 東海林課長、まさかまたイワオさんの呼び出しにどこかへ飛んで行ったんじゃ……? 「……だめだって」 諦めて顔を引っ込めようとした時、奥から潜めた声が幽かに聞こえた。もう一度よく見てみると、一番奥の個室の扉だけが閉じられていた。 東海林課長の声か? なんだ、いたのか……。 俺は安堵の息を吐いてトイレの中に入った。 「しょ……」 「少しだけだよ」 声をかけようとしたが、くぐもった声とガチャガチャとベルトを外す音、ファスナーを下ろす音が聞こえてきたのでやめた。 ああ、これから用を足すのか。だったら待つしかないか。 俺は腕を組んで洗面台の傍で溜息を吐いた。早くしてくれないと、客が待ってるってのに。 「ぬ、脱いだ……よ、んっ、」 だが俺の焦りをよそに、何やら息の弾んだ課長の声が扉の内側から聞こえ始める。 「ぅん……っ」 はあ?

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